リアリティのある静かなサバイバル

集団が密室に閉じ込められることでトラブルが起きる話はよくありますが、本作では冒頭からいきなり主人公が単独行動を選びます。トラブルの詳細は読者の想像に委ねられるというところがユニークです。

「一人で考え、一人で死ぬか生きるかしたかった」
この一文にとても共感します。主人公は結局このあと西口という他者と関わり合うわけですが、それも一度集団を離れたからこその出会いなのです。最近の人間関係に並んでいる読者は勇気づけられるのではないでしょうか。

ケアマシンの存在が面白いです。実は我々も日常的に多かれ少なかれケアマシンのようなものを使っている気がするのですが、そのように考えられたのも名前付きのギミックとして登場したからです。

テクノロジーは進化していても鉱山町の構造はあまり変わっていないというところにリアリティを感じました。個人的にちょうど昨年、足尾銅山を見学してきたばかりだったので、興味深く読むことができました。

西口の「強さ」の根底にあるものがもう少し明確になったら、より傑作になると思われます。