2年目の桜

「今年は桜見に行こうね」

 そう約束していたんだ…。

 昨年は、見に行ったけど…散った後だったから…。

 今年は見れるといいね…見に行こうね…そう約束していたんだ。


 今年も行けなかった。

 父親の多額の借金が解り…債務整理に追われて、そんな気分にならなかった。

 こうしている今も、気が休まらない。


 桜が見たかったわけではない…。

 彼女と桜並木を歩きたかっただけ…だったと思う。

 桜も…彼女の笑顔も…今の僕には過ぎたものなんだ。


 桜を見に行ったとしても、それは彼女を事務所へ送る途中に少し見るだけ…。

 その時間は30分ほども無いだろう…。

 時間を気にせず逢おうとしても…お金が無ければ彼女は僕と逢ってはくれない。


 結局…突き詰めれば、僕の悩みは『金』に辿り着く。


 愛されてはいない…これは事実なんだと思う。

 好かれてはいる…これも事実なのだろう。


 ただ…彼女の中で、僕は金と天秤に計る価値は無いということ。

「ごめんね…」

 彼女にそんな話をすると、彼女はそう言うのだ…。

 僕には、その意味が解らない…。


「愛してあげれないから…ごめんね…」

「仕事休めないから…ごめんね…」


「何に・・・ゴメンなんだい…」

 聞けない自分がいる…。


 普通に逢いたい…それが、そもそも無理な願いなんだ…。

 だから、どこかで冷めている…。

(所詮…金を出さなければ…)

 頭の片隅にシミのように付いた、そんな思いは少しずつ広がっていく…。


「僕は…彼女を愛しているのかな…」

 毎日、毎日、彼女のことを考える。

 朝起きて…仕事中も…寝る直前まで…。


 想いを形に出来るのなら…僕の彼女への想いは、どんな形をして…どんな色をしているのだろう…。


 綺麗じゃないだろう…美しくもないだろう…。

 歪んで…擦れて…輝きもしない…。


 行きたかったよ…桜を見たかった…。

 独りで…散り始めた桜を見つめる。

 誰にも見向きもされない…桜の木。


(何のために咲いたんだい?)

 誰にも見てもらえず…それでも咲くのかい…。

 誰が植えたのか…こんなところに…嫌がらせされたんだよ、オマエ…。


 涙が溢れる…散りかけて、ひっそりと1本だけ弱々しくも華を纏う孤独な桜よ…。

 咲かなくてもいい…なんで咲くんだ?

 木の幹に、そっと触れてみる…違う…本当は蹴ろうとしたんだ…。

 途中で足が止まった…そのまま…僕は、木に触れた…。

(冷たい…)


 けれど…なぜか…彼女の笑顔を思い出す。


 今年も見れなかった…ごめんね…僕には足りない事ばっかりで…。

 ごめんね…傷つけてばっかりで…。


 手を伸ばす勇気すらない…。


 それでも…「来年は行こうね」

 そう言ってくれるのは…なぜ…。





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