一つの時代を茶碗目線で書いた物語

結婚によって結ばれた男女がそれぞれ持ってきた茶碗。
その茶碗が持ち主の生活を通して見たこと感じたことを、茶碗同士の会話としてサラリと語ってくれます。
私は歴史モノが苦手で、いや、苦手というよりむしろ大嫌いで、蕁麻疹が出るほど逃げたしたくなるのですが、続きが気になって読まずにはいられない凄まじい引力がありました。
義務教育で日本の歴史は知っているし、その後どういう事が起こるのか全部わかってはいるんだけど、それを何も知らない茶碗の目線で語られることが新鮮でもあり、また哀しくもあり……。一途に持ち主やその家族を心配する茶碗がいじらしい。
疎開先を見ては「わー、やめて!」と叫び、最後のシーンでは「お願い、見つけて!」と手を合わせ、もう入り込み過ぎてしまってリアル世界に戻ってくるのに時間がかかりました。

「人間は叩かれても、違う音を出すことがある。ううん、違う音を出さなければいけないこともあるんだ」
という茶碗の台詞が刺さりました。

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