名歌誕生の裏側で繰り広げられた……ラブコメだ!これラブコメだ!と言うのが率直な感想でした。
主人公こと定頼が可愛らしい(と言ってしまいますが)魅力に溢れているように、彼とは対象的な女性も魅力的で魅力的で……。彼をこてんぱんにしてくる凛々しい女性、彼のああいうところがいいと言っちゃう「お姉さん」のような女性。キャラクター属性(この作品で言うと歴史がベースだから人物の持つイメージと言った方がいい気がしますが)がメリハリを効かせてえがかれているのが個人的なツボでした。作者様の「キャラクターの描き方」がとても好きです。
それから物語のテンポの良さと人物の掛け合いにくすっとさせられる「可愛らしい」物語だ、とも思いました。定頼がいわゆるヘタレなのも効果的に働いているのでは。愛すべきアホの子、あるいはヘタレはとても可愛い。
大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立
百人一首にも入っている、小式部内侍の和歌です。
どういう状況で詠まれたか……?
小式部内侍は、和泉式部という偉大な歌人を母に持つ女性です。
そこに、藤原公任という偉大な歌人を父に持つ男、藤原定頼が「どうせお母さんに歌作ってもらってんだろう?」みたいなことを言ったのに切り返した、というやつなのですが、この話、それを定頼目線で語っているのです。
これが面白い面白い!
何といっても作者の描く定頼のヘタレっぷりの可愛いこと!
結局は逸話通り小式部内侍にコテンパンにされるのですが、その姿の愛くるしさに、「もう、君は一生負けていなさい」と慰め(?)の言葉をかけたくなります。
しかし、そう思ったのは私だけではないようで……。
作中で定頼の愚痴を聞く人物のリアクションもポイントです。