旧・キャッツカフェへようこそ
かささぎ
旧・キャッツカフェへようこそ
旧・キャッツカフェへようこそ
あなたの生きている現在から二百年後を思い浮かべてみてください。
どうなっていると思いますか?
この世界は、可能性の一つです。あるかもしれないし、ないかもしれません。ですが、それを確かめる術はありません。
現代のあなたは、二百年後に生きていることができないからです。
今から二百年前、地球には、小惑星が衝突しました。
人類は、その時、生き残るために、ある決断をしました。決断という立派なものではないかもしれません。突発的な、衝突の衝撃による偶発的な現象だったかもしれません。
氷河期のように凍てつく極寒の世界で、本能的に生き残るために寒さに強い動物と融合したのでした。結果的に極寒の世界になり、生き残ったともいえます。
衝突した惑星の持ってきた奇跡。
小惑星の衝突による不思議な力がその奇跡を起こしました。
全ての人間に奇跡が起きたわけではありませんでした。奇跡の起きなかった者が生き残ることは、ありませんでした。そして、奇跡は起きましたが、寒さに強い動物と融合しなかった者もまた、生き残ることができませんでした。
人間と融合した寒さに強い動物は一種類ではありませんでした。小惑星の衝突による地殻変動で動物と融合した人々が住める場所は限られていました。生き残った人々は、限られた場所を奪い合いました。人間という同じ種族でさえ戦争をするのです。動物と融合した個々の種族は、お互いを理解することはできませんでした。限りある人々が住める大地は多くはなかったのです。小惑星の衝突より遠い場所であること。都市として建造物が残っているところ。東京という都市はまさに楽園のような機能が残っていました。ただし、奪い合いの争いが起きていなければの話です。東京は、百年の種族間の争いで疲弊し、楽園ではない都市になってしまいました。
このお話しは、そんな争いがなくなった荒廃した東京での出来事です。
寒さに閉ざされた世界で動物と融合した者達の物語です。
「今日も過去を見に行こう」
小声でつぶやくのは、紫色で髪型はボブの女の子でした。彼女の特質すべき点は、頭の上から猫のような耳が生えていることです。猫のような長い尻尾もあります。耳と尻尾は真っ白です。猫のようにつり目で、その金色の瞳は真ん丸に見開かれています。鋭い爪も十分に研がれています。
小惑星が衝突し、人々は動物と融合しました。融合した人のことを、獣人と呼びます。生き残っている者が獣人しかいないので、この世には獣人しかいないことになります。ただし、獣人は、自分達のことを獣人と呼んだりはしません。多種多様な種族がいることもあり、特に呼び名として成立している訳ではありません。ここでは、彼ら全体を獣人と呼ぶだけです。別説もあり、獣人とは、元からいた種族なのではないかという説もあります。先程、荒廃し、氷に包まれた建物の上を軽快に飛び回っていたのは、猫と融合した者の子孫です。彼女の耳は猫の耳。優雅に揺れる尻尾も生えています。もちろん、鋭い爪もあります。しかし、それ以外は、人間の身体です。ほぼ猫の人もいます。サイズは人間でけむくじゃらだったりする獣人もいます。獣の本能が勝ちすぎると人間の言葉をしゃべれなかったりもします。
そして、もう一つ、人間の部分が勝っている者たちに奇妙な能力を持つ者が生まれました。彼女の場合は、サイコメトリー。物に触ると、残った人の残留思念が頭の中に広がります。全ての獣人にその能力が与えられたわけではありません。昔、ほんとうに大昔、人間には、そういう不思議な力があったという説を唱える者もいます。獣と融合し本能が勝ち昔の力を取り戻したのではないか、と。何が正しいかというのは、今の獣人にはわかっていないでしょう。知る必要がないからです。毎日生き延びることで精一杯なのです。
「私には、興味がない話だけどね。今、自分には確固たる力があるし、それを使いこなせる技量もある。当然あるものについて、疑問は持たない」
彼女は、現在の獣人のあらましを聞いた時、そう答えました。彼女は猫です。自由と奔放な気質は、受け継がれ続けているようです。
猫であり、身軽な彼女は、建物の上を飛び跳ね、今日も過去を見に行きます。雪と氷に包まれてさえ、東京という廃墟には、過去がたくさん詰まっているのでした。まだ人々が獣人になる前の記憶がたくさん眠っているのです。
それは、彼女が散歩をしている時にたまたま見つけた物を掴んだ時でした。本当にその辺りに転がっている空き缶でした。そこには、今の寒くて冷たい世界ではない、暖かくて生きている世界が広がっていました。何百年も前の東京の街が、広がったのです。人々が活き活きと歩いていました。その中に缶ジュースを飲む人を発見することができました。後から来た女性に頬を叩かれていました。彼の思いが、その空き缶に残留していたのです。
その頃、彼女は、思春期と呼ばれる時期で、最も能力が安定しにくい時期だったせいもあって、能力が暴発してしまったのでした。ですが、その感覚は、忘れられないものになりました。彼女は、こうして暇があれば、外に出て、過去を楽しみました。まるで映画鑑賞のように。
いつものように、その辺りに落ちているものを拾った時でした。
バチッという電気が放出されたような音が聞こえ、今だかつて経験したことのないような現象が目の前に広がっていました。
過去の東京の街が見えているのです。視覚的に。ありえません。彼女の能力はサイコメトリーです。映像が自分だけに見えることがあっても、目に見えることはありませんでした。今までは、頭の中に広がっているだけの映像がまるで本物のように目の前に広がっているのです。触れられそうなほど細微に再現されています。偶然にも一面に積もる白い雪が、スクリーンの役目をしています。とても美しく幻想的な光景になっています。彼女は、衝撃と感動で目を奪われています。
「うわっ!」
誰か変声期を迎えたばかりのような男性の声がしました。
「誰?」
彼女は、警戒しながら後ろに振り向きました。
「何これ! 街? 人? どうして?」
そこにいたのは、金色の目をした豹でした。ほぼ人間ですが、少し毛深く耳と尻尾がある男の子でした。彼女と同じ程度に獣と混じっている男の子です。彼がなぜ豹かわかるのでしょう。同じ猫科の種族からすればわかるようです。猫より高位という位置づけになっているからです。猫である彼女からすれば悔しいことですが、ぬくぬくと人間に庇護されて生きてきた猫と違い、野生で豹として生きてきた種族には身体能力や、生き残る力には、雲泥の差があるのです。
「君は猫?」
「あなたは豹?」
「僕は、正確には雪豹」
「ふうん、で、この現象に覚えはある? あなたの能力なの?」
彼女は興味がなさそうに早口で会話をします。視線は、ずっと映し出されている大昔の東京の景色に向けられています。
「違うよ。僕の能力じゃない。いや、たぶん、僕の能力ではあるんだけど、僕だけの能力じゃないっていうのが正しいかな。僕の能力は、幻影を作り出す能力。自分の知っている過去の情景しか作り出せないんだ。知らないものは作れない。だから驚いてる。こんな古い記憶持っている獣人は、全世界探してもいないはず……いや、そうか、君はサイコメトリーかな。その能力は、そんなに簡単に発現するものではないはずだけど」
「他の人がどうだか知らないけど、あたしは、それほど強い残留思念じゃなくても見えるみたい」
「へぇ、君自身が強い力を持ってるんだ」
「比べたことがないからわからないわ」
「これ、いつ終わるんだろう?」
「知らない。けど、いいじゃない。邪魔しないで。こんな眺め一生拝めないかもしれないわ。触っても感覚はないのね」
「僕の幻影は、視覚的だけだよ。感覚的には作用しない。あ、僕、キャッツカフェってとこに行かないといけなんだけど、君場所わかる?」
「知ってるも何も、そこの店長は、私よ」
「じゃ、案内してくれる? カフェじゃなく、裏の仕事の依頼に来たんだ」
「そう。これが終わったらね」
「えー、僕、三日かけてここに来たんだよ。早くゆっくりしたいんだけど」
「ここでゆっくりすればいいじゃない? うるさいから話しかけないで」
心底うるさそうに言うと、彼女は目に全神経を集中させました。
「こんな外の寒いところでゆっくりしたくないんだけど……って聞いてないか」
猫は、目の前に広がる過去の街に夢中になっていました。
豹は、夢中になっている猫のことを好奇心に満ち溢れた目で楽しそうに眺めていました。
「シャル、お客さん連れてきたよー」
そこにいたのは、メガネをかけた長い髪の女性でした。全体的な印象は灰色です。ピンッと伸びた耳、ふさふさした尻尾が特徴的のキリッとした美人でした。
「コラット、あまりあっちにフラフラこっちにフラフラ出歩かないでって言ってるでしょ。あら、いらっしゃいませ。どのようなご用件で?」
「裏の依頼だってー」
「知り合い? では、こちらへ」
「さっきそこで会ったのを知り合いって言うなら」
「言わないわよ。お名前は?」
「シムランです。あなたは、狼ですか?」
「ええ。あなたは、豹ですね。どのような依頼ですか?」
「ここのオーナーからの紹介なんですが、コラットって人にお願いしてほしいと言われました。これから、行くところにオーナーもいるそうです。詳しい依頼は、そこでって話でした。依頼者は祖父。僕は、お迎えで護衛みたいなものらしいんですが」
「コラット、何か聞いてる?」
「うーん、オーナーが何か言ってたかも。出張依頼って珍しいわーって思ってたけど」
「つまり、コラット自身は何も準備してないし、私たちキャッツカフェの店員に何も言ってないってことね」
「そうなるねー」
「コラット、あなたはいつもそう! オーナーが関わってるってことは、断れない筋からの仕事でしょう! 受けるって決まった時点で留守を任せる私たちに予定を言うように口を酸っぱくしていつも言ってるでしょう!」
「ごめんー」
「すいません、早めにどうするか決めてもらえますか? 仕事を休んできてるんで、あまり時間がなくて」
「お客様を放っておいてすみません。コラットがこの仕事受けるそうです」
「シャル~それって決定?」
「当たり前でしょう!」
「そんなに怒らないで、シャルロッテ。眉間のしわが深くなるよ?」
そこにいたのは、常連の狼と融合した者達の子孫の色男でした。シムランは突然出てきた男に驚いたようでした。
「気配が全然なかった。 あなたも狼?」
「そう、アーデルベルトって呼んで。あえて気配を消してたんだよ。常連たるもの、他業務の邪魔をしちゃいけないからね!」
「キャッツカフェには良く来るの?」
「そう、ここがオープンした当初から通ってるんだ」
「へ~それはすごいね。変なこと聞くけど、どこかで会ったことないかな?」
「下手なナンパ? 悪いけど、俺はシャルロッテ一筋だから! 手を出したら許さないよ」
「男を口説く趣味はないし、会ったことないならいいよ」
シムランはドン引きだ。その冷たい視線も気にせずにアーデルベルトは続ける。
「シャルはね、そのキュートなメガネと、しっかり者の気質、お説教キャラという素晴らしい美徳があってね! シムラン、君のその冷たい視線もなかなかだね!」
「もうしゃべらないでくれる?」
「なんでだい! シャルの魅力を語る人がいなくて寂しかったんだよ!」
「いや、興味ないし。あったらあったで、怒るでしょ」
「君は若そうなのに、良くわかってるね!」
「猫の店長! 一緒に来るんでしょ。早くしてくれる? それとも、お客を泊めてくれるの? キャッツカフェは」
シムランがじれったい様子で言う。日暮れ前に出発したい、とひとりごちていた。
「カフェはホテルとは違うので宿泊はお断りしています」
シャルロッテが冷静に言い放つ。
「ただ、あなたは、ずいぶん汚れていらっしゃるようなので、シャワーぐらいはお貸しますよ」
「話がわかる店員さんだね、シャルロッテさん。慣れてはいるけど、三日間風呂なしって辛いんだよね」
「え! あたしも行くとなったら三日間風呂なし?」
「当たり前だろう。僕の足で三日だから、君と一緒ならもっとかかるかも」
「うげー」
「コラット、お客さんに対しての態度を改めてください。シャワーを浴びてもらってる間、出発の準備をしていてくださいね」
「いくら親切にされたからって、シャルは好きにならないでよ!」
アーデルベルトは気持ちいいくらいに無視され、シャルロッテは、シムランを案内していた。
「コラット、どうしてシャルはあんなにツレないんだと思う?」
「ツンデレってやつでしょう? アーデルベルトさんにはデレないけど、私にはデレるよ」
「初めて聞いたよ。それは、ショックだ!」
「私、出発の準備しなくちゃ」
頭を抱えているアーデルベルトをカフェの店内に放置し、コラットは同じ建物内にある自室に向かう。
「あらあら、どこかへお出かけするの?」
「ニア。聞いてよ! 出張なの、遠出なの。行きたくないわ~」
彼女は、白くまと融合した者達の子孫。名前をハイーニアという。呼びにくいのでニアという愛称で呼んでいる。このキャッツカフェの店員の一人だ。オーナーが猫というだけで、このキャッツカフェには、いろいろな種族の店員やお客がくる。
「それは、大変ねぇ。気を付けていってらっしゃい」
最年長で、おっとりしているが、彼女は、白くまだ。怒らせるとめちゃくちゃ怖い。女性にしては大柄で耳と丸い尻尾がある。白くまは、例外なく怪力という特殊能力を持っている。怪力が特殊能力かはわからないが、数も少ないし、白くまは全員怪力だ。ハイ―ニアのおかげで力仕事は助かっているが、怒ると手が付けられないくらい、周りの物を壊す。このキャッツカフェにいる全員が、彼女を絶対に怒らせないようにしている。
「外は危ないけど、護衛は大丈夫なの?」
ハイーニアは、その怪力で主に護衛や、戦闘面で活躍している。もちろん、裏の仕事で。カフェでは、おいしいお茶を入れてくれる。
「依頼者の孫の豹が来てる。片道三日もかかるんだって! ニアはお留守番してて」
「あらー三日? 女の子には辛いわねぇ」
「そーだよね! オーナーもこんな仕事受けないでほしいよ」
「こんな世の中だものね。各方面から圧力をかけられているのでしょう」
「仕方ないってわかってるけどー」
「コラットお出かけなの?」
「アリス~」
羊のアリス。彼女もキャッツカフェの店員だ。彼女の能力は千里眼。見たいことを見れる最高の能力だ。白い垂れ耳とポテッとした尻尾がある。
「気を付けてね。外は寒いし危険だもん」
「ありがとう。アリスを抱きしめたままでいたい」
「早く行きなよ。シャルロッテにまた怒られるよ」
「うーシャルは怒りすぎだよー」
こうしてコラットは、シムランと共に依頼主が待つ地へ行かされることになったのだった。
「シムランって何歳なの?」
「産まれて十七年」
「私より一つ上なんだ」
「店長って大変?」
「楽しいわよ。キャッツカフェは、安息の地だから。この世で唯一のね」
いろいろな話をしながら目的地までの道程を進んだ。
だが、次第に飽きてくる。猫はそういうものだ。
「もーいや! 帰りたい!」
「早いよ。まだ半日も経ってないよ」
「今日はどこで寝るの?」
「廃墟の屋根があるところとか、雪に穴を掘ったり、木根の間とかで寝る」
「信じられない」
「信じられなくても、そうするしかないよ」
「帰りたいよー」
コラットは、半泣きだった。
冷たいし、寒いし、寝心地は悪いしでコラットは眠れなかった。シムランを話に付き合わせた。これを最低でもあと三日続けるのは、拷問としか思わなかった。もう、キャッツカフェに戻れるような距離じゃないこともわかっていたが。
「シムランは普段何をしてる人なの?」
「仕事かな」
「何の仕事?」
「僕は、軍にいる。猫科の組織軍。戦争してる最前線にいる。毎日、血なまぐさい話しかない。時々、わからなくなるよ。目の前の人を殺さなくていいのかどうか。今日、死ぬかもしれない」
淡々と語っているシムランをコラットは初めて怖く感じた。
「私たちが生まれた意味ってなんなのかしら? この極寒の亡びるはずだった世界に動物と融合してまで生き残った意味はなんなのかしら?」
今日の朝に見た東京の記憶が甦る。東京の過去を見続けていたコラットには、過去がとても平和に思えた。
「それがわかる人は、初めて動物と融合した人達だけだろうね。僕たちにできることは、生きることだけだよ。意味を求めず、日々生き残ることだけを考えるしかない」
さびしい、とコラットはつぶやいた。
「今も尚、種族間の争いは続いてる。快適に暮らせる少ない土地を奪い合って生きてる。種族が違うと習慣が全然違う。同じ種族間でも争いは起きるのに、違う種族となれば、理解できないことだらけなのは、仕方ない。けど、動物と融合してまでして生き残ったのに、どうしてこんなことが起きてしまうのかしら」
「人間の書いた昔の本や書類は数多く残っている。それを見ると、人間は欲深い生き物だった。しかし、理性でそれを押さえていた。だが、動物と融合したことで、人間が本来持っていたはずの理性がうまく働かなくなった。本能に近い行動をとるようになってしまったんじゃないかと思う。僕たちは、ある意味で自由になれたのかもしれない。人間という檻から外れたんだ。それは、むしろ、良かったことのように思う」
「こんなに寒く厳しい環境でも?」
「尚更ね。生きること以外、考えないじゃないか。余計なことを考えないのは一番だと思うよ。
暇だと人は余計なことを考える。何かに載ってた、暇は最高の劇薬だって。だけど、明日の食事をどうしよう。明日の寝床はどうしよう。どうしたら安息の地を手に入れられるか。それを考えていれば、僕たちは他のことを考える余裕なんてなくなる」
「良いことなのかしら。それは」
「そんなの誰も知らないよ。知る意味もない。僕たちは、自分の生活を良くすることしか考えない。余計なことを考えるのはやめなよ」
「考えちゃうわ。だって、私たちは知識がある。半分は獣だけど、半分は人間だわ。悩むのは人間でもあるからでしょう。それともあなたは獣なの?」
「獣だよ。君の服でもこの爪で掻き破る?」
「わたしを凍死させないだけの理性があればやめてほしいわ」
「どうやら、僕も半分は人間みたいだ。ちゃんと君を凍死させない理性はあるみたいだからね。だいたい、僕らは猫科だから、発情期の時期にならないと交尾はしないしね」
「あら、人間は万年発情期じゃなかったかしら?」
「誘ってるの?」
「冗談言わないで。ここで脱いだら、凍死よ! ちょっ、目が本気なんだけど!」
「じゃあ、後で責任とってもらうからね」
「責任って何よ、変な責任じゃないでしょうね」
シムランはくっくっと声を殺して笑っていた。からかっているのだ、コラットを。どういう理由かはわからないが、コラットの頬がみるみる赤くなる。
「隣でくっついて寝るのはいいよね? それこそ凍死しちゃうよ」
シムランがコラットを引き寄せると、観念したようにコラットは猫のように身体をすりつけてきた。兄妹がいたらこんな感じなのかもしれない。シムランの大きな身体にコラットはすっぽり包まれた。重なって一緒に眠る猫のように。
「仕方ないわね。それこそ後で責任とってお金払ってもらうから! 依頼料上乗せだからね」
「この世では、あまり価値のなくなったお金に執着するなんて」
「今でも、種族間で交渉する時、昔の金銭を使うわ。今度キャッツカフェに来たとき、お茶を注文するといいわ。お金とるから。あそこは、いろいろな種族が入り乱れてる。絶対の価値を持つものを決めていないと、混乱が起きるわ。だから、お金を使うの。種族を問わずにお金を貰えば何でもする。それがキャッツカフェよ。お金を持ってない人もいるから、代償という形にすることもあるけどね……」
なぜか静かになった。あれほどしゃべっていたコラットがピタリとしゃべらなくなった。くっついて温まったので眠くなったのだろう。
「コラット? ……って寝てる。寝付きが良すぎるね。……寝顔、可愛いけど」
「……むにゃむにゃ……」
幸せそうなほっぺたをつつく。眠って体温の上がったコラットにつられ、シムランも眠くなってきた。久しぶりに満たされた気持ちで眠れそうだ、と思った。
明日も、明後日も歩いて目的地まで辿り着かなければならない。ある決意を胸にシムランは目を閉じた。
「心配だわ。大丈夫かしらコラット」
シャルロッテとアーデルベルトは、このキャッツカフェ創設時からの知り合いです。同じ狼で気心も知れています。アーデルベルトがただの熱狂的なファンという見方もできますが。狼は、キャッツカフェの経済的支援者です。猫との共同経営という形になっています。
「コラットは大丈夫だと思うよ。シムラン君はどうだろうねぇ。実は俺、依頼を受けてるんだ。今回、ここに寄ったのも、それが理由」
アーデルベルトは狼の軍に所属している。軍にきた不定期な依頼をこなすこともある。
「どんな?」
不安そうな顔でシャルロッテが聞いた。
「とある人物の暗殺」
「まさか、シムラン君を?」
「ふふふん。暗殺まではいかないけど、コラットちゃんの前でカッコ悪く倒しちゃう予定だよ」
「ふん? 貴方が?」
「それどういう意味だよー」
「あまりあなたが戦うところが結びつかなかったものだから」
「失礼だなー、これでも強いんだよ。シムラン君がどんな顔するか楽しみだな」
「悪趣味ね」
「そうかな? 依頼だし」
「気を付けてね。貴方もシムラン君も怪我しないように」
「一緒にくる?」
「コラットもいないのに、私までキャッツカフェを離れることはできないわ」
「そう、残念。でも、君はきっと俺より早く勝敗や結果を知ることになるんだろうね」
「そうね。私の能力は未来予知だから」
シャルロッテの能力は、完全なる未来予知でした。寝ている間に夢で未来を見るのです。ただし、制御することは難しいのです。
「ただ、望んだ未来を見ることはあまりできない。今、意識したことで見る確率が上がるかも程度。情けない能力だわ」
「未来なんて不完全なものを見るのに、百パーセントなんてありえないよ。未来を予測できるだけで奇跡みたいなことだよ」
「奇跡……ね」
「どうしたの? 浮かない顔して」
「うんうん、幸せな未来も見たら、この能力を誇りに思うわ。けど、私は、不幸せな未来しか見ることができない」
『悪魔の子!』
『気持ちが悪い。この子の言った良くないことは必ず当たる』
「シャル?」
アーデルベルトが怖い顔をしていました。何を考えていたか見透かされたように。二人が長い付き合いだからできることでした。
「貴方が心配するようなことはないわ。そろそろ依頼に行かないと間に合わないんじゃない? 追いかけるんでしょ、コラット達を」
「そうだけど、俺は、シャルが悲しむのは見たくない」
「それは、貴方のエゴでしょ。ほら、早く行きなさい」
シャルロッテの能力は、危険予知能力の最高版です。集団で生活して役割に特化して個々の能力が偏った狼に多い能力なのでした。
なめらかな白い雪原が陽の光にキラキラ光っています。雪を見たことがない人だったら、その優美な姿に見とれることでしょう。コラットは、うんざりした様子でその風景を眺めていました。
「もう、やだわ。これ以上、雪原見たくない。白すぎる。目が痛い!」
「仕方ないでしょう。僕はずっと白い世界を歩いてきたよ」
「よく気が狂わなかったわね」
シムランは肩を竦めました。
「なぁんか、嫌な予感がするんだよね」
「どうしたの?」
「首の後ろチリチリするんだ。追われてる感じ」
「雪豹が追われるなんてことあるの?」
「獣だった頃は、追うことしかなかったろうけど、今は獣人だよ? 追われることだってある。こういう勘外れないんだよね。あーやだな」
「何かくるってこと?」
「来ないわけなんだよね……」
コラットと同じく何かにうんざりしたようにシムランは溜息をつきました。
それは、右側からの風切音でした。気配も音もなく、たった一撃の攻撃で致命傷を負わせようとする容赦ない攻撃。相手は相当の手練れであると判断できます。
「よく受け止めたね」
シムランは、咄嗟に脇差していた剣を引き抜き、襲撃者からの攻撃を防ぎました。彼の剣は柄が短く、剣先がカーブしていました。
「避けなかったら死んでたよ」
シムランは笑顔を作っていますが、その額からは、汗が流れ落ちていました。
「アーデルベルトさん!」
コラットが叫びました。
「本当は、一撃で倒してしまいたかったんだよね。君は、長期戦になると厄介そうだ」
アーデルベルトは、不遜な態度で言いました。いつもキャッツカフェで見せているようなシャルロッテ命というような態度からは想像できないような、傲慢さを孕んでいました。構えるのは変わった形の剣でした。ツーハンドソードという名前の剣です。刀身が長く、柄が二つに分かれていて一つ目の分かれ目に掛け手のような持つところが付いています。突き抜いた時にその取っ手を掴み引き抜けるようになっているのです。一発でも当たれば、突きによって致命傷になるような穴ができるでしょう。切れ味はあまり良くなく、叩き斬るという感じでしょうか。両手で使います。使い勝手は悪そうです。
「コラットちゃん前で格好悪く倒してあげるよ、シムランくん」
「お断りしますよ、アーデルベルトさん」
キィン、キィンと剣が打ち合う音が雪原に響き渡ります。剣を振る力は、アーデルベルトが圧勝でした。ですが、シムランの動きは、まるで踊るようでした。ヨガのポーズが動いているような、滑らかで、予測のつきにくい動きでした。柔らかい手首の動きで重い剣を受け流しています。体力を使い両手で力強く振り下ろす剣を軽くあしらわれては、アーデルベルトの体力が持ちません。
「埒が明かないな」
アーデルベルトの瞳が光りました。そのたび、剣が早く動くのです。まるで、シムランがどちらに剣を振るかをわかっているかのように。少しずつシムランの服や皮膚をアーデルベルトの剣が突き、端々を切り裂いていきます。
「なぜ、僕の動く方向がわかるんだ!」
シムランの動きは読みにくく、剣だけでなく、蹴り技や投げ技をも得意としています。それをことごとく止められるのは、不思議でなりません。
「さあ、なぜでしょう?」
「まさか、あの狼軍のアーデルベルト! 噂では、不完全な先読みを持っているという」
「失礼だなぁ。不完全じゃないよ。ほとんどその通りになるよ」
一瞬しか先が読めないからね、とシムランに聞こえないように彼はつぶやきました。アーデルベルトの先読みは、必ずそうなるというわけではありません。自分の動きや不測の事態で一瞬先が変わることがあるのです。シムランの傷はだんだん増えてきます。
「いっそこのまま殺してしまえば、戦場での敵を減らすことになるね。猫軍の若き将軍シムラン。若くして大抜擢。現頭首の孫だか何だか知らないけど、実力不足じゃないの?」
それは、コラットに聞こえない程度の小さな声でした。シムランは、激昂しました。
「僕は僕の実力であの仕事をしている! お前に何がわかる」
空気がビリビリと振動しました。それは、王者の気迫でした。ただ、敵の挑発に乗って相手を怒鳴るという冷静さを欠いた行為は、上に立つ者の資格ではありません。その気迫にアーデルベルトでさえ、一瞬動けなくなりました。シムランはそれを見逃しませんでした。彼の能力が発現します。分身したのでした。どれが本物かわかりません。
「やりにくいな。未来を読みにくい」
アーデルベルトの能力は、一瞬先を読むことですが、対象が何人もいる場合、現実の能力でなく、物理的な視覚で見なければなりません。つまり、どんなにその能力で先を読もうと、視覚的に情報として脳が受け取る映像は多くありません。映画のスクリーンを三画面も四画面も見て、今、一番大事なことが起こっているスクリーンを正しく選び、その対処まで行うという過程が煩雑なのです。一人しかいなければ、一スクリーンで済むので、その過程が必要ありません。ツーハンドという使い勝手の悪い武器を活かせるのはこの能力のおかげなのです。
「能力の相性が悪いな。残念、疲れてしまったよ。ここは、戦場じゃないし、神経削ってまでいろいろやりたくないし。それだけ傷を負わせれば、合格だよね」
アーデルベルトから一切の殺気が消えました。剣も収めました。
「驚かせてごめんね。コラットちゃん。シャルに言っておいて、アーデルベルトは強かったってね!」
あれだけの大剣をまるで自分の腕のように振るうのです。技術ではなく、体力がいるのでしょう。
疲れたー、さあ、キャッツカフェに帰ろう、とぼやきながら、彼は二人の前から去りました。
「あの人強い。戦場で会って、あのまま予知を使い続けられたら、死んでたかも」
「手当しよう」
「大丈夫だよ、見かけほどそんなに酷くない。頑丈なのが取り柄だからね」
「見てて痛々しいから。悪いけど、大したことはできないし。アーデルベルトさんあんなに強かったんだ。キャッツカフェにいる時には、全然わからなかった」
「あの人、相当な場数を踏んでる。ヤバイ戦場を潜り抜けてきた貫禄を感じる。それに、あの剣。僕が使ったら十分も体力が保たないかも。相当、鍛練積んでる」
シムランの持ち味は、素早さや、相手をかく乱する動きなので、ツーハンドソードを使えば、持ち味が死ぬでしょう。
「シャルは、これを知ってるのかしら?」
「知らないんじゃないかな」
「言った方がいいのかしら」
「言ってもいいって、さっき話していたけど、信じるかな? キャッツカフェにいた時、正直そんな人には全然見えなかった。体力や腕力があるように見えない。普通に細いよね。狼だからなのか……」
「アーデルベルトさんって謎な人だったんだ」
「いや、強い人は、隠すのが上手いよ。謎な人じゃない。軍に所属してる人ってだけだよ」
「シムランも強いね」
「まだまだだよ。アーデルベルトさんに勝てなかった」
「でも、負けもしなかった」
「そうだね……今度は勝つ」
それは、戦場で、殺し合うことを意味していました。勝つということは、相手を殺すということです。現在のこの世界の価値観では、それは決して間違えていることでもなければ、当然のことなのです。彼らは半分獣なのですから。強い者が残り、弱い者が死ぬ。知恵のない種族は滅び、知恵のある種族は存続する。簡単な理なのです。
「今日はかまくらを作ろう!」
シムランが不思議な提案をしました。
「なんで?」
「今日は、かまくらに泊まろう!」
「だから何で?」
「そういう気分なんだよ。久しぶりに空がないところに泊まりたい!」
「いつ以来かな。子供の時作った以来」
「ほら、早く!」
二人は無言でせっせとかまくらを作っていました。
「できたー」
やっと形になった時、二人の手や足は冷え切っていました。
「ていっ!」
「ちょっ、なんだよ!」
コラットがシムランに雪玉を投げつけました。
「寒いし、歩くのは疲れるし、雪は重いし、手は冷たくなるし」
「それって、ただの八つ当たりじゃん!」
「私はシムランほど、ふわふわの毛が残ってないの!」
「おりゃ!」
「きゃ!」
「そっちは、幻術フェイク!」
「いった!」
コラットとシムランは雪玉を投げつけあっています。微笑ましいです。若干、リア充爆発しろレベルです。
「ごはんにしようか。今日は干し肉と固いパンだけじゃなく、あったかい汁物を作ろうか。かまくらの中なら、火を炊いても大丈夫だし」
「やったー、久しぶりのあったかいご飯♪」
猫が背筋を伸ばして身体をほぐすように、のびーとする動作をコラットがしました。とても似合っています。
「あったかいものを食べると満足感があるね。外が寒いから尚更」
「久しぶりの暖かいご飯で嬉しくて泣きそうだったよ」
ずっと外で野宿しているシムランにとっては、それだけで
その日の夜、コラットはかまくらで横たわりながらシムランに疑問を投げかけました。疲れすぎて逆に眠れないのです。
「どうして争うの。皆仲よく分け合えないの? こうして広い雪の大地を歩いていると思う」
「争うのが好きだからじゃない」
「たくさんの人が死ぬのに?」
「自分は死なないからいいんだよ」
「死んだ人は、なんで死ななきゃいけないの」
「コラット、寝ぼけてる? 死人に口なし、何も言わない。何も言えない人は人じゃない。だから、いいんだよ。何の罪も負わない。だって自分の手は汚さない。自分で殺してないからね」
「それって誰のこと?」
「それは、内緒」
「ずるい」
「君は、強欲な人を見たことがないから言えるんだ。自分は見ているだけ。けれど、自分の思い通りに事を運べる者を」
「それは、今回の依頼と関係あるの?」
「僕の話とは関係ないと思うよ。祖父から依頼の内容は聞いてないから。関係あったほうがいいの?」
「ないほうがいいけど、暇なんだもん」
「この道程、長すぎるよね」
「うん、なんでこんなに長いの」
「僕は往復してるんだよ。うんざりだよ」
「こうして寒空の下に穴を掘って、毎日抱き合って寝るのも飽きるわ」
「来た時の、一人より暖かし、快適なんだけど、さすがに生殺しだよね」
「何が?」
「だいたい、抱き合って寝るのに、何にもしないっていうのは、男として失格なんじゃないかな?」
「別に失格じゃない。紳士よね」
「紳士って……僕は獣だよ」
「私だって人間じゃないけど、獣ってわけでもない。中途半端。だから、別に何もしなくてもいいじゃない?」
「どうしてさ? 中途半端でも獣なら、何かしたいと思うでしょ」
「寒いし、こんなところで何かしたいと思わない。何かしたいの?」
「そりゃね。昨日は思ったけど、慣れてくると何も思わないね。この長い道のりで疲れてもいるし」
「きっとこれは、いろんな思惑が絡んでる。きっと、依頼は、私とあなたの問題なんでしょうね」
「どうしてわかるの?」
「普通こんな長い旅、男女二人でさせない。あわよくば、と思ってる証拠。それっぽいこと言われなかった? あなたが来た本当の理由はそれじゃないの?」
「なんで、そんなことわかるの? ……ああ、コラットは、サイコメトリーだったね。見えたんだ。こんなに近くで寝てるんだもん。触れるよね、僕の物に。迂闊だね。いや、コラットが能力を使うことを見越して、僕たちに発破をかけてるのか。能力者同士の子供は、能力者に産まれる可能性が高い、だもんね。でも、能力者同士の子供は、生まれる確率が低い。相性が良くなければ、子供は産まれない。この旅で相性を測られているのかもね」
「大人って汚い」
「これから、僕らも大人になるよ、というか、獣ならとっくに大人だよ」
「なりたくない。大人になんて」
「我がままだね。僕には、弟が四人いる。だけど、純粋な雪豹は、もうそれで最後なんだ。雪豹は、身体能力も高いし、能力者が産まれる可能性も高い。けど、雪豹の雌はもういない。いや、世界の裏側にはいるかもしれないけど、僕が生きているうちに会うのは無理だろうね。でもさ、純粋じゃない雪豹ならいる。君だってそうでしょ?」
「そうね、母親が雪豹だわ。父は猫。ハーフの子供は繁殖能力が低いって言われてるわよね?」
「できないわけじゃないよ。事例は何件もある。元々、半分は人間だし」
「そんなこと聞きたくないわ!」
「だけど、僕がここにいる理由は、それじゃないよ。確かにそれも言われたけど。……もう寝ようか」
コラットは返事をしなかった。そのまま夜は更けていった。
彼は、真正面から、まるで散歩でもするような気軽さで寄ってきました。
「やあ、こんにちは」
シムランににっこり笑いかけてきます。その瞬間、身体が宙に浮き、吹っ飛ばされました。そうです、シムランがです。大鉈で峰打ちされたのです。
「結構吹っ飛ぶね。君は軽いのか」
「ルアさん!」
そこにいたのは、キャッツカフェの常連の白くまのルアでした。
「ルアって昔のどこかの言葉で“月”って意味なんだ。って聞こえてないか。店長、ごきげんよう。貴方には絶対に怪我をさせないように言われています。手を出さず、見ていてください」
白くまは、最強の戦闘種族です。そのパワー、体術、全てが最強レベルなのです。また、彼らの特殊能力は総じてパワー系に寄っていて、能力のない白くまは生まれたことがないというのが通説です。もしくは、能力のない者は生き残れないのでしょう。
「びっくりしたー」
シムランは空中で回転し、うまく着地したようです。
「君をコテンパンにしに来たんだ」
「白くま相手って、信じられないんだけど」
「大丈夫。命を取るのは契約違反だ。まあ、死んでも文句は言われないだろうけど」
「あなたがそう言うと、冗談に聞こえないよ。契約は遵守が当然。白くまは数が少なく、国に属さない傭兵だ。そんなことしたら、命取りだってわかってるくせに」
「でも、僕に勝てるかな?」
ルアの余裕の笑顔を見て、シムランは下唇を噛みました。血が滲むほどに。悔しいからです。力の差は歴然としている事実は今すぐには覆せません。
「勝ってみせる!」
「威勢が良くとも、現実は変わらない」
ルアは、ほどんど動かずに大鉈を振るっています。シムランは相手をかく乱するように幻術を使い剣を振るっていました。
「幻術という特殊能力を使っても、攻撃が単調だ。君は若い。そのせいかな」
ルアは笑っています。まるで、今日は晴れだね、という世間話をするレベルです。
「それに、攻撃が軽い。簡単に吹っ飛ぶ。どうやったら、僕みたいな超重量系の相手に勝てるかを考える必要があるね。特に僕には小手先の能力がない。だから、力比べになっちゃうんだ」
師匠が弟子に稽古をつけるような軽い口調でした。
「しかも、その惑わすための奇怪な動きも、結局、相手である僕に届く前に剣筋を見られたら、終わりだ。直前で見極められる目のいい人なら簡単に止められる。遮二無二じゃなく、考えて動きなさい」
最後の一撃でした。まるで、周りを飛ぶ蠅をちょっと払うかのように、自然に強烈な一撃がシムランを打ち払いました。鉈の峰打ちでした。腹部を強打されたシムランは軽々と吹っ飛び地面に落ち立ち上がることができませんでした。そこへ、ルアが近寄ってきます。コラットは、その光景を見て、ルアがシムランに止めを刺そうとしているように見えてしまったのです。
「やめて!」
咄嗟にコラットは、ルアの前に飛び出しました。実際、ルアはシムランの無事を確かめようとしただけでした。その隙があったための偶然なのか。コラットは、ルアの武器を奪うことに成功しました。その際、柄についているストラップを掴んでしまいました。そのまま、柄とストラップを掴みながらコラットはシムランの上に倒れ込んだのでした。コラットの頭の中に、そのストラップが持つ記憶がなだれ込んできます。かわいい花形のストラップでした。ルアの武器である鉈についているのが不自然なファンシーさでした。
『私は、子供なんていらない!』
シムランにも、まだ意識がありました。そのため、コラットがサイコメトリーした内容が幻影となり、辺りに映し出されました。
「ハイーニアがいる……」
コラットがつぶやきました。そこに居たのは、キャッツカフェの店員、白くまのハイーニアでした。今より随分、若い姿です。今でも十分、若く見えますが、彼女はいったい何歳なのでしょうか。
『おじさん、私は母親みたいになりたくない。何と言おうと、私のような不幸な子供を増やしちゃだめ』
『君は痛みを知っている。繰り返さないだろう?』
『それでもいや。自信がないの……』
『そんなことを言わずに、遺伝子をのこしてほしい』
『わたしじゃない人と残して』
『愛してるのは君だけなのに、そんなことを言わないでくれ』
『双子が生まれたら、母みたいに、一人の子を育児放棄するかもしれない。そんなの耐えられない』
『君は育児放棄の犠牲者だ。だからといって君まで母親とおなじことを同じことをすることはない。それに、私がいる。君は、何の心配もなく、産んでくれればいい』
『おじさんの馬鹿!』
『ルア、だよ。ハイーニア』
思い出が急速に消えていきます。同時にシムランの意識もなくなりました。
「……懐かしいな。そうか、そのストラップは、あの時、ハイーニアがつけていたんだ。会いたくなった。それにしても、君たちの能力はすごいね。過去を映すだけでなく、声まで聞こえたよ」
「私にもわからないんです。こんなことが出来たのは、シムランと出会ってからです」
「相乗効果かな。時々、とても相性のいい相手が近くにいると能力が相乗して、ものすごい力を発揮できる人もいると聞いた。君たちの力は、とても使える。そして、稀有だ」
ルアは何の前触れもなく、高速回転でコラット達に背を向けました。
「君たちに触発されたよ。早く僕の女王様に会いたい。悪いけど、先に帰るね。良いことを思い出させてくれたお礼にシムラン君、次はちゃんと稽古をつけてあげるよ」
ハイーニアとは、昔の日本ではない国の言葉で女王様という意味です。ルアは信じられない速さで走っていきました。その姿は、本能に忠実な獣のようでした。
ルアは、最速でキャッツカフェに来ました。常連として、慣れた様子でカフェ内に入り、たまたまカウンターにいたハイーニアにちょうど良く会うことができました。
「あら、ルア、どうしたの? シムラン君のところに行ったんじゃなかったの?」
そう、ハイーニアは、ルアのことをルアと呼ぶようになりました。そうなるまでは、また別のお話です。
「行った。格好よく勝ってきたよ」
「そう、さすがだわ」
「どうしたの?」
「昔のことを思い出したんだ」
「そう? 昔のことなんて忘れたわ。ルアはずっと変わらずルアだわ」
微笑むハイーニアは聖母のようでした。もちろん、ルアはそれだけでないことも知っていました。苛烈な鬼のような顔もすることを知っています。
「君には、感謝しかできない」
「どうしたの、急に。息も切れて、ボロボロじゃない。なんでそんなに急いで帰ってきたの?」
「君に会いたくなって」
「いつでも会えるでしょう。そんなに急いで帰ってくる必要もないのに」
「いつでも会えなくなる可能性がある世界だよ、ここは」
「最強と謳われるあなたが?」
「人は、死ぬ時が決まっている。能力は関係なく、人は死ぬよ。たくさんの人の死を見てきたからね。昔の話である。初陣、大将が流れ矢に当たって死ぬんだ。あっけなく」
「ルア、あなたは、そんな風には死なないわ、絶対」
「それを聞いて安心したいだけかもしれない」
「それは、いつものことじゃない。悪いことなんかじゃないわ」
ハイーニアはルアの頬に手を当てました。
「あなたは、まだまだ戦わないといけない。私の自由と引き換えに、猫軍と傭兵契約を結んでしまった。私の意思を無視して。あなたと一緒に戦えば、きっと無敵でしょう。たくさんの敵を殺せるわ。だから、あなたと一緒に戦えない。ここで待ってるわ。」
ルアは、頬にあったハイーニアの手を握りました。彼女の瞳は、強く輝いていました。その瞳を直視できずに、ルアは俯きました。
「はぁー完全にやられた。格好悪い」
「起きた! 良かった。大丈夫?」
「ありがとう、雪に穴を作って寝せてくれたんだね。おかげで、だいぶいいよ」
「今日は、ここで野宿だね」
「そうだね。ごめん。僕がやられたせいで、だいぶ遅れてちゃった」
「仕方ないわ。でも、襲撃が一日に一回のペースよね。明日は、何もないといいんだけど」
「それは、明日考えよう」
「そうだね」
日が昇りはじめる早朝、シムランがいきなり起き上がりました。
「何?」
コラットは目を擦りながら起き上りました。朝が苦手なコラットは、不機嫌でした。
「敵だ」
シムランは剣を取り出し鞘を抜きました。外に出て、気配のする方を見ると、そこに人物が立っていました。
「天使?」
コラットが目を擦りました。朝日を背負って真っ白な羽を広げた影が存在していました。逆光のため細微な部分が見えません。顔もしかりです。
「ボスの命により、貴様の命頂戴する!」
飛び上がり、シムラン目がけて突撃してきます。手には、刀身が短めの日本刀を持っています。
「あっアイちゃん?」
コラットが慌てています。そこにいたのは、キャッツカフェでバイトをしているフクロウのアイでした。バイトなので、他に仕事をしていると聞いてはいましたが、これがそうなのでしょうか。
「ぼくは、負けるわけにはいかないんだ!」
叫びながら、アイは、シムランに日本刀を振り続けます。単調な攻撃で、感情的のため、剣筋は荒れています。剣も、その剣を振るう意思も弱いように思えます。シムランは軽くあしらって、少し戸惑っているようです。
「君は、本当に戦士? 戦う人? 違うよね。なんでこんなことしてるの?」
「違う! ぼくだって戦えるんだ! そうじゃなきゃいけないんだ!」
「何をそんなに必死になっているかわからないけど、悪いけど、僕は疲れてる。決着をつけさせてもらう」
シムランは信じられないくらいジャンプしました。そして、白い翼を叩き落としました。
「あぐっ」
アイはいとも簡単に地面に落ちました。
「はぁー。疲れた。もう、無理だよ」
シムランも地面に尻もちをついて空を見上げました。
「アイちゃん!」
コラットがアイに駆け寄ろうとした時です。
「コラット! それ以上近づいちゃダメだ!」
シムランが静止の声を張り上げました。必死でした。コラットがシムランを振り向くと同時に黒い影が舞い降りてきました。音もなく、気配もなく。シムランがコラットの前に庇うように立ちました。
「こんにちは、はじめまして」
その少年は薄ら寒い笑顔を湛えていました。底の知れない黒い瞳は、ほの暗く朝日に輝いていました。真っ黒な翼を持つ少年。
「死神……」
コラットが呟きました。それは、少年の耳には入っていなかったでしょう。ですが、コラットの表情から、少年は畏怖の感情を読み取ったでしょう。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。うちの、アイを倒してくださってありがとうございます」
「ありがとうございますって顔じゃないな」
「こんなに全開の笑顔でお礼を言っていますのに、酷い大人ですね」
「あなたは、誰?」
「これは、これは自己紹介が遅れて申し訳ありません。俺は、フクロウのケイです。キャッツカフェ店長コラットさん」
「アイちゃんの幼馴染だっていう? 家族も同然だって話してた」
「ええ。同じ里で一緒に育ちましたから。でも、これから、アイは、俺とは別々の道を歩くことになるでしょう。今日、雪豹の依頼を完遂できなかったことにより、里から出て、キャッツカフェで正式に採用されることが決まっていますから。店長、アイをよろしくお願いします」
「それは、全然構わないわ。オーナーが決めたことだし。でも、それでアイちゃんは、納得できるの?」
「本人次第でしょうね。俺もどうなるかは、わかりません。でも、任務の失敗を認めずにキャッツカフェに行かないことはないでしょう。そういうところは、律儀な子ですから」
「君は? 依頼は受けてないの?」
シムランが口を挟みました。その額には、汗が浮かんでいました。
「俺は、アイの付添と回収を仕事ではなく、自発的に買って出ました。依頼とは関係ありません」
「それを聞いて安心した。君とは戦いたくない」
「そうですか? まあ、俺なら、夜にするでしょう。気付いたら死んでいたっていうね」
「やはり、君は暗殺者か」
「そんなこと教えるわけないでしょう。ただ、アイを倒し、この稼業を諦めさせてくれたお礼に独り言をつぶやいただけですから」
ふわっと、音もなくケイは飛び立ちます。
「それでは」
彼は、始終薄ら寒い笑顔を浮かべていました。きっと彼の中に笑うという表情は存在していないのです。通常が笑顔なのです。ケイは音もなく飛び去りました。
「あの黒い子と闘わなくても良かった。今思い出しても怖い」
「アイちゃん……大丈夫かな……」
「キャッツカフェに必ず来るよね。その時、聞いてみたら? 話すとは思えないけど」
「うん、そうだね。店長は店員がちゃんと働けるようにするのが、お仕事だもんね」
コラットは目に見えて落ち込んでいました。
「歩こう。今は、それしかないからね」
「うん……」
コラットの心はキャッツカフェに縛られています。彼女の全てはキャッツカフェなのです。今、コラットの心はアイに向けられていました。
今夜は、廃墟を発見し、少しだけ快適な睡眠を得られそうな場所で寝ることになりました。コラットは溜息をつきました。シムランは疲れのあまりぐったりしています。疲れすぎて眠れないのかもしれません。彼は口を開きました。
「だんだん子供が産まれなくなってるって知ってた? 寒さが毎年酷くなっていってる。僕らは滅ぶ運命なのかもしれない。特に、僕ら猫科は、寒さに他の動物より強くない。それに、ペットとして長年愛玩されてきた猫は、争って快適な土地を奪えないほど弱い。気ままで、統率力もない。僕らの行先は、暗いのかもしれない」
「私は、いや! 生き残りたい! まだ、氷河期になって、そんなに経ってない。まだ終わるわけにはいかない。何のために生き残ったのかわからない。行先は暗いだなんて、そんなこと言わないで」
「泣かないでよ」
「死にたくなんてない」
「僕も同じだよ。だから、皆で生き残る方法を一緒に考えよう」
「皆で生き残る方法?」
「そう、キャッツカフェはそういう希望の場所じゃないの? 僕はある雪豹の女性から聞いたよ。キャッツカフェは理想郷だって。いろいろな種族の獣人が、仲よく暮らせるところだって。そこの店長のコラットは、一番の希望じゃないの?」
「私が希望?」
「僕の唯一の希望だよ、コラットは」
シムランのその時の笑顔は、元からずっとコラットの中に側にあったかのように馴染みました。純粋だと思いました。誰かをこんな風に信じられる人の笑顔はきっとそうないでしょう。コラットとシムランはまだ会ってから三日です。人を信頼することは、時間だけじゃないんだ、とコラットは思いました。きっと、この人は、どんなに時間が経っても自分を裏切らないだろう、と野生の本能で直感しました。知らずに、コラットは泣いていました。シムランは、こんな綺麗な涙を知りませんでした。ただの水滴です。普段飲食しているものと変わらないはずのもの。でも、それがとても神聖なものに思えました。シムランもまた、コラットが裏切ることはないだろう、と確信しました。それは、この雪にかこまれた美しく厳しい世界を生きていくために必要不可欠なもののように思えました。不思議な時間が流れ続け、二人は、そのまま眠気に襲われ朝を迎えました。
「やあ、アリス。いつものを一つ」
キャッツカフェの入口の扉についている鈴の音と共に入ってきた人物がいました。
「あら、今日はどうしたの?」
それは、アリスの幼馴染の羊のミッシェルでした。彼は、テレパシーの能力を持っています。遠くの人間に自分の声を届けることができます。アリスがキャッツカフェに入った時からの常連です。主に仕事を持ってくる人としてですが。
「依頼だよ、裏というか羊の組織からの。今日もよろしく頼むね」
アリスは、時々、キャッツカフェだけでなく羊の組織からの依頼も受けていました。
「ふうん、どういう依頼?」
「店長が受けている依頼と関連している。だから、半分はキャッツカフェの依頼と言っても間違いないんだけどね」
アリスはミッシェルの好物のアールグレイをいれてティーカップを彼の前に出しました。
「ありがとう。雪豹というか猫の依頼だね。簡単には三点。一つは、狼の襲撃の結果報告。二つ目は、白くま襲撃で無事かどうか。三つ目は、フクロウ襲撃時の経緯報告。どうなったかを千里眼で見て報告するのが依頼。おれも一緒にいるから、指定した時間に千里眼を使ってほしい。時間は大体の指定がもうあるから、その時間に見てもらえれば大丈夫。報告は、おれのテレパシーで依頼主に伝えるから、大丈夫」
「それって、誰かが襲撃されるってこと? コラットも?」
「店長は、襲撃対象じゃないんじゃない? 試されてるのは、雪豹の護衛の方だよ。猫軍最強の武将の孫なんだって。跡継ぎじゃないかって目されてるらしいよ。特殊能力も身体能力も猫の中ではピカイチらしいからね」
「だったら、コラットまで無理して行かなくてもいいじゃない!」
「そんなに怒らないで、アリス。婚約者候補らしいよ。お互いにね」
「何それ! 結婚って好き同士がするんじゃないの?」
「二人の家はそれぞれ猫軍で力を持つ家筋で、競り合ってるし、敵対してる。跡継ぎ候補はたくさんいるけれど、あの二人が婚姻関係になれば、最大派閥になるだろうね。だからだと思うよ。家同士の事情が結婚の指針になってるんだ。でも、好き合わなかったら破談になるだろうから大丈夫だよ。これは、その様子見を兼ねているだろうし、今回は雪豹くんの家長の候補になれるかの試験が本来の目的らしいから」
つまりは、跡継ぎになるための候補として認めてもらうための課題ということなのです。跡継ぎになれるかどうかはわからないのです。
「でも、結婚できるんだよね。例え今じゃなくても、今話した相手じゃなくとも結婚して子供産んで幸せな家庭を作るっていうの?ができるんだよね」
「アリス?」
「ほら、私たちってさ、生殖行為をすると能力を失うじゃない?」
「やめなよ、アリス」
「私のお父さんやお母さんがそうだったように。私を産むために能力を失って、食糧になった。羊は、家畜として扱われてる。能力がない者は肉食動物に食糧として食われる運命だわ。私たちが弱いから仕方ないことなのはわかる。私がこうして生き残れているのは、能力があるせい。能力がなければ、とっくに食われてた。とってもラッキーなことなのよね。でも、能力のない羊が生き残れるような世界があったら、私はそこに行きたい。お父さんとお母さんと一緒にいたかった。大好きになった人と幸せな家庭を作りたかった」
「アリス、泣かないで」
「大丈夫。羊が生き残る手段は、高い特殊能力を持って生まれて孤独に生きることしかないことくらいわかってるから」
「アリスにはキャッツカフェがあるだろう? 孤独じゃない」
「そうだよね。ありがとう、ミッシェル。それに、一番の親友が目の前にいるのに、こんなこと言っちゃだめだよね」
「そうだよ。おれ達は一人じゃない。忘れないで。皆がいることを」
ミッシェルの笑顔は、複雑そうでした。そして、言葉も複雑な意味が込められていました。まるでミッシェル自身がアリスにとって重要ではないと言っているようでした。彼も、内面に大きな葛藤を抱えて生きているのでしょう。二人のお話もまた、別のお話。
それは、突然でした。何の前触れもありませんでした。シムランの実家に向けて雪の道を歩いている最中でした。
「はっ……」
「コラット?」
激しく息切れをしていたコラットは、心臓を手で押さえ、倒れました。
「どうしたの!」
「心臓が……病気なの……昔から」
シムランはコラットを抱え起こしました。
「薬は?」
「飲んだけど……ダメみたい……」
コラットは意識を失いました。シムランはすぐさま、コラットを背負い走り出しました。目的地は、すぐそこです。
「寝床と医者を!」
「藪から棒にどうした?」
「おじいちゃん、早く!」
そこにいたのは、今回の依頼者又は陰で手を引いていた者でもあるシムランの祖父でした。背負われているコラットの様子がおかしいことに気づき、即座に状況を判断したようです。
「この子の心臓が悪いことは聞いている。奥の部屋に寝かせてくれ。ワシは医者を呼んでくる」
そこには、コラットの手を握り、看病を続けるシムランがいました。幸い、コラットは命に別状はなく、過労により持病である心臓が一時的に弱っただけと診断されました。
「よかった……」
コラットがいなくなったらどうしよう、シムランはそう思うと薄ら寒い思いに囚われました。まるで半身をもがれたような喪失感が彼を襲ったのです。なぜ、そう思うか現在の彼にはまだ、わかりません。いつか、わかる日がくるのかもしれません。
「コラット、大丈夫?」
「ベンガル、来てくれたんだ」
「うん、未来の旦那の実家だから!」
「違いますって何回言ったらわかっていただけるんでしょうかね、ベンガル」
「アクバルは、いつもそう言うんだから。照れてるだけなのよ」
「照れてません。なんで僕なんですか。軍にはもっといい男がたくさんいるでしょう。能力もない運動音痴な僕に固執する理由はなんですか」
「なんとなく? フィーリングよ!」
「はぁー、申し遅れましたが、コラットさんはじめまして。シムランの弟のアクバルです。四つ子なので、弟といっても同じ歳です」
「ベンガルがお世話かけてるみたいで……うちも双子だから同じ歳なのよ」
「最近、調子良かったのにね」
「いろいろあったからね」
「やはり、シムランのせいですか?」
「いや、大体はキャッツカフェのオーナーのせいかしら」
「えっママの? なんで」
「こんな依頼引き受けるからよ。キャッツカフェから外出する依頼は受けないでほしいわ」
「ママは、コラットのこと一番考えてるよ。あたしのことよりいっぱい考えてる。シムランのこと考えた? あたしはああいう人苦手。それに、あたし自身軍人だから、家のこと構ってられないし、考えられない。アクバルを選んだ理由もそこにあるの。コラットはどうするの?」
「私は……わかんないよ。いきなりそんなこと言われても」
アクバルが横で、僕は選ばれただのに納得してませんから、とぶつぶつ言っていました。
「好きになれそう?」
「わかんない。気が合うとは思った。ベンガルとは合わなくとも、私とは合うかもしれない。きっとオーナーだってそう思ってシムランをキャッツカフェにこさせたんだろうから。たぶん、このまま話が進んでもいいと思う。でもね、それとは、別問題で、私の心臓がもつかわからないよ。心臓がもたなければ、子供は産めないし、結婚生活をちゃんと送ることもできない。お母さんや相手の両親はどう思ってるの? それでいいのかな?」
「コラット。自信もってよ。成長して心臓は強くなった。病気のせいでずっといろんなこと我慢してきたのを、あたしは知ってる。だから、もう我慢しないで。コラットにはしあわせいっぱいになってもらうんだから!」
「ベンガル……でも、怖いの。明日、心臓が止まって目が覚めなかったらどうしようって」
「あたしだって、明日、誰かに倒されたらどうしようって思いながら戦場にいるよ?」
「コラットさん。僕は後方支援で前線には出ません。それでも、周りで死ぬ人は死にます。戦前に出た人が必ず命を落とすわけじゃない。コラットさんには、コラットさんの生きる時間があるはずです。兄の方がコラットさんよりも死に近いです。戦場で死にもの狂いで生きています。いつ死ぬかわからないんです。だから、結婚も繁殖相手もいらない、と家族に断言しました。僕たちは四つ子です。他の兄弟の子を跡継ぎにすればいい、と言いました。前線で戦う限り、妻や子はいらない、と。僕たちは、兄を心配しています。僕は、兄のように戦うことができません。運動神経がないんです。他の兄弟もシムランより武芸に秀でていません。全部背負ってくれたんです。シムランが。なのに、飄々となんでもない顔をしているのが辛くて見ていられないんです」
「アクバル……」
「ちょっと、何しんみり話してるの? 僕の境遇はそんなに悲惨なものじゃないと思うけど?」
少し困ったように笑っているシムランがいました。
「コラット、病み上がりで悪いけど、能力使える? 二人に見せてあげない、僕の一勝一敗一引き分けの映像を」
「できると思う。剣をサイコメトリーすればいいのね?」
「僕が幻術化できれば、二人にも一目瞭然で伝わるよね?」
「どういうきっかけで発現するのかしら? 場所が近いこと? 触れていること?」
「いろいろ試してみよう。そしたら、使い方がわかってくるよ」
「そうね」
コラットは目をつぶり、サイコメトリーを開始しました。何か言いたげな二人に、シムランは人差し指を口の前に当てました。
「しー、みたらわかるよ」
コラットが見ているであろう状況が目の前に映し出されました。異様なまでの臨場感です。
「なっ何コレ!」
「どういうこと? なんで、兄さんが戦ってるの?」
「あとで。今は静かに観てて」
シムランが鋭く的確に注意しました。威厳に満ちた逆らうことを許さないような声でした。ベンガルはアクバルの後ろに隠れ、アクバルは溜息をつきました。
「なんでシムランは怖い言い方しかできないんだ。誤解される」
「誤解じゃないから別にいい」
「シムランはどうでもいい人には本当に冷たいんだから」
「え、あたし、どうでもいい人なの」
「心配しなくても、時と場合によって、僕もどうでもいい人だよ。シムランがどうでも良くない人って見たことないけど、これから、もしかして見れるのかな。それは、ちょっと楽しみだ」
アクバルは、メガネを押し上げながら、楽しそうに笑っていました。アクバルは戦闘はからっきしダメですが、頭脳戦にかけては、ほとんど負けなしです。ベンガルが所属する軍の作戦も立てています。その目線の先には、甲斐甲斐しくコラットに気を回すシムランの姿がありました。
「コラットもおかしいよー。あんまり人に気を許さないんだよ。病気だったから慎重にするのがもう当たり前。考え方も暗いし。人をあんまり寄せ付けない感じだった。いつ死ぬか、本当にわからなかったから、誰かと親密にするのを嫌がってる感じ。でも、今日は全然違う。コラットのあんなに近くに人がいるってびっくり」
二人は手を触れあわせ微笑んでいました。それは、ただ単にどうしたら過去の映像化ができるかどうかを実験していただけなのですが、微笑ましい光景に見えました。二人は気を許し合っているように見えたのです。
「ていうか、すごーい! なんで見えるの?」
「二人の力が合わさって発現してるんだね。過去の事例にはそういう例もある。二人が該当者だとは思わなかった。すごい珍しいことなんだ」
「相性ぴったりってこと?」
「能力的には最高じゃない?」
「なんか、安心した。コラット、キャッツカフェを背負って、病気を気にして、ずっと自分を殺して生きていくんだと思ってた。それって、さびしいもんね。よかった」
他の護衛を頼むという手段もありましたが、シムランは、コラットをキャッツカフェまで送ると言って聞かなかったのです。
「どうして帰りまで護衛するの?」
「聞いてもらいたいことがあるんだ」
「今、言えばいいんじゃない?」
「いや、ちょっと考える時間がほしいから、旅の最後に言う。それでいい?」
旅もほぼ終わりを迎えようとしていた時でした。あと少しで、キャッツカフェというところでした。
「ねえ、コラット。考えたんだ、帰りの旅の間中」
「上の空だったものね」
「覚悟が必要だったから。気がそぞろになってたのかも。ごめん」
「それで、言いたいことって何?」
「僕と結婚してほしい」
「……いきなりそれ?」
「じゃあ、最初は友達以上恋人未満でお願いします。そして、恋人になってもらって、結婚してほしい」
「なんとなく、予想はついてたけど、保留にしてほしい。私も考える時間が欲しいもの」
ぽつり、と心の内をコラットは話し始めました。
「キャッツカフェはね、心臓が悪い私のために、母が作ったの。オーナーとして、そりゃ大変な思いをしてキャッツカフェを作ったの。私の一族は、軍で有名な一族。軍にしか居場所がない。でも、私は、心臓が悪いから、戦えるわけない。軍に所属できない猫は、すぐ死ぬ運命だわ。母は、私を守ってくれた。でも、家族と会えなくなった。そして、今でも私の命は、いつ尽きるかわからない。医療が昔ほど発達していない。だから、治療も満足に受けられない。弱い者は死ぬ。それが、この世界の掟。昔の人間ほど、弱くても生きていけるような環境じゃない。獣人として、死ぬ運命なの。わかるでしょう?」
「わからない。とりあえず、答えをもらうまでは、キャッツカフェに残留することになったから。オーナーとも話はついてるから」
「オーナーにどこで話したのよ!」
「実家を出る前に、軍に一時戻った時」
「じゃあ、考える時間がほしいって言いながら、結局結論はひとつだったのね」
「実際、決意するのと、相手を目の前にして言うっていうのは、違うよ」
「信用ならないわね」
「信用してよ。コラットには嘘はつかない」
その真剣すぎる目に本気を感じとったコラットは、溜息をつきました。
「もう、キャッツカフェよ。早く行きましょう」
コラットが先に行く形で、二人はキャッツカフェの扉を開いたのでした。
「毎日いると鬱陶しいわね」
「君と恋人になりたいから。そのために休暇をずいぶん貰った。すごい無理したからね」
「一緒に居れば恋人になれるとでも思ったの?」
「思ってはいないけど、チャンスは増える」
「早く出て行ってくれない?」
「そんなこと言わずにさ」
彼らは、毎日このような言い合いをしていました。終始、シムランのペースなのにコラットは腹が立っていたようです。と、いっても、本当に一緒いるだけでした。猫がじゃれあうように言い合いをするだけです。兄妹が一緒にいたら、こんな感じなのかもしれません。
「……コラット、おかえり」
「ティティ!」
コラットがその小柄な少女に全力で抱きつきました。
彼女の名前はティティアナ。ペンギンと融合した者の子孫です。彼女が姿を現すことは、ほとんどありません。
「倒れたって聞いた……大丈夫?」
心配そうに覗く瞳は真っ赤でした。泣いていたからではありません。そういう瞳の色なのです。ショートカットに短く切られた髪は真っ白でした。ティアナは、アルビノです。陽の光の下に出ることのできない少女。その体質に見合っている能力なのか、彼女は天才プログラマー・ハッカーで、キャッツカフェにある地下の部屋に籠っています。主にキャッツカフェのセキュリティを担当しています。表に出てくることはありません。では、キャッツカフェ内の情報をどうやって手に入れているかというと、現在は彼女の脇にある小さなロボットが彼女の目です。キャッツカフェ内を縦横無尽に移動し、いろいろな情報を取得しています。ついでに掃除もしています。お掃除ロボットまさよさん、それがロボットの名前です。
「心配して出てきてくれたんだ。ありがとう、ティティ」
「……ううん、無事ならいい」
「ティティ!」
「……ベーン」
「どうしたんだ? 部屋から出るなんて珍しい」
彼の名前はベーン。ティティアナと同じくペンギンの遺伝子を受け継ぐ者です。彼らは、今はもう、どの種族も使うことがない、電脳世界を支配している一族です。旧時代に栄えた人間の遺した電脳世界をうまく活用し、生き残っているのがペンギンなのです。
「……そろそろ来るころだと思った。まさよさん、調子悪い……直して」
ティティアナが電脳世界を内側から操作できるとしたら、ベーンは外側から物理的なハード面を作ったり直したりすることができるのです。何を隠そうキャッツカフェの電子的なセキュリティを作ったのは、ティティアナとベーンなのです。この世界では、最強の難攻不落の城といえるでしょう。
「わかった、部屋に行こう」
「では、部屋にお茶をお持ちします。ベーンさんは、セキュリティ面でいろいろやっていただいているので、無料ですよ。アーデルベルト、そんな恨めしそうな顔しないでください」
「シャルの入れたお茶を飲めるなんて! 俺だけの特権じゃないの?」
「そんな訳ないでしょう」
シャルロッテの冷たい眼差しがアーデルベルトに刺さります。
「そんなシャルもいいッ!」
良くありません。彼はドMなのでしょうか。
ティティアナとベーンは、地下室、最下層で何重にも守られた核でもってしても壊れないと言われているティティの部屋に行きました。ロックを何度も解かなければなりません。ティティは簡単に、ベーンは少し時間をかけてなんとか解けるロックでした。
「店長、そんなにやばかったの?」
「うん……心臓の発作が起きたって」
ベーンが手元のまさよさんを分解しながら言っていました。内部クリーニングも含めています。彼はとても器用なのでしょう。
「店長は……あの頃に比べると、とても良くなったように思えるけどね」
二人がコラットと出会ったのは、このキャッツカフェ開店準備時です。
「……何年前?」
「もう、十年くらいになるんじゃないの?」
「そうかも……コラットは、死にそうな顔してた。陽の光に当たれないワタシより、顔が青白かった……」
「あの時の状態を見て正直に言うけど、店長が今日まで生きられるなんて思わなかったよ」
「……ほんと」
ティティアナが悲しそうな顔をして、その真っ赤な瞳を閉ざしました。
「ワタシも生きられるか、わからなかったから……気持ちわかる」
「ティティは大丈夫だったし、これからも大丈夫だよ!」
ティティアナは、ベーンがどれだけ努力したかを知っています。キャッツカフェを開店させるのに、そして、ティティアナの安全な場所を作るのに、どれだけ苦労したかを知っています。
「うん……ベーンがいれば、絶対大丈夫」
アルビノであるティティアナは、本来、自然界に生まれるはずのない色素を持って生まれてきます。そのせいか、短命な者が多いのです。十七歳まで生きられたのは、奇跡的なことでした。
「オレがいなくても大丈夫でしょ。このキャッツカフェがあれば」
ベーンは得意げに笑います。彼は、機械のパーツを捜しに、世界中を飛び回っています。旧時代に使われていた古い機械の状態のいいものを修理し、使える状態にし、同じ種族のペンギンに売ったりしているのです。彼は、ペンギンの中では英雄です。弱い力を持ち、捕食される側だったペンギンなのに、世界中を恐れも知らずに飛び回ることができるのですから。ペンギン独自のネットワークを保持していられるのも、彼の力あってこそなのです。
「ベーンは絶対ここに帰ってくる」
ティティアナは迷いなく言います。不安気に。
「オレはさ、いつ死んでもおかしくないんだ。ペンギンなのに、無茶なことばっかりしてる。自覚してる。でも、後悔は一切してない。だって、それがオレの生きてるってことだから」
その笑みは、いたずらっ子が面白いいたずらを考えている時のようにキラキラ輝いています。
「置いていかないで……」
「ティティは行けないだろう。またメール送るよ。はい、まさよさんのメンテナンス終わり!」
ベーンは何も言いません。帰ってくるなんて、言いません。彼は、飛び回るのが性分なのです。どこにも行けないティティアナとは正反対です。
「なんでアルビノなんだろう……」
「アルビノだったから、キャッツカフェの皆に出会えたんだろう?」
行ってきます、とベーンは元気いっぱいの笑顔で出ていきます。
はっと目を覚ますと横にシムランのドアップがありました。コラットは、あまりのことに固まってしまいました。彼は、愛しげにコラットの髪を撫でていました。リビングのソファで寝てしまった隣にシムランが座り、そのままシムランの肩で寝てしまったようです。
「おはよう。可愛い寝顔だね」
自分の失態に恥ずかしさのあまり、コラットは声も出せませんでした。
「コラットは本当に可愛いね」
それは、コラットは本当に迂闊だね、と聞こえて、本当に悔しそうな顔をしたのでした。彼女は、シムランの腕を振り払い、立ち上がりました。猫のようにしなやかに。シムランもそれに続きます。
「告白の答えをくれないの?」
彼は、腕を押さえていました。コラットが寝ていた間、腕枕をしていたのでしょう。しびれているのです。すがるようなシムランの目にコラットは、言いたくはなかったけれど、言わなくてはいけないのかと、視線を下に落としました。タイムリミットなのだと直感したようです。シムランはいつまでもキャッツカフェに居続けることはできません。彼にも仕事があるからです。長期間休んでいては、生活にも彼が関わっている仕事にも影響が出るでしょう。
「私は……」
コラットの顔は沈んでいました。理性は、この言葉を口にすることを主張しています。ですが、感情は、その言葉を言うことを拒否しています。
「私は……」
コラットの瞳に涙が溢れていました。言いたくない。でも言わなくちゃ、と小さくつぶやいていました。
「ちょ! 押さないで!」
シャルロッテの声でした。
部屋の扉が開き、キャッツカフェの店員がどさっと部屋に落ちてきました。
もちろん、店員だけでなく、常連さんまでいました。
「何してるの?」
シムランの言葉は冷風のように響きました。ダイヤモンドダストが見えるようです。
「あはははっ!」
コラットは、声を出して笑いました。その場いる全員が驚いた顔をしていました。
「また来てよ、シムラン。気が向いたら相手してあげる」
「コラット!」
「振られたね。大丈夫、俺はシャルに百万回くらいプロポーズして振られてるから」
「え、それ事実だとしたら、もうギャグになって本気にされていないレベルってことですよね。良く耐えられますね。打たれ強いですね」
「シムランくん、結構酷いね」
ルアがとても良い笑顔で笑って言いました。きっと同じ属性なのでしょう。シムランの場合、コラットの言葉を邪魔されて不機嫌なだけかもしれませんが。二人にいじられたアーデルベルトは膝を抱え、いじけポーズをとっていました。
そんな三人は放置され、コラットは通常のキャッツカフェの仕事に戻りました。
「さあ、店を開けましょう! キャッツカフェは今日も通常営業よ」
そう、コラットは、ここの店長。それは、シムランとどうなろうと関係なく、ずっと続きます。ここを守り、営業を続ける、それがコラットのお仕事です。
「はーい! 声を揃えて、いくわよ! せーの」
『キャッツカフェへようこそ!』
私は最後の行の書き取りが終了し、一息つきました。
「ふう、連続で能力を使うのは疲れますね」
「なにやってるの?」
「ご先祖様のなれそめをサイコメトリーしてたんです」
「なんでそんなことしてるのよ」
「知りたかったんです。私のルーツを」
「今の私たちには関係なくない?」
「例え関係ないとしても、知識欲より、探求心より、好奇心より私の心をかき立てるものはありません。つまり、きになっちゃったから、もう知らないでいることはできないってことです」
「相変わらず変な人だね。妹の私にまで敬語使っちゃう人だもんね」
「それは、私が変人たる所以ではないと思いますよ。それに、誰にでも敬語ですし」
「はいはい、帰るよ」
「むぅーけれど、理想通りでした。私もあのような恋愛をしてみたいです」
「できんじゃない?」
「いい加減なこと言ってますね!」
「でも、今のネコの繁栄は、その時代の人達が作った。すごいわ。絶滅するって言われてた猫が今まで生き残ってるんたもんね。もしかして、姉貴がみた過去の二人の出会いは、猫の運命を大きく変える出会いだったのかもしれないわね」
「だったら、いいですね。猫を繁栄させたのは、母猫の子供に対する一途な思いだったのですね。初代オーナーの初代店長に対する思い、素敵です」
それにですね、私が書き写さずして一体誰がこの物語を書き写すというのでしょう。見つけて本当に良かったです。コラットの日記を。日記の読める部分ははざっくりしていて、とても内容があり意味のあるものとは思えません。中はボロボロでほとんど、読めないのです。でも、強い思念が残っていました。まるで、私が読むことを知っていたかのように。いえ、サイコメトリーの能力者だけに読むことを許されているかのように。コラット、あなたはすでに故人です。この物語を外に出しても、他の誰かに読んでもらってもいいですよね?
二人の出会いは巡り巡って、私の元へ進んできました。過去のお二人には想像もつかないような未来があるのです。どうぞ、絶望に明け暮れている皆様、未来を諦めないでください。思いもしない未来があなたを待っていることでしょう。待っている未来は楽しいだけではありません。辛いことも、悲しいこともたくさんあるでしょう。同じくらい楽しいことも嬉しいこともあるでしょう。それは、神様が私たちに与えてくれた試練かもしれないし、幸福かもしれません。神様は、乗り越えられる人にしか試練を与えないと聞いたことがあります。幸せもきっと受容できる人にしか与えられないのです。それに気づき感謝した人にだけ、神様はまた、試練や幸福を与えてくれるでしょう。
世界の種族間の勢力の拮抗が昔よりバランスがとれ、昔より少し平和になりました。さあ、とうぞこちらへ。未来へと続く扉です。
キャッツカフェへと続く扉です。
私がキャッツカフェの現在の店長です。コラット以来、はじめてのサイコメトリー能力者の猫の店長です。
あなたを楽しさと悲しさが混在する過去の物語へいざなう案内役です。さあ、新たなる世界へご案内します。
キャッツカフェへようこそ
※記憶がありませんが(笑)どこかの賞に応募後、落選しました。たぶん。
旧・キャッツカフェへようこそ かささぎ @kasasaginohane
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