第38話 誤解の先は

 う…。不覚。しかもそのケイちゃんの笑顔にときめくとかますますの不覚。

「寝てる人に勝手にするココより俺のが良心的。」

「寝てる人に……って、あー!!!」

「何?」

 悪戯っぽい瞳と目があった。

 顔が真っ赤になっているのは分かってるけど、そんなの構ってられない。

 昨日…あの時…起きて…起きて…!

「何って寝てなかったんじゃない。寝てる人に勝手にじゃない!」

 ムキになればなるほどケイちゃんはクククッと憎たらしく笑う。

「慣れてる人は平気なんでしょうけど!」

 ぷりぷりしてベッドから起き上がる。

 ベッドに一緒にいるからいけないんだ。もう同じベッドになんて入らないんだからね!

 そう思っていたのに、グイッと腕を引かれて見事にベッドに引き戻された。

「心外だなぁ。俺の初めてはココに奪われたのに…。」

「ちょっと待って!言い方!!」

「だってそうだろ?いたいけな少年だった俺の唇を奪ったのはココなんだから。」

 そう言われちゃったら、そうなんだけどさ。

「それに。今日もまだインフルエンザの関係で外出禁止なんだから、恋人らしい雰囲気で過ごしたっていいんじゃない?」

 コイビト…こいびと…恋人?

 破壊力絶大な言葉に顔が熱くなる。やっぱりベッドから出なきゃ!

 それにしても…雨の度に誰かの温もりを感じながら寝てたのかな…。そんな想像をすると胸がチクッと痛んだ。

「だいたい俺にどういうイメージ持ってるの知らないけど、俺ココだけだから。」

「………へ?」

「優しくしてね。」

「な…。」

 なーにを言っちゃってるんだか。ケイちゃんが遊び人じゃなかったら、世の中の人はどうなっちゃうんだか。

「そんなこと言って、雨の度に誰かの胸の中で眠ってたんでしょ?」

 呆れた声を出してベッドから立ち上がる。すると急に背後から抱きしめられて…。

「痛ったーい!」

 また首すじに噛みつかれた!!

「そんなわけないだろ。俺はココだけって言ってるだろ。」

 怒った声のケイちゃんにドギマギする。怒ってまで嘘つかなくてもいいのに。

「だってあんな真っ青な顔してて誰もいなくてどうしてたの?雨の度にあぁじゃ…。」

 ったく…って声とともに、ベッドに押し戻されるとケイちゃんの胸に私の手を当てられた。またドキドキと早い鼓動を確認させられる。

 そのまま不服そうな顔でケイちゃんは口を開いた。

「愛子さんが亡くなって、他に大切だって思える奴が今までいるわけがない。だから…ココだけだ。失うものが無ければ怯える必要もない。」

 胸に当てていた手を愛おしそうに取られ、指先にキスされた。

 ものすごく嬉しい言葉なんだけど、真正面から信じていいのか分からないよ…。

 だってその色気だだ漏れな感じ。どう受けとればいいんでしょうか。

 まだ信じてないのが伝わったのか、はぁってため息が聞こえて、頬をそっと撫でられた。

 その色っぽい触り方にドキンとして、だから慣れてるでしょ!と怒りたい気持ちになる。

「ほら。これでもか?」

「え?」

 言われて撫でられた手を見ると……震えてる?

「うそ…。」

「こんなダッセーの嘘なわけあるか。」

 ギュッと握りこぶしを作るケイちゃんが何故だかすごく愛おしく思えて、その握りこぶしにそっと頬を寄せた。

「ゴメン…。信じてなくて。」

 そっと開いた手の平が頬を包む。

「やっと分かったか。大事なお姫様。」

 そのまま優しくキスされた。大切な宝物を扱うようなケイちゃんの優しさにくすぐったくなった。


 でもさ。遊び人ってわけじゃないってのは分かったんだけど、やっぱりお色気だだ漏れなのは事実で…。

 じゃこれって生まれながらにしてってこと!?それはそれで末恐ろしいんだけど!

『恋人らしい雰囲気で過ごしたっていいんじゃない?』って言葉が何度も頭の中を巡る。

 ここベッドの上ですし、とりあえずベッドから出ませんかね。ケイちゃん?

「ココって…誘ってる?」

「え…なっ…。」

「だってキスするとスゲー可愛い顔する。」

 そう言って自然にチュッってキスをして「ほら」って。

 ほらって。…いや。今のケイちゃんの笑顔の方がよっぽど…。っていうか誘ってる?って何を!

 だいたい。ナチュラルにチューしないでよー!

 ドギマギしてると頬に手を添えられて、またケイちゃんの顔が…。近づいて…近づいて…近づいて…。

「おーい!帰ったぞー!心愛!佳喜!」

 パパの大きな声がして、ドタドタと階段を駆け上がる音がする。

 まずい…こんなとこ見られたら…。

 そう思うのにケイちゃんは腕を引いて抱きしめてきた。

 なんでー!?

「おー。帰ったぞ…って。なんで佳喜の部屋に…。」

 だからケイちゃん…。

「まだインフルエンザの外出禁止期間ですし、部屋に入らないで下さい。それに…邪魔、しないで下さいね。」

 な、何を言っちゃって…。

「そうか。そうか。孫の顔が見られるのも早いかもな。ワッハッハ。」

 パパは豪快に笑うと降りて行って、しかも家を出て行ったような音がした。

「これで邪魔者はいなくなったな。しかも公認だ。」

 ニッコリ笑ったケイちゃんが悪魔に見えなくもない。

 ちょっと!?パパ?パパー!

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