11 ささやかなる陽だまり

待ちに待って、ようやく来たメールは



〈えっと、埼玉住みの理系大学生だよ~


 趣味は読書で、色々読むけどホラーとサスペンスはあまり読まないな

怖いの苦手なんだ(汗)

他にも漫画とかゲームも好きだよ


 ゆったりメールできるといいよね

仲良くしてね〉



というものであった。


…なんだろう。


なんだかすごく引き込まれる文章だな、と思った。

砕けた文体のなかにも独特さと他人を気遣う優しい印象が漂う。

メール一通でここまで心を動かされることは今まであっただろうか。


名前も知らない、ほとんど何も知らないかれに惹かれたわたしは、あわただしく左手の親指を動かす。



〈メールありがとうございます!

 私も埼玉ですよ(#^.^#)

 理系とかかっこいいですね☆彡

 こちらこそ仲良くしましょう!!!

 読書か~

 最近あんまり読んでないけど、私は普段は恋愛小説とか音楽ものを読みますよー

 なんかおすすめの本とかありますか(・・?)  〉

 

 

 送信して、また数分後に返信があり、

 

 〈そんなことないよ、普通だよ~

  大学では数学の勉強を主にやってるね

  本は○○○○さんのが読みやすくてオススメかな〉

 

 

―――

 

 そうして、わたしたちのみじかい文章のやり取りはどんどん続いていった。

 

 メールのなかで、かれは自らを“学(まなぶ)”と名乗った。

 ちなみに、わたしは名前そのまま“なずな”で名乗った。

 当時のわたしは、ハンドルネームだとか本名でない名前を名乗るだとか、そういった概念が無かったので、何も考えず学さん、学さん、と呼んでいた。

 

 そんな学さんは、火曜から木曜は夕方から塾講師のバイトがあるらしく、わたしも水曜と木曜は夜から塾で、なおかつ部活が毎日あったので、お互いの都合のいい時間帯に気ままにメールを返すという、縛りは無いけれど充実していてとても楽しいひとときであった。

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