そして続く未来へ
僕たちは今ここに集った。それぞれの気持ちを生かせるこの場所に。僕はある組織を追うために。こんな僕でも流石に慈悲の気持ちは知っているつもりだし、彼らを利用するだけの関係で終わらせるつもりはない。だからそれなりに楽しくもやっていけたらよいのかもしれない。彼らはそれを望んでいるかは別だが。
「やあ、みんな。悪いね急に集まってもらって」
僕の部屋には探偵事務所に所属している人たち全員が集まる。元々所属していた照たちを除き、純粋な人間たちもソファに座ったり窓際で腰を預けていたりして、僕が来るのを待っていた。
「錬君。どうしたの?」
「大方、所信表明でもするつもり?」
勇気と理穂は交互に言葉を僕に投げかける。青と梅は緊張しているのか、静かに僕の方を見ているだけだ。ぎこちない動きが人見知りの2人を演出する。
「まあ、理穂ちゃんの言う通りかな。ほら、せっかく仲間が増えたんだし、改めての顔合わせとこれからのことについて話そうと思ってね」
「これからのことね」
照が呆れたような声色で相槌を打つ。彼女はこういう人が集まる場所は苦手なので、さっさと終わらせてくれと言っているようだった。
「そう、これからのことだよ。まずは、勇気君、理穂ちゃん、青、梅。僕の事務所に入ってくれてありがとう。大丈夫、稼ぎは良い方だから、そちらの問題は気にしないで大丈夫だよ。さて、知っての通り、ここは探偵事務所だ。といっても、ほとんど何でも屋みたいなものだけどね。みんなには、僕の手の届かない依頼を手伝ってほしいんだ。大丈夫、危険なものはだいたい僕と照の方に行くようになってるからさ。安全な依頼をやってほしいんだ。でも、依頼をやる時にちょっと意識して欲しいことがあってね」
そう言って、手元に用意してあった資料をみんなに配る。そこには、僕の目的達成のために必要なことが書いてある。
「僕はある組織を追っているんだ。多分君たちが疑問に思うことは資料に全部乗ってるからみておいてね。だから、その情報収集も兼ねてほしいんだよ。必ず何かを持ってきてほしい訳じゃないから安心して。あくまで”ついで”で大丈夫だよ」
配った資料に目を通しているみんなは、神妙な顔をしていた。
「その組織がどんな組織なのかだいたい資料にあったけど、錬は何故その組織を追っているの? 追うにも目的が分かれば、私はやりやすいんだけどさ」
「流石理穂ちゃん。でも、それは今は話せないんだ」
「なにか理由があるの?」
「だって、まだみんなは僕たちの存在をちゃんと理解してくれてはいないからね。だから、まずは僕たちの存在の理解も進めてほしいんだよ。正直言って、今までの人間の常識や当たり前の知識だけじゃ、到底追い付かないものだからね」
「……まあ、そういうことにしておくわ。良い条件に食いついてこっちに来ただけだし、それじゃあ、その理解が私はその理解が追い付いてから情報収集することにする」
「そうしてくれても構わないよ。他の人はどうかな」
理穂ちゃん以外の子たちにも聞いてみたが、そもそも組織のことを理解するのに時間を要している様子で、とても質問まで頭が回る状態ではない。なので僕は最後の挨拶をすることにした。
「まあなにか質問が出てきたらその時に聞いてね。とにかく、みんながここ錬探偵事務所に入ってきてくれて本当にありがたいんだ。お互いに利のある関係を築いていくと同時、出来れば一人の人間としてのよりよい関係も作っていければなって思ってる。だから、これからよろしく頼むよ」
月並みな挨拶でこの顔合わせを終える。挨拶が終わるや否や、みんなはそれぞれの日常へと戻っていった。彼らにも彼らの目的があり、その目的のために動くのにメリットがあるために、僕の事務所へと来てくれた。彼らへの支援も忘れてはいけない。
こうして僕たちは集った。力も持つ者たちが、集うべくして集ったんだ。これが僕たちの発端だ。何も特別な出会いもなく、ただ偶然のように出会い、話し、付いてきてくれるようになった。これが、いずれ来る未来に対抗する最高の仲間になるとは、僕意外には知る由もないだろう。それで良い。未来のことなんて、結局可能性の一つなのだ。だが、どんな未来に分岐しても、恐らく彼らと一緒なら最善な道へと向かうことが出来る。そう、僕は信じてる。
これからが始まりなのだ。他の世界にとっても、ここからが始まりだ。僕は見届け、戦い、そして、僕の目的を達成するその日まで、僕は忘れない。
現世界物語 今を生きる者たち 後藤 悠慈 @yuji4633
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