お姉ちゃんへ
@marine8
これからも続くあなたへの手紙
またあなたの季節がやってきました。今日は2月21日ですね。あなたの21回目の誕生日。おめでとう。バイト先で一緒の大田さんっていう女性があなたと同い年です。あなたは今頃、こんな風なのだろうなあと昨日、彼女と会ったときにまじまじと見つめてしまいました。
東京では梅が咲いて、花粉のにおいがして、花粉症の慶一郎は隣で文句をこぼしています。お母さんも弟も花粉症ですし、あなたもきっとそうなのでしょう。仙台ではまだまだ梅が咲きそうにはないのでしょうが、梅のこの時期、小さいころからいつも、あなたのことを考えてしまいます。あなたの生まれたばかりの写真を思い出す。お母さんに似て、目鼻立ちのはっきりしたあなたの写真。お母さんは今でも大切に手元においていますよ。この時期あの人はいつも、どこかを眺めてぼんやりします。上の空のことが多い。私があの人に、「そろそろお姉ちゃんの誕生日だね」と声をかけると、涙ぐむことも今では少なくなりました。
私はいつも、この季節あなたのことを思って泣いてしまいます。会いたかったのです。一度でいいからあなたに会ってみたかった。いくらなんでも、いなくなるのが早すぎます。たったの1週間だけ、お母さんの前に姿を現したのでは、あの人がかわいそうだ。
あなたは私の想像の世界にしか生きていません。あなたがどんなふうだろうと想像するとき、いつも温かい気持ちになります。きっと私と弟に似ていて、背が高くて、すらっとしていて、お母さんに似て美人さんで、そして優しいのだろうと思います。
何度も何度も、あなたが出てくる夢を見たことがあります。夢の中であなたは、いつも優しい。そして窓際でゆっくりと本を読みながら、私に向かって「おかえり」と声をかけてくるのです。また、わたしが愚痴などをこぼしたときには、優しく慰めてくれます。
いつまでたっても私はあなたを追い越せないのだと、私とあなたの誕生日が来るたびに思います。そして私はいつまでたってもあなたを追い越したくない。夢の中でもいいから、私を慰めて微笑んでいてくれる存在であってほしい。私にはない優しさ、寛大さをあなたが独り占めしているのだと思いたいのです。
町を歩く人の中に、あなたがいたりしないかと探してみることがあります。もちろんあなたがどんな格好で居るのかはわかりませんが、似たような人を見つけては、この人ではないのだと打ちひしがれます。
もう会えない家族へ向けた歌に耳を傾けては涙を流すことがあります。あなたにふれてみたいとそういう時は強く思って、それでもどうしようもないから、もっと涙が流れて行ってしまいます。
私に2年前、恋人ができました。その人が慶一郎です。その時に思いました。私はあなたも楽しむはずだった人生を楽しんでいる。青春をあなたの分まで謳歌しようと。あなたの分まで愛されて、あなたの分まで彼を愛そうと思いました。彼にはあなたの話をしました。彼にもあなたのような存在の、お兄さんがいるようです。お兄さんとあなたは、もしかしたらそちら側で結ばれているのでしょうか。そうだったらいいと切に願います。
あなたがいたら、をたくさんたくさん、何度も何度も考えて、うれしくなって切なくなっています。あなたが実はどこかにいる気がしてならないのです。ですからこうやって、あなたの目に触れるかもしれないと思って、このような拙いものを書いています。
いつかどこかで会えたら。由布佳より。
お姉ちゃんへ @marine8
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