カレー食べにいきます

月花

第1話 舞い込んだ依頼

「お願いします!人を探して欲しいんです!」


もう今日は早めに事務所を閉めようかなと思ってたところ、事務所のドアがバタン!と勢い良く開けられた。 


「ハァ、ハァ、ハァッ!」

見ると、息を切らした30代半ばくらいのスーツ姿の女性が、肩で息を切らしながら入り口に立っている。


ここは『本宮探偵事務所』。私、桜井梨央さくらいりおと代表者二人の小さな事務所だ。


「アンタ、またドアの鍵閉め忘れたわね!?まったく無用心ったら、ないわ!」

白のワイシャツに黒のボトムを着た、この探偵事務所代表の本宮忍もとみやしのぶが、私の方を軽く睨みながら叫んだ。


ちなみに『彼』は、外見的には申し分ないイケメンだが、心は『女性』という非常にややこしい人物だ。


「お願いします!娘を探して欲しいんです!」

しかし、そんな突っ込みどころ満載のポイントは華麗にスルーして、スーツ姿の女性は事務所の中に駆け込んでくる。そんなことに突っ込んでる余裕がないほど、切羽詰まっているのだろう。


「ごめんなさい、もう事務所を閉じるところで……」

「今からすぐ探して欲しいんです!」

本宮君の言葉を遮り、女性が懇願するように言った。


「本宮君。なんかすごい訳ありそうだよ。聞いてあげようよ?」

私からもお願いすると、本宮君は軽くため息をついた後、「どうぞ」と女性に黒皮のソファーを進める。彼女は頭を下げると、ソファーに座った。


「何があったんですか?」

私が尋ねると、彼女は話し始める。


「私は、野原冴子のはら さえこと申します。探して欲しいのは、娘の奈々子ななこ6歳です」

「6歳ですか。まだ幼稚園ですか?」

「はい、幼稚園の年長です」

本宮君の質問に女性が答えた。


「今日は土曜日で仕事が休みだったんですが……。急に職場から電話がかかってきて、トラブルがあり出勤して欲しいとのことでした。本当は奈々子と一緒に過ごす予定でしたが、事情を伝えて、留守番するように言って、私は出勤しました」


え……?奈々子ちゃん一人で、お留守番させて仕事に行ったってこと?


「奈々子ちゃん、まだ6歳ですよね?一人で置いてきちゃったんですか!?」

私がやや声を荒げると、野原さんは焦って返す。


「うちは母子家庭で、それに今日はお休みにしていたので、急に預かってくれるあてがなくて……。奈々子は4月の早生まれで、とてもしっかりした子です。今までも一人でお留守番したことだってあります」


その後、小さな声で「こんなに長い時間はないですけど……」と加えた。


そりゃあ、4月の早生まれなら、もうちょい早ければ小学生なのかもしれないけど……。


「奈々子ちゃんの写真はありますか?」

モヤモヤしてる私をよそに、本宮君は冷静に野原さんに聞く。


「あります!」

そう言うと、彼女はバッグからスマホを取り出し、私達の方に差し出した。受け取ったスマホの待ち受け画面には、奈々子ちゃんらしき女の子の画像が映っている。


子供ながらに綺麗な顔立ちで、身長が高く、ぱっと見は小学校低学年くらいに見えた。


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