第168話 外伝 エルとピウスの問答
俺はエルラインに招かれ、彼の家でお茶会をしていた。しかし何もこんなところで開催しなくてもいいと思うんだ。
わざわざ俺の分の椅子まで持ち込んで、エルラインがアルカエアの眠っている棺に腰かけているのだから……そう、俺が今いる場所は、アルカエアの玄室。
いつもの居室でいいじゃないか。
「ピウスどうしたんだい?」
「いや、どうしてここで『お茶会』を……」
「君は自分でさっき言ったことも覚えていないのかい?」
エルラインが呆れたように肩をすくめる。
俺がさっき言ったこと……
「覚えているさ。今回のお茶会では君のことがもう少し知りたいと言ったんだ」
「全く……君はいつもながら無意識に口説いてくるよね」
「い、いや、決してそんなつもりじゃあ……」
「まあ、いつものことだからそれはいいよ。君は僕のことを知りたいと言った。だから、ここにしたんだよ」
なるほど。ようやく意味が理解できたぞ。エルラインの魂はアルカエアだ。彼の元の肉体が眠るこの場所で話をするのが、エルラインのことを話すによいと思ったわけか。
意味は分かるんだけど、眠る人間を目の前にして飲み食いしようって気持ちがそがれるのは、俺だけだろうか。
「エルは今までの自分と違う体に入って、何か思うところがあったりするのかな?」
俺はふと自分と似た境遇のエルラインに聞いてみたくなり、つい疑問が口を出てしまった。
それに対し、エルラインはクスクスと子供っぽい笑い声をあげながら、応じる。
「僕にとっては違和感とかそのようなものはないんだよ。ピウス。何が僕にとって大事か、それだけだよ」
「ふうむ。エルは自分からそうしたんだものなあ……俺とは少し違うか」
「そんなことを聞くってことは、君には思うところがあるのかい?」
エルラインは知的好奇心が刺激されたのか、身を乗り出して俺の目をじっと見つめてきた。
「そうだなあ、この体はさ。元の俺の体よりあらゆる面でずば抜けて優れているんだよ」
「なるほどね。『あらゆる』と言われても抽象的だね。もう少し絞ってくれないかい?」
「例えば……身体能力にしても顔立ちにしてもそうだよ」
「うーん、君はプロコピウスの肉体に何か不満を感じてるってことかい? 聞く限り悪い事はひとつもなさそうなんだけど」
エルラインは合点がいかないと言った様子で、顎に手を当てて思考している様子だ。
優れた才能を持ち、自ら友人であるエルラインの肉体に入った彼からしてみれば、俺の違和感なんて些細なことなんだろうなあ。
いやだってさ、考えてみると。俺がこれまでやってきたことは、プロコピウスの美男子な見た目や身体能力によるところが大きい。
これまで、そのことで何度も悩んだけど、今では俺だからこうしてみんなを繋ぎ合わせることができたんだって思うようにしている。でも、プロコピウスの持つ生来のカリスマがあってこそ、ここまで上手くいったとも思っているんだ。
何を考えているか分からなくなってきたけど、俺はこの肉体、もちろん彼の魂にもいくら感謝をしても仕切れないってことなんだ。
「例えばさ、俺がもっと小柄で力も弱く、見た目も目を引かないような人物だったとしたらどうだ? 俺に興味がわいたかな?」
「クスクス。君はそんなことを考えていたのかい? 仮定の話なんて何も結論なんて出ないよ」
こ、この学者気質めえ。こういう情緒のある話をエルラインにするんじゃなかった……俺がこの話を打ち切ろうと思ったことを察したのかエルラインが俺の機先を制して口を開く。
「全く君は……そうやってすぐ
「そんなつもりじゃないんだけどな……」
「そうだね。もし君がマッスルブのような見た目だとしよう。ええと、確か君には精霊の加護なんてものがあったんだってね」
「な、なぜ、マッスルブ……」
普通の見た目の例えがマッスルブってのはちょっとと思うけど、エルラインは俺の話に付き合ってくれるらしい。何のかんので彼はいつも一緒に考えてくれるよな。
「まあ、マッスルブじゃなくてもいいんだけど。そこは本質じゃあないよ。精霊の加護も僕には全く効果を及ぼさないからこれも君と僕の関係性においては意味がない」
「ふむふむ」
「その上で、僕が君に興味を持ったか持たなかったかという話ならできるけど、どうかな?」
「おおお、ぜひ聞かせて欲しい!」
俺が思わず身を乗り出すと、エルラインは「全く君は……」と言いながらも、立ち上がって顎に手を当てる。
「結論から言うと、今の君のように目覚ましい活躍をしていなかったとしても、いずれ僕は君を見つけ出し、問いかけただろう」
「それってどういう?」
「全部説明しないと分からないのかい? 君は……」
エルラインは言いずらそうに口をつぐむと、そっぽを向いてしまった。
えええ、ここで終わり? それなら話をしてくれない方がましだったよ! 気になって仕方ないじゃないか。
そうだな、もし俺が俺の肉体でここに転移してきたとしよう。いや、その仮定からおかしいんだよな。
だって、英雄召喚の儀式で俺が引っ張られることなんてないのだから……しかし空想が膨らまないので、もし俺が俺のままで転移したとしよう。
まず、恐れおののいた俺はベリサリウスに救われる。そしてエリスに会い……きっと恋の相談とかされないだろうけど、たぶんベリサリウスは俺へ偵察とか街の計画のどちらかを任せてくれるんじゃないかな。
そうなると、ティンかライチ辺りと親しくなって……お、何とかなりそうじゃないか。元のままの俺。
そうして、いずれ魔の山と接触するだろう。
「うんうんとうなっているけど、最後まで言わせる気なのかい? 君は」
「あ、いや、一応……俺が元の肉体で来ていたらどうなってたか、順を追って考えてたんだよ」
それを聞いたエルラインは大きなため息をつき、そっぽを向いてしまう。あ、呆れられてしまったかな。
しかし、意外にもエルラインは俺に言葉を投げかけてきた。
「いいかい、ピウス」
「うん」
「君が君である限り、僕は君にひかれたと思う。話はそれだけだよ。プロコピウスではなく君にね」
「そ、それって、嬉しいけど告白みたいだな……」
「……ワザとそう聞こえるように言ったんだよ。普段君が無意識にやっていることと同じだよ」
「え、えええ。エル、それってどういうこと? 俺はティンやカチュアにもそうしてたってこと?」
「自分の言動を振り返ってみるんだね」
エルラインはクスクスと子供っぽい笑い声をあげた後、こちらに振り向きニヤニヤとした笑みを浮かべた。
あ、いつものエルラインだ……。あー、これからたっぷりといじられるんだろうなあ……
俺は遠い目をしながらハーブティーを口に含んだのだった。
※みなさん、あけましておめでとうございます。
僕からみなさんへのお年玉は、異世界ローマの更新でした。
それでは本年もよろしくお願いいたします。みなさまにとってよい一年になりますことを。
無双将軍の参謀をやりながら異世界ローマも作ってます うみ @Umi12345
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます