次があるから…
『約束』は破るためにするもの…そう思っていた時期があった。
わざわざ、破らないようにするものなのだから…その約定そのものは無いと同じ…。
そんなふうに思っていた。
土曜日に逢っているのだから、日曜日に連絡は無いと思っていた。
その日は、眠気が強く…早めに寝ようとベッドへ身体を沈めて数分後…彼女から電話があった。
「今日…送れる?」
一瞬、躊躇した。
「いいけど…」
ヒマだったし…本屋にでも行こうか、そう思いながら外出せずに夕方になってしまったから、自分に、外出する口実が出来た、その程度だった。
相変わらずコンビニでグミが無いだの漫画買うだのと、僕にとってはどうでもいいことばかりグチグチと喋る。
どうでも良くないのは、支払いは僕だということだけだ。
「食べに行く店にドレッシングが無かったら困るからドレッシング買っていい?」
そんな心配する人は初めてだ。
我慢とか合わせるとかいうことが出来ないのだろう。
結局、トンカツの店に行くことになったのだが…。
食べ比べしたいと言い出した。
僕はトンカツとラーメンとかになるのかと思いきや…トンカツとチキンカツの食べ比べをしたいと言う。
僕にしてみれば…どっちもカツだし…。
言い出したら聞かないので任せたのだ。
運ばれてくる間も…あのストッカーにアイス入ってるのかな~アイス最後にくれるのかな~とか言い出す。
「アイスを最後にくれるラーメン屋とかないでしょ」
「結構あるよ」
「来たこと無いよ」
「あるんだって」
心底どうでもいい…そう思った。
どうにも、彼女の食事感覚には馴染めない。
「あのストッカーの中アイスかな~帰りにサービスで配ってるのかな~」
「氷だよ…ただの製氷庫だよ」
そんなことを話しているうちに…トンカツとチキンカツが運ばれた。
ドレッシングは無かったので彼女は勝ち誇ったように買ってよかったでしょと言う。
僕は塩でもマヨネーズでもいいのだ…べつに…。
もっとも、僕が心配する必要は無かったのだ…トマト以外は全部、彼女が食べたのだから…。
「ねぇ…ソレ、チキンカツ?」
「ん?」
トンカツを食べている彼女が聞いてきた。
「そうだけど…食って解らないの?」
「よく解らない…トンカツって何肉?」
「えっ…豚だけど…」
「あ~そうだよね~」
(なんだと思ったんだろう…)
「似てるわ…やっぱり」
「なんに?」
「いや…『通』に…」
(『通』とは僕の友人)
トンカツもチキンカツも面白い食べ方をする…ネズミが噛じったように残す。
「ソースのとこ食べて…ソース嫌い」
「それで…変な食べ方してるの?」
「うん…」
偏食というより、病的に食べ物を選り好みする。
本人曰く、整理が近いせいらしい。
なぜに…僕は、彼女と距離を置けないのだろう…。
何の得があるのだろう…。
書いていても、まったく理由が解らない。
でも…彼女なりに僕を心配しているのは解る。
離れられないのは…離れたくないのだろう…。
『恋』でも『愛』でもない。
ただ…傍にいてほしい。そんな存在なのかもしれない。
偏りと拘り 風俗嬢と食事と恋と… 桜雪 @sakurayuki
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