第5話 笑顔
緑の芝の絨毯と木々に囲まれ広場、白いテーブルとイスが並べられ、カクテルドレスやフォーマル、着物や紋付袴で着飾った老若男女が新郎新婦を祝福していた。
「雨が降ったらどうする?」の言葉は「私、「晴れ女」だから大丈夫」の言葉で一蹴され、彼女は秋晴れの空の下、ドヤ顔で此方を見ながら参列者に囲まれ祝福を受けていた。
美しいウェディングドレス姿だ。
傍らではピアノの生演奏の調べが響く、高額な挙式費用を考えるだけでも俺は目眩がしそうだった。
豪華な式にしたかった訳ではないが、参列者を心からもてなそうと彼女が色々と算段した結果、こうなった。
彼女を祝福する沢山の人々を見ると、これが正しかったと解かる。
俺は彼女に微笑みを返すと宴を中座した、会場の戸口で完全に酔っぱらった彼女のお父さんに絡まれ、結婚の祝福が、娘を連れ去る男への怨嗟に変わるすんでに脱出した。
俺はフォーマルを脱ぎ、式場にお願いして借りてある厨房で「エマダツィ」の調理を始めた。
彼女が独身最後の旅行先、ブータンで出会った料理。民泊した農家で夕食に食べたのがいたく気に入ったらしい。
俺自身はそれほど旅行に興味は無かったが、彼女が話す異国の話はとても好きだ。
いや、彼女が好きだ。
「幸せの国」で彼女が食べた料理、進めてくれた料理(作ってはくれなかった)、半年間、試行錯誤を続けた料理を今日、彼女へ振舞いたかった。
参列者200人弱、1人前を4人で食べてもらう算段で準備する。鮮度を保ちたかったので玉ねぎスライスに唐辛子を切るのもこれからだ、もちろん一人じゃできないから、事前に打ち合わせておいた厨房スタッフ&有志の方にお手伝いいただく(有難う!!)
無論、彼女に食べてもらう鍋は俺が担当する。
30分後。
俺はブータンの僧侶の衣装に着替え、鍋をもって会場に戻った。
俺からの新郎新婦への祝福。
新郎に許可をとり最初の皿を彼女へ差し出した。
「ちょっと、コレ何?辛ぁ~~~~ィ」
俺は狼狽えた、何かしくじった?いや、そもそも無理だったか?
「でも、すごく美味しいよエマダツィ、ありがとう。」
君に幸せあれ、
彼女の笑顔で心の飢えが満たされていく。
胸に刺さった「嫉妬」と言う痛みが消えていった。
エマダツィ 蒼月狼 @aotukiookami
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