第234話 最後の戦士、ブラックオパール

「だいじょーぶ、サトルときららちゃんは脳震盪を起こしてるだけでし。


ですが…6時間の安静が必要でし」


と白衣姿の医療天使ラファエルの一言で聡介とアレクシスは安堵のため息をついた。


ここは聡介の遠縁の叔父であるスイス銀行頭取、ゲオルグの別荘の医務室。


診療ベッドに並んで寝かせられた悟ときららは点滴に繋がれ気を失って眠っている。


「まったくフラウ・イリスの力があれだけ強大なものとは…


コンマ1秒アレクシスが来てバリアを張るのが遅れていたら確実に脳に損傷を与えてましたでしよ、


それにしても今夜のレストランの予約キャンセルしなきゃならないのが残念でし…」


と残念そうに肩を落とすラファエルの言葉に聡介はブチ切れて彼の白衣の襟首をつかみ、


「おうおう、ラファさんよぉ〜てめー患者の容体より本場のチーズフォンデュが大事なんかい⁉︎」


と壁際に押し付けながらへらへら笑った。


が、その眼は冷たい怒りを宿している。


「ぎゃぴいいい!!そーすけ、セーブセーブ!やってる事が医者じゃなくてゴロツキでしぃ!」


「るせえ!俺は今、心なき人外の空気読まぬ発言に、猛烈にムカついている!!」


るーちゃん助けて!とラファエルは目線でルシフェルに助けを求めたが、


「うん、今のは完全に君が悪い」


とジーンズにセーター姿の見た目永遠の16才少年天使に完ムシされた。


別荘の主ゲオルグは目の前で起こっているいくつもの予想外に頭が追いつかず、


「とにかく聡介くん、今は落ち着きなさい!」と宥めることしかできない。


よりによって患者の前で医師vs医師の見苦しいケンカの事態を目の前に、


「あのう、私の力でお二人を受傷以前の状態に戻すことが出来ますが」


と挙手したのはアレクシス。


「どーやって?」


興味を持った聡介はそこでやっとラファエルから手を離し、


ずりずりと床にへたり込んだラファエルも咳き込みながらアレクシスを見上げるり


「なあに、お二人の治癒力を活性化するだけですよ。ここは私におまかせを」


と余裕の笑みを浮かべたアレクシスは悟ときららの間に立ち、


おもむろに両腕を掲げてみせると彼の両手のひらから緑色の光が放たれ、それはビーチバレーボール大の球形にまで膨らんだ。


そして手のひらを裏返したアレクシスは出来た光の球をぱかっ、とカプセルを被せるように患者の頭部に被せると己が力を球の中に込める…


その間役二、三分。


意識のなかった悟ときららの血色がみるみる良くなり、二人同時に目を開いて午睡から醒めたかのようなすっきりした顔で起き上がった。


「あれ?僕たちどうなったの?さっきフラウが何か叫んだところまでは覚えてるんだけど…」


「ってーか、何ですかぁ?この鼻の綿。ふんっ!なんだかお腹空いちゃった」


と何事もなかったかのように目覚めた「元」患者たちの間でアレクシスは、


「ま、これぐらいのことなら出来ます」


と謙虚に笑ってみせてから壁際のソファーに座った。


「凄い…鼻血も止まってるしなんの後遺症も無い」


検査用黒眼鏡を掛けた聡介が仲間二人の体を透視し、「いたって健康体」と診断すると


「…えー、細かい説明はあとでするから。勝沼ときららちゃんはふらつきがなければそっと起き上がってよし」


と宣言した背後で…


「面白い」


とにたり、と笑いながらるーちゃんことルシフェルは紅い目を光らせアレクシスの横に座った。


「うわあアレクちゃんって頼もしいなぁ、


これから『あなたたち』正プラトンの嘆きが敵対している蔡玄淵たちとの戦い激化しそーなんで、


アレクちゃん最後の『仲間』に決ーまり!」


それはたった一瞬の出来事だった。


ルシフェルの指先がアレクシスの結婚指輪に触れた途端、


黒い閃光!


視界がほんのり黒くなったな、え、ゴーグル⁉︎


としか思ってないアレクシス本人を取り巻くシルバー聡介、ブルー勝沼、きららホワイト、withラファエル&ゲオルグ叔父さんは確かに見た。


さっきまでスーツ姿のアレクシスが艶やかな黒地全体にソロモンの印である銀色の五芒星が隠し刺繍され、さらに金色のライオンが刺繍された黒のローブを肩に掛けたパワースーツを身を包んだヒーローに変身させられたのを!


「ふふふ、最後の戦士ブラックオパール!いまここに誕生!あ、急ぎなんでエレメント『盾』入れとくね」


ルシフェルは手のひらの中の何もない空間から出現させたのは


中世の騎士の盾の形状をした黒い宝石。それをブラックオパールの胸の中に押し込むと、


「はーい、戦隊たちほ頼もしきサポーター、ブラックオパールいっちょ上がりー。


後の細かいことは先輩である君たちが教えといてね!」


とだけ言ってルシフェルは「これからパパママ(小角とウズメ)と鍋パーティーだから!」と言って瞬間移動で消えてしまった


「あ、あの…ルシフェルどのは私に一体何を?今の私、どんな格好してるのですか?」


と混乱するアレクシスに向かって聡介は診察机にあったスタンドミラーを掲げて見せ、


「おめでとう、と言うかお気の毒というか…まずは現実を直視して欲しい」


と言うしかなかった。


数秒後、


「Oh, Nein!(なんてこった!!)」


とヘルメットごしに頭を抱えたアレクシスの悲鳴が診療室内に響き渡ったのは言うまでもない。


「では、ブラックオパール爆誕記念とブルーとホワイト回復記念で予約どおりレストランでチーズフォンデュでしね!」


とこの状況下でも無責任な旅人の天使、ラファエルは己を曲げないのであった。






































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電波戦隊スイハンジャー 白浜維詠 @iyo-sirahama

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