可愛い。ふたりとも可愛くてほんとうにお似合いなのに、肝心なところが噛み合わない。神様はなにも間違ってないけど、恋する気持ちだけが、二人の間に噛み合わなくて、会う度取り残されていく。
彼女は彼を、彼は彼女を、この上なく大事に思っていて、思いあっているのに。
でもそれは、恋には、ならないんだなぁ。
だけど恋人よりもずっと相手を大事にできる、理想的な関係を、このふたりならきっと築けたと思う。最終話を見て、そう思った。
もちろんメインのふたりだけじゃなくて、小春ちゃんを支える親友の鮎子や、脳天気なお兄さん、マシンガントークのお母さんに、クラスメイト。みんな魅力的で、人間臭くて、ドラマに華を添えてくれています。
おぼろくんと同じ空間を、時間を共有出来るだけで夢心地の小春ちゃん。
別れる時はいつもどこか寂しいのは、きっと分かり合えない部分を噛みしめるから。
可愛くて微笑ましくて、ちょっと切ない
ふたりの青春を、一緒に見守ってみませんか。
甘い物が好きな小春ちゃんが、隣の席のおぼろくんに恋をするお話です。
でも、おぼろくんには葛藤があります。それは、おぼろくんの心は女の子なのです。偶然、それを唯一知る立場になった小春ちゃんはーー
物凄く「好き」が溢れているお話でした。初恋の話を読んで何言ってんのと言われるかもしれませんが、凄くまっすぐにグラグラな小春ちゃんに、最終的に銀河鉄道の夜のカンパネルラに感じたような気持ちを感じました。
ねえカンパネルラ、好きすぎて大事に想って幸せにしたくてどうしようもなくなる事ってあるんだけど、その幸せにしてあげたいリストに自分の名前が足りなくなってるのを忘れないでね。
そんな好きすぎるお話が好きな方であれば是非。
最後まで読んだときには、きっといろいろな事を考えたり、思い出したりできる素敵なお話です。
主人公の初恋の相手は、隣の席の彼。
ある日、主人公は街中で意中の彼の秘密を知ってしまって――?
……という、ともすれば王道な設定だけからすると、始まるのは甘酸っぱくキュートな、ドッキドキの恋物語のようにも思えます。
だけどそれ「だけ」で終わった話なら、自分はこうしてレビューを残していないだろうと思います。
主人公である小春ちゃんは、素直に喜び、素直に怒り、素直に悲しみ、そして素直に恋をしています。おぼろくんが大好き。彼女の根底にあるのは常にその気持ちです。そんな真っ直ぐな気持ちは読者に真っ直ぐに届き、小春ちゃんのもだもだする胸中がよく分かります。親身になって、頑張れ、と応援したくなります。
しかし、物語内の他の登場人物――おぼろくんにも小春ちゃんのその気持ちが伝わっているかといえば、違います。
それは、おぼろくんはおぼろくんの人生を生きているから。彼には彼の事情があり、気持ちがあるから。そんな当たり前のことが、ひりりと痛く感じられます。
じわじわと距離が縮まっていき、お互いの気持ちがぶつかり合った先、踏み出された結末。
それを最後まで見届けた時に感じるのは、甘酸っぱくてキュートな、ドッキドキの恋物語を読んだ後のものとは、恐らく違うものでしょう。しかしそこには、満足感があるはずです。
ぜひ多くの方に、その味を噛みしめていただきたいと思います。
LGBT(本作はT)少年×ヘテロ少女という構図が自作と似ていて気になって読み始めた作品。これが、類似構図の作品を持つ身として嫉妬を覚えるほどに大当たりでした。
本作の主人公はおぼろくんという同じクラスの男の子が好きな女子高生、小春ちゃん。その小春ちゃんが街で女装をして歩いているおぼろくんを偶然発見し、女装のあまりの出来の悪さに反射的に美容師をやっている兄のところへ連れて行ってしまうところから物語は始まります。
まずこの始まりがいいです。好きな男子の女装を発見して最初に思うことが「女装酷すぎワロエナイ」。新しいながらも荒唐無稽ではなく、妙なリアリティがあります。
さて、やがて小春ちゃんはおぼろくんの心が女の子であることを知るのですが、それで小春ちゃんの恋心がどう変わるかというと、なんと変わりません。「おぼろくんは心が女の子」「自分はおぼろくんのことが好き」。この二つをしっかり認識&肯定しておぼろくんと親密になっていきます。
おぼろくんはおぼろくんで例えば小春ちゃんの前では女言葉になったりとか、そういう分かりやすい変化を見せたりはしません。くっきりした線を引いてくれない。
だから、プラスのドライバーがマイナスのネジにはまらないように大本が致命的にかみ合っていないにも関わらず、小春ちゃんの恋は止まることなく進んでいってしまいます。
そう、本作はおぼろくんの苦悩の物語ではなく、小春ちゃんの恋の物語なのです。だからLGBTとかゲイとかホモとかレズとかバイとかオカマとかオネエとかトランスジェンダーとか性同一性障害とかその手の人間を外から型にはめる単語はほとんど出てきません。小春ちゃんは社会を通してではなく、あくまで人として、「好きな男の子」としておぼろくんと向き合います。
結果としておぼろくんの悩みも社会問題ではなく個人の苦しみとして浮き彫りにされる。それは大仰な問題として捉えられるよりも遥かに重く、ずしりと心に圧しかかります。
この奇抜な恋物語を描き、読ませるのが卓越した表現力。これが実に巧い!カメラの動かし方、言葉の選び方、比喩のセンス、全てが素晴らしい。物語の起伏に頼らずに作品を読ませる力がズバ抜けています。「プロかな?」と思ってPNググりました。本当に。
心も身体も女の子な女の子から、心だけが女の子な男の子への恋心。叶う道理のない想いは、どういう道を辿り、どこに行き着くのか。その行く末を是非、皆様の目でお確かめ下さい。
切実な思いがめちゃくちゃ丁寧に描かれていて、こちらの心まで思い切り揺さぶられてしまう作品です。
五感の描写がとても鮮明で、
主人公の小春ちゃんは、全身で物事を感じていきます。
たとえば大好きなおぼろくんのことをよく観察していて、序盤にはこんな文があります。
『背中を丸めたままのおぼろくん。肩の力は抜け落ちているのに、両手には筋が浮き出るほどの力が込められていた。その手の中で握りつぶそうとしているものはなんだろう。』
見ることに限らず、本当に五感を使っています。
嗅ぐことで話が展開されることだってあるし、それに小春ちゃんはよく食べる子です。
そしておぼろくん。
最序盤「絶世のおぼろくん」の時点では、小春ちゃんとおぼろくんにはかなりの距離があります。
小春ちゃんが、言ってあげたいと思った言葉を言えなかったということもその一因になっているみたいですが、
でも勇気を出して言っていたとしても、おぼろくんに近づけていたのだろうか?と思ってしまうくらい、おぼろくんは複雑な心の持ち主であるみたいです。
そういうところを「絶世のおぼろくん」の時点でまざまざと見せつけられるので、続きを読みたくてたまらない気持ちにさせられました。