コールドスリープ
堺
コールドスリープ
虚空に浮かぶ宇宙船。
地球から惑星αへ航行途中の植民船である。
それは年月にして百年かかる大航海だ。乗組員は全員、冷凍睡眠装置の中で眠っている。
彼らは新天地に着くまで目覚めない…
はずだった。
漆黒の宇宙空間に三つの光が現れる。
光は尾を引いて、宇宙船までやって来る。
流星ではない。蛍のように飛び回っているので、生き物だと分かる。
その光が、一匹ずつ順番に、宇宙船の中に吸い込まれて、姿を消す。
最後の一匹が入り込んだ時、いっしゅん、船体が光り輝く。
なにか特殊なエネルギーが伝わり、船のコンピュータに信号が伝わった。
船内。
ハチの巣状の冷凍睡眠室。
たくさんの冷凍睡眠装置の中の一台が誤作動を起こし、カプセルの蓋が開く。外と中の空気の温度差により、蒸気が発生する。
中で眠っていた少年・テッドがゆっくりと目を覚ます。
「う…ん?あれ、ここはどこだろう?」
寝起きの頭を一所懸命働かせて思い出したのは、地球での記憶。
テッドはお父さんとお母さんと、三人で暮らしていた。
地球での生活に不自由はないが、同時に退屈でもあった。
ある日、テレビのCMで、政府が惑星αへの開拓民を募集していた。
テッドのお父さんは勢いよく言った。
「家族みんなで、宇宙へ移住しよう!」
お母さんは戸惑った。
「百年もかかる旅よ?行ってしまえば、地球のお友だちには二度と会えないわ。
慣れ親しんだ生活を捨てなくてはならないし…」
「お母さんは心配性だなあ。家族が一緒なら、どんなところでだって暮らしていけるさ」と、テッド。
お父さんは言った。
「惑星αは近年発見されたばかりの惑星で、太古の地球とそっくりらしい」
「うわぁ!じゃあ恐竜狩りして遊べるね」
「でも…でも…」と乗り気でないお母さん。
しかしお父さんは言った。
「確かに地球の生活は便利だよ。清潔で、安全で、保障されている。
だが文明が発達した結果、我々は生き物としての本分を見失ってしまったんじゃないだろうか?
自分の手で土を耕して食物を得、家を建て、動物と触れ合いながら生きる。
これは人間性を取り戻すチャンスだと思うんだ」
お母さんは言った。
「お世話をしてくれるロボットも、なんでも教えてくれる人工知能もない生活?
できるかしら、私たちに…」
お父さんは、妻と息子の肩を抱きながら言った。
「きっとできるさ」
しまいにはお母さんも説得され、一家は植民船の乗組員になったのだった。
植民船の船長を務めるのはロボットのエディ。
乗組員たちを集め、冷凍睡眠装置の説明をした。
「地球から惑星αまでは百年かかります。その間、乗組員は冷凍睡眠状態になります。
この装置の中では無活動になり、夢を見ることもありません。
老化もせず、起きた時には、眠る前と全く同じ状態です」
「ちゃんと安全なんだろうな?」と誰かが質問した。
「宇宙空間での安全テストで、厳しい審査をパスしています。
わたくしは船長を務める他、宇宙船のメンテナンスも受け持ちます。
皆様が眠っている間、装置に異常がないか常に管理します」
「疲れを知らないロボットが管理するなら安心だな」とお父さん。
そして旅立ちの時は到来し、一家はそれぞれ「おやすみなさい」と言いあった後、カプセルの中で百年の眠りについた…
「はずだった…よなぁ?」
テッドはしんとした船内でひとりごとを言う。
冷たい空気で徐々に頭は冴え、自己の現状を把握する。
不安感に襲われ、カプセルを飛び出す。
六角形の個室に虫の卵のような半透明のカプセルがずらり。
番号をたよりに両親の個室を探す。お父さんとお母さんはすぐに見つかる。
しかし、予想していたことだが、二人とも眠っている。
まるで死体のように、微動だにしない。カプセルを操作できるスイッチらしきものも見当たらない。
どうして自分のだけが開いたのか?パニックを起こし、やたらめったら叩いたり、呼びかけてみたり。
「お父さん、お母さん、起きてよ、ねえ!」
装置も、中の人間も無反応だ。
そう言えば厳しい審査にパスしたと言っていた。耐久性もすごいのだろう。
力ずくで開けようにも、子供の力では無理だ。
蓋の開き目がどこにあるのかさえ分からない。テッドは寒さも忘れ、夢中で周囲を走り回り、叫ぶ。
「誰か!誰かほかに起きている人はいないの?」
沈黙。テッドは絶望に青ざめる。
「…僕だけなんだ。
どうしてだか分かんないけど、僕だけ先に目覚めちゃったんだ」
ハチの巣状の冷凍睡眠室を出て、廊下へ。
自分の足音だけが響く。
「い、今は宇宙のどこにいるんだろう?」
少し歩き、丸窓を見つけ、外を見る。
「うわ…」
そこから見えるのは、正真正銘の宇宙空間。
出発前に見えていた地球は、もう跡形もない。
心細さが頂点に達し、テッドは泣き出してしまう。
「僕はこの広い宇宙に取り残されちゃったんだ。
きっとこれから百年間、ずっと独りぼっちで過ごさなくちゃならないんだ。
齢をとって死ぬまで!うわぁーん」
船内の奥まで鳴き声はこだまする。
怪しい黒い影がその声を聞きつけ、目を光らせる…
しばらく泣いて、テッドは我に返る。
「ぐすっ…泣いてたって始まらないや。
できることを探そう。船のどこかに装置を制御する場所があるはずだ。
それを見つけて、もう一度起動させるんだ。
もしくは、皆を起こすんだ。
僕だけ百年も起きてなきゃならないなんて、あんまりだもの」
船内は広い。歩き回っている間に疲れてしまう。
手足がかじかみ、テッドは凍える。
「ぶるっ…この船は生活空間として設計されていないからな。
電力の消費を最小限にとどめているんだ。
気が遠くなってきた。このままじゃ百年どころか、数時間で凍え死んじゃうよ」
歯をガチガチ打ち鳴らしていると、物音が聞こえる。
「?だ、誰?」
薄暗くてよく見えないが、人影のようなものが迫ってくる。
冷凍睡眠室では全員眠っていたので、人間のはずがない。
「ま、まさか、宇宙の幽霊?」
突然、ぱっと明るくなる。
テッドはとっさに目を覆うが、その正体が判るとほっとする。
「エディ!そうか、君がいたんだった」
エディの目のライトが、テッドの顔を照らす。
「なにかお困りですか?」
「お困りですか、じゃないよ!見ての通りさ。
僕の冷凍睡眠装置だけ開いちゃったんだ」
「それは大変です。
じつは謎のエネルギー体との接触により、船のコンピュータに異常が起きたようなのです。
テッド様の冷凍睡眠装置が勝手に開いたのは、それが原因と思われます。
今、制御室へ向かう途中でした。
エネルギー体は船内に入り込んだようです。
わたくしは、それがなんなのか突き止めなくてはなりません」
「待って、僕も一緒に連れて行ってよ」
テッドはエディにおんぶしてもらい、暖をとる。
エディの機体は温かい。すぐさま凍え死ぬ心配はしなくて済みそうだ。
一人と一体は制御室に着く。
複雑な機械が入り乱れていて迷路のような造り。
エディの動きが止まる。
「どうしたの?」
「問題のエネルギー体を感知しました」
「何も見えないけど…あっ」
前方で、三つの光が宙を泳いでいるのが見える。
「ひ、人魂みたいだ。今度こそ幽霊かな?」
おびえてエディにしがみつくテッド。
エディは抑揚のない機械の声で「そんなはずはありません」と言う。
「幽霊とは昔の人の考えだしたフィクションです。ここは現実世界ですよ」
「冷静だなぁ、ロボットは」
「しかし、宇宙にはまだ解明されていない現象がたくさんあります。もっと近づいて、正体を見極めましょう」
「う、うん」
エディが歩み寄ろうとすると、向こうから近づいてくる。
光はとても素早い動きで、一人と一体の周りを飛び回る。
テッドの頭の中で「キャハハ、アハハ」と、無邪気な笑い声が響く。
「なに?この声は」
「声は聞こえませんが」
「エディ、聞こえないだって?僕にはこんなにはっきりと聞こえているのに…」
声の主たちが言う。
「そりゃ、ロボットには聞こえないわよ。テレパシー(精神感応)だもの」
「ロボットに精神はないでしょ?」
「初めまして。僕らはミーティア人。精神生命体だよ」
「ミーティア人?精神生命体だって?」
テッドは混乱する。
しかし彼らはその混乱さえ読み取って、テッドに分かりやすい言葉を選んで説明する。
「そう。精神生命体。肉体を持たないから、宇宙を自由に飛び回れるんだよ」
「齢をとらないし、お腹もすかない。だから星から星へ旅行するのに、こんな宇宙船は必要ないんだ」
「はあ…便利だなあ」
テッドは感心する。エディが言う。
「彼らの発するエネルギーが、冷凍睡眠装置の誤作動の原因です」
「え、そうだったの…」
テッドはミーティア人たちに問いただす。
「ええ?そんなの知らないわ。私たち、珍しい宇宙船を見つけたから、好奇心で立ち寄っただけよ」
「そうだよ。君たちの船を壊したつもりはないよ。なあ?ヒッグス?」
「う、うん…」
一匹の光り方が弱々しくなる。
「どうした?なにか思い当たることでもあるのか?」
「はっきり言いなさいよ」
「えっと、もしかすると、これかも…」
光の中から、黄金色の星形の物質が現れる。
「あら嫌だ。あんたこれ、もしかして」
「ここに来る前に出会った海賊船から、盗んできたんだな」
「なんなの?」
テッドはそれを手に取る。重さも熱もないが、掴むことができる。不思議な感触だ。
「分かんない。とっても綺麗だからもらっちゃった」
「呆れたな。宇宙海賊は執念深い。敵に回すと厄介だぞ」
「今ごろ、盗まれた宝を追って近くに来ているかも」
その時、宇宙船に衝撃が走る。
「うわぁ!なんだ?地震?」
「テッド様、ここは宇宙空間ですよ」
「そうだった。じゃあ、なに?」
「分かりません。メインコンピュータにアクセスして、原因の解明を…」
ミーティア人が頭の中で叫ぶ。
「ハイパースペースだよ!」
「なんだって?」
「ハイパースペース(超空間)。
そうか、君たちの文明はまだワープ航法までいってないのか…冷凍睡眠?うわぁ、ずいぶんと旧式なんだなぁ。
いいかい?僕たちのように肉体を捨てない限りは、生命は物理の法則に縛られている。それでも自らの種の生存圏を広げようと、人類は宇宙を旅するための手段を色々考えてきた。
その最高峰が、ワープ航法なのさ。
簡単に言えば、空間に穴をあけて近道することだよ」
「じゃあ今の揺れは…」
「空間の歪みによる振動ね。宇宙海賊がここまで追ってきたみたい」
「宇宙海賊?」
テッドは丸窓のあるところまで引き返し、外を見る。
そこには、地球よりもはるかに進んだ文明の所産と思しき、巨大な宇宙船がある。
「う、う、宇宙人だ。本物の宇宙人だ…」
「あなたたちはまだ異種族と出会ったことがないのね。
そうよ。宇宙には色んな種族が住んでいるの。
その中でも、あの宇宙船に乗っている連中は特に凶暴な部類よ」
「野蛮で貪欲なボゾン人。
とても醜悪な外見をしているんだけど、君たちの文明にもあるんじゃない?
…そうそう、その『悪魔』って空想の生き物。それとそっくり」
「見た目だけじゃないよ。行動も悪魔そのものなんだ。
他人の星から欲しいものを奪い、食い散らかし、逆らう者は皆殺し。
宇宙社会に害悪しかもたらさない、ならず者さ」
「そんな恐ろしいやつらなの…」
テッドは身震いする。
一方、海賊船の内部では、まさしく悪魔のような姿のボゾン人たちが、眼前の植民船について話し合っている。
「なんて原始的な船だ。こんなもので宇宙を旅行するなんて。
乗っているのはいったいどの種族だ?」
「記録にありません」
「と言うことは、宇宙時代を迎えて間もない種族だな。
そんな原始人に『スター・エレメント』を奪われるなど」
「いいえ、船長。我々から秘宝を盗み出したのは、どうやら別の種族です」
「もしかすると、あのでしゃばりのフェルミオン人の仕業か」
「さあ。しかし関係性は否定できません」
「決まっている。我々の科学力をしのぐ種族は、そうはいないからな。
だとするとあの船はカモフラージュだ。
わざとおもちゃのような船で、我々の目をあざむこうと言うのだ。
小賢しいまねを」
海賊船の船長は部下に指示を出す。
「牽引ビームで捉えろ」
海賊船から放たれた黄緑色のビームは、植民船を捉えてぐんぐん引き寄せる。
「うわぁ!引っ張られる!
僕たちどうなっちゃうの?
冷凍睡眠室ではたくさんの乗組員がまだ眠ったままだし、
その中には、僕のお父さんとお母さんもいるんだよ」
涙目で訴えるテッド。
ところが、あろうことかミーティア人たちは仲間割れを始める。
「あんたが悪いのよ、ヒッグス」
「まったく手癖の悪いやつだ。
お前のせいで、無関係の地球の人たちを巻き込んじゃったじゃないか」
「なんだよ僕ばっかり悪者にして!
二人だって、いつも悪戯ばっかりするじゃないか」
テッドの頭の中でやかましく言い争う三匹。
テッドは「いい加減にしてよ!」と叫ぶ。
「ケンカしてる場合じゃないよ!
エディ、海賊を撃退する方法はないの?」
「この船は植民船です。
積み荷と言えば、新しい土地を耕すための土木建設用の機械。
地球から持ってきた植物の種。
乗組員たちが不自由しないための、種々の生活日用品…」
「兵器とか戦闘ロボットとかは…ないよね、もちろん」
「あったとしても、地球の科学力じゃ歯が立たないよ。
ごめんよ、テッド。僕たちの責任だ。彼らはきっと君たちを殺すよ」
「生かしておいたとしても、奴隷やペットとしてだね」
「どうしよう…なにか方法はないの?」
「うーん…」
少しの沈黙。
途端、「そうだ!」と三匹同時に叫ぶ。
「宇宙警察に助けてもらおう!」
「宇宙警察って?」とテッド。
「宇宙社会の秩序の番人。
海賊行為を取り締まる、フェルミオン人の組織だよ。
フェルミオン人とボゾン人は犬猿の仲なんだ。
科学力はフェルミオン人の方が勝っているけれど、ボゾン人は卑劣な手段を使うからね。いつもイタチごっこなんだ」
「フェルミオン人は正義の味方よ。
宇宙進出したばかりのか弱い地球人のために、きっと動いてくれるはず」
絶望していたテッドの瞳が、希望で輝く。
「すごい!…だけど、どうやって助けを呼ぶの?」
「私たちだってワープできるわ。
しかも空間だけじゃない。時間さえも自由に行き来できるんだから」
「タイムトラベル?すごいなぁ!」
「そうと決まれば善は急げ。宇宙警察の本部までひとっ飛びだ」
「テッドも一緒に行こう。僕たちだけだと、悪戯だと思われちゃうから」
「そう、前科があるからね」
ミーティア人たちはいたるところで悪戯をしているらしい。
「一緒に行くと言ったって…どうやって?」
「幽体離脱よ。私たちにまかせて」
そう言うと、三匹はテッドの体の中に入り込む。
すると、テッドの魂が体から抜け、精神生命体と化す。
「うわぁ、なんだこれ?」
「僕らと同じさ」
「その状態ならワープできるわ」
テッドはぐったりした自分の体を見下ろす。
「だ、大丈夫なのかな?僕の体、このまま放っておいて…」
「精神エネルギーの抜けた肉体を長時間放置したら、腐敗するよ」
「ええ?それは困るよ」
「言っただろ?時間も行き来できるって。
出発したのと同じ時間に帰ってくればいいんだよ。
そしたら君の肉体にとっては、時間が経っていないのと同じことだから」
なんだか心配だが、テッドは三匹と一緒にハイパースペースを通り、宇宙警察の本部へ行く。
着いてみると、そこは宇宙に浮かぶ人工都市。
「あれ?ミーティア人は惑星の上に住んでいないんだ?」
「彼らの故郷の惑星は、ずっと昔に滅んだよ。いくつかの惑星に植民してはいるけどね。本拠地はこの人工都市なんだ」
「すべてのものが機械でできている…すごい科学力だなぁ」
緑はなく、銀一色の世界。
物差しで正確に測ったかのような、升目状の居住区がどこまでも広がる。
几帳面な種族の性質がうかがえる。
「野蛮なボゾン人に比べたらはるかにまともだけど、あんまり窮屈な文明もいかがなものかしらね」
「僕の故郷の地球も、科学が発展してゆくほどこうなるのかしら…」
「どうだろうね」
宇宙警察の最高責任者と、テレパシーで連絡を取る。
地球人のテッドの証言で、宇宙警察はすぐに出動してくれる。
「宇宙をさすらう伝説の賢者。生物進化の最終形態。
ミーティア人の方々にお会いできるなんて光栄です」
最高責任者はうやうやしい態度。
それを見て、テッドは三匹を見直す。
「へえ、君たちってすごいんだ」
「えへん」
「まあね」
ミーティア人たちは気を良くする。
「それと、地球の少年。テッドくんと言ったね。
海賊の逮捕に協力してくれてありがとう。
先に宇宙進出した先輩の種族として恥ずかしい話だが、我々はいまだ、宇宙社会から無法者を根絶するに至っていない。
宇宙に真の平和と秩序をもたらすには、すべての種族が一丸となって悪と戦わなくてはならん。
君の種族は秩序を重んじ、平和的だろうね?」
「もちろんです!」
とは言ったものの、若干後ろめたい気持ちがないでもない。
地球人は平和的?そうだと信じたい。
遠い未来、宇宙進出が進み、地球人が独自の文明を発展させたなら、果たしてボゾン人のように野蛮になるのか、それともフェルミオン人のように冷静で機械的になるのか…
「テッドが悩むことないわよ。
私たちを見て?ボゾン人のようでも、フェルミオン人のようでもないわ。
地球人だって、まったく新しい価値観を創り出すに違いないわよ」
「うん…きっとそうだよね」
テッドは勇気づけられる。
「あ、ところで…」と、テッドは言う。
「これ、なんだか分かりますか?宇宙海賊のものらしいんですが」
「これは…スター・エレメント?
宇宙の『聖域』と呼ばれる場所に封印されていたと言う、あの伝説の…」
「いったいなんなんですか?スター・エレメントって…」
「うむ、君たちの文明のレベルでは、じゅうぶん理解することができないだろう。地球人がもう少し成長したら、後々知ることになるだろうよ。
ただ、これには『銀河を生む力』が宿っているとされている。
それほどの圧倒的なエネルギー。悪者の手に渡ると危険だから、古代人…我々よりもずっと昔に宇宙で栄えた種族が、固く封印したんだ。
これは、宇宙警察が責任をもって聖域に戻しておくよ」
テッドは、エディが「宇宙にはまだ解明されていない現象がたくさんあります」と言ったのを思い出す。
宇宙海賊が植民船を牽引している最中、時空が歪み、ハイパースペースから宇宙警察の船が現れる。
宇宙警察の船は海賊船よりもさらに大きい。海賊たちは慌てふためく。
「げ、宇宙警察だ!」
「砲撃しろ!」
「無駄です、船長。あの船には最先端のエネルギーバリアが搭載されています。我々では太刀打ちできません。逃げましょう」
海賊船のコンピュータがハッキングされ、コックピットのスクリーンに宇宙警察からのメッセージが映し出される。
「無駄だ。観念しろ、海賊ども。
超空間に障壁を張った。ワープでは逃げられないぞ」
「くそ、してやられたか…」
海賊は降伏し、海賊船が宇宙警察の船に収容される。
そのかたわら、植民船はなにごともなかったかのように、ただ浮かんでいる。
「テッドくん。君の協力のおかげで、海賊どもを無事逮捕できた」
「いえ、僕たちこそ助けていただいて」
「ぜひともお礼をしたいが、宇宙連邦法で決まっていてね。文明レベルが基準以下の種族には、科学技術を提供しないのだ」
ミーティア人たちは訴える。
「もう、この石頭のフェルミオン人!少しくらいいいだろ、テッドは頑張ったんだから」
「そうよ、子供なのに、たった一人で種族の危機と戦ったのよ?」
最高責任者の彼は「う…む」と頭を悩ませる。
結局、頭の中でうるさく騒ぐミーティア人に説得される。
「分かった。テッドくん、君たちの船を修理してあげよう。
しかも、君たちが無事に惑星αへの旅を続けられるよう、強化改造しよう。
今のままではとても心もとないからね…」
ミーティア人たちは大喜び。
「やったぁ!さすが宇宙警察」
「話が分かるね」
テッドは一安心。
「本当に?た、助かった…」
「ただし」と彼は続ける。
「この件についての一切の記憶を消去する。
船のメインコンピュータ、ロボットのメモリー、テッドくん、君の記憶からもだ」
「そんな…」
「私も残念だ。せっかく友情が芽生えたと思ったのに。だが、秩序のためにはしかたがない。分かってくれ」
船の改造が済むと、テッドは頭にヘルメットのような装置を被せられ、記憶を消去される。
しかし、宇宙警察の船がハイパースペースの中へ消えた後、ミーティア人がテッドの記憶を復元する。
「脳の記憶は消せても、魂の記憶は消せないからね」
「テッドはもう僕たちの友達だ。忘れたりなんかさせないよ」
「ありがとう、君たち。僕、この冒険の思い出を惑星αへ持っていきたいんだ。開拓民として大事な教訓だと思う」
テッドは、フェルミオン人が直してくれた冷凍睡眠装置の中に入る。
ミーティア人は名残惜しそうに言う。
「また眠ってしまうの?つまんないね」
「いっそ、テッドも肉体を捨てて精神生命体になっちゃいなよ」
「そうよ。自由気ままに、宇宙を冒険できるのよ?」
「うん、それも楽しそうだけど、僕には家族がいるからね。
原始の惑星を切り開くのは困難だけど、僕、とってもわくわくしてるんだ。
新天地での生活が待ち遠しいよ」
「なら僕たち、惑星αに着くまで、船を見守っていてあげるよ」
「テッドが目覚めた時、僕たちそばにいるよ」
「ええ?百年も先だよ?」
ミーティア人たちは自信満々に言う。
「僕たちは不死身なんだよ?今まで何千年も何万年も生きてきたんだ」
「百年なんか、あっという間よ」
「そっか。目覚めるのが楽しみだな。
起きたら僕のお父さんとお母さんを紹介するよ。
じゃあエディ、頼むよ」
「はい、テッド様。お休みなさいませ」
カプセルが閉じ、視界が真っ暗に。記憶はそこで途切れている。
百年後、植民船は惑星αに到着する。
乗組員全員が目覚め、船内から外を眺める。
そこは太古の地球のような、原始的な風景。
鮮やかな緑。遠くで恐竜の声。
「お父さん、お母さん」
「ん…ああ、テッド。おはよう」
「もう百年の旅が終わったの?本当に一瞬だったわね」
エディが、乗組員全員の健康を確かめに来る。テッドは思わず呼び止める。
「エディ、ミーティア人たちは…」
しかし、言いかけてから気づく。
「そうだった…エディは記憶を消去されたんだ。
ロボットに魂はないから、魂から記憶を復元することもできない…」
テッドは少し寂しく思う。
後に、テッドは自分の眠っていたカプセルに、メッセージが残されているのに気づく。
インクではなく、光で書かれている、見たこともない文字。
「なんて書いているのかしら?」と、お母さん。
エディにも答えられない。
だが、テッドにはおおよその検討がつく。
「たぶん、こう書いてあるんだよ。「やっぱり百年待つのは退屈なので、帰ります」ってさ」
「なんだそりゃ?」
お父さんとお母さんは顔を見合わせる。
それから三人は宇宙船の窓辺に立って、こんな会話をする。
「ねえ、お父さん。コールドスリープ(冷凍睡眠)の間は、夢を見ることもないんだよね?」
「ああ、脳の活動も止まるからね。お前、まさか夢を見たなんて言わないだろうね?」
「夢?まさか」
END
コールドスリープ 堺 @sakai4510
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。コールドスリープの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます