突然ですが、整理と整頓は違うものだということをご存じですか?
整理は、要るものと要らないものを分けること。整頓は、要るものを正しい位置に片付けること。これをごちゃ混ぜにすると、物の片付けが巧くいかなくなるんですよ。
……という話の前の段階で、何かが狂ってしまったらしい、レディ・ミルドレッド。
彼女の家は模範的ゴミ屋敷で、服も食料も、埃もネズミもキノコも思い出も、何もかもが詰まっている。
その一つ一つを解きほぐすのは、お片付けの『プロ』マキカ。そして彼女の今までの人生を支えてきた人たち。
次の毎日に向かって、皆が大切な「要るもの」を救い出す物語がこちらです。
さあ、どうぞ。
とびっきりオシャレな文章に誘われるままに、お片付けの極意と人の優しさに触れてきてみませんか?
イギリスの小さな町に住む日本人マキカは、「お片づけ」依頼を受ける。
80歳のミルドレットの家は、途轍もないゴミ屋敷だった。
行政が強制的に全部捨てる前に、片付けることはできるのか?
マキカはプロフェッショナル・オーガナイザー。
掃除、ではなく、依頼人が家を片付ける手伝いをする仕事。
翻訳物のような、ユーモアたっぷりの文章で綴られる英国の暮らしはとても素敵。
口の達者なミルドレットとのやりとりや注釈は、読んでいて笑えます。
西暦2000年、という舞台は現代に思えますが、ジャンルは「歴史・時代・伝奇」。
片付けの過程で、少しずつ明らかになっていく、ミルドレットの人生。
ミルドレットが物を溜め込むようになったのには、わけがある。
サンディたちが、ミルドレットを助けたいと思うのにも、わけがある。
『呪い』を発見した瞬間の、マキカの怒り。マキカ自身の人生も垣間見えます。
(この物語の本筋ではないですが。)
若きミルドレッドが、サンディと父親に対して言う
「この国の歴史で初めて~」
という言葉は、すごく重い。
連載中、ずっと更新が待ち遠しい作品でした。
有難うございました。
家政をオーガナイズする女性のお仕事ストーリー。主人公はいわゆるゴミ屋敷問題の解決屋さんです。日本ではこうした業務は精神保健福祉士などが従事するのですが、単なるワーカーではなく、依頼者の人生の立て直しを図る仕事でもあります。身内が近い仕事してるので、どんなもんかなと思って読んでみました。
主人公が偏屈に見える依頼人と仕事を通じて徐々に打ち解けて行くわけですが、とにかくまずは雑学的な要素が面白くてたまらないです。職業の特色ももちろん、舞台がイギリスなんですが、へーこんな習慣があるんだ、というのもあれば、あーどこの国も一緒だなあ、とも。
加えて主役のマキカさんと依頼人ミルドレッドの口には出さないが顔と仕草にハッキリでているメリハリの効いた心理バトル。年齢相応の心情描写もあればコメディのような掛け合いもあり、笑いと涙がふんだんに盛り込まれてます。そして屋敷にうず高く積もったゴミの山はイギリス史の一部を切り取ったような様々な依頼人の背景に関わっており、前述の英国描写にもう一段深みを与えています。
ミルドレッドのゴミ屋敷が出来上がった理由が徐々にわかっていくクレッシェンドにもワクワクしました。一人一人にドラマがある、細部にまで行き届いた構成力も魅力的です。
とにかく文句なしです。大好きな作品です。多少の直しは入るかもしれませんが、商業でも通用しそうに思います。作者が時折悪ノリして出してしまう地の文に組み込まれたユーモアも絶妙。様々な角度から楽しめる傑作でした。
プロフェッショナルオーガナイザー、という初めて聞く職業。
西暦2000年のイギリス北部の田舎町なんて馴染みのない場所。
噂によれば翻訳ものっぽい雰囲気らしく、実は苦手な文体。
こんなんで読めるのか? と思っていたけど見事にハマった。
イギリスの歴史と文学作品への造詣が極めて深く、現地に住み、
生の言語と文化に接してきた著者でなくては書けない作品である。
洒脱な文章は軽妙で、そ知らぬ顔をして織り込まれたユーモアに、
思わず噴き出したり膝を打ったりしてしまう。何かすごい。
かっちりして上品な老婦人ミルドレッド、御年80歳は、
その外見に似つかわしくない「溜め込み」癖がある。
初めはミルドレッドを理解できないマキカだったが、
次第に老婦人が心に秘めた悲しみの存在に気付き始める。
2000年における汚屋敷お片付けを物語の主軸としながら、
1940年代の回想が差し挟まれて老婦人の人生が紐解かれ、
また同時に、イギリスという国の現代史が語られていく。
戦争の記憶を埋没させてはならないと、改めて感じた。
たかがお片付け、されどお片付け。
ゴミに埋もれた思い出を拾い集め、
老婦人の心は解き放たれるのだろうか。
マキカの心は解き放たれるのだろうか。
イギリスに住む日本人の主人公が、知り合いに掃除のサポートを頼まれる。
その仕事は、「プロフェッショナル オーガナイザー」と呼ばれるもの。単なる片付け屋ではなく、依頼主に寄り添い、依頼主が自らの手で片付け、その状態を維持していけるようにサポートする役割。
まず、そんな仕事があるということに驚きました。ぜひ、私の家にも来てほしいです!
そして、主人公が依頼されて訪れたお宅は、きっちりと往年のイギリス女性スタイルに身を固めた隙のない高齢女性。しかし、彼女の自宅はごみ屋敷になっており……。
主人公が、依頼主と親交を深めながら丁寧に会話を重ねて片付けを進めていく様子はとても好感が持て、そして人と接するということの本質を考えさせられます。
さらに、話が進むにつれ、依頼主の過去も垣間見えてきて。いったい、彼女は何のきっかけで、ここまで生活を崩してしまったのか。……非常に気になります。
さらにさらに。あちこちに散りばめられた、イギリスっぽさ!もう、素敵!素敵!と触れ回りたくなるほど。イギリスの暮らしをよく知り尽くしている作者さんならではの、その醸し出すイギリスの空気がとても新鮮であり、にもかかわらず懐かしくもあり。
続きも気になりますが、何度も読み返してそのイギリスの空気に浸っていたいと思える。そんな素敵な作品です。