第2話 残されたメモ

「奈々子ちゃんは、お母さんが家に帰ってきたらいなかったということですか?」

「はい、そうです!家で待ってるよう言ったのに、家にいなくて……!」

「帰宅時、家に鍵はかかっていましたか?」

「かかってました!」

「ということは、奈々子ちゃんは鍵を持っていたんですね?」

「はい、念のため合鍵を持たせていました。その鍵がなくなっていました!」 

「近所に、奈々子ちゃんと二人きりで出かけるような親しい人物はいますか?」


焦るお母さんに、本宮君は冷静に聞き続ける。


「いません、そういう人は……。普段私は、ほとんど家にいないので」

「家の中で争った跡や、変わったところは?」

「ありません」

お母さんの答えに、本宮君は言った。


「ということは、奈々子ちゃんは、おそらく自分の意志で家を出たのだと思います」

「えっ!」

お母さんと私が、ほぼ同時に声を上げる。


「そ、そんな……!あの子自身が!」

驚くお母さんに、本宮君は冷静に続けた。


「お金は、家に置いていきましたか?」

「はい。もしもの時のために、3000円だけ置いていきました。そのお金もなくなっていました!」

「奈々子ちゃんは、自分の意志で出ていっています。奈々子ちゃんが、どこか行きそうな場所は思い当たりませんか?好きな場所、普段からよく行っている場所など」

「好きな場所……よく行く場所……」


お母さんは、一生懸命考えているようだ。


「分かりません……。頭が混乱して、何が何だか……!」

「落ち着いてください。落ち着いて、よく考えてください」

焦るお母さんに、本宮君が声をかける。


少しだけ息を整えた後、お母さんがハッとした表情を浮かべ、ソファに置いていたバッグから一枚の紙を取り出した。


「取り乱してしまって、すっかり忘れてました!実は奈々子の部屋に、この紙があったんです。ただのラクガキみたいなものかもしれませんけど……」

そう言って、お母さんが事務所のテーブルに置いたのは、大きな画用紙に黒のクレヨンの文字が書かれたもの。


『カレーたべにいきます』


いかにも子供のようなアンバランスな文字で、一言そう書かれていた。


「これは奈々子ちゃんの文字ですか?」

「はい、奈々子の字です!最近よく字を書く練習をしているので」

本宮君の質問に、お母さんが答える。


「もしも、これが奈々子ちゃんからお母さんへのメッセージだとしたら……。普段よく行くカレーのお店などありますか?」

「カレー、ですか……」

記憶を手繰り寄せるような表情を浮かべた後、お母さんが言った。


「2つ思い浮かびます!」

「まずは、そのお店に奈々子ちゃんがいないか、もしくは立ち寄っていないか行ってみましょう」

本宮君の言葉に、お母さんは大きく頷く。

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