海底8000m...vol.7

僕は夜を知らない。

ゆっくりと欠けていく月も、空を渡る星も。

夏も知らない。

焼けつくような日差しも、眩しさも、

夕立に打たれ冷やされていく体も。

それは遠い異国の景色で、

僕は本や古い映画から、それがどんなものなのか想像するしかない。


ここは、海の底だ。


海底8000メートル。

長い長い時間、ここは未知の場所だったという。

人間に知られることなく密やかに生きていたものたちを、

僕らは徹底的に暴き尽くしたのだ。


そうして、今はここで普通に暮らしている。

生き物たちは、もういない。

何処に行ってしまったのかは分からない。

けれども時々、この暗い海底の隙間に、彼らの気配を感じることがある。

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