桃太郎が俺TUEEEEEしたらどうなるのかわかるでしょ?

ちびまるフォイ

ノンストレスエスカレーター桃太郎

おばあさんが川でおじいさんを流していると、川の上流から大きな桃が流れてきました。


「おお、これはなんて大きなものでしょう。家に持って帰って食べましょう」


おじいさんとおばあさんは桃を割ると中から男の子が出てきました。

男の子は前世の記憶がある俺TUEEEEEE系主人公でした。


「やれやれ、しょうがない世界を救ってやるか。ふっ……」


「まあ! なんて頼もしい男の子でしょう!」


「わしが若ければ鬼を倒すんじゃが……」


「任せてください。俺TUEEEEんで」


「「 頼むぞ桃太郎! 」」


桃太郎は鬼ヶ島に何かしらの移動魔法をさっさと使って本拠地に到着しました。


「き、貴様!? いったいどこからやってきた!?」


「俺は前世の記憶があるスーパー主人公。さぁ覚悟しろ!」


桃太郎は主人公補正まる出しで敵をばっさばっさと薙ぎ払う。

鬼たちは一網打尽にされてしまいました。


金銀財宝とあと美人の鬼を連れ帰った桃太郎は一気に村のヒーロー。


「おお! 桃太郎! さすが私の桃太郎ね!」


「わしがもっと若ければのぅ」


「ははは。おじいさん、おばあさん。これで村は平和ですよ」


「「「「 キャーー桃太郎さん素敵――! 」」」


桃太郎マンセーな空気感に包まれた村で桃太郎はいい気分。

こうして、いつまでもどこまでも幸せに暮らしました。




――いつまでも。



――どこまでも。



「……これ、いつまで続くんだろう……」


生後数か月で鬼ヶ島を倒してしまった村は平和そのもの。

刺激を求めて桃太郎は悪さをしても、みんな許してしまう。


「桃太郎さんはこの村の英雄です。治外法権ですよ!」


桃太郎はなんの罪にもとらわれず自由という名の退屈の牢獄に閉じ込められました。

だんだんと自分の力を示すこともなくなり、桃太郎はふさぎ込んでいきました。


「おじいさん、桃太郎が退屈で悩んでいるみたいです」


「わしがもっと若ければのぅ……」


やがておじいさんとおばあさんが部屋を訪れると桃太郎は足をつってしんでいました。


「も、桃太郎!!?」

「わしがもっと若ければァ!!」




そして、おばあさんが川で洗濯機を流していると、川の上流が桃が流れてきました。


「なんて大きな桃……はっ! デジャブ!!」


おばあさんとおじいさんは桃を割ると中から見覚えのある男の子が生まれました。


「も、戻ってきてしまった……」


生まれてきたのは桃太郎でした。

死んでもなおこの世界から逃れることはできませんでした。


「桃太郎、どうして生まれたというのに世界に絶望しているの?」


「この世界にはもうエンターテイメントが残ってないじゃないか!

 同じ風景、同じ人間、同じ恋愛……ここには冒険なんて何もない!」


「わしが若ければのぅ……」


「それもういいわ!!」


桃太郎はもうこの捕らわれの輪廻転生に限界を感じていた。

俺TUEEEEEEとは努力を奪い、達成感をことごとく失うものだと気付くには遅すぎた。


「俺TUEEEEは、こんなにも孤独とは……」


そして、桃太郎は平和で退屈な日常を過ごしましたとさ。






そのとき、桃を食べて若返ったおじいさんが立ち上がった。


「フフフ、この桃に若返り効果があるとはな……!」


「おっ、おじいさん!?」


「わしはかつて俺TUEEEEでこの世界を平和にした英雄。

 さぁ、桃太郎よ。この世界をさらに平和にされたくなければどうする?」


「俺は……この世界を救う!!」


桃太郎は初めて出会った好敵手を前に心がおどった。

激しいバトルの末に手にした勝利は、これまでのなによりも尊い経験だったとさ。

めでたしめでたし。

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