偽りと契り

 2週間ぶりに彼女と食事をした。

 正直、両親の借金と、その自覚の無さに呆れて…弁護士事務所に通う日々に嫌気が差している。

 もう…死んでもいい。

 毎日…毎日…そう思う。

 当たりもしない宝くじを毎週買うのは、もしかしたら…そんな軽い気持ちじゃない。

 結果を見てから死ねばいい…そうやって自分を騙しているだけ。


 もし…当たったら?

 彼女と暮らせるのだろうか…あまり自信はない…僕は孤独を引き寄せるようだ。

 今までもそうだったし…きっとこれからも…。

 金で性を提供する彼女にとって…僕はなんなんだろう。

 結局、僕のやっていることは金で彼女を買うことなんだろうか。


 そんなことを考え出すと…暗く沈んだ気持ちになる…。


「大丈夫?」

 2週間ぶりの彼女の笑顔、僕が抱きしめたくなる、僕の想い人。

 客観的に見れば、『風俗嬢と客』。

 いつも思う…今日で最後にしよう…と。


 彼女に頼まれていたサラダとエナジードリンクを渡す。

 隣の市へ出勤ついでの夕食。

 いつものフードコート、彼女に千円渡して彼女はスタバへ向かう…今日はキーコーヒーらしい。

 僕は頼まれた、冷やしうどんと、から揚げ丼のセットを買うために長い列に並ぶ。

「生卵食べれない…けど卵が乗っかったうどんがいい」

「温卵は食べれるの?」

「うん」

(微妙な違いなんだろうな…)

 頼んだうどんはもちろん、から揚げ丼にも温卵は乗っていた…。


「コレ食べていいよ」

 彼女の細い指がから揚げ丼の温卵を指す、気に入らないらしい。

「あのコーヒー店ダメだね…ケーキ食べたかったのに持ち帰りできないんだって、今度、食べに行こうね」

 僕への気遣いなのか…コーヒーは買ってこない…僕はコーヒーが飲めない。

 ラズベリースムージーと紅茶を買ってきた。


「コレ…」

 彼女が鞄から焼きそばを出す。

 ちょこっと食べて僕に渡す。

「コレも…」

 先ほどのコーヒー店で買ったトーストを僕に渡す。

 一くち食べた後に…。

「なんでトーストなんか買ったの?」

 僕が聞くと、ケーキは買えなかったから、なんか食べ物を買ってみたかっただけ、なんだそうだ。

「なんか…今日は、いっぱい喋るし…いっぱい食べるね…楽しいよ」

 彼女が笑う。

(あぁ…そう…こんな場合じゃないのに…)

「このパンも食べて…」

(パンあるのに…トースト買ったんだ…)


「あのさ…部屋の消臭スプレー買いたいんだけど」

(なんか色々と相変わらず買わされるな…)


「何かお探しですか」

 店内をブラブラしていると店員が話しかけてきた。

 デートしているわけじゃないんだ…彼女は出勤途中、手短に済ませたほうがいい。

「あースプレーが欲しいんですけど~」

「ヘアスプレーでしょうか?」

 ここでウロウロしてれば、そうなるだろう…。

「いえ…部屋の消臭スプレーです」

 僕が横やりを入れる。

「あー、こちらです」


「そう言えばいいんだね」

 言葉が足りないというか…主語が無いというか…。

「コレだ…コレ欲しかった」

(アロマじゃん…スプレーじゃないじゃん…)


 いつもこんな感じで店に送る。

 今夜は予約が入ってるから早く来いと言われてるらしい。

「行きたくない…」

 僕の腕にしがみ付く…。

「金に成るんなら行かなきゃだろ…」

 精一杯の強がり…本音は(行かせたくない…ずっと…僕の傍に…)

「ごめんね…」


 彼女は足早に店に向かった…。


『風俗嬢と客の話』…それだけ。

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