本当は怖いスシのネタ。

冬春夏秋(とはるなつき)

「ねえ先輩。いったい“何”を食べてると思います?」


「安物のイクラって、イクラじゃないらしいですよ、先輩」


「今まさにソレの軍艦食べてる奴に言われたくないな」


「まあまあ。材料はサラダ油とイクラ味のエキスで、本物のイクラそっくりなんですよ。見た目も味も。ほとんど見分けがつかないんです」


「なんだそれ。魚の卵どころか魚類由来でもないじゃないか」


「ですよー。見分け方は二つあって。イクラは魚卵なので動物性たんぱく質。なのでお湯につけると白くなるんですよ。人工イクラはサラダ油なので白くならない、と」


「イクラを茹でるとは」


「はい。ナンセンスです」


「なるほどなぁ。それで今、お前は先輩の食欲を減退させつつイクラ軍艦を食っている、と」


「はい。イクラ美味しいです先輩! 安心してください。出回ったのはずいぶん前で、今はきちんと大量確保ゆえに安価での提供を確立できている、本物のイクラです」


「そりゃあ良かった。あ、ネギトロください」


「私もください。あ、ネギトロと言えばですね、先輩。こういうお話があるんですが」


「お前マジか」


「えへへ。本物のネギトロってワリと希少部位なので本来は高級品なんですよー」


「つまりイクラだけでは飽き足らずネギトロでさえ代替品が」


「はい。マグロの赤身を叩いて、そこにサラダ油を適量投入」


「なんかもうサラダ油万能だな」


「なんとびっくり。これも本物と見た目も味も変わらない。あーネギトロ美味しい!」


「考案者には頭が下がるな。何よりお前と違って悪意が無い」


「なんですか先輩、ひっどーい! 私は先輩に食の真実をですね……」


「真実よりも現実の方が大事だっつの。それより食い終わったんなら、おあいそだな」


「あ、先輩。おあいそって本来はお寿司屋さんが」


「知ってるよ。『客が帰るから良くしろ』って符丁だろ。こんな話を寿司屋でした後輩に言ってるの。ほら、愛想良くしなさい」


「美味しかったです! 先輩、ゴチです♡」


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本当は怖いスシのネタ。 冬春夏秋(とはるなつき) @natsukitoharu

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