ジャージ姿の女子高生が競技自転車をかっ飛ばす宅配便カンパニー

女子高生のお仕事もの、とはいえ、全然キャッキャウフフしない。
同じ「競技自転車×10代」でも『弱虫ペダル』の熱さとは違う。
作風も主人公も実に淡々として、何か超然とした印象さえ受ける。

例えて言えばドキュメンタリー映像を観ているようだと思った。
かぶり付きのインタビューもカメラ目線の笑顔も一切ない、
横顔と後ろ姿だけを追って冷徹なナレーションが付くだけの。

主人公、大河は両親の夜逃げにより、従来のお嬢様生活から一転、
自分の学費と生活費を自分で稼がねばならない貧乏暮らしとなり、
静岡の海に浮かぶ架空の人工島でメッセンジャーの仕事に就いた。

陸上部で鍛えた脚力と、スパイクを履くように操る競技自転車。
風を切って加速する「走り屋」視点の描写は躍動的で写実的で、
私は競技自転車に触れたことさえないけれど、引き込まれた。

台詞の少なさとか、登場人物のふてぶてしいくらいの態度とか、
読み手に取っ付きにくい印象を与えかねない要素はあるけれど、
お仕事小説としては異色だからとの食わず嫌いはもったいない。

競技自転車やバイクに詳しい人ならば、差し挟まれる小ネタや、
登場人物と自転車の由来などもわかって、より楽しめるのだろう。
私はわからないから、作中の名詞を検索して元ネタ探しをした。

クールでクレバーな自分を演じ通そうとする元お嬢様の大河が、
憧れの先輩の背中を追い、癖の強い仕事仲間やライバルと出会い、
磨き上げる走りの中で、自分の胸の中に住む本当の自分に気付く。

そのレース、その瞬間の凄まじい熱に、一気に打ちのめされた。