異世界転生にして♀エルフにチートもらって無双して男の子に恋するやつ。

雪野=バルバロイ=大吟醸

第1話

 気が付けば真っ白な部屋にいた。


「は?」


 きょろきょろと見渡すが、見覚えはない。というか、何、この……何?

 知らない天井どころか、床も壁も見覚えがない。

 というよりも延々としみひとつない白い空間が見渡す限り続いている。影ひとつ落ちていないせいで壁と床は見えているかどうかも分からない。

 自分が立っている場所が辛うじて床だろうというだけで、遠近感と平衡感覚が狂いそうだ。

 というかオレは今、立っているのか? それすらも自信がなくなってくる……


「……夢?」

「お、気がつきおったか。まったくいつまで寝ておる」


 背後からいきなり声をかけられ、振り向けばそこには金髪の幼女がいた。


「え? さっきまでどこにもいなかった……よな?」


 改めて周囲を見渡すが、扉のようなものは見当たらない。相変わらず白い空間が続いているだけだ。


「そんな細かいこと気にせんでよいじゃろ。それよかお前さん、どこまで覚えとる?」

「いや、細かくないだろ……覚えてるって言ったって何を……あ」


 白い。

 真っ白な視界。

 それを思い出せたのは幸か、不幸か。

 あれはそう『フラッシュライト』だ。自分に迫る車の、フラッシュライトだ。


「あー、お主な。あんまり気を落とさず、聞いてほしいんじゃが……あれじゃ。すまん、死んだ」


 金髪幼女はあっけからんとそんなことを言った。


――◆――


「あー……そんなに落ち込むな。ほれ、おっぱい揉むか?」

「さすがにこの状況でそれは無理……」


 ちぇーと唇を尖らす、金髪幼女――もとい自称『神』を尻目にオレは頭を抱えていた。

 要するにオレはその死んだ、らしい。

 死因はトラックによる交通事故。即死だったそうな。


「ベタ過ぎる……今時、web小説でももう少しひねった死に方するぞ……」

「人間、死ぬ時は死ぬもんじゃって。死に方を選べるなんて、そうそうない贅沢じゃぞ?」

「半端に正論で追い討ちをかけるな……」


 落ち込むオレを幼女神は慰めるように肩を叩いてくる。気にするなと言ったって無理な話だろう。


「というかオレ、どうなんの? お前が天国とかに連れて行ってくれんのか?」

「お前て。わし、一応女神なんじゃが。……まあ、よい。ようやく本題に入れそうじゃな」


 ちょっと涙目になりながらも尋ねてみるとそんな答えが返ってきた。


「本題?」

「そうじゃ。ぶっちゃけお主が死んだのは、こちらとしても予想外でな。寿命もまだ残っておったし、このまま死なれると手続きが面倒くさい」

「面倒くさいってお前」


 にしても手続きとかあるんだ……役所みたいだな。


「じゃからわしがサボ――じゃなかった。お主に第二の生というやつをプレゼントしてやろうかと思っての。こうして魂を呼びつけたわけじゃよ」


 もしかして、とは思っていたが幼女神が口にした言葉は本当に予想通りの言葉だった。


「それってもしかして、転生ってやつか?」

「お、話が早いの。これだからこの時代のあの世界の日本は好きじゃぞ、わし。そうそうお主の言うとおり、いわゆる『転生』ってやつじゃな」


 マジか。ここまでテンプレと言わんばかりの展開だけど、オレにとっては都合がいい。最悪の場合、このまま地獄とかそっち系に連れて行かれるかも知れないと思っていたところだった。


「あー、一応聞くけど元の世界で生き返るってのは「無しじゃな」食い気味に否定された。

「お主の肉体はすでに死んでおるし、お主が生きておった世界の因果も既に定義されておる。そこまでの横紙破りはさすがにできんよ。悪いのう」


 申し訳なさそうに謝られてしまった。

 話の理屈は分からなかったが、でも自分が死に、もう生き返ることはできないということは理解できた。


「お主が新たな生を受けられるのは違う世界、違う生き物じゃ」

「違う生き物? もしかして犬とか虫とか?」

「お主がそちらの方がよいというならそっちにしてやってもよいが、基本的には人間に近しいものじゃよ。そうじゃな……エルフとかどうじゃ?」


 エルフ。

 その響きに思わず身体が反応する。


「エルフっていうとゲームとかラノベでお馴染みのアレ? こう、耳が尖がってて森とかに住んでて、弓とか魔法とかが得意で、みんな美形のアレ?」

「話が早すぎてキモいの、お主。まあ、だいたいそれで合っとるよ。それとも犬や虫の方が良いか? 人の形に拘らんのじゃったらドラゴンとかもオススメじゃが」 


 いつの間にやら取り出したカタログをぱらぱらとめくりながら幼女神はそう尋ねてくる。

 ドラゴン、ドラゴンも確かにいいな……ドラゴンというからには空も飛べるんだろう。

 それは結構、魅力的だ。


「……いや、エルフで頼む」


 オレは結局、彼女もできないまま死んだ。次の人生では童貞のまま死にたくない。

 そうだ、オレは今度こそ恋人と結ばれて、子供とか育てて生きてみたい。


「あい、わかった。それじゃあしばらく目を閉じておれ」


 言われるがままに目を閉じる。

 すると身体の先から暖かな熱に包まれていくのが分かった。


「せっかくじゃし、わしの祝福をやろう。健やかに生きるがよい」


 幼女神のそんな言葉を聞きながら、オレは意識を手放した。


――◆――


「あなた……」

「よく頑張ったな、レイラ……! ほら、抱いてやれ」


 自分の泣き声の奥から優しい声が聞こえる。

 丁寧に優しく、抱き止められたのがわかった。


「私の赤ちゃん……ふふ、なんてかわいらしい……」

「ありがとう、先生」

「レイラが頑張ったからね。私はたいしたことはしてないよ」


 漠然と新たな生を受けたことをオレは実感していた。

 精一杯生きよう。新しい人生を謳歌しよう。


「それにしても元気な女の子だ。よかったね、レイラ」



――ん? 今、女の子って言わなかった?

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