物語に入れる魔法の本が、ゲームも、そしてこの世界も変化させる。

遺産暮らしのフリーター・沢野井誠が、異世界にワープして冒険するというのが表面的な要約だ。
とすればこれは異世界ものではないのか。ここに本作独特の立ち位置がある。

陳腐化した異世界ファンタジーにおいては主人公がワープすることは前提であって改めて論ずべきものではない。しかし本作では、近所の古書店で「物語の中に自由に入れる本」を手に入れたのがきっかけとなる。

このことで誠は様々なゲーム世界に入れるようになる。それは一見すると普通のMMORPGものの作品と同じようである。
しかし、ここで潜入している物語は、リアルなMMORPGの仕組みによって支えられているのではなく、ゲームであるにもかかわらず純然たる別世界であり、現実と等価値である。その証拠に、誠がゲーム内で手に入れたスキルは、元の世界に戻ったあとも使用することができる。しかも、本の能力はゲームに入ることではなく「物語」に入ること。それゆえ、未知の物語に誠は迷い込むことにもなるのだが……。

まさに一歩先の現世を軸に異世界ものを読み替えた"現代ファンタジー"だ。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

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