エピローグ
三田村冴子は、突然自分の部屋に沸いて現れた一通の封書に形容しがたい恐ろしさを感じていた。
封筒の差出人は、彼女の友人である国木のものだった。
彼女は半年前に蒸発した彼を捜し、後を追うように三田村の前から姿を消してしまっていた。
封筒には手記と、写真、簡単な地図が入っており、手紙には『ナオキをお願い』とだけ書かれていた。
意味も分からず彼女は、同封されていた写真にヒントを求めて目を向けた。
写真は民宿と思しき建物が写っている。その中の一枚に、彼女は目が釘付けとなった。写真は西日に照らされた民宿を写したもので、窓から一人の男が見下ろしていた。
顔は夕日を浴び良く見えなかったが、彼女は彼こそが国木が頼んだナオキ本人ではないか、そう考えていた。
写真の民宿がどこにあるかは簡単に特定出来た。彼女は井上とも知り合いで、三人とも失踪した背景に、この写真が関わっていることをすでに無意識化で理解していたからだ。
井上宅の電話番号を調べるのに時間はかかったが、そう苦労はしなかった。
なにより、自分の推理を肯定する井上夫妻の一言が、彼女の使命感を滾らせ、確信を呼び込み、疲労感を麻痺させていたのだ。
かしわ荘なる民宿の存在を突き止め、インターネットで検索した画像が酷似したのを、きっかけに、彼女はあまりにスムーズに情報が集まる現状を、さも自分が見えざる力により導かれているようだと気味悪がる一方、民宿にまつわる秘密を暴くことこそが自分に架せられた任務であると錯覚する。
結果、彼女も一歩踏み込んだ調査に出かける決意を固めたのである。
調べた住所は青森の弘前市のものだった。
共に記載された電話番行へ連絡を入れれば、数拍のコール音の後、若い男の声に繋がる。
彼女は尋ねた。国木と瀬戸、井上なる人物が当民宿へ訪れていないか、と。
すると男は、わかりかねると情報を渋り、意味深にもこう答えたのだ。
よろしければ、宿でお待ちしております、と……。
夕空のマクガフィン 羽黒 @haguroism
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