やがて夜が明ける...vol.6

 夢は終わったのに、世界は目を覚まさない。

 崩れ落ちた都市は、透明な空の底で眠り続けている。

 そして、生い茂る草木が、そっとその姿を覆い隠していた。


 僕は、音楽家だった。

 古いシタールを鳴らしながら、この眠る世界を、泳ぐように旅していた。


 ある夜明け前、小さな白い鳥が僕の前に現れた。

「物語を探しているんだ。君たちがかつて紡いだという、何か美しいものだと聞いている」

「物語は終ったよ。見てくれ、この静かな世界を」

 僕は小さくシタールを鳴らす。

「終わってはいないさ。この安らかな悲しい世界さえ、君たちの物語の続きじゃないか」

 そういうものかな、と僕は首を傾げる。

「そういうものさ。語られない世界は、永遠に目を覚ますこともない」


 錆びた柱、朽ちた壁、形を失った銅像たち。

 やがて夜が明け、風は木々を揺らし、鳥や蝶や蜂が横切っていく。

「分かったよ。僕が物語を探すから、君が歌ってくれるか」

「もちろん。君の楽器が伴奏だ」


 そうして僕らは、この世界で物語を探す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る