第3話 談話室の光

カビ臭い廊下に貼られているおびただしい数の新入生向け入部案内の中から、やっとこさ『宗教音楽研究会』のチラシを見つけると、そこには「毎週金曜日、5-304にて、17時半から活動中!」と殴り書きがしてあった。おそらく、ボールペンではなく鉛筆で書いたのだろう。コピーされたその文字は、線ではなく点々になっていて、思わず眉間に皺を寄せるほどだった。

まったく、新入生向けなのだからもうちょっと真面目に書いたらどうなんだ・・・。


今日は金曜日。

ということは、宗教音楽研究会は今日、活動がある。

17時半からの活動に、顔を出してみよう。僕の大学生活を変えるんだ。

もっと有意義で、もっと真面目で誠実で、不真面目さのカケラもなく、完璧なまでに美しい、僕の理想の大学生活を作るんだ。


僕は談話室で昼食を食べ終え、次の授業までに少し時間があることに気が付いた。


談話室の外を見やると、周りには山と森しかしかない。


入学当初、この大学の立地には驚かされたものだ。

山を切り開いて大学の校舎を建てたとかなんとかで、交通の便も悪く、電車を降りて、山のふもとから20分ぐらい登らなければ校舎にはたどり着けないのだ。


けれど、山や森を眺めていると、太陽の光が空からまっすぐに降り注ぎ、コンクリートに邪魔されてしまう都会とは全く違った景色があって、とても美しかった。

雨の日には霧が濃くなり、山全体が霧に抱かれるようになって、木の一本一本が雨の静けさに感化されて、内緒話をする子供みたいに、息を潜めて微笑んでいるようだった。

最初は不便だと思ったこの立地も、よく観察してみると、美しさの詰まった場所だということは、入学してから一か月程の短期間の間にも理解できた。


「・・・?」

午後の太陽が傾いて、窓から床に、カーペットのようにペターッと、光が続いている。


その光の中に、女の子が一人、立っていた。


彼女は、窓の向こうの世界に、グッと両腕を伸ばし、手のひらも綺麗にパーにして、その先の光を見つめていた。

僕は自分でも気づかないうちに、その光景を凝視してしまっていた。


・・・いやいやいやいや、まてよ。冷静に考えるんだ。

あの子、いったい何をやっているんだろう。


薄い色味の金髪、最近流行っているのであろうツノヘアー、おまけに・・・よーく見ると、着ているピンクのパーカーには『しにたい』と書かれていた。


僕は弾かれたようにそこから逃げ出した。

いやあれはどう考えても色々アレでしょ!なんなんだ、ここまでの変人がいるなんて想定すらしてなかったよ!?ボス戦が終わって疲れ果てていたら第二形態に変化されたときの絶望感に近いぞこれは!


とにかく、今日の部活で僕は変わるんだ、居場所を作るんだ、全力で・・・!負けないぞ!くそぅ・・・!(泣)



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変じ・・・変わった人の巣窟音楽大学で、僕がみたもの、出会ったもの。 モルべナ @morbheanna

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