第4話 マンドレイクホイホイ

 まぶたの中にまで日差しが差し込んでくる。まぶしい。

 心地よい風が頬をかすむが、意識はまだまだ朦朧としている。

 重い瞼が持ち上がることはない。本能が理性がそれを拒否している。まだだ。まだ現実に直面していい時間ではない。休息はまだ終わっていない。


 あと30分。


 昨日何か凄く疲れたことやっていたような気がするし、今日1日ぐらい休んでもいいと思う。あぁ、今日は一日中ずっと寝ていようかな。そういや何かやることあったかな。思い出せないね。出社ならそろそろアラームが鳴るころだが...出社?アラーム?なんだっけ。思い出せないな。今日は気が済むまで眠っていたい気分なんだ。


 不意にわき腹あたりに何かでつつかれるような錯覚を感じる。こそばゆいが我慢できないわけではない。無視していると、ほら、やっぱり何かに棒のようなものでつつかれている感覚が。筋肉のけいれんにしては妙だ。とはいえ単身一人暮らしである私の家に誰かいるわけもない。やっぱり疲れすぎて錯覚が生まれているんだ。


 羽音が続々と集まってくる。なぜか音自体久々に聞いた気がする。何らかの虫かな?ゴキブリとかは勘弁してくれ。苦手なんだよ。にしては4、いや5匹か。実にうっとうしい。生理的な嫌悪を覚えながら眠りに集中する。幸い体に這うことはなくいつしか羽音も止んだ。


 ちょっと!そこ痛いんですけど。またしてもわき腹が痛む。先ほどよりも強烈に棒の先端が肉を容赦なく圧迫する。狭い先端にかかる圧力は余すことなく体の一点をいじめる。これわざとやってるよな。誰かいるのか?


 だから筋肉痛なんだよ!

 やめろよぉ!


 ....つんつんつんつんっt


 (あの!)


 声が出なかったけど、思いっきり睨んでみた。

 そしたら俺よりも小さなヒト型の羽虫に囲まれたことに気がついた。

 あれこの森は生物いないのではなかったっけ。


 しかも一人一本木の枝を持って俺のことを突いているというシチュエーション付きだ。見た目は完全に人間に羽を付けて限界まで小っちゃくした感じ。


 非常に反応に困る。


 実に意味がわからない。


 俺は今木の根っこのところで寝そべているが、木を壁に俺を囲むように奴らが俺を包囲している。


 この状況、、


 もしかして


 もしかしなくても


 リンチか。


 異世界こわいね。こんな虫けらですら知性を持っていて、人を虐めるんだから。

 あ、俺マンドレイクだったか。

 ん?もしかしてそこらへんに落ちてる木の一部だと勘違いされてる感じ?まじで?


 俺が動いたのを見て、羽虫どもは慌ててどこかへ飛んで行った。どうやらリンチはここまでのようだ。


 とはいえ、最悪な目覚めになってしまった。


 まぁそれはいい。ここ異世界だし、俺、度量のあるマンドレイクだし、気にしない!気分を切り替えるために、とりあえず光合成してこよっと。それにしても生き物いたんだね...


 おっと、ちょうどいい感じに日当たりがいいところがあるじゃないか。あそこの岩、実にいい。絶対そう。俺にはわかる。岩のところで寝ればよかったな。木に寝そべってたから、ちょっと首が寝落ちしたかも。微妙に痛いし。これ折れたら死ぬよね?大丈夫?


 とりあえず向こうに行きますか。ここら辺じゃなんか寒いし。


 というわけで、迷いのない軽快なステップで岩に向かう俺の図。


 実を言うと歩くの割と苦手なんだよね。根っこの長さが微妙に揃わないせいで疲れるんだ。今のようなステップの方がまだマシに感じる。とまぁ、そんなこんなで、


 穴に落ちた。


 言い訳をするならば、まぁあれだ、不可抗力だ。異世界に来て2度目の不可抗力。

 油断はしてないよ?もうしないって誓ったからね。


 これは足元確認しなかった俺が悪いかもしれないけど、多分穴の方がもっと悪い。葉っぱに隠れてたんだよ。葉っぱ。知ってる?あの緑色のやつ。布団にも使えるような物凄くでかいやつ。ここら辺多いんだよね、落ち葉。まだ緑色でみずみずしいのにだ。


 それに道のど真ん中に天然の縦穴があってたまるか!初見殺しにもほどがあるでしょ...まぁ道というより獣道だけど。獣道ですらないかもしれないけど。


 改めて自分のボティの特殊性を思い知らされた。非常にいとうつくし。意味被ちゃったか。可愛いかはともかく、小さすぎるのも考えものだな。前世は(多分)185cmもある大男で色々苦労したから、本音を言うと小さい体に憧れてないこともない。とは言え違和感がすごい。


 色々考えてるうちにようやく浮遊感が止まった。


 ポトっと音を立てて俺は床とキスをしたが痛覚がない。あれ、ポトっじゃなくて、どっちかというとペチャって音したんですけど。


 薄く水でも溜まっているのかな?地面が柔らいのもあるか。


 とにかくどうやら底についたようだ。滞空時間を考えると随分と深いようだ。もう二度と出るのは無理かもしれない。

 

 ははっ、詰んだな!


 そう思ったとき


「なんだいお主は?」


 頭の中から声がした。

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