第40話 そうだ、聖都へ行こう♪

「ええっとぉ・・旦那様ぁ?」


 黒いドレスの勇者が、作業中のレンの周りをちょろちょろしながら声を掛けてきた。


「なんだ?」


「え?いやぁ・・何だと言われてもですねぇ?いや、確かに、トレーラーハウスは旦那様から頂きましたからね?そりゃぁ、旦那様がご自由になさっても良いんですけども・・・何をやっていらっしゃるのか教えて欲しいなぁって・・えへへ、いえ、ちょっと興味があるって言うかぁ、ほら・・うちのカリンが知りたがってるものですから」


「全体に強度を上げようと思ってる」


「おぉ?強度アップですか?素敵ですね」


「サイクロプスくらいなら平気だが、蛇龍あたりに踏まれると危ないからな」


「・・・ま、まあ、あれって山のようにおっきいですもんねぇ」


「色々と丈夫にしておいた方が安心だろう?」


「え、ええ、はいっ、もちろんであります。丈夫で長持ちっ!それが一番なのであります!」


「この金属は、非常に軽くて丈夫だ。錆も傷みもしないし、万一、損傷しても時間の経過と共に勝手に修復してくれる。加工は難しいが・・・」


 レン・ジロードは、トレーラーハウスの車輪や車軸まで特殊な金属に交換していた。ビスの一本まで総取っ替えである。


「あ、あのぅ・・」


「なんだ?」


「どうして、車輪までぇ・・って、その・・動けって事です?えへへ・・えっと、出来るだけ静かにしてるんで・・その、ここを出て行くのとか、その寂しいなぁって・・愛着があるっていうか」


 黒いドレスの勇者が、微妙な笑顔を作りながら言った。


「ん?・・まさか、おれが追い出すとか、そんな事を心配してるのか?」


 レンは、作業の手を休めて黒いドレス姿の勇者を振り返った。


「えっ?い、いえぇ・・っと、私じゃなくって、カリンがちょっとだけ心配してまして」


「おまえなぁ・・・まあ、おれも優しい人間じゃぁ無いが・・」


 レンは低く唸った。

 どうも、この勇者は、山を追い出されると勘ぐって、ちょろちょろと周りを周回していたらしい。

 これは、もう少し、ちゃんと向き合って話をしておいた方が良い。


「おれの言葉が足らずに余計な心配をさせた。すまなかった」


 レンは、ノルンに向かって頭を下げた。


「へっ?えっ・・と、そ、そのっ・・」


「邪険にしているように誤解されているようだが、最初の頃はともかく、今となっては、おまえ達を邪魔には思ってない。むしろ好ましいと思っている」


 レンは自分の気持ちを確かめるように考えつつ思いを言葉にした。


「ただ・・な、このまま山に居れば、村や麓の町に迷惑をかける」


「・・・うぅ・・はい、すいません」


 ノルンが力なく項垂れた。


「聖騎士団を皆殺しにしても良いなら簡単だが、それはまずいだろ?」


「え・・はい、できれば、そういうのはナシで」


「なら、何とか教の本山まで行って話を通すしか無い。それが一番死人の数が少なくてすむはずだ」


「・・ですよねぇ」


「ルシェが、そのトレーラ?を引っ張っても良いと言っている」


 レンの言葉に、ノルンが俯いていた顔をあげた。


「へっ?」


「あいつなら、このくらいの小屋など普通の荷馬車より軽々と運べるからな・・ちょっと長い旅になるし、おまえ達も野宿ばかりでは疲れるだろう。この小屋があれば・・」


「ちょ、ちょっと、旦那様」


「ん?」


「あ、あの・・つまり、その・・・一緒に来て頂けるんですか?」


「当たり前だろう?」


「え・・・と、はいっ、もちろんですよねっ!ええ、ちょっとだって疑ったりしてませんですよ。旦那様なら絶対来てくれるって信じてましたともっ!」


 ノルンが拳を突き上げた。


「聖騎士団を回避して、遠回りに人里を避けるようにして移動する。普通に旅をするならともかく、そういう裏街道は厄介なのが多いからな。おれのようなのが一緒に居た方が、多少のトラブル除けにはなる」


「ひょぉぉ、ばっちこいですねっ!旦那様が一緒なら怖いものなんかありません!地の果てまで行けちゃいますよぉ!」


「いや、なんとか教の本山までだ」


「おほほ、そうでしたわぁ。私ったら、うっかりハイな感じで・・ほんの、ちょっぴり勘違いしちゃってて・・」


 ノルンが顔を伏せるようにして、静かにお辞儀した。


「本当に、ありがとうございます」


「ただ旅をするだけではつまらないだろう。おまえが前に言っていた素材が採れる場所に立ち寄りながら行こうか」


「お・・おほぅぅぅーーお、覚えていて下さったんですね。忘れられちゃったかと思ってましたぁ~」


「山を下りたついでに、個人的に寄りたい場所もある。あぁ・・町行きの服を何着か、この前作ってくれたユカタで良いから換えを作ってくれないか」


「いやいやいや、旦那様、もちろん、浴衣はお作り致しますけども、昼間に町中を歩くには少しラフ過ぎます。着物にしましょう」


「キモノ?」


「まあ、浴衣に形は似ていますが、普段着用とフォーマル用・・襦袢に帯に足袋、草履もお作りしますねぇ」


「あ・・ああ、任せる」


「むふん、お任せ下さい。がっつり専門分野です。衣類のことなら、ノマリンにお任せですよっ!」


「そうだったな」


 レンは小さく笑った。


「あっ、そうだっ!せっかくですから、お願いしたいことが・・」


 黒いドレスの勇者が大急ぎでトレーラーハウスへ駆け込んで行った。すぐさま、丸めた紙を手に飛び出してくる。


「こんな感じの旗を作るんですけど・・ハウスの上の辺にポールを差し込めるようにして貰えませんか?」


 拡げて見せたのは、洒落た崩し文字で"ノマリン"と書かれた旗の図案だった。


「変に魔導を使わずに、手で綱を引いてポールを起こしたり、寝かせたりするようにしようか」


「はいっ!」


「昼前には細工しておこう。その後で、昼食かたがた村へ行って一緒に挨拶をしよう」


「はいっ、ありがとうございます」


 頭を下げるノルンに図案を返しつつ、レンは小屋へと入った。


「大旦那、旅に出ると大問題」


 闇精霊がしがみつくようにして飛んできた。


「心配無用だ。この小屋ごと持って行く」


「・・・そうか!大旦那、完璧!」


 マールが表情を明るくして宙を舞った。


「奥方の家も収納すれば良かった」


「それだと、長い道中、暇を持てあますだろう?ノマリンの工房にもなっているようだからな」


「大旦那、優しい」


「野宿を続けると、やれ暇になっただの、やれ町に行きたいだの、うるさく言い出すに決まってるからな」


「確実な未来予想」


「収納してある間、肉の熟成が進まないのが難点だが・・」


「大問題」


 闇精霊が青ざめる。


「毎日、寝る前に小屋を出して熟成させれば良い。腸詰めの燻製の方が早く仕上がりそうだ」


「マールは腸詰めも好き」


「防腐の容器も完成した。生肉の販売が出来るから、ダンジョンを見付けたら肉狩りだ」


 安価な容器に密封と防腐の魔法を仕込む刻印に成功したのだ。極小の魔石を使用しているため、1年そこそこで効果は消えるが性能としては必要十分だろう。


「大賛成」


「少し作業場に居る。ニシミ苔とダジの実、それから・・」


「マガナ茸」


「さすが・・その3種類を集めておいてくれ。あれは、他の土地じゃ、あまり見かけないんだ」


「マールに任せる」


 闇精霊が外へ飛び出して行った。


 その夜、白銀色をしたトレーラーハウスは、ルシェに牽かれて山を出発した。

 ノマリン号の輝かしい伝説の始まりである。







< 第一章 ~ 完 ~ >


第一章まで、お読み頂きありがとうございました。

その内、ひっそりと再開します~。 by. ひるのあかり

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ゴシック&ロリータ勇者の素敵な日々 ひるのあかり @aegis999da

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