偏りと拘り 風俗嬢と食事と恋と…

桜雪

いわゆる恋というやつだろうか…

 彼女に出会って3年ほどになるのだろうか…。

 風俗嬢と客として出会い…店を通さなくなって…今はたまに食事をするだけの関係。


 恋愛とは呼べず…友情とは違う…そんな表現に難しい関係を続けている。


 出会った時から変わっていた…グミを大量に僕に薦めてきたのでグミが好きなのかと思いきや、グミは好きじゃないと言う。

 常に食べ物を持ち歩き、他人が食べている物を欲しがる。

 コンビニスィーツの新商品は発売日に食べなきゃ気が済まない。

 ケーキ屋では5~6個買って一口だけ食べ、残りは僕に渡してくる。


 おおよそ常識に欠けた行動をとる。

 一般的なOLに比べれば収入は高く、経済観念は薄いのだとは思うが…文字通り、身体を張って稼いでいるのだ、文句を言われた筋合いは無いのだろう。

 ある意味、潔く生きているとも思う。


 県内の店は、よく調べている。

 小さな和菓子屋から高級店までよく知っている。

 アレ食べたい…コレ食べたい…が尽きない。


 僕にしてみれば、同じようなものばかりだが、あの店…この店…と比べるのが好きなのだ。


 その割に偏食…。

 嫌いなものが多く、食べるものも偏っている…どこへ連れて行っても同じような食事になる。


 食べ合わせを気にしない。


 そして今日も…。

「ファミマ行く~」

 アイスを買って…お菓子を買って…定食屋に向かった。

「ねぇ…元気?」

「うん…まぁ…」

 父親が多額の借金をしており…どうも背負い込むことになりそうで最近、僕自身が不安定なのだ。

「ここのね、カツ煮を食べてみたかったの」

「そう…」

「すいませ~ん、カツ煮定食と天ざる、ください」

(いやに注文早いな…)

「決めてたの」

「そう…」


 天ざるが先に運ばれた。

「天ぷら食べていいよ」

「あぁ…エビ駄目だもんね…」

 エビ天を2本食べた。

「他は食べないの?」

「うん…いらない…」

(なぜ…天ざる?…ざる蕎麦で良かったんじゃ…)


 カツ煮が運ばれる。

(なんか重いな…思いのほか量が多い…)

「一口食べる~」

(なぜ…一口?もっと食ってくれ…天ぷらで、もう…腹は満たされてるんだ…)

「…………」

 顔で解る…口に合わないんだな…。

 ということは…彼女の消費量は期待できない…。

 状況は…膠着こうちゃく…減らない…減るわけがない…箸が止まっているのだ。

「蕎麦食べる?」

 彼女は蕎麦は好きだ。

 人並に食べる…でも進んでいない…推して知るべし。


 彼女の蕎麦の食べ方は…蕎麦通が見たらイラッとするだろう。

 ボチャッと汁に落として、薬味を後から入れ、しばらく放置する。

 なんだろう…彼女は美味しそうにモノを食べない。


 そもそも…蕎麦の途中でボリボリなんか鞄から取り出して食べている。

「何食べてるの?」

「ん…コレ?チョコ」

 蕎麦の合間にチョコ挟むんだ…。


 食べ終わって、彼女を事務所まで送る。

 唇を重ね…抱きしめる…。

「大丈夫…」

 彼女なりに僕の心配はしてくれている。

「ごめんね…性欲なくて…」

 彼女との身体の関係は、ほとんどない…。


 たまに思う…別に他の娘だって…。

 それでも…そういう気になれない…僕が抱きたいのは彼女だけ…。

 抱けない彼女…それでも愛おしく…ただ…ただ…愛している。

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