繊細な詩や、表現の中にも力強さを感じる作品です。
物語を引き立てる言葉、情景を思い浮かべさせてくれる詳しい背景の表現
読んでいてお庭の世界に引き込まれていくようでした。
文章ひとつひとつに、その場面のイメージが鮮明に、まるで自分がその場にいるんじゃないかと錯覚させられるほどです。
相反する二人の精神科医、そして二人の看護師の関係性もまた奥が深いです。
何が優しさなのか、優しさとは何なのか、何を持って優しさだというのか、それを追い求め、時に苦しみ悩み、壁にぶつかりながらも「優しさ」を追い求めていく主人公。
人の心に寄り添うことの難しさを、様々な表現で読み手に訴えかけているように感じました。
そしてまた、その難しさを感じながらも憧れを追い続ける主人公の姿に心動かされました。
読み終わってみて、なんだか希望が持てる、少し自分に自信が持てる、心に訴えかけてくる、そんな作品でした。
お邸内の相関図も病院内の人間模様もとても魅力的で、またそれを引き立てる舞台(装飾、照明、音響…)の描写も丁寧で、世界の構築が見事だと思いました。
丁寧さで言うと特にキャラクターの所作が「読み手のイメージ任せ」にされない安心感があり、かといって説明過多でくどくもなく、引っかかることなく読み進められて快適でした。
取り扱う題材は難しいうえに不気味に感じとれるようにサーブされていますが、難解で縁遠くならないような配慮も徹底されているように感じられます。誰が読んでもワケワカランにはならないのではないかな。
相反する振る舞いを見せる二人のドクターへの脳内評価が逆転させられる瞬間があり、その驚きと納得感がとても心地良いです。鬼の言葉のその中身の方が圧倒的に純粋で優しくて…相対的に人の方がよっぽど鬼なのでは!?と盛大に返った手の平に自分で笑ってしまうほどでした。
主人公の思考がわかりやすく、良い意味で一般の感性の人という印象です。自分の夢と性格と置かれた境遇に挟まれ、目まぐるしく変わっていく患者や同僚に圧倒されながら一生懸命になる姿は、私には応援というより共感するタイプの主人公に映りました。
先に進むにつれ展開と文章の勢いが増しグッと引き込まれるのですが、その分掴みが少し遅めに感じるのが惜しまれます…が、全編通して心がこもっているのが伝わってくるので、ぜひ夢中になるタイミングまで読み進めてほしいです。
とても大きな熱量に触れたような良い体験をした気持ちになれました。オススメです!