なあ月よ、何であの時教えてくれなかった?

木沢 真流

第1話 今日は中秋の名月だった

「なんだ、そういうことだったのか」

 俺はそう呟くと、いてもたってもいられなくなり、思わず部屋の窓を思いきり開けた。学生向けの1Kアパート、さすが築30年だけあって、窓の縁が、がしゃんと勢いよく音を立てた。聞き方次第では、もうワタシ割れそうです、という窓の悲鳴にも思えたが、今はそんなのおかまいなし、俺はなりふり構わず空を見上げた。目的はたった一つ、そうこの為だ。

 

 ……月はどこだ? ……


 少し気温を下げ始めた秋の風が、俺の頬を思わず殴った、はるか遠くには幹線道路を走り去る車の音が聞こえなくも無い。ただ、今の俺には世界の音は完全にその存在意義を失っていた。見つけたいんだ、あいつを。

 身を乗り出して、柵がきしきし喋り出す、俺はそれでも空を見た。ツインタワーの愛称で知られる、二つの高層ビルはまるで夜空を切り取るハサミの様にそこに佇んでいた。そしてその合間には、何ですか、と言わんばかりのお月様がぱっちりと目を開いてこちらをみていた。そんなお月様と俺は目が合った。


 ……しらばっくれるのも甚だしい、何であんたは……


 風が吹く。逆からも吹いて来た。今日は風が騒がしい、遥か上空もきっとその状況は一緒であることは、夜の雲がいそいそと走り去る様子を見ればすぐ分かる。ぱっちりとしたまん丸お月様が眩しい、だからだろう、その夜の雲のおぞましい輪郭が、望みもしないのに俺の目に飛び込んで来た。

 満月。その時折立ち寄る夜の雲に姿を覆われながらも、それは美しく白い光を放っていた。そう、丁度五年前のあの時と同じように。

 気付けば今日は中秋の名月だった。


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