第5話 遭遇

俺は今、幻聴が聞こえている。


直接脳内から声がして酔いそう。

おかしいな。最近ストレス溜まりすぎたのかな?

まぁいきなり引っこ抜かれたわけだし?生活習慣だって崩れたし?引きこもりだったのに結構歩いたし?


ふむ、ここ涼しいし、なんか下柔らかいし、とりあえず寝るか。幻聴なんてもんそのうち治るっしょ。


そう考えてた時期が私にもありました。


寝ようとしたら、急に周りが明るくなった。気になってよく見たら鬼火が漂ってるじゃないですかやだ私オカルト信じない派なの。


ビビって固まってると、地面からすごい振動がした。


うっかり漏らしそうになったけど、そういえば漏らせる器官がないんだった。


「お主は、生物ではないのか?鼓動がまるでないぞ」


あ、まだ聞こえた。やだ私疲れてる。


「とりあえず吾の背中から降りてくれぬか?」


なんか下からすごい威圧感を感じる。

あ、これ下に何かいるな。あはは


....マジのやつだった。幻聴じゃなかった。

ちょっと怖かったので、急いで降りた。

すると鬼火ついてきたんですけど。


また声がした


「これは驚いた。まさかマンドレイクだったとは。

意識を持った個体など、初めて見たわい。」


「xっ」

声を出そうとするが、なかなかうまく露舌が回らない。それになぜか声が出ない。


「おっと!!呪言はやめておくれ。吾はまだ傷が全快しておらぬゆえな。貴殿に敵意はないぞ。」


呪言?

てか、やはり俺マンドレイクだったのか。

というより怪我してんのこのおっさん?

お大事に。

おっさんようなの古風な喋り方、俺結構好きだぞ!なんかかっこいいし。少し親近感わいてきたかも。


「お主、念話は使えぬか?」


そんな超能力は持ち合わせておりませんな。


俺は頭を横に振った。


「ふむ、吾も200年ぶりに話したいんじゃが、、まぁよい。姿を見せよう。」


地面が呻き声をあげる。

すると暗闇の中からとてつもない大きさの何かが這い出てきた。


あ、これスライムや。


さてさて、


暗闇から馬鹿でかいスライムが出てきた!

どう見ても俺の50倍はある!

こりゃ襲われたらひとたまりもねぇな!ははっ!


とはいえ逃げ場がない。

絶体絶命のピンチでキョロキョロしてたら


「そう慌てるでない。何もとって食おうってわけじゃない。安心したまえ。」


あ、今ぷるんってした。ぷるんって。

さっきの地震これか!

どんだけ重いんだよこいつ。


するとスライムから触手が出て、地面に何かを書き始めた。


なんとなく興奮した。

それは置いといて、


「この上に乗ってみろ」


え?

こえぇええよ!!

超怖いんですけど

これ魔法陣だよね?

え?俺生贄にされるの?マジで?

食べないんじゃなかったの?

やっぱ俺って薬物、、じゃなくて薬草的なやつなの?


どう逃げようかと考えてる俺に触手が襲いかかる。


ふっ甘いわ。華麗にジャンプしてそれをかわす俺。

のはずだった。足が棒になってて飛べなかった★

元から棒か!なんちゃってぇ!!


勢いよく捕獲された俺はそーっと魔法陣の上に置かれた。

すると体が温かくなる。

燃えそうとかそういうんじゃなくて、なんていうか体の底から温まる感じ。

あ、こりゃすり潰されて白い粉にされてもいいや。


「粉になってしまわれると吾が困るのだが」


え?今心読まれた?


「読んでなどおらん。お主が念話を飛ばして来たのであろう?」


ははーん。なるほどわかった。俺には魔法の才能があるのだな!!


「何を言っておる。吾の魔法陣の上に乗っておるのではないか。」


これのせいかよ!


「ところで、お主、名を何と言う?それほどの知性があれば、名の一つもあろう?」


「名前か、実は記憶が曖昧なんだよね。名前どころか、自分がマンドレイクであることを知ったのもつい最近なんだよね。それに、どうも俺はこの世界のものじゃないっぽいんだよ。何と言うか、前世?っぽい記憶も少しあるんだよね。こことは何もかも違うところに暮らしてたんだよ。」


「ほうほう、.....それは興味深い。もとより自我を持つマンドレイクなど見たことも聞いたことすらない。まさにイレギュラーだな、お主。ところでお主から凄まじい魔力を感じるのは気のせい....ってわけじゃなさそうだな。さては特異種か。」


「特異種?」


「魔王候補のようなものだ。魔王は知っているな?」


「ああ、魔族の王様でしょ?」


「その認識で問題はないが、魔王は複数いる。が、王と言っても一人の魔王につく配下はそう多くない。魔王は少数精鋭を好むからな。そして、だいたいお主のような特異種から魔王が生まれやすいと聞いている。何せお主からはこのアヴュシュット殿下に仕える吾輩と同じ魔力の波動を感じる。」


「おお!やはり俺に魔法の才能が!」


「いや、それはまだわからんぞ。魔力量と魔法の才能は比例しないからのう。魔力ばかり持ち余って一つも満足に魔法を使えないやつだってたくさん見て来たぞ。」


「試しになんか魔法教えてよ!」


「....本来ならそう容易く人に教えるものではないが、まぁ誰もが扱える初級程度なら構わんだろう。」


「ありがとうおっさん!!」


「吾輩はまだまだ若いぞ。まぁいい。先程からお主をこの魔法陣の上に乗せた時何か感じなかったか?」


「たしか、なんかお腹のあたりから熱いものが流れる感じがした。」


「それが魔力だ。それに意識を向けて何かを想像するんだ。火なら燃えるものを。水なら流れるものを。とにかくイメージするんだ。そうすれば勝手に発動するはずだ。」


「....こう、か?ぉおっ」


「...なんと、.....これは驚いた。」


俺の真正面に、スライム爺さんに挟まれて白い炎が勢いよく空中で燃えていた。


「なんという、、これほどの熱量を持った炎など見たことがないのう、」


「なんか急に前世の漫画?とやらを思い出して、こういうの見たことあったような気がして想像したらできちゃった☆」


「これはこれは、、素晴らしい。もしや魔力が流れることで記憶が逆流しているのか?是非とも続けてくれ!次は水を生み出して見よ!」


そうして、俺はスラ爺との親睦を深めるのであった。


...........


風を起こそうとした最中だった。

急な頭痛に襲われた。

どうやらようやく魔力に当てられて記憶の扉が開いたようだ。

記憶の嵐に襲われるように、俺は両手(根っこ)で頭をお抑えながら何度も頭を地面にぶつけた。


はたから見たら完全に危ないやつだったと思う。

スラ爺が心配してくれたが、返事してる余裕はなかった。


程なくして、痛みが引いていく。

おかげで前世、もとい人間だった頃の記憶が鮮明に思い出せるようになった。

どうも俺天球ってとこに住んでたらしい。

18歳の夏で、トラックの助手席に乗っていたところ、運転手のおっさんが人轢いちゃってたらしい。


確か人を轢いた後、おっさんが慌ててトラックを降りて確認しようとしたところ、どうやらここら辺のヤクザを轢いちゃってて、ちょうど追いついて来たヤクザ達に、刺されて死んだはず。その時に俺も刺された。俺なんもしてないのに!

で、気がついたらゴブリンに引っこ抜かれてたわけよ。


と、以上スラ爺にもこのことを伝えると、意外にも納得してくれた。


どうやら転生者って結構いるらしい。

そりゃもう、うじゃうじゃと。

まぁ流石に転生してマンドレイクになったのは俺ぐらいだろうな。スライムからすると、この世界ではマンドレイクは大昔乱獲されて今やほとんどおらず、100年にやっと一株が育つか育たないからしい。

希少価値めっちゃ高いんじゃね?!

でもそれだけ貴重なら狙われそう!


少し寒気がしたところで


「ところで自己紹介はまだだったな。記憶が戻ったとなれば、名を。吾はサモン、今はこの地の守護者にあたるものだ。」


「どうも、弦土 麗句です。レイクって呼んでね!」


可愛さアピールを忘れずにこれから少しの間、サモンのところでお世話になるレイクなのだった。

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