手が届かなくとも、言葉は繋がる

日本にいようがコートジボワールにいようが、ネットがあればその距離はゼロになる。

車は空を飛ばないし、アンドロイドも存在しないし、ホバーボードも靴紐いらずのナイキシューズも一般化されていない。

そんな期待はずれの21世紀の途中ですが、SNSというツールは間違いなく未来的な産物でしょう。

こうして、見ず知らずの作者さんの物語を気軽に読めるし、レビューだって簡単に送れる。

この時代を素晴らしいと思う。

そんなこんなで本作も、SNSによるコミュニケーションの形を描いております。

海外ではFacebookが主流であり、日本と比べ本名を晒すことに抵抗が少ないからか、Twitter以上に現実・ネットの境界は薄まりつつあるように見えます。


そうすると、本作のように「嘘」が暴かれる事もあるわけで。

それが悪意のないものか否か、どちらにせよ裏切られたように感じても無理はありません。

主人公のことが序盤あまり好きになれなくて、というのも「顔はタイプじゃないし、話も面白くないし……」というくだりが、
受け取り方によっては半ば上から目線にも感じられたからです。

これが作者さんの狙いなのか、言葉の綾でそう見えてしまっただけなのかは不明ですが、
匿名を利用し嘘で固めた虚像に染まっていくと、人は知らず知らず傲慢になっていくものだろうし、むしろ良い演出だと思いました。

しかしそんな主人公も、後半で互いの「本当」を曝け出してからは、正直に「やり遂げられる自信はないし、途中で放り出して捨てるかもしれない」と伝えます。

介護は恐ろしく大変だし、でも必要不可欠なものです。でも、大変だからこそ率先してやろうという人は多くない。

その現状をしっかり受け入れた上で、二人は優しさと脆さで出来た関係を続けることを決める。

最後に明かされる「もう一つの嘘」がまたユニークです。
デジタル社会になっていく中、彼の方は電車の「覗き見」でアカウントを見つけます。

いくらセキュリティを強化したり、ネットをより良いものにアップデートしても、結局は使う人間次第で突破されたり悪用されたりする。

そういうネットと人間の関係性をシンプルに表していて、とても良かった。

短いストーリーの中に、暖かさと冷たさ、優しさと拙さがない混ぜになっていて、読み応えありました。

長くなりました。すみません。二人に幸あれ。

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