就職先も決まらないままダイビングに没頭する日々を送っていた青年が一頭のイルカと出会い、初めは乗り気でなかったドルフィントレーナーと言う職業に魅せられて行く様を描く青春ストーリー。
陸上での主人公の心理描写はどこか斜に構えていて、歳相応にひねくれていて、大人の世界を冷めた目で見ていて。
反目も迎合もできない、どこか所在無い、所謂難しいお年頃である。
しかしその印象は水族館のドルフィントレーナー採用試験でバディを組んだイルカのビビと水中で『遊ぶ』場面で一変する。
本作の一人称はこのためにあると言っていい。
彼の心象風景が一気に鮮やかに色を帯び加速し始めるシーンに、気付けば一体となってビビと追いかけっこをしている自分が居るのだ。
都会の夏に清涼をもたらす水族館。その花形と言えば何といってもイルカとトレーナーが様々な芸を見せるイルカショー。
観客の歓声に包まれる華やかな舞台の魅力は、高度に訓練された技だけで支えられているわけではない。なぜ人はイルカショーに歓喜するのか。
なかなか誰かの役に立つことのできない、若者のもどかしさ。動物といういつも同じではあってくれない相手を扱う難しさ。自分の青春をかける価値のある仕事を見つけた主人公が、大切なもののために仲間と共に自分たちのすべてをかけて奮闘します。
読めば必ずあなたの目にも、海の水のような液体が溢れてくることでしょう。
働くということは、単に労働の対価を貰うことでもなく、単に人のために尽くすだけでも成立しない。イルカのトレーナーという職業を通して、プロの仕事人の奥の深さとその魅力を伝える感動のストーリーです。
島育ちの私にとって、海は身近なものだ。
とはいえ、海は、生きる糧を得るための場所であり、
遠方とを結ぶ交通の幹線であり、遊び場でもあって、
ダイビングや水族館といったレジャーとは無縁だった。
海の、馴染みのない魅力を見せてもらったように思う。
主人公、蒼衣は頭もいいし体も強い、いわばハイスペックだが、
プライドの高さゆえに就職活動に全敗した上、バイトも続かない。
海に出ては素潜りで青く暗い世界へ入り込むばかりの蒼衣に、
ある日、父親の伝手でドルフィントレーナーへの道が示される。
過酷とも言える水族館の業務の様子、人好きのする仕事仲間、
イルカたちの賢さと可愛らしさ、次第に変化する蒼衣の意識。
しなやかに整った筆致で紡がれるストーリーは爽やかで力強く、
頑なだった蒼衣が失敗しながらも前に進む姿に胸が熱くなる。
本作を3部構成に分けるなら、ドルフィントレーナーになるまで、
水族館勤務での奮闘、イルカのビビとの絆の再確認、となるが、
タイトルに冠せられた「blind」の意味が明らかになる第3部は特に、
小説ならではの葛藤する心の声が強く描かれ、迫力に満ちている。
海のblueと青春のblue、2つの青い魅力が詰まった作品。
暑い夏にピッタリの、全力投球で若々しいお仕事小説。
ラストまで読みましたので、レビューの書き直しになります。
この作品は、仕事を通じて何かを読者に伝えるという要素を土台にして、もはや仕事の関係とは言えないレベルまで、人とイルカの絆を描いた作品です。
注意点として、出だしの主人公のキャラが、人によって評価が分かれるかもしれません。しかし、そこで読むのをやめるのではなく、仕掛けになっていると思って読み進めてください。きっと意味がわかると思います。
オススメポイントは、イルカショーです。ネタバレを避けるため、内容には触れませんが、後半のイルカショーで、メインのイルカが登場すると同時に、誰もが涙すると思います。ラストの演出は、鳥肌が立つレベルだと思いました。
素敵な作品と、まるで本物のイルカショーを観ているような楽しい時間を提供していただき、ありがとうございました。
とにかく感動して泣きたい方、楽しい時間を過ごしたい方には特にオススメですよ!!