第52話 ほんのり両想い そして第一部完
戦いも終わり、自室へ帰ってきた直後。
「時間がないか」
カズマの体から出ていたオーラが弱々しくなる。
噴き出すといったイメージだったものが、漏れ出して消えていくようだ。
体調を気遣って、二人でベッドに腰掛ける。
「色々あったな。でもなんだか、この部屋がすっかり自分の部屋になったよ」
「同じ部屋に住むことになるとは思わなかったわね」
短いような長いような同居生活。嫌いじゃないわ。
戸惑うこともあるけれど、好きな人と一緒に暮らすことに憧れもあったし。
「そうだな。今更だが凄いことをしているもんだ」
「お、そこは意識できるの?」
「ああ、今ならな。実感できるってのは、これほどありがたいものか」
久しぶりに照れたカズマの顔が見られたわ。
こっちに来る前は見ていた表情も、呪いで閉じ込められてしまう。
「ありがとう」
不意に、カズマからそう言われた。
「俺と一緒にいてくれて。俺と十年も幼馴染をやってくれて、ありがとう。あやこがいたから頑張れた。あやこのおかげで楽しかった」
「私もカズマがいたから楽しかった。カズマが私の手を引いてくれたから、その手の暖かさを覚えているから、どんな状況でも諦めないでいられた。いつも心の支えだった」
「俺もさ。心の一番深いところに、あやこへの想いがひとかけらだけ、残っていたみたいだ。だから呪いを弾き飛ばした。足りない部分を埋められた」
魔法だろうが呪いだろうが、誰かを想う心は消えないのかもしれない。
それは私の隣で微笑むカズマが証明している。
「俺から言うのは初めてかな。好きだ。ずっと前から、あやこのことが好きだった」
カズマがそっと私を抱きしめる。ずっとこの両腕に辿り着きたかった。
好きだと言って抱きしめられる。特別な両腕の暖かさの中に、私はずっと憧れていた。
「私も、私もカズマのことが好き。ずっと前から……カズマだけを見ていたの……」
「そうか。俺達はずっと……お互いの気持ちに気づかずに……」
「……んん? ちょっと待って?」
今聞き捨てならないセリフがあったわよ。問い詰めましょう。この際だから問い詰めましょう。
「なんだよ? せっかくできる限りのムードってやつを考えて、気の効いた告白を……」
「ずっと前っていつ? いつから?」
「中学の時には自覚があったな」
「うそお!? 気付かなかったわよ!?」
中学時代のカズマに女の子への興味とかあったの!?
「言ってなかったしな」
「なんで言ってくれなかったのよ!?」
「いや……告白して関係が崩れるというか……オーケイしてくれるまで男を磨こうかと」
「磨かれてるわよ! ピッカピカよ! 夜道とかライトいらないわ!」
これ以上磨く部分がどこにあるのよ。究極完璧超人じゃない。
「女の子と遊んでいる場面を見たことがないわよ?」
「そりゃほぼあやこと一緒だったし。そうじゃなきゃ男友達といたからな」
「中学から今まで告白とかされても断っていたじゃない!」
「なんで知ってるんだよ!? いや……その頃にはあやこが好きになってたし」
顔を赤くしてそっぽ向いてしまうカズマ。多分その三倍は顔が赤い私。
なによそれ嬉しいじゃないの。
「私がどれだけ頑張ってお祭りや映画に誘っていたと……」
「ああ、あれそういうことだったのか」
「そこは気付かないんだ!?」
「普通に幼馴染として仲良くしてくれているんだろうと」
「そんなわけないでしょうが……」
だめだ……肝心な部分が伝わっていない。呪いなんかなくても鈍感じゃないの。
「男は女のアプローチなんてわからないさ。まず何を考えているのかわからんし」
「察する……のはよく考えたら無理よね。まだ高校生なんだし」
マンガとかでよくあるけれど、十代の異性にそこまでの対応を要求するのは、なにか間違っている気がするわ。実際私もできていないんだし。
「異性に四六時中監視の目を光らせているやつならできるかもな」
「それは気持ち悪いわね」
まあ私もカズマが何を考えているか気付かなかったわけだし。
言葉にしなければ伝わらないわね。
「はっきり伝えないと届かない。これは反省するわ」
「俺もだ。今のうちに言っておこう。ずっと好きだったよ。多分初恋だと思う」
「私もよ。初めてにしては随分と修羅の道だったわ……もっと楽でもいいのに」
「あれだろ、初恋は叶わないように無茶振りされるんだよ」
「本人には迷惑でしかないわね……」
初恋は叶わないというジンクスは何故できたのだろう。
マンガかドラマでそういうフレーズがあった? 気になるけれど調べようがないわね。
「どちらにせよ関係ないな。その程度で諦める気はない。叶うまで続ければいいだけだ。きっと片思いの時間は、相手を思い遣る気持ちを育む時間だったんだよ。無駄じゃない」
「そうね。カズマがそう言ってくれるんだから、私も絶対に諦めないわ」
中学の頃と今では告白の重さも、知り得た情報も段違いだ。
あの頃よりも好きになったカズマと両思いになれたのだから、無駄じゃない。
「どうせ一人で悩んだりしていたんだろ?」
「そこは察しがつくのね」
「伊達に長年幼馴染じゃないもんでな。あやこのことはお見通しさ……恋愛面は微妙だったけど」
欠片集めを諦めるという選択肢は無かった。
ただ、その結果どうなるのかは不安で。押し潰されそうになって。
「俺はあやこと一緒にいる。これからもずっとだ。幼馴染じゃなく、恋人としてな」
「恋人……まだ実感が湧かないわね」
「いいんじゃないか。それほど今まで仲良くやれていたってことさ」
「幼馴染の範疇でね」
「それじゃあ、その範疇を超えてみるか」
カズマの顔が近づく。何をしようとしているのかわかった。頭が理解する前に、自然と体が動く。
そうすることを夢見て、何度も思い描いてきた。
いざその瞬間になると勝手に体が動くものなんだなあ。なんて思っていたら唇が重なった。
今まで離れていた心を繋ぐように。幸せの欠片を取りこぼさないように。
「こんなに長くするものなのか?」
ファーストキスの感想がお互いにそれだった。
今度がいつになるかわからないと思うと、自然と長くキスの時間は続いた。
「さあ? マンガだと時間はわからないし、ドラマだとそれこそ作品によるし」
「つまり人それぞれか」
キスした後のカップルの会話じゃない気がするわ。
でもそれが私達っぽくて、それが面白くて、二人で笑いあった。
「次がいつになるかわからないからな。名残惜しさってやつだ」
「本当にね。急いで告白したのに……なんなのかしら?」
いつまでもカズマの腕の中にいるのは恥ずかしくて、ちょっとだけ離れる。
うわあ名残惜しさが半端じゃないわ。
「また欠片の力が抜け出ているな」
「ちょっと寄ってみましょうか」
実験開始。カズマの腕の中へ。この暖かさですよ。私が求めていたものは。
「今のうちにな」
「やっかいなことになったものよね」
実験を口実に手を繋いだり抱きしめてもらったりしてみた。
よく考えたら恋人同士なんだから口実とかいらないわね。
うわあ恋人ですよ。嬉しさがとめどなく溢れ出しますとも。
「つまりなに? 欠片を集めて、いちゃこらしていれば両想いモードになれると?」
「かもな。それだって充填時間は必要だろうけど」
またなんとも難儀で都合のいい状態になったものねえ。
これも戦いの経験値が蓄積されたおかげ。いいえ、愛の奇跡ね。
「愛の奇跡説でいきましょう」
「なるほど、ロマンがあるな」
これなら告白を武器に戦うこともできる。足手まといにはならないわ。
どうだ呪いめ。私とカズマの愛の力の前では無力なのよ。
「呪いを愛のパワーでぶっ飛ばしたか」
「もうちょっと綺麗で乙女チックな言い方を考えましょう」
「ならこれからも二人が愛し合う限り。その愛が消えない限り。呪いの出る幕なんかないってことで」
「そう、それは素敵ね」
これからも色々な困難や障害は立ち塞がるでしょう。
でも、カズマと二人なら乗り越えていける。怖くなんてない。むしろ楽しみにさえ思えてくる。
「愛しているよあやこ。これからもずっとな」
これで私の片思いはおしまい。ここからは両想いの日々が始まる。
「あ、悪いもう無理っぽい……また迷惑かけるけど……」
カズマがなにか言っているけれど聞こえない。
オーラが溢れて消えていく。今のうちにもう一度、私の思いを伝えなければ。
「私ずっと……ずっといつまでも……カズマのことを愛しているわ!!」
そして壁に突っ込んでくるなにか。
爆音を轟かせ、壁にめり込んでいる真っ白な何かの正体は。
「え、なんだって? 伊勢海奥流さんの飛行機の音で聞こえなかったよ」
この世界で見るはずのない飛行機の頭でした。
「いせかいおくるさん!?」
ああ、これはあれですね。あれですよ。もう一回試してみましょう。
「いやだからカズマが好きだと」
なんかトラックが発するサイレンが聞こえる。
ついでに聞いたことのある音声が流れてきました。
『バックします』
「バック!? 飛行機なのに!?」
ゆっくりバックしながら消えていくジャンボジェット。
いやあ無事でよかったわ。壁も元通り。
「悪いな。飛行機のサイレンで聞こえなかったよ」
「結局…………結局これかあああぁぁぁ!!」
まだまだ私の苦労は続くみたいです。
でも絶対に、絶対に呪いを解いてやりますとも!
両思いとわかったからには、是が非でもこの恋、叶えてみせます。
第一部 完!
私が片思い中の幼馴染は鈍感難聴系ハーレム主人公の呪いをかけられました 白銀天城 @riyoudekimasenngaoosugiru
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