第39話 サトウばかり
今日はケイちゃんのバイト先で快気祝いや養子縁組の報告とお祝いをすべく、みんなが集まっていた。
主役のはずのオーナーとケイちゃんは朝から忙しそうに仕込みをしている。こういう時に何も力になれないっていうか、ただのお邪魔虫なんて申し訳ない気分になる。
なのにケイちゃんは楽しそうに「ココはいてくれるだけでいいから」なんてあまあまな言葉を耳元でささやく。
今の絶対にオーナーの前でわざと私をからかってるんだ!
真っ赤な顔で耳を押さえる私にケイちゃんはクククッと笑ってるし、オーナーは「仲いいっていいねぇ。これからもケイを頼むよ!」って 冷やかしの言葉を向ける。
仲いいって言うか…って言うか…ソウデスネ。イインデスヨネ。ハイ。
翔くんは前に話していた彼女を連れてきていた。
「今は式場巡りで忙しいんだ。」
少し照れている翔くんが新鮮。
「私はどこでもいいんだけど、翔くんが迷っちゃって驚き。」
ふわっと笑う彼女さんが可愛い。
「いっそハワイでみんなもバカンスしちゃうってのもいいかなとか思ったりなぁ。」
「いいね!楽しそう!」
それにしても式場を迷ってるなんて幸せな悩み。私も二人の幸せオーラ浴びておかなきゃ。
黙ってたルーくんが挑戦的な文言を口にした。
「俺も翔の結婚式までに心愛に負けないくらいの奴を連れてくから。」
「奴って…女の子だよね?」
「瑠羽斗は男友達を連れてくのが精一杯!」
翔くんが肩に腕を回してじゃれついてる。
「うっせー!兄弟の結婚式に友達連れてく奴がいるか!あほか!」
「ルーが女装すればいい。」
「おやじまで!うっせー!」
おじさんの修一さんまで加わるとその場は大騒ぎだ。
修一さん…。だからルーくんが男の人と結婚してもいいんでしょうか…。
そんな3人を横目に桜さんは涼しい顔。
「フフフッ今日も賑やかね。」
桜さんくらい寛大じゃないと男ばかりの元気な家族ってやっていけないのかもね…。
「心愛ちゃん!インフルエンザ大変だったね!」
桜さん一家との話がひと段落すると優ちゃんに抱きしめられて、ウルッときちゃいそうになる。
「優ちゃーん!ありがとう。いっぱい、いっぱい話したいことあるんだよー!」
「うん。知ってる。彼氏おめでとっ!」
「ゆ、優ちゃん!」
こっそり耳打ちされても「彼氏」っていうのは、なんか慣れない。…いえ。彼氏……なんですよね?
「でね。私もね…。」
「え?私も?」
「えー。本日はお集まりいただき…。」
優ちゃんの言葉に驚いているとオーナーと、パパが前で話し始めた。
私もって…もしかして…。優ちゃんの隣には恥ずかしそうな顔を私に向けている大智くんが立っていた。
そういう…ことだよね?私は意外なような複雑な気持ちで二人を見ると優ちゃんはニコニコしてて、大智くんが恥ずかしそうにしてるのが印象的だ。
なんとなく、大丈夫そうかも。フフッ。さすが優ちゃん。
そんな考えに達すると安心して、私は司会進行しているパパ達の方を注目した。
「えーそういうわけで。私たち喜一と愛子の息子になる予定でしたが、一旦は浩太(オーナー)に佳喜(よしき)を託すことにしました。」
ケイちゃんをよしきと呼んでも誰も疑問に思わないらしい。知らなかったのって私だけなのかな。でもルーくんは少し不服そうな顔をしてるから知らなかったのかもしれない。
「しかし本当にちょっとの間だけだよなぁ。」
少し寂しそうにオーナーがそういうとパパが「心愛もこっちにいらっしゃい」と呼ぶ。
パパにケイちゃんの隣に立たされてちょっと恥ずかしい。隣に来た私を見てケイちゃんは微笑んでる。
「ついでだし、めでたいことだから、報告しておきす。佳喜と心愛の婚約も。」
こんやく…こんにゃくじゃなくて?驚いた顔でケイちゃんを見るとケイちゃんからも「クソジジイ…」と私にしか聞き取れない小さな声が聞こえた。
「ほら。ケイ。何か話して。」
オーナーに促されてケイちゃんが口を開く。
「…ということらしいので心愛共々これからもよろしく。」
不意に私を抱き寄せたケイちゃんが腰を折って私の顔を覗き込んだ。
え?と思う間もなく優しく唇が触れる。めまいがするほど甘くて長い気がして、盛大な拍手に紛れたルーくんの「わざわざ見せつけんな!」って声が遠くで聞こえた。そして拍手に負けないくらい盛大な「おめでとう!」の声。
クラクラしてふらつく私を支えるケイちゃんがクククッと笑って耳元でささやいた。
「プロポーズちゃんとするから。」
え?え?プロ…え?
「順序めちゃくちゃとか…。ま、俺達らしいか。」
おめでとうと拍手に埋もれて、かすかにそう聞こえたケイちゃんは私に優しい微笑みを向けていた。
発表や報告が終わると会食が始まった。みんなが自由に話せるように立食パーティーだ。美味しい料理を堪能する。
「だいたいお兄ちゃんって言ってたのに詐欺だろ!詐欺!しかも母さんまで…。」
やっぱり知らなかったよね…。ルーくん。
「あら。私は喜一さんの『秘蔵っ子』としか言ってないわ。」
クスクス笑う桜さんに私まで呆気に取られた。桜さん…知ってたんですね。さすがです。
たくさん話して少し疲れてしまった。みんなが楽しそうなのを少し離れたところから見て「幸せだなぁ」って余韻に浸る。
「主役がこんなとこで何してるんだよ。」
「ケイちゃん!」
「食べ過ぎた?」
アハハッと笑うケイちゃん。鋭い目つきはどこへやら…目がとろけて無くなってないかな。変な心配をしてしまうほどに目尻が下がりっぱなしだ。
「ケイちゃんこそ今日の主役でしょ?」
大智くんと話したりオーナー夫婦と話したりケイちゃんも忙しそうだった。誰と話してても幸せそうで、そんなケイちゃんを見てるだけでも幸せな気分になれた。
「もういいの。ココ不足!」
腕を回されてギュッとされる。みんながいるのに!と思うのに不思議と誰も見ていない。それでも顔は赤くなる。ケイちゃん本当に恥ずかしがり屋だったのかな…。
「そういえばココを向こうにも連れて行かなきゃな。」
「向こう?」
「あぁ。俺が高校まで育った施設。」
「ねぇ。もしかして…そこも佐藤さんばっかり?」
「ハハッ。全員ではないけど確かに多いかもな。」
「やっぱり…。」
「なんで?」
「ううん。なんとなく。」
佐藤って名字が嫌だって思った時もあった。なんて平凡でありきたりで…って。
でも今は多めの佐藤さんに囲まれて、私の周りはとても賑やかで、とっても幸せです。
サトウ多めはあまあまデス 嵩戸はゆ @Takato_hayu
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