結末(完)
アムさんたちに急かされるまま、うちはその場所に来た。
館の外に広がる、広大な庭。その片隅にある、焼却炉の前。ついてきた全員に言葉はない。
フレッソさんが使いたかったであろう麻袋のせいで、それ以外になにが入っているかわからない。
「中、探ってもいいですか?」
まだ確証のない状態だ。人様の焼却炉を許可なく荒らすのは、さすがにできない。
「……どうぞ」
チェシイさんの承諾を得て、焼却炉に手を突っこむ。土でよごれるとかは気にしていられない。むしろ土があるからこそ、うちがやるしかない。お金持ちにやらせられない。
ゴミをかきわけた先に、2個の丸があった。つかんで、手のひらに乗せて一同に見せる。
「転移石……」
一目だけでなにかわかったのか、アムさんが発した。
「両方使用済み、ですよね?」
念のため聞いたうちに、チェシイさんは点頭した。魔力結晶の関係者だけあって詳しい。
「最初からここにあっただけだろ。事件とは関係ない」
うちがここに来た時点である程度の察しはしていたのか、ロベインさんはまるでかばうかのような言葉を発した。
「どうでしたか、ネルクさん」
誰もが言及をさけているかのような名前を呼ぶ。ほとんどの人がネルクさんに視線を向ける中、ネルクさんとロベインさんだけがうちに向き続けていた。
「この土を捨てる際、焼却炉を見ていますよね? その際、転移石はありましたか?」
ゆっくり言葉を続けても、ネルクさんは言葉を返さなかった。
「転移石が捨てられていようが、気にしない。いちいち覚えるわけがない」
かばい続けるロベインさんが、余計にうちの推論を決定づけるような気がして。
「自宅で転移石を使う人は、そういないんですよね? 家の焼却炉に捨てられることは珍しいのではないですか?」
強気な推論が口を出た。遠い場所から自宅に帰るのに使ったら、この焼却炉に捨てることはある。だとしても、頻度が多いとは思えない。
「時間をハッキリ覚えられるほど、ネルクさんは記憶力がいいみたいですし」
続けられたうちの論破に返せる言葉を失ったのか、ロベインさんは唇をかむだけだった。初めて見せるひるんだロベインさんに、嫌な確信が広がっていく。
「食事中、気になることがあったんです」
ようやく思い出せた、ひっかかる点。
「追加注文に出たネルクさんを、うちが追ったことがあるんです。すぐに扉を開けたのに、ネルクさんは既にどこにもいませんでした」
曲がり角に消えてたとしても、すぐに追ったうちが後ろ姿すらかすめられないなんて。ワゴンを押していたネルクさんは、早く移動できなかったはずだ。
「急いで駆けただけだ」
復活したロベインさんの擁護を前に、うちは首を横に振る。
「駆ける足音は聞こえませんでした。ワゴンには片づけた食器が乗せられていましたが、食器同士がぶつかる音すらありませんでした」
足音なら、じゅうたんで消えたと思える。食器の音はそうはいかない。急いで駆けたのなら、音が鳴るはず。
「部屋を出てすぐに転移石を使って、犯行に及んだ……んじゃないですか?」
それなら、この謎を解明できる。
「返り血はどうした? ネルクにいつ、着替えを準備する隙があった?」
ロベインさんの言葉に、思考がとまった。
証拠は捨てたらいい。その考えで、着替えの所在は放置してきたけど。
犯行に及ぶ前に、着替えが必要になる。ネルクさんはどこで手にした?
「現場近くの部屋に置いた……」
「いつ誰が使うかもわからない部屋に隠すというのか?」
それを言われたら、黙るしかない。使用頻度の少ない部屋を使ったとして、万一がある。用意したはずの着替えが消えていたら、犯行に及べなくなってしまう。慎重を要さないといけない。
だったら、どこに? スカートの中にでも隠した?
チェシイさんたちほど脱ぎ着に時間がかかりそうではないメイド服。まさか、すべてを脱いで犯行に及んだ? 服を着て血は隠せたとして、においは? 肌についた血をそのままに、服は着られない。拭くものがないと、結局成立しない。まさかじゅうたんでこすったわけではあるまい。じゅうたんを盾に、返り血を防いだ? 手頃な大きさのじゅうたんはなさそうだった。じゅうたんを手に会ったら、警戒されて犯行どころではなさそうにも思える。
うちたちのやりとりを、ネルクさんは一切の表情を変えないで見ている。たたえられた微笑の奥で、どんな思考をめぐらせているのか。うちにはわからない。
この推論は間違っている?
追加注文の際に音もなく廊下から消えたのは事実。焼却炉に使用済みの転移石も2個ある。推論の証拠になりうる品がそろっているのに。
……2個?
どうしてここに転移石が2個捨てられているの? 現場から食卓に帰る用の1個だけ捨てられていたらいいのに。
現場に行く際の転移石は、他の証拠と一緒に捨てられたわけではないの?
ネルクさんは、現場に行く際に使った転移石も持ち続けていた? どこに?
ずっと前に組んだままの両手の中? いや、食器を回収したりする際、怪しいものはかすめなかった。
服の中……だとしても、身体検査の際に隠せそうな怪しい場所があったとは聞かない。
口の中、もないよね。ずっと流暢な発話だった。体内には隠していない。
体に隠せる場所は、ない?
体以外に、隠せる場所。現場に行く際の転移石を隠せる場所。
答えはおのずとつながった。
「……ワゴン」
考えつくのは、それしかなかった。
「どこに隠せると言うんだ」
イラつきの言葉を吐いたロベインさん。ワゴンの上には、食器以外のものはなかった。その記憶がこの態度を生んでいるんだ。
「白い布がかけられていましたよね? あのワゴンが、実際は2段だったとしたら」
布に隠された段に、転移石も着替えも隠せる。
「そう……なの?」
真実を求めるように、チェシイさんはネルクさんに視線を送る。ワゴンが何段か、この場の誰も知らないんだ。
「見て、確認いたしますか?」
表情の不変を続けたまま、ネルクさんはゆらりと吐いた。仮面のように固定した表情に、血管が冷えるような感覚に襲われた。
「……お願いします」
ひるみを隠して伝える。ネルクさんは歩き出した。館に来た際と同じ後ろ姿のはずなのに。形を強める確信が、別人のように冷酷に感じさせた。
館の扉を開けて、廊下を歩いて……調理場らしき場所のすぐ近くのスペースから、ネルクさんはワゴンを出した。
念のためにずっとネルクさんを注視していたけど、怪しい動きは一切なかった。他にワゴンも見当たらない。ワゴンすら余計に持たないほどのケチだったのか。
自分の仕事はここで終わりとでも言うように、ネルクさんはワゴンから離れて両手を前で組んだ。
言いだしっぺが調べろって意味か。
ワゴンの布の奥に、どんな結末があるのがいいのかな。
不安と緊張を感じつつ、シミ1つない純白の布を天空にさらう。
瞬間、誰かが息をのむ音が聞こえた。全員だったのかもしれない。うちのだったのかもしれない。
布に隠された最下の段に、血塗れた布があった。
全員の反応を見届けたネルクさんは、逡巡も見せないで布を優しく広げる。
おぞましい鮮血にそまった布は、ネルクさんが今着るそれと同じメイド服だった。
誰もが瞠目する中、ネルクさんはワゴンになにかを置いた。
遠隔操作機器だ。脱いだ服の中に隠していたんだ。
「どう……いう、こと?」
チェシイさんの声は震えていた。信じられない、信じたくない思いしかないんだ。
「皆様が考えておられるままです」
血にそまったメイド服を手にほほえむ姿は、なぜかとてもおぞましく見えた。
「待ってよ、ネルクが!? ウソでしょ!?」
「ネルクがそんなことするなんて思えねぇよ!」
混乱の声を漏らすアムさんとバーデさん。当然の反応だ。推論で導き出したうち自身も、この事実を前に思考がとまりかけているんだから。
「信じたくないなら、ご自由にどうぞ」
やわらかな口調のあと、ロベインさんに視線を送った。
「まだ庇護する心はありますか?」
おだやかなのに、ひどく冷酷に感じる微笑。それを前にロベインさんは、発話機能を失っていた。
「本当に……ネルクさんなんですか?」
最後の質問。
この答えによっては、本当に真実が決定されてしまう。
「すべてが正しいわけではありませんが、そう考えてもよろしいです」
「どうして……こんなことをしたの?」
わなわなと震えるチェシイさんを前に、ネルクさんは血塗れたメイド服を丁寧にたたみ始めた。見とれるほどの手際は変わらないのに、今までとは違って見えて。
「修正もかねて、順序だててお話させていただきますと……」
たたみ終わったメイド服を、ネルクさんはワゴンに優しく乗せた。ぴっしりたたまれたメイド服についた不整合な血が、異質を演出する。
「旦那様とアム様の口論がひどくなってきていたので、利用させてもらうことにしました」
変わらない声音で発せられる言の葉は、するりするりと耳に届いて。
「調理場からナイフを盗んだのは、私です」
その視線が、ゆらりとフレッソさんに動く。
調理場に出入りするネルクさんを見たと話したフレッソさん。その中の1回くらい、バーデさんの『入るな』の怒号が聞こえなかったことがあったんじゃないか。日常と化していたネルクさんの出入りだったからこそ、フレッソさんはその異変に気づけなかったのかもしれない。
「その日が来るまで隠しておこうと、ナイフはお庭に忍ばせました。その際、枝に髪を絡ませてしまって」
ネルクさんは髪を指に絡ませて恨めしげに見つめた。
「ほどけそうになかったので、枝ごとナイフで断ち切らせていただきました。その枝と、結局ほどけなかった髪は焼却炉に隠して、後日焼却処分しました。一部分だけ短くなったのに気づかれるといけないので、すぐに断髪いたしました」
「僕がナイフを見つけて……すぐに髪が短くなってた、気がします」
今思い出したのか、重要ではないと思って話さなかったのか、フレッソさんの恐々とした声が届く。
「ロベイン様の『ナイフを新しくしたい』の命もあったので、私が2振りのナイフを購入いたしました。1本はバーデに、1本はロベイン様にお渡しいたしました」
「盗んだナイフを使った理由は、どうしてですか?」
気になった点はそこだ。盗んだナイフを使ったのに、ナイフの所持者に疑いが向くようなことはなかった。購入した新品を使ったほうが、リスクは少なくなるように思える。
「今回の計画にお金が必要でしたので。人をあざむく練習にもなると思いましたし」
冷酷な言葉とたたえられた笑みが、不気味な不整合を放つ。
「購入した機器で口論を録音させていただきました。旦那様のお部屋の掃除中に、設置いたしました」
今回のためだけに録音機器を買ったのか。それで節約が必要だったんだ。
「昨夜、旦那様のお部屋に礼のお手紙をはさみました。事前準備は終わって、本日になります」
幼子に読み聞かせをするような口調。その口はおぞましい事実を語っているはずなのに、身を恐怖に襲われない。
「ワゴンの中に、着替えと遠隔操作の機器と転移石を隠しました。お客様が訪れる事柄もありましたが、計画には影響を与えないので進めさせていただきました」
『申し訳ありません』とでも言うように、ネルクさんは小さく黙礼した。変わらないメイドとしての態度のせいで、語られる言葉すべてが偽りではとすらよぎってしまう。
「口論後は旦那様は多く、部屋に戻られます。事前のお手紙もあるので、お部屋に戻られるだろうと思われました。あの時間は例のラジオがあるので、アム様は確実にお部屋に戻られます」
アムさんが欠かさずにラジオを聴いているのを、ネルクさんは知っていたんだ。2人は親しい様子だったし、アムさんは唯一ネルクさんにだけ趣味を話したのかな。隠しても、部屋の掃除でラジオの存在を知られるし。
「追加注文の際に食器をワゴンに片づけて、部屋を出ました。旦那様の部屋に転移して、ワゴンに隠していたナイフで犯行に及びました。そのあとにワゴンに隠した服に着替えて、調理場近くに転移して仕事を続けました」
部屋に戻ったネルクさんの腰のリボンの乱れを、ロベインさんは直していた。早く着替えたせいでリボンの形が崩れたんだ。
「証拠をワゴンに隠したのは、どうしてですか?」
捨てられるか、出入りの少ない部屋に隠されたかと話されていた。実際は、焼却炉とワゴン。ワゴンに隠すなんて、見つかったらすぐに疑われそうなのに。
「皆様の話したような破棄ですと、時間がかかってしまいます。ワゴンなら、私以外扱う人もおられません」
自警団の捜査が入ったら、ワゴンといえども調べられそうなのに。その前に処分できる確信があったのかな。
「すべて焼却炉に運べはよかったではないですか」
それなら時間を見て燃やしたら、証拠は消える。どうして転移石だけ焼却炉に破棄したのか、どうもすっきりしない。
「ワゴンで移動する際、転移石がぶつかって音が鳴っていました。食器も乗っていないのに音が鳴ったら、気づかれてしまいます。バーデに空き食器を預けたあと、調理ゴミを捨てるついでに転移石も焼却炉に捨てました」
ネルクさんは血塗れたメイド服に手をそえた。
「服はまだかわいているか確信が持てませんでした。服を抱えて外に出るのは、さすがにリスキーです。服の処分はあとに回すことにしました。転移石と一緒に念のために庭道具も捨てて、目くらましをしました」
両手をまた体の前で組んだネルクさんは、うちたちをまっすぐ見据えた。
「こんなところでしょうか。不備やご質問はありますか?」
日常のように吐かれた言葉は、とても非日常で。犯行の顛末を話していたとは思えないほどだった。
「どうして……こんなことをしたの?」
おびえながら、チェシイさんが声を漏らす。動機。それはまだ話されていなかった。
「殺害の理由なんて、おわかりでしょう?」
ふわりとかたむけられた笑みが語る感情が、かすめとれない。
「怨恨ですよ」
「……家に、恨みがあったのか?」
立ち込める異様な空気を作り出しているのは、他の誰でもないネルクさんだった。双眸が細められて、うっとりと笑う。
「旦那様の自分本位の経営に、私たち家族はまきこまれたんです。両親の会社は旦那様に奪われて、私は家族を永遠に失いました」
その事実を知る人はいなかったのか、誰もが言葉を失った。
「家に唯一残された、両親の会社の証でもある転移石だけが、私のそばにありました。それを使ってトガをしたかっただけです」
たたえられた笑みの中に眠る感情は、最後までわからなかった。
誰もが静寂を続けて、どれだけの時間がたったのか。
それからどうしたのか、よく覚えていない。
いつの間にか館に来た自警団で、朝になったことを知った。
すべての事情を話して、連行されるネルクさんの背中を見ても、どこかすっきりしない思いが抜けなかった。
嫌に冷静で、笑みこそ消えたけど、落胆や憎悪にはそまっていなくて。
「ねぇ……ネルクはどうなってしまうの?」
ネルクさんをつれる自警団員に、チェシイさんはおもむろに声をかけた。
「詳しいことは、こちらで調べてからになります」
振り返ったネルクさんは、見なれた笑顔で黙礼した。今までお世話になりました。そう言うように。
「……ネルク!」
去ろうとしたネルクさんたちをとめたのは、ロベインさんだった。振り向こうともしない背中を前に、言葉は続けられる。
「家は必ず変える! 父上を同じことはくり返さない!」
響いた声に、ネルクさんはゆらりと顔を向けた。
「『殺しておけばよかった』と思える日が来ないことを願っております」
色のない表情で、淡々とした口調で。その言葉を最後にネルクさんは連行されて消えた。
「お前は掃除の『そ』の字すら、知らないのか」
なれすぎた嫌みは、耳を右から左に通り抜ける。
「言いすぎよ。リーネスも努力しているんだもの。あたたかく見守ってあげて」
「努力は身を結ぶ。日々鍛練だ!」
うちとチェシイさんとロベインさんとバーデさんでの食事中も、そんな話がつきない。
「庭の手入れも行き届いていない。お前の目は節穴しかないのか」
「もう……いきなりは覚えられないわよ」
「ロベイン様のチェックの細やかさに驚きです」
うちも負けずと嫌みを返す。当然のごとく、ロベインさんはノーダメージだ。
少し前に凄惨な殺人事件が起きたとは思えないほど、館の中は笑顔があった。あるいは、無理に明るくしているのかもしれない。
事件が終わって、それぞれが考える時間を作った。
フレッソさんはチェシイさんとの関係を断ち切って、けじめをつけて庭師の仕事もやめた。行き先も告げないでどこかに消えてしまった。チェシイさんも思いをくんでか、フレッソさんをとめることもしなかった。
メイドと庭師を失った館。そこで選ばれたのがうちだ。
事件の調査が終わるまで、館の宿泊を許されたうち。『タダ宿も申し訳ないから』と掃除を買って出た。その流れで正式に使用人として雇われた。未経験だから、正直困りはした。『新しい人が見つかるまででいい』とか『生活を記事にしてもいい』とか言われて、受諾してしまった。バーデさんの料理のおいしさも決め手になった。
バーデさんは迷いを見せたけど、ひとまず現状維持を続けるらしい。
アムさんは今まで言えなかった『ラジオDJ』の夢を吐露して、専門学校に通うために日々励んでいる。
チェシイさんとロベインさんは、会社をよくするために激務を続けている。
団欒の食卓の中、ふとよぎるあの事件。
すべてを認めたネルクさんを、自警団は犯人と確定した。
この館のメイドになったのは偶然なのか必然なのか、結局そこだけはわからなかった。
それにしてはひっかかる、数々の点。
現場で録音した口論を流すとして、誰に聞かせるつもりだった? チェシイさんの浮気に気づいていない様子だったネルクさん。フレッソさんに聞かせるためとは考えにくい。奥にあるマヌーさんの部屋に通りかかる人がいるのか、疑問が残る。家族のスケジュールも熟知していそうなネルクさん。口論を聞かせるなら、確実に聞く人がいる場所を選ぶほうがいい。近くを通りかかる人がいないと成立しない工作を、なぜ選んだのか。
聞かせられたとして。鍵がかかっていなかった犯行現場。中をうかがわれたら、マヌーさんの遺体と同時に録音の偽装があっさりバレる。
証拠をもっとわかりにくい場所に隠さなかったのも、疑問の1つ。
他にも、どうしてあっさり犯行を認めて、一切の抵抗もしなかったのか。
まるで最初からつかまえられることを願っていたかのような。
最も気になるのが、動機が怨恨なのに、なぜマヌーさん以外を殺さなかったのか。
自身の家族が奪われた恨みなら、家族全員を殺害しようと思ってもいいはず。なのに、それはなかった。
むしろ犯行内容的に、食卓に来ないマヌーさんを心配する流れで死亡に気づかれる。警戒心の強いロベインさんがいる以上、まとまって行動する流れになるのは安易に予想できたはず。そうなったら、殺しにくくなる。
なのにネルクさんは、この犯行を選んだ。マヌーさん以外を殺せなくなるリスクがあるのに。
あるいはネルクさんは、迷いがあったのかもしれない。この家に来て、気さくなアムさんやおだやかなチェシイさんを前にして、逡巡する思いが生まれたのかもしれない。
迷いと恨みが交錯して。
口論するアムさんとマヌーさん。家族で食事しない姿に、かすかに恨みにかたむいてしまったのかもしれない。
まだ多くの迷いがある中で考えた犯行。多くの荒が出て、結局ネルクさんの犯行だとバレてしまった。
あるいはバレることで、これ以上自分が誰も殺さないようにとめてほしかったのかもしれない。
今となっては、本心はわからない。犯行を認める瞬間も憎悪にゆがまなかった表情が、まるでこの可能性が本当であったかのように思わせてしまう。
もし口論がなかったら、もし仲良く家族で食事をしていたら。
あの事件は発生しなかったのかもしれない。
それがわかっているのか、人のぬくもりを求めているだけか。あれから下働きの人も一緒に食事をするようになった。
こうすることで、もうあんな事件が発生しないように。防げると、信じたい。
ネルクさんが罪を償って社会に出られる日があるなら、この食卓で笑って出迎えたい。
ラジオのネタにできない、某館の事件 崩れた絆の食卓 我闘亜々亜 @GatoAaA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます