物は言いよう。
糸乃 空
一話完結 そうか、とだよね。
遠くに居る弟から珍しく連絡があり、一緒にご飯でも食べようと海鮮居酒屋で待ち合わせをした。
身長153㌢代の私と182㌢の弟では体格差もあるけれど、仲良く子供時代を過ごしてきた弟の顔を見るのは素直に嬉しい。
小さい頃は、本気の取っ組み合いもあったけど(むろん私の勝利)
中生で乾杯し、お互いの近況を語り合う。
そこで間もなく、弟の職場の話を聞くことになった。
「とにかくさー、ずっとしゃべってるわけ。それ今必要ないじゃんみたいなこと。そんで手元がお留守なわけ。加えて音量もデカいから気になる訳よ」
私はジョッキから、琥珀色の液体をグイッと喉へ流し込む。
「まんま言えばいいじゃん」
「言えるわけねーじゃん、一応先輩だし」
「じゃ、言い方変えてみれば」
「言い方?」
「んー、静かにしてもらえませんか?みたいな」
「ちょっと感じ悪くね?上から目線感じるし」
「だよね」
「じゃあ、ほんの少しボリュームを下げて頂けると助かります、みたいなの」
「おー、それはなかなかいいな」
………………………
そこから、私達の謎な丁寧語変換大会が始まった。
「こいつ馬鹿じゃねーの」
↓
「このお方、お馬様とお鹿様が合体されている」
「うっせーんだよ!」
↓
「賑やかさが最大値を超えました」
「マジいい加減にしろって」
↓
「本気でさじ加減を考えてくれ」
「このくっそたれが、今すぐ出て行かねえとぶっ殺すぞ!」
↓
「お糞様、これより外へご移動されませんと、そのお首をキュッとお締めさせていただきます」
まだまだありますが、くだらない上に見苦しさもあるのでこの辺で。
………………………
途中、弟がくるりと話題を変える。
「彼氏とか今どうなの」
「あーそれはあれだ、悟(弟仮名)の親代わりしてる今、そんな暇は無いんだって」
「物は言いようだよな」
そう言い放ち、にやっと笑った弟の横顔が憎たらしかった。
物は言いよう。 糸乃 空 @itono-sora
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