第2話 謎の場所と物理的異世界転生
俺は死んだ。
痛みもなく、苦痛もない。血が出た。
手が切れた。腕が切れた。胴が切れた。
部屋中が血に染まった。
足が切れた。首が切れた。魂が切れた。
肉体と魂が離れて行く。
そんな感覚がぼんやりと低い弦楽器の安心すら感じる振動音ともに感じた。
でも、もうどうでもいい。少し眠ろう
痛みなく。快楽っていうものでもなく。
不思議と死を受け入れさせられた。
ある一人の得体の知れない女に。
一点の痛みが心臓付近から湧き上がり血を水道の蛇口をひねる様に吐き出す。
次から次へ絶え間無く血が上って来る。
「ううっえー」
それはもう嘔吐に近い吐血だった。
その血は赤く燃え盛る炎のようにして床一面に広がっていく。
そのムカつきに次に目を開けたら、今まで居たアパートではなかった。
その部屋?というか空間は地平線までが海の美しい青で広がっていた。空は雲が瞬く間に過ぎさってはまた現れてのパノラマ漫画のよう。簡単に表すと陸はなく海と空の間に立っている様な感覚だった。
ここはどこなのか。一体何故ここにいるのか。そんなことを考えていると一つの暖かい潮風が吹いて俺の思考を阻害させた。
すると、「ブクブク」と水が沸騰するような音が足元から聞こえてくる。
足元からは、俺を軸にしたかのように等しく前後に二つの椅子が泡と共に湧き上って来る。それと一緒に白い鳩が現れ、空へと向かい飛び立つ。が一周した後こちらと向かって来たが、俺の上空を通過してもう一つの椅子に向かう。鳩に見とれて気づかなかったけれど、向かいには巫女姿の女性がにこやかに笑って見つめていた。
俺は反射的に顔を逸らす。
鳩は巫女の指先に留まり自分の嘴で毛繕いを始めた。
「初めまして
巫女は顔を左斜め下に傾け、可愛らし頬笑みを俺に対して浮かべていた。
♦
「初めまして咲舞さん。」
巫女は顔を左斜め下に傾け、笑みを浮かべている。
いきなり名前(下)を呼ぶだなんてせ、せ、積極的じゃないですかねぇ。
「こんにちは。あの、ここってど「咲舞さんあなたはお亡くなりになられました。」
俺の会話を端折り自分の話を強引に捻じ込んだ。
「じゃあここは死後の世界って事ですか?」
「はい。」
なんだこのスラスラストーリーはと思いながら質問をする。
「その、すいませんがお名前聞いて良いですか?」
相手は俺の名前を知っているのに俺が相手の名前を知らないのは、不条理だと思った。
「天藤です。」
巫女は嫌がる顔をせず童貞(俺)に名前を教えてくれた。
「あと一つ良いですか?その巫女服ってキャラ付ですか?」
「どう思います」
すると天藤は早押しクイズ並みに即答で顔色一つ変えず、しかもこの言い方はクエスチョンマークのない疑問文だ。つまりどういうことかというと自分の望んだ答え以外は一切受け付けませんってことだよ。たぶん
そう考えるとその笑顔が押しつけ笑顔に見えてきたな...
「えっ?」
「どう思いますか。」
次はかまでつけて圧迫のある質問になって帰ってきた。
「ああ良いと思いますよ。可愛いです。」
「はいはい。ありがとね、アーワタシ、カワイ。カワイ。」
地雷踏んでしまった、と実感した。
「いやさ、次の見合い相手がさ、巫女服が好きだからってさ私合わせてるわけよ。だけどさ相手金持ちらしいじゃん?だから事前練習してるの。実際着てみるとさ、歩きづらいしさ暑いしのよ。まぁ...」
天藤さんは多分独身で何回もコンパとかで失敗し続けているタイプなのだろう。俺よりご愁傷様だ。
「あの、そろそろ本題に入りましょうよ。」
俺は話題を無理やり戻した。またあの得体の知れない女とは別の威圧的な虎の目をした天藤さんを
「はいはい。じゃ良いですか。これからあなたは異世界に行って貰います。そして死ぬまで異能もなく権力も無い。無垢で怠惰な人生を送ってください、このクズ野郎。」
所々なんか当たり強いなぁ
そう言うと巫女さんは立ち上がり俺の首に向かってドロップキックを一発かました。
多分今までのコンパの恨みを込めて。
俺は気絶する前にこう思った。
異世界転生って、物理的だっけ?
と
そして何かに吸い込まれる感覚が流れ込む。空気に溶け込むようなそんな感覚が...
平和な異世界で始める「戦い」! 灰岳 @jurs
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