あとがきに代えて
アップしたばかりの小説を読むともなく眺めながら、煙草を吸う。
しかし達成感に浸れるのも束の間だ。
これからほんとうの――
とか思ってると奇襲が来た。
ピンポーンピンポピンポピンポピンポ……
このふざけた押し方は絶対にあいつだ。
また近所迷惑で苦情を言われるのも馬鹿らしい。
急いで玄関まで顔を出す。
「なんだよ、こんな朝っぱらか――」
「あんたね! 締め切りもう七時間も過ぎてるんだけど! せめて連絡ぐらいしなさいよ!」
「へ? 今晩中じゃないのか?」
「バカ! あんた日にちも数えらんないの!? 社会人失格ね」
ああ、ぐうの音も出ない。
それにこんなところで大声で説教を食らっていては、また隣近所の評判が……。
素直に謝るしかなかった。
「……ごめん。すぐ書くよ」
「ええ、見張っててあげるからちゃっちゃとやりなさい!」
彼女は僕を押しのけ、我が物顔で部屋へ上がっていく。
「もう、デートの予定が台無しになっちゃうじゃない……」
なんてぼやいている。
……なんていうか、いろいろとすみませんねぇ。
さらに、彼女は開いたままのラップトップを見咎める。
……うぐぅ、なんと間の悪い。
「これはなんなの? あんた、締め切りすぎた原稿放ったらかしてなに『なろう』に小説上げてんのよ!」
まったくである。我ながらあっぱれなことをしたものだ。わはははは!
……なんて口が裂けても言えない。
「ごめんなさい。すぐやりますから許してください。もうほとんどできてますから」
「ほんとうに? どのくらいでできそう?」
「えっと、お昼には……たぶん」
「たぶんじゃダメ! 絶対お昼までに書きなさい!」
「……がんばります」
彼女は「はぁ……」とため息を吐きながら、一応譲歩の意を示してくれる。
そして、気を取り直したように言う。
「で、この『なろう』に上げてるのはどういう話?」
あらすじぐらい読もうぜとか思いながら、適当にかいつまんで教えてやった。
「……ふ~ん。ねえ、それは前世の妄想?
「……さあね。自分で考えてみればいいよ」
「そうだね。せっかくだから読んでみる。どっかで使えるかもしんないし」
「一応言っとくけど、120%趣味で書いたものだし、まったくエンタメ向きじゃないからな。それに文学なんて呼べるほど質の高い代物でもない。要するにただの毒電波だよ」
「バカね。そういうのは読み手が決めるものなのよ」
なぜかドヤ顔で言ってみせる彼女である。
それからぺしぺしとスマホをいじりながら、僕のベッドを我が物顔で占拠する。
まあ、デスク以外に座るところがないのだから仕方ない。
……だからといって寝転がるか? とかはもういちいち言わない……。
僕はパソコンを操作し、ワードを開き、原稿を書き始める。
――でも、最後にすこしだけ思いを馳せる。
いみじくも彼女が言ったように、毒電波かただの電波か、それとももっと他のなにかであるのかどうかは読み手が決めることだ。月並みでも、やはり読み手の数だけ受け取り方はあるのだから。
そしてだからこそ、こう思わずにはいられないのだ。
いったい、きみはどんな答えを出すのだろうか、と――
Vanishing point 社宗佑 @yashirosousuke
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