波は優しいほど良い...vol.8

星と星の距離を、回る角度を、向きを、

僕らは夏と呼んだり、冬と呼んだりする。


今年の夏は、殊更に暑かったという。

何が異常で、何が正常なのかは分からない。

遊覧船の切符を切り、発着時刻を案内したり、

時間貸しのクルーズ船に乗る人たちの世話をしたりしているうち、

星は場所を変え、夜明けは色を変えていく。

少しずつ客が減ると、夏は静かに終わっていく。

とすると、夏というものは、実は人が作り出した現象なのかもしれない。

誰もいない海で、

クルーズ船が寂しく波に揺れるようになれば、それが秋だ。

海に寂しさを求めて、

ぽつぽつとひとりぼっちの人が訪れるようになると、それが冬だ。


星の軌道も地軸も少しずつ変化して、

二度と同じ夏は来ないし、二度と同じ冬は期待できない。

案外、次の氷河期はもうすぐそこなのかもしれないし、

そんなものは、向こう何万年も来ないのかもしれない。

夜明けは寂しいほど良く、波は優しいほど良い。

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エウロパの海、より。〈ペーパー配布SS〉 佐々木海月 @k_tsukudani

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