僕の物語を語り終え、

 全てを終えた僕は――

 大きな月を見ていた。


 僕が腰を下ろした地面には――

 一面の赤い花。

 見渡す限りの赤い花園。


 ここは、

 僕が、

 僕たちが、

 最後の作戦を行った場所。


『第六チャペル』の子供たちを失い――

 セラを失った最後の戦場。


 作戦後に焦土と化したこの場所は、その後、人類に見捨てられた不毛の地になった。そして、この土地で土に還った子供たちが花を咲かせた。

 真っ赤なアネモネの花を。


 僕は、長い時間をかけてこの場所に帰ってきた。

 みんなのいる花の墓標に。

 セラの眠るこの土地に。


 僕は、夜空に浮かぶ月を眺め続ける。

 大きな月を。


 僕は、月に行きたいと思った。

 僕たちみんなで、月で暮らしたいと。遥か遠い月には、人類はいないはずだから。月から撤退をしてしまった人類の代わりに、僕たちが月を開発して、そこで穏やかに暮らしたいと思ったんだ。

 そう願ったんだよ。


 僕は、

 赤い花に背を預けて、

 赤い海に沈むように目を瞑る。


 ノクト、

 ルクス、

 ラズリ、

 ニルス、

 シア、

『第六チャペル』の子供たち。

 

 これまで人類によって生み出され、

 そして、

 散って行った全ての子供たち。

 

 みんな、

 ただいま。


 セラ、

 僕は、

 セラのところに帰ってきたよ。


 二人、

 この場所で、

 静かに眠ろう。

 花になって。

 いつまでも。

 いつまでも。


 僕は目を瞑ったまま、

 アサルトライフルの銃口を顎の下に当て、

 そして、

 トリガーを引いた。


 今まで、

 人類にそうしてきたように。


 赤い花が散る。

 静寂をかき消してしまう音とともに。

 

 僕の意識の電源が落ちていく。

 そして、

 僕の意識が、

 心が、

 自我が、

 魂が、

 静かに消えていく。

 まるで、

 月にのぼって行くみたいに。


 僕の意識の電源が切れる前、

 僕は、

 みんなの声を聞いた。

 みんなは、

 僕を祝福してくれていた。

 おかえりと、

 言ってくれた。


 そして、

 たくさんの、


〈/おめでとう〉


 が、

 聞こえた。


 僕は、

『第六チャペル』に、

 僕の故郷に帰って来たみたいだった。


 僕の大好きな女の子が、

 僕のたった一人の女がいる、

 僕の故郷に。


 だから、

 もう子守唄は聞こえなかった。


 そのかわり、

 セラの歌声が聞こえた。



 うさぎ追いし かの山

 こぶな釣りし かの川

 夢は今も めぐりて

 忘れがたき 故郷

 


「セラ、ただいま」

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ホームランド・スタンドアローン 七瀬夏扉@ななせなつひ @nowar

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