少女の形をした愛おしい化物の手を取って、敵なる醜悪な化物共を相手に、銃弾を派手にぶちまける。
誰が正気ともつかないような、そんな地獄をお望みなら、この作品がオススメです。
主人公の香食禮次郎は、表向きは街の薬剤師、その正体は麻薬を売り捌くヤクザと、裏と表の世界をまたぐ男です。隙あらば他人を食い潰す破落戸の非情さと、一般人と同じように平穏を望む感性が同居しています。
そんな彼が、少女の姿をした怪異と出会った時、凄惨な死を経験し、それからはというもの、次々と名状し難い怪異事件と遭遇します。
それは、正確には、彼の世界に潜んでいた邪悪な存在に気づいただけのことであり……彼がヤクザに身を落としてしまった悪因さえ、その化物の仕業なのだから、なんとも世界は悍ましいものです。
まるで死んで生まれ変わったかのように、豹変した世界は、彼の真っ当な部分を蝕んでいきます。
皮肉な事に、あまりにも多くを失ってきた彼にとっては、この惨劇に引きずりこんだ当の少女が、心の支えとなります。化物に相対するには非力な武力を手に、最後の正気をひた守る彼の勇姿には、胸が滾ることでしょう。
勇敢なる探索者の行く末に、どうか幸あれ。
「クトゥルフ神話」×「ヤクザ」という異色の作品。
主人公はヤクザで、成人で、もちろんアウトロー×ヒロインはロリで、人外で、僕っ子っていう――「異色」×「異色」みたいな物語でした。
基本的に一話完結で、物語がテンポよく進んでいきます。その物語の中で次の物語、そして大きな物語につながる伏線が散りばめられているので、満足感と次への期待感を持ちながら次の物語に進んでいけます。
僕は「クトゥルフ神話」初心者なのですが、何の問題もなく楽しむことができました。作品の中で必要な情報は全て提示されるので、「クトゥルフ知らないから、ちょっと……」って迷っている人も安心して楽しめると思います。
本作の見所はたくさんあり――まずは主人公・香食禮次郎の任侠っぷり。アウトローなのに芯のあるイケメンです。そして、ヒロイン・クチナシの可愛さ。緊張感あるバトル描写。様々な重火器が炸裂します。そしてクトゥルフ神話の化物たちの恐ろしさ。マリア様は恐ろしや……ちょっとグロイですけど……
とにかく見所満載の異色作なので、おすすめです。
(同作者が書いているエッセイ「初めてでもよく分かるクトゥルフ講座」を合わせて読むと、より本作を楽しめると思います https://kakuyomu.jp/works/1177354054880900124)
任侠!クトゥルフ!ロリ!エログロ!SAN値喪失!
タイトルと最初の一話でも読めばすぐに実感する、この物語の要素である。
が、ソレだけじゃないのが本作の魅力だろう。
ヤクザなエログロバイオレンスという、エンターテイメントな魅力だけじゃないのがいい。
それが成されているのはおそらく、著者のクトゥルフへの、そして何よりもSAN値を失っていく者への愛がこめられているからだ。
この物語はきっと、忘れられたある者達への物語である
歌いましょう その子のために
踊りましょう あの子のように
泣き叫び どこまでも走り続けましょう
あの時に見た 悪い夢のように
あぁ、大きく硬い殻の中に
まだあの時がいる
触れた指先は
あの夢を思い出させる無垢の肌
細い体を抱き寄せ
包み込まれる香りと眠り落ちる
母に抱かれ生まれ落ちたあの暖かさ
共に眠りましょう
慈母の手を取るその悪夢
さぁ、彼らの手記を手に取ろう
今日の夢はきっと暖かい底