第7話 強まる絆
もう7月か。夏休みも近付き、ウキウキワクワク。でも、その前に、期末テストがあるのよね。溜め息しかないよ。でも、先月、輝君との喧嘩で、約一ヶ月、辛い日々を送っていた事に比べたら、まだマシかも。先月と変わった事その1。輝君は、私より早くに来て、校門で私を待つ様になりました。でも、姫音もいるけど。
「勇飛ー!おはよー!」
笑顔で、私に向かい、手を振る輝君。
「勇飛くーん!おはよー!」
輝の笑顔に負けまいと、最近、鏡を見て、笑顔作りの練習をしているらしい。
「輝・姫音!おはよ!」
「ちょっと、勇飛君。何故、真癒君の名前が先なの?真癒君は、私の真似をしているだけなのよ。」
「君よりも、俺の方が、大事に想われているという事だ。勇飛は、俺が戻って来るのを、ずっと、待っていてくれたんだ。」
「何が待っていたよ。勇飛君を苦しめた癖に。」
「勇飛だけじゃない。俺も苦しんだ。つまり、それだけ、互いを想い合っていたという事だ。つまり、俺達は、既に、両想いという事だ。」
「フン!恋人でもないのに、よく、そんな事が言えたものね。」
「姫音。友達同士にも、両想いという言葉は、使用されると思うぞ。互いの心が通じ合ってるって事なんだからよ。」
「勇飛。よく言った。さすが、俺の親友。」
「とにかく、早く行こうぜ。」
すると、二人して、私と手を繋ぐの。
「またか!」
「真癒君に、あなたを渡したくないもの。」
「まあ、姫音は、女だから良し。だが、輝とは、男同士だ。男同士で手を繋ぐのは、キモいぞ。恋人に近い友人とでも言うのか?」
「君の心が、刃魔に向いては、困るからな。」
「困るのは、こっちだよ。」
周囲は、輝君と私が手を繋いでいるのを、毎日ジロジロ見るのよね。輝君は、周りの視線など、お構いなしだけど、私が恥ずかしくて、堂々と歩けない。でも、男同士としての恥ずかしさとは別に、女心としては、緊張して、ドキドキするのよね。好きな人と手を繋いでいるのだと思うと、幸せな気持ちになるの。
先月と変わった事、その2。授業中、自分が当てられ、答えられなかった時、私の代わりの解答権という事で、争いが起こるの。
「先生。前回は、刃魔さんが解答しましたから、今回は、俺でお願いします。」
「いいえ、先生。彼、どうやら、勇飛君とは、親友を越えた関係らしいんです。勉強としてでなく、恋愛に近い感情だけで、解答権を奪おうとするとは、どうかしていると思います。」
「それは、君も、同じではないのかい?」
「あなたと一緒にしないで頂きたいわ。私は、ただの親友として、勇飛君の役に立ちたいだけよ。」
「俺もだ。大切な友の為に、何かしたいと思うのは、自然な感情だからな。」
結局、今回は、公平にという事で、輝君が答える事になった。その時、輝君は、私を見て笑顔になり、敢えて、虹色のビーズの腕輪の付いた右手を上げた。先生は、腕輪については、何も気にしていない様でした。
先月と変わった事その3。授業後の10分休みには、輝君が私の席まで、来る様になりました。
「勇飛ー!」
急いで駆けて来る輝君。
「輝。同じクラスなんだから、走らなくても、すぐだろ。」
「刃魔が席を外している間に、君を、一人占めしたいから。」
一人占め・・ドキンドキン・・。私も幽霊も、輝君のカッコイイ台詞に、惚れ惚れし、胸に、異常な痛みが走る。
「・・ってー!」
「大丈夫?保健室に行くかい?」
「大丈夫だ。次も、教室なんだからよ。・・ていうか、痛みが、消えたみたいだ。」
「本当?」
「俺が、深刻な病状だとでも思ってんのか?」
「無理は、するなよ。勇飛の体は、俺の体でもあるんだからな。」
どうしよう。ドキドキし過ぎて、再び、胸に異常な痛みが走る。その時、姫音がやって来た。
「真癒君。あなた、勇飛君に何をしたの?調子悪そうにしてるじゃない。」
「姫音。俺は、大丈夫だから、気にすんな。そんな事より、輝。何か、話したい事があんだろ?」
「うん。実は、『シャックリ女王』のチョコを入手したんだ。これが、おまけのシール。」
「あら、あなた、そんな趣味があったの?まるで、小学生みたいね。」
「刃魔には、関係ないだろ。」
「俺も、今だに、おかしのおまけっての、好きなんだよな。苺ミント味の飴に、小さくて、可愛いピンクウサギのぬいぐるみがついてた時があって、入手したぞ。」
「確か、1年前位に売られていた商品だよな。ぬいぐるみ好きなんて、可愛らしい。また、勇飛の新たな一面を知れて、嬉しい。」
「男子中学生なのに、今だにぬいぐるみ好きなんて、恥ずかしいとは、思わないんだな。」
「外見からしたら、立派な男で、ぬいぐるみが似合う様には、思えないけど、男の中に、女の子らしさを秘めているところも、勇飛の魅力だと思う。」
私は、輝君の包容力に、涙ぐんでしまった。どんな私も受け入れてくれて、有難う。
「勇飛君が持っているなら、私も買えば良かったわ。そうすれば、お揃いだと喜べたのに。」
「姫音は、小学生の頃、お菓子のおまけとか、買うタイプじゃなかったのか?」
「お菓子が邪魔だもの。お菓子はお菓子。おもちゃはおもちゃで、別売りの方が良いわ。」
「もし、今、売られていたら、買うか?」
「勇飛君が持っている物なら、何でも、手に入れたいわ。例え、邪魔なお菓子が付いていようとも。」
「俺の時は、お菓子のおまけの購入は、小学生みたいだと言っておきながら、勇飛の事となると、購入したいとは、随分、偏った性格だな。」
「何とでも言うがいいわ。私は、勇飛君にしか、興味が無いもの。」
「話は、横道に反れたが、ゴールドの『シャックリ女王』本人のシールだな。ゴールドって、縁起良いよな。ゴールドメダル。つまり、勝利の証だろ。さらに、お金の金。これ持ってたら、勝負運と金運がアップすんじゃねーか?家宝にしないとな。」
「勇飛にそう言ってもらえると、本当に、このシールが、宝物の様に思えるよ。」
「ところで、『シャックリ女王』とは、何かしら?」
「刃魔は、アニメを見ないのか?『シャックリ女王』とは、常に、起きている間は、シャックリばかりする体質で、語尾がヒックとなる事が殆ど。シャックリばかりでうるさいと、城内にも、他国にも敵が多い。シャックリばかりで、耳がおかしくなりそうだと、女王を殺そうとする者が、女王が眠っている間に、部屋の扉から、窓の外からやって来る。ある時は、城外に出掛けている最中に、真っ向から王女に剣を向け、殺そうとする者もいる。だが、王女のシャックリは、悪い気配を感じたり、実際に、悪い事が起こると分かると、いつも以上に、シャックリのボリュームが大きくなる。だから、女王を狙う者達は、逆に、女王の事が恐ろしくなり、逃げてしまう。」
「一言で言えば、女王と敵対者とのバトルもんって事だな。」
「勇飛が見ているお話を知らずに、勇飛の友を名乗るなど、10年速いな。」
「これから、見るようにするわ。勇飛君の好きな事は、私の好きな事よ。」
「姫音。興味ないのに、無理して見る必要ないからな。」
「いいえ、喜んで見るわ。それにしても、ずっと、シャックリばかりして、苦しくないのかしら?まあ、アニメだけど。」
先月と変わった事その4。体育の授業で、最初の3周走りの時の事。今は、再び、神星の制服屋の地下運動場で、速走りの鍛練をし始め、2周までは、走れる様になった私。輝君は、走る前に、私と手を繋ぎます。
「おい、何のつもりだ?」
「君の2秒走りを体感したくて。」
「普通の人が、特殊なペースについて行くのは、大変だぞ。俺が、突然、特異体質になったばかりの時は、目まいと吐き気で、1周走るだけだけで立ってられず、倒れちまったんだからな。今、漸く、2周まで走れる様になったとこだ。」
「1周だけで構わないから、俺を、2秒の世界へ連れて行ってくれないか?」
「今日だけの話だろうな?」
「いや、これから毎度、1周だけ、勇飛のペースに付き合う。そうしている内に、1周だけなら、勇飛と並んで走れるかもしれないだろ。俺は、勇飛と会話したいんだ。」
「会話だけの為に、俺のペースについて行くと?甘くないぞ。体調が悪くなる事を、覚悟しろよ。」
「勿論、覚悟は出来てる。俺、勇飛に心配をかけない様に、堪えてみせる。1周つき合った後も、普通に走り、授業にも、ちゃんと参加する。」
「そんな事を言ってられんのも、今の内だぞ。手を離すなら、今だぞ。」
「絶対に、離さない。」
輝君、あなたを巻き込みたくないの。覚悟出来てるだなんて、無理言わないで。私の心が痛むよ。
いよいよ、3周走り開始。いつも通り、私が超速になる一方で、輝君は、興奮していた。
「ウォー!ジェットコースターに乗っている様で快感だー!景色は、全く分からないし、俺の体は、全然動いてないけど、最高ー!イェーイ!」
「満足か?じゃあ、離すぞ。」
「もう1周付き合って良いだろ?」
「駄目だ。1周の約束だからな。」
私は、1周終えた所で、輝君の手を離し、私一人だけで走り続けた。
先月と変わった事その5。昼食での事。
「輝。それ、重箱じゃねーか。しかも3段・・。」
「まあ、何て汚い考えなのかしら。なぜ、おにぎりではなく、急に、重箱に?余程、勇飛君を、振り向かせたい様ね。」
「先月は、勇飛と距離を置いていて、何も出来なかったから、その分も、食べてもらいたくて。」
「何が入ってんだ?」
「開けてみて。」
まず、1段目は、白ご飯のみ。2段目は、いつものカレー味唐揚げが30個。3段目は、唐揚げが30個なんだけど、いつもと違うみたい。
「3段目は、何唐揚げだ?右から10個は、レモン味。真ん中の10個は、醤油味。左の10個は、トマケチャ味だよ。食べてみて。」
「じゃあ、頂きます。」
私は、3段目の唐揚げから、食べ始めた。どれも美味しくて、止まらなかった。その勢いで、いつものカレー味も食べ、完食。
「ああ・・食べる事に夢中なり、大食いする勇飛君がス・テ・キ!」
「真癒。これは、感想を聞くまでもないな。」
「そうだな。止まらずに食べてくれる事自体、美味しいと思ってもらえている証だよな。」
私は、輝君に、美味しかったと、笑顔で示した。すると、輝君も、笑顔を返してくれた。
「サンキューな。」
「また、作るから。」
「真癒君。これから毎日、重箱にするつもり?」
「今月だけだ。来月は、また、おにぎりに戻す。」
「じゃあ、私も、重箱にしようかしら。」
「姫音。悪いが、今月だけは、我慢してやってくれないか?俺と約一ヶ月離れて、スゲー辛かったらしいんだ。その穴埋めって事でさ。」
「・・私のおにぎり20個も、ちゃんと食べてくれるなら、今月だけ許すわ。」
「サンキューな。姫音は、優しいな。」
姫音は、赤面した。
「そ・・そうかしら?」
「あーら、良かったじゃない。恋慕う人に、優しいだなんて言われて。」
益々赤面する姫音。
「アンタは、本当に分かりやすいわね。」
「ウッサイ!ギザ村!・・さあ、勇飛君。私のおにぎりを食べて。」
「ああ、頂きます。」
私のお腹には、まだ入る入る。ただし、好きな物に限りだけどね。
先月と変わった事その6。図書委員の時の昼休み。先月と変わらず、今月も図書室に来る姫音。輝君と私がカウンター当番になった時、姫音は、わざわざ、教室から椅子を持って来て、私の隣に座るの。
「おい、姫音は、図書委員じゃないだろ。」
「万が一、勇飛君がピンチに陥った時は、私が助けるわ。」
「何、大袈裟な事言ってんだ。争いが起こる事は無いから、安心しろ。」
・・とはいえ、安心出来ない事が一つ。返却期間を過ぎて、本を返却した場合、一ヶ月は、貸出禁止となっている事を、伝えねばならない。今のところ、その様なケースに当たっていないけど、いつ当たるか分からない。
そして、遂に、その時が来た。相手は、男子。今迄は、ちゃんと期限迄に返却していたのだから、今回1回の返却忘れ位は、大目に見ろと言って来た。
「あの・・大変言い辛いのですが・・。」
その時、相手は、カウンターを強く、バンと叩き、ふざけるなと言って来た。私は、恐怖で、顔が青ざめた。今は、男なのよ。強く見せなくちゃ。でも、やはり、元々は、弱々しい女なの。体がガチガチに固まってしまった。その時、輝君と姫音が対抗した。
「すみません。ここは、図書室です。静かに読書をする場所ですので、もし、暴れたければ、外でお願いします。」
「ちょっと、アンタ。今の行為の罰として、今から一年、貸出禁止にしてやってもいいのよ。さあ、どうする?一ヶ月反省する?一年我慢する?さあ、選べや!」
姫音の声の迫力に負けたのか、相手は、図書室の外へ逃げて行った。
「二人共、サンキューな。情けないよな。男なのに、弱い姿をさらしちまった。」
「男だから、強くなくてはならないなんて決まりは、無いよ。遠慮なく、甘えてよ。」
「勇飛君の優しさに付け込んで、脅すなんて、汚らわしいわ。あんな奴らが何人現れようと、私が追い払ってやるわ。」
返却本片付け当番になった時。通常は、返却本が、カウンターに10冊たまったら、私と輝君で5冊ずつ持って行くんだけど、姫音が、最初にたまった10冊を、全部持って行くのだ。
「おい、姫音。俺達の仕事を返せ。」
「いいえ、返さないわ。真癒君は、たったの5冊。私は、10冊よ。私の方が、明らかに、勇飛君の役に立ってるわ。」
「勇飛、やらせてやろう。気の済むまで。またすぐに、10冊たまるさ。」
「そういえば、そうだったな。ここの学校は、本好きな人が多いから、貸出も返却も多いし、いつも、俺らが片付けてる間に、次の10冊がたまるもんな。たまには、休憩するか。」
という訳で、次の10冊が来るまで、私と輝君は、休憩するの。とはいえ、たった5分の休憩だけど。5分の間に、あっという間に、10冊たまり、いつも通り、私と輝君で5冊ずつ片付け開始。
先月と変わった事その7。図書委員の無い昼休み。弁当メンバー全員で、学校の裏庭によくやって来る猫を、撫でに行く。
「猫ちゃん。僕、ポテチ持って来たんだ。食べてよ。」
「広君。やたらな物をあげるのは、良くないわ。あげたら、駄目よ。」
「ちぇっ!折角持って来たのに。」
「でも、俺は、マッヒーの気持ち、分かるぜ。可愛いもん見ると、何でもしてやりたいって気分になんだよな。」
「強だけだよ。僕の気持ちを分かってくれるの。」
「俺、落ち込んだ時、猫を見ると、癒されるんだ。例えば、学校のテストの点が悪くて、親に叱られた時とか。」
「へえ、輝に、そんな時期があったんだな。頭良いのに。」
きっと、先月は、私と喧嘩した事を気にして、昼休みは、ずっと、裏庭の猫に会いに行ってたのね。
「ニャーン!」
姫音が、猫を撫でながら叫ぶと、猫もニャーンと返した。
「ねえ、猫に名前を付けたいわ。ヌクというのは、どうかしら。温もりから取ったの。」
「猫を見てると、体がポカポカ温まる感じがするしな。良い名だと思うぞ。」
姫音は、赤面した。
「そ・・そう?勇飛君に言われると、嬉しいわ。」
先月と変わった事その8。帰りの事。陸上部の無い日は、私の所に駆け寄って来る。
「勇飛ー!帰ろう!」
そして、私と手を繋ぐ。やはり、周囲の冷たい視線が気になる。
「おい、皆、見てるぞ。」
「周囲なんて、どうでも良い。僕は、勇飛の傍に居られれば、それで良い。」
「私も、全く同じよ。」
姫音も、私と手を繋ぐ。
「とにかく、早く行くぞ。」
私は、二人に手を繋がれたまま、校門まで走った。一切、会話をせずに。だが、校門に着いても、二人は、手を離してくれない。
「おい。いつまで、こうしてるつもりだ?」
「あなたを、家まで連れ帰りたいの。」
「俺もだよ。」
「は?方向全然違うから。」
「じゃあ、君の家にお邪魔して良いかい?」
「俺んちはな、親が厳しい。勉強会なんつっても、それを口実に、遊ぶ気だろと叱られる。そもそも、俺が勉強から逃げ、途中で漫画を読み始めちまってさ、それを目撃された事がきっかけなんだがな。」
「分かるわ。私もそうよ。でも、私は、共働きで、両親が居ないから、気楽だけど、勇飛君の家は、窮屈ね。」
「だろ?俺んちも、共働きなら良かったのに。」
「俺は、勇飛のご両親に会ってみたい。」
「常に、鬼の角が生えた、こえー親共だぞ。他人でも、体を叩くからな。」
「本当かい?それは、確かに、恐いね。」
家に来られたくない本当の理由は、私の正体を知られたくないからよ。この1年間が終わる迄、バレたくない。今のまま、楽しい学校生活を送りたい。今のクラスのままで、輝君に、正体がバレ、嘘つきだと言われて別れたら、とても辛くて、不登校になるかもしれない。だって、輝君は、恋い慕う大切な人だから。先月の喧嘩なんて、まだ、軽い方よ。
自宅に帰り、メールを見ると、輝君からメールが入っていた。
[スズメ。今度の土曜、期末テストの勉強を、僕の家でやらないかい?ついでに、夜食もどうだい?君の為に、心を込めて作るよ。]
夜食まで?嬉しい。どんな料理が食べられるんだろう?それに、輝君の部屋を見てみたかったの。
[喜んで、行かせてもらうわ。輝君の作る料理、楽しみにしてるね。]
土曜の午後。輝君が、私の家に、迎えに来てくれました。
「久しぶりだね、スズメ。会いたかった。」
「私も、輝君に会いたくて、たまらなかった。」
「じゃあ、行こうか。」
輝君は、私と手を繋いだ。学校では、輝君と男同士の関係でありながら、毎日、手を繋がれてる。嬉しいけど、本音を口にしたら、周囲から、冷たい目で見られるしね。
「あ・・あの・・どうして、手を・・。」
「駄目なのかい?」
「いや・・その・・そういう訳では・・。」
「君を見ていたら、自然と、手を繋ぎたくなったんだ。」
それって、私に気があるって事?やだ、私ってば、何、自惚れてるんだろう。でも、そうだったら、嬉しいな・・なんてね。
25分歩いて、漸く、輝君の家に到着。神星の制服屋と近い所にあります。
「どうぞ、上がって。」
「お邪魔します。」
玄関には、風景画が飾られていた。
「綺麗なお花畑ね。その真ん中に、木の家が建ってる。」
「気に入ったかい?」
「ええ、素敵な絵ね。私、絵を見るのが好きなの。美術的なものも、コミック的なものも。」
「俺も、絵を見るのが好きだよ。この絵は、見ていると、身も心も癒されるよ。」
2階の輝君の家に、到着。すると、可愛いぬいぐるみ達や、絵画や写真が飾られていた。
「可愛いー!ウサギ・クマ・コアラ・パンダ・猫・象。皆、こんにちわ。私は、スズメだよ。宜しくね。」
私は、ぬいぐるみを1つずつ撫でた。気付くと、輝君が、私を見て、赤面していた。
「どうしたの?」
「ぬいぐるみを撫でる君が・・笑顔で撫でている君が可愛らしくて、見取れてしまったんだ。」
どうしよう。幸せ過ぎて、心臓がバクバクだよー!
「可愛らしいのは、輝君だよ。中学生の男の子が、家に、ぬいぐるみを飾ってるんだよ。」
益々、赤面する輝君。
「そうかな。俺、可愛い物を見たり、撫でたりしていると、癒されるんだ。」
「猫の写真も、沢山飾られているのね。よちよち、猫ちゃん。」
私が猫の写真を撫でたら、更に、赤面した輝君。
「公園や道で、野良猫に出会うと、つい、写真を撮りたくなるんだ。」
「猫も可愛いものね。あのひょろ長いしっぽや、逃げ足が速さや、ジャンプするところを見ていると、心がくすぐられるのよね。」
「君に、全て、言われてしまったね。同じ気持ちを分かち合えて、とても嬉しいよ。」
「ねえ、猫の写真は、どうやって撮るの?」
「大人しい猫の場合は、まず、撫でて、僕が猫に心を開いていると信用させてから撮る。少しだけ逃げ、すぐに止まる猫なら、驚かせない様に、僕の気配を消し、近付き過ぎずに撮る。」
「最近、毎日、学校の裏庭にやって来る猫がいて、昼休みに、友人と一緒に撫でてるの。」
「偶然だね。僕も、同じだよ。君と僕は、離れていても、通じ合っているんだね。」
本当は、いつも、学校で、あなたの傍に居るよ。
「あ!これ、南都タワーの時の、輝君と私のツーショット写真ね。壁に貼ってくれているのね。」
「勉強する前に、必ず、この写真を見るんだ。君が傍に居ると思うと、やる気が湧くから。」
私の存在が、少しでも、勇飛君を支えているのだと思うと、嬉しい。
「スズメ。ここで、一緒に、写真を撮ってくれないかい?ここに君が来た記念に。その写真を見たら、きっと、今以上に、君を身近に感じられると思うんだ。」
「良いよ。喜んで。」
輝君は、デジカメを手に持ち、ぬいぐるみをバックに、私とのツーショット写真を撮った。
「輝君の笑顔が輝いてるよ。」
「君の笑顔は、天使の様に清らかで、身も心も癒されるよ。」
「そ・・そう?有難う。」
「俺の方こそ、有難う。」
赤面続きの輝君だった。ちなみに、今の写真は、印刷し、帰りに貰える様です。
さて、いよいよ、期末テスト勉強開始。
「どの科目からやる?」
「そうね。今日は、地理から行こうかな。世界地図が出て来て、どの国かを当てる問題も出るらしいんだけど、何がどの位置にあるのか、全く、覚えてられないのよね。範囲は、ここからここよ。」
「前回の数学といい、今回の地理といい、俺の学校と、全く同じなんて、奇跡だね。じゃあ、まず、場所当て問題。オーストリアは?」
「これかな?」
「残念。正解は、これ。大丈夫だよ。反復して目に焼き付け、声に出せば、覚えられるよ。今度は、逆をやってみよう。これは、何の国?」
「アメリカ?」
「残念。カナダだよ。」
暫くは、ひたすら、国当て。
「じゃあ、復習ね。ここは?」
「メキシコ。」
「正解。この調子で行こう。アイルランドは、何処?」
国当ての後は、具体的な中身へ。
「ここは、この生産が盛んで・・。」
私が、細かにストップをかけ、進行を妨げているにも関わらず、輝君は、分かるまでずっと、ストップした所を教えてくれる。学校だったら、どんどん先に、進まれるもんね。輝君に勉強を教えてもらえて、本当に良かった。
やっと、勉強が終了。
「何か、眠くなったかも。」
「俺のベットで、眠るかい?」
「え?何言ってるの?そんな図々しい事、出来ないよ。」
「大切な親友の為なら、喜んで、ベットを貸すよ。暫く、眠っていて。俺は、先程の写真の印刷と、夜食を作るから。」
「いい。本当に、大丈夫。気持ちだけ、受け取っておくわ。」
その瞬間、私は、輝君に抱き上げられ、ベットにつれて行かれた。そして、寝かされ、布団をかぶせられた。
「君が眠るまで、ここに居る。君がベットから逃げない様に、監視しないとね。ベットと布団は、君に使用してもらえて嬉しいと、喜んでいるよ。勿論、一番嬉しいのは、俺自身だけど。」
どうしよう。凄く緊張するよ。だって、輝君の私物を使用させてもらうのよ。輝君が、普段、寝ているベットの上にいるのよ。それって、つまり、間接何とか?その時、輝君の手が、私の頬に触れた。
「さあ、何もかも忘れ、ゆっくりお休み。」
「あの・・本当に、私が眠るまで、ここに居るつもり?」
「うん。」
「かえって、眠れないよ。」
「じゃあ、眠れるまで、お話しようか。スズメは、眠ったら、どんな夢が見たい?」
「鶏・豚・牛肉の食べ放題の店に行って、鶏の唐揚げを60個・トンカツを60個・牛ステーキを60個食べたいなー。」
「180個も食べるのかい?見てみたいな。スズメが、180個の肉を平らげる所。あ!もう、よだれが垂れてる。本当に、肉が大好きなんだね。」
輝君は、ティッシュで、私のよだれを拭いてくれた。
「ごめんなさい。輝君の布団を、汚してしまったよね。」
「微量だし、俺の布団までは垂れてないから、大丈夫だよ。心配しないで。」
「良かった。輝君の布団が何ともなくて。」
「もし、仮に、俺の布団に垂れたとしても、君を責めたりしないよ。」
「何で?汚いのに。」
「また、スズメの新たな一面を見られた。好きな食べ物を思い浮かべると、よだれが垂れる。そんな君を見ていると、本当に美味しそうで、その姿がまた、可愛らしい。俺も、肉を食べたくなる。君を見ていると、癒されるんだ。だから、何も気にしないで。スズメがありのままでいてくれる事が、俺を、幸せにするから。」
「輝君・・。」
幸せなのは、私だよ。いつも、輝君の包容力に支えられてる。だから、今も、涙が出ている。その涙に、輝君の手が触れる。
「スズメの涙は、とても、綺麗だよ。」
嬉し過ぎて、益々、涙する私。
「輝君。夜食を作りに行って。このままじゃ、逆に、眠れなくなる。私、ここで、おとなしく眠ってるから。」
「絶対に?」
「うん、絶対。私、輝君とは、ただの友人で、恋人ではないのに、あなたのベットを使用させてもらうなんて、図々しいよなという気持ちと、男の子の私物に女の私の体が勝手に触れるなんてと意識してしまい、恥ずかしいという気持ちがあったの。会話した後だからかもしれないけど、今は、こうして横になっていると、輝君の愛に包まれている気がして、癒されるの。愛だなんて、大袈裟かな?」
「俺の愛に包まれていると思ってもらえて、とても嬉しいよ。こうして、君が、俺の使用するベットに横になっていると、君と俺が一つになれた気がして、幸せな気持ちになるんだ。」
それは、私を、一人の女として、意識しているという事?やだ、私ってば。そんな筈ないのに。輝君は、ただ、私が気楽でいられる様に、気遣ってくれてるだけよ。
「夜食が出来たら、持って来るね。」
輝君は、1階の台所へ降りて行った。
暫く経ち、輝君が、夜食を持って来た。
「スズメ。夜食出来たよ。」
私は、眠っていたけれど、輝君の手が、私の頬に触れ、目覚めた。
「輝君の手、温かい。」
「君の頬も、温かいよ。よく眠れたかい?」
「おかげさまで。夜食が出来たのね。楽しみにしてたの。」
私は、起き上がった。夜食は、勉強で使用したテーブルの上に、置かれた。一つの皿には、豚肉の生姜焼きが20個と、タコさんウィンナーが20個と、ウサギとクマ形のハンバーグが各10個ずつ。ウサギとクマの目・鼻・口は、トマケチャ。二つ目の皿は、野菜サラダ。最後の皿には、白ご飯が入っていた。「動物ハンバーグも、タコウィンも可愛い。」
「スズメは、女の子だから、こういうのが好きかなと思って、作ったよ。」
「こんなに沢山の肉を、有難う。とても嬉しい。」
「でも、君には、まだ、足りないかもしれないね。ごめんね。もう少し、多く出せたら良かったんだけど。」
「量なんて、関係ないよ。輝君が、私の為に、心を込めて作ってくれただけで、幸せなんだから。頂きます。」
「どうぞ、召し上がれ。」
私は、まず、野菜を食べた。その後、肉を食べ始めると、いつも通り、止まらなくなる。焼肉のタレだけでも美味しいけど、生姜がプラスされると、より、美味しさが増す。ウィンナーは、噛んだ瞬間のパリパリ感と味がたまらないのよね。好きな食べ物の匂いには、食欲をそそられるけど、ウィンナーは、尚更よ。動物ハンバーグは、可愛くて、食べるのが勿体ないよ。なのに、ジューシーさがたまらなくて、食が進むのよね。白ご飯も並行し、大満足の夕飯ね。
完食後、私が顔を上げると、輝君は、笑顔で、私を見ていた。
「輝君、どうしたの?」
「肉を、美味しそうに食べている姿が、微笑ましくて。」
「ご馳走さま。どれも、凄く美味しかった。」
「喜んでもらえて、とても嬉しい。作った甲斐があったよ。」
「輝君は、料理が上手ね。」
「そんな事ないよ。両親が共働きだから、自分でやらざるを得なかっただけ。」
「私の為に、心を込めて作ってくれて、有難う。」
「こちらこそ、美味しそうに食べてくれて、有難う。」
私も、笑顔になった。
帰り、輝君が、私の自宅まで、送ってくれた。
「今日は、色々有難ね。輝君のベットで眠らせてもらったり、夜食をご馳走になったり。輝君の部屋のぬいぐるみをバックにした、輝君とのツーショット写真、大切にするね。というか、私も、輝君の様に、壁に貼ろうかな。前回のタワーの時のも一緒に。これから、輝君と写真を撮る度に、壁に貼る写真が増えて行くの。私、家を出る時も、帰宅した時も、勉強する前にも・・つまり、自分の部屋に居る時は、あなたの写真を、ずっと見るから。離れていても、輝君が、すぐ傍に居ると思えるから。」
「俺も、同じだよ。これから、君との写真を撮る度に、部屋の壁に、写真を貼る。君を、傍に感じたいから。」
輝君は、赤面した。
「スズメも、絵画を見るのが好きなんだよね。もし良かったら、今度、絵画展を見に行かない?」
「うん、行きたい。」
「じゃあ、今度のデートは、絵画展で決まりだね。」
「楽しみにしてるね。」
「じゃあ、またね。」
「うん、またね。」
輝君は、私がドアの中に入るまで、笑顔で、手を振り続けていた。
翌週の月曜日。輝君は、学校を休んだ。父方の祖母が入院しており、お見舞いに行ったのだそう。急に、輝君が居なくなり、淋しい私だった。その影響で、1時間目は、ぼーっとしていて、自分が当てられても、全然聞こえなかった。ノートにも、全然写せていない。
「勇飛君。次は、音楽よ。教室移動よ。大丈夫?勇飛君。」
「強、ごめんね。」
私は、突然、頬を叩かれた。
「イッテー!」
「ギザ村さん。そこまでする必要ないじゃない。」
「僕も、やり過ぎだと思う。」
「ごめんね、強。朝からずっと、ぼーっとしてるから、心配だったの。」
「サンキュー。おかげで、目が覚めた。」
「話は、後から聞くから、急ごう。移動時間は、10分しかないよ。」
「そうだな。」
こんなに淋しいのは、きっと、先週の土曜に、輝君の家で、幸せな時間を過ごしたばかりだからかもしれない。
昼食の時間。姫音から、いつも通り、おかかにぎりを20個貰った。
「それにしても、真癒君が、急に休むなんて、驚いたよ。」
「今日は、強もなかなか来ないから、真癒と二人で休みなのかと思ったよ。」
「私は、珍しく遅刻かと思ったわ。でも、最終的に、休みで良かったわ。ライバルがいなくなれば、勇飛君を独占出来るもの。」
「俺も、最初は、姫音と同じ事を考えてた。教室で朝の会が始まる5分前まで待ち、来なかったからな。でも、急に、休みだと聞いて、ショックだった。いつも、輝に、校門の所で、おはようと声をかけられたり、休み時間の度に、俺の席まで来てくれて、スゲー嬉しくて、毎日、学校に行くのが、楽しみでならなかったから。」
「強。気持ちは、分かるけど、来週は、期末テストだから、気持ちを切り換えて、勉強に専念しなきゃ。」
「園の言う通りだな。励ましてくれて、サンキュー。」
「強。無理だけは、するなよ。どうしても、淋しさに堪えられなくなったら、僕に、話してよ。聞く事しか出来ないけど。」
「マッヒーの優しさに、感謝する。」
マッヒーは、少し、赤面した。
「僕は、ただ、友人として、強を支えたいだけから。」
「本当は、真癒君の事を忘れてもらいたいけど、勇飛君の中では、一番大切な存在だもの。でも、誤解しないで。私は、真癒君を認めた訳じゃないわ。こうなれば、早く帰って来てもらい、勇飛君に、元気を取り戻してもらわなきゃ。」
「俺の事、気遣かってくれて、サンキューな。」
「それにしても、危篤でもないのに、お見舞いに行くんだな。もう、期末テストだというのに、よくそんな余裕があるなと思うよ。」
「広君。人間、いつどうなるか分からないのよ。回復してくれれば良いけれど、万が一という事もあるでしょ。」
「輝は、きっと、祖母が大好きなんだな。祖母も、輝が大好きで、互いを想い合っているなら、輝の為にも、必ず、回復しなくてはと思う筈だ。もしもの事があれば、輝は、辛くて、テストどころじゃなくなるよな。」
「ねえ、皆で、お祈りしようよ。真癒君の祖母が、無事に回復する様に。」
「仕方ないわね。祈ってやっても良いわよ。但し、後に、真癒君に、お祈り代1000円を請求するわ。やりたくもない事をやってやるんだから。」
「じゃあ、祈らないで。これは、お金の為にやるんじゃないの。」
「冗談よ。少し、嫌味を言ってみたくなっただけ。勇飛君の心が、真癒君に、傾いているから。」
「刃魔。少しでも邪念があると、真癒の祖母の病気は、回復しないかもしれないぞ。」
「マッヒー、大丈夫さ。表には出さなくても、実は、輝の事を、心配してんだよ。」
姫音は、赤面した。
「べ・・別に、心配なんて、してないわよ。まあ、勇飛君がそう言うなら、本当に、心配してやるわよ。」
「ったく、姫音は、素直じゃねーな。」
私達は、両手を合わせ、輝君の祖母の回復を祈った。
昼休みの事。
「1時間目、ノートをとってないでしょ。私のノートを、写して。」
「サンキュー、姫音。」
「強は、気分転換に行ってきなよ。僕が、ノートを写しとくよ。」
「気持ちは、有難いが、俺の事だから、自分でやんないと。」
「真癒が居なくて、辛い時に、ノート写しに、集中出来るのかい?」
「・・それは・・。」
「マイナーな気分の時は、無理しない方が良いよ。強の体調が悪くなるだろ。僕は、強の気持ちが、少しでも軽くなる様に、手伝いたいんだ。」
「マッヒーは、優しいな。」
「親友の役に立てる事が、嬉しいんだ。」
「強、広君の言葉に甘えて、外に行こうよ。」
「・・そうだな。済まないが、ノート写し、お願いして良いか?」
「任せて!」
こうして、私は、園と姫音と共に、外に出ました。
裏庭の猫を撫でながら、癒される私。
「ああ・・何て可愛いんだ。よしよし。」
「猫ちゃん。いつも、ここに来てくれて、有難う。生きていてくれて、有難う。あなたが死んだら、私は、生きられない。」
「アンタ、大袈裟ね。」
「それだけ、猫が好きって事だろ。・・なあ、猫も、輝が居なくて、淋しいんだろうな。」
「真癒君は、私達より、一番長く、この猫と親しんでるもんね。だから、猫も、撫でられた感じで、彼が居るか居ないか分かるのかもしれないね。」
「今日は、心配かけて、ごめんな。」
「私の方こそ、昼食の時、期末テストなんだから、頭切り換えなきゃなんて言って、ごめんね。」
「何言ってんだ。俺を励ましてくれて、感謝してる。」
「淋しい時は、遠慮なく淋しいと言ってくれて良いから。泣きたくなったら、おもいっきり泣いて良いから。」
「園の言葉一つ一つに、俺は、支えられているな。」
「私だって、もし、勇飛君が涙した時は、抱きしめてあげるわ。」
「アンタは、真癒君から、強を奪いたいだけでしょ。」
「姫音も、俺を想ってくれて、有難な。俺、良い友人達を持ったな。」
帰宅後、輝君に、メールした。
[輝君。友人から聞いたんだけど、祖母が入院したそうですね。いつもは、勇飛君に愛をもらってるから、今度は、私が返す番だね。大した事は出来ないけど、ひたすら、星に祈ります。輝君の祖母が、早く、元気になります様にと。]
私は、窓を開け、星が出ているのを確認し、両手を合わせて、祈りました。
翌日も、輝君は、お休み。淋しい気持ちは、昨日より増していた。昼休みは、マッヒーに誘われ、縄跳びしながら、体育館を走る事になった。
「最高だな。誰も居ない体育館。こんな広々とした空間を、俺達だけが占領出来るって、気持ち良いな。」
「だろ?猫撫でばかりしてたら、真癒の事を思い出し、余計に辛くなると思うから、走って、スッキリさせようぜ。」
「俺を気遣かってくれて、有難な。じゃあ、走るか。」
私とマッヒーは、縄飛びをしながら、体育館を駆けた。縄跳びがあるからか、超速になる事は、無かった。
「楽しいぜ!」
「良い気分転換になってる?」
「勿論。それにしても、園と姫音は、来なかったな。特に、姫音は、俺に、くっつきたがるのに。」
「刃魔は、猫に癒されたいんだろ。園は、誰にも相手にされないんじゃ、猫が可哀相だと言ってたもんな。」
「なあ、しりとりやりながら走らないか?俺達は、縄跳び戦士。二人のしりとり技で、敵を倒すのだ。」
「よっしゃ!やったる!猫。」
「小犬。」
「塗り絵。」
帰宅後、暫く、壁に貼った、輝君と私のツーショット写真を見ていた。
「輝君。私、勉強頑張って待ってるから、早く帰って来て。」
昨日と同じく、窓を開け、星に、輝君の祖母の回復を祈った。
水曜日。輝君が休み、3日になった。さすがに、3日ともなると、淋しさが、ピークに達する。体調の変化は、1時間目に、早速起こった。1時間目は、体育で、いつも通り、最初に、3周ランニングをするのだが、今は、2周までなら、平気で速走り出来る私が、久々に、1周の途中で、目まいを起こし、気持ち悪くなり、倒れてしまった。
私は、悪い夢を見ていた。私と輝君は、お花畑で、美しいお花達に癒されていたんだけど、突然、真っ黒になり、輝君の姿が消えてしまったの。
「輝君、輝君。何処に居るの?居るなら、返事して。輝君、輝君。」
私は、恋する人が、突然、自分の前から姿を消した事が辛くて、涙した。その直後、「強、大丈夫かい?」という声が聞こえ、目覚めた。私は、保健室のベットに、横になっており、目の前に、マッヒーが居た。
「気が付いた?強、余程、嫌な夢を見てたんだな。涙を流しながら、輝君と叫んでた。とりあえず、涙を拭きなよ。」
マッヒーが、私にハンカチを貸してくれたので、涙を拭いた。
「真癒じゃなくて、ごめん。」
「何で謝んだよ。有難な。ここまで、俺を運んでくれて。」
「真癒と同じく、背負った。それにしても、強は、重いな。」
「酷い事言うな。」
「冗談だよ。軽かったよ。」
「本当かよ。でも、有難な。俺を元気付けようと、冗談言ってくれたんだろ?ところで、今、何時間目?」
「3時間目の最中。無理しないで、ゆっくりしてなよ。俺がここに居るからさ。」
「マッヒーは、教室に戻ってろよ。」
「大丈夫。後で、園に、ノートを写させてもらうから。」
「こうして、保健室に居ると、輝が居る様に感じる。」
「入学早々、皆の前で倒れて、真癒が、強を背負い、保健室に連れてったんだもんな。思い返せば、入学式の日から、一番、強の心の支えになってるのは、真癒だよな。」
「輝が居なかったら、俺、不登校になり、今、こうして学校に来てなかっただろうな。」
「強が、体育祭で、1学年の100メートルで1位を獲得して以来、全学年の人気者だもんな。」
「そう言えば、陸上部は、どうなってんだ?俺、全然顔出してないけど。」
「そうだ。僕、先輩から、伝言を頼まれてたんだった。明日の部活には、必ず出ろだって。来月の、区の連合陸上の種目決めをするって。」
「種目は、何があるんだ?」
「100から400メートル走と、ハードルと走り高跳びだってさ。」
「希望制?」
「基本的には。ただ、強に関しては、強制的に、400メートル走になるらしいよ。1周を2秒で走るというミラクルを、高く評価しての事らしい。」
「マッヒーは、何にするつもりだ?」
「俺は、100メートル走にしようと思う。ハードルを跳ぶのは、苦手だし、高跳びの方は、ジャンプ力がないから、棒に引っ掛かると思うし。」
「気楽にやれば良いのさ。この大会にでれば、オリンピックの切符をゲット出来るとかじゃねーんだから。」
「そうだな。僕は、走りのタイムが遅いけど、気にしないで走るよ。強の言葉に救われた。有難う。」
「こちらこそ、輝がいない間、俺の支えになってくれて、有難な。」
昼食の時間、マッヒーが、私に、おにぎりを持って来た。
「ごめんな。2つしか作ってないけど。」
「何にぎりだ?」
「ツナマヨだけど、好き?」
「ツナとマヨって、良い組み合わせだよな。一度食べたら、ハマるぞ。じゃあ、早速、食べるな。」
「召し上がれ。」
「・・クー!たまんないぜ!最高!」
「喜んでもらえて、嬉しい。」
「勇飛君。私のおかかと、彼のツナマヨは、どちらが美味しいかしら?」
「順位は、つけらんねーよ。どっちも、美味しいから。」
「敢えて、ランキングを付けて欲しいの。」
「・・そうだな・・ハマるという事で言えば、1位は、ツナマヨだな。」
「やったー!僕の勝利だ!」
「まあ、良いわ。私のライバルは、真癒君ですもの。勇飛君の心を掴むには、真癒君に勝てなければ、意味が無いもの。」
昼休みは、マッヒーと、体育館で、ボールを蹴り、パスしながら走っていた。しかし、途中で、途切れてしまう。
「済まない。ボールを上手く受け取れなくて。取りに行って来る。まだ一周もしてねーのに。持続するって、キツイな。」
「ドンマイ!ただの遊びなんだから、気楽に行こうよ。」
「そうだな。ていうか、ボールを蹴る事で頭がいっぱいで、他の事が考えらんねーよ。」
「その調子で、辛い事を、ボールで飛ばしてしまおう。」
「よっしゃ!ボール取って来るから、待ってろよ。」
私がボールを取って来た後、再び、パスしながら走った。
「マッヒー、パス。」
「強、パス。スイカ。」
「おい、蹴る事で必死なのに、しりとりもやんのか?しゃーねーな。カワウソ。」
なんて言ってたら、違う方向に、ボールを蹴ってしまった。
「ほら、やっちまったじゃねーか。」
マッヒーは、ボールの飛んだ方向に走り、そこから、私に向かって、蹴った。
「掃除機。」
「切符。」
私は、パスが、本当に、苦手みたい。でも、マッヒーが、柔軟に動いてくれて、私のパスをカバーしてくれる。
「プール。」
「留守。」
昼休みが終了し、体も頭もクタクタ。
「俺、違うとこに、ボール飛ばしまくったな。」
「でもさ、すんなり行き過ぎても、つまらないよ。僕は、毎回、強が、何処に向かってボールを蹴るのか、楽しみでたまらなかったよ。」
私は、マッヒーの優しさに、身も心も癒された。
帰宅後、いつも通り、輝君の写真を見るけど、何だか、悲しくなった。もしかして、一生会えなくなるのではと、大袈裟な事を考えてしまうの。窓を開けて、星に祈るのも毎日しているけど、祈りながら、涙が出てしまった。輝君に会えなくなって、あらためて、自分の気持ちに気付くの。私は、輝君の事を、一人の男の子として、愛しく想っている事に。
木曜日。どうせ、今日も、輝君には会えないと思い、涙ぐみそうになるけど、皆に心配をかけまいと、グッとこらえた。でも、校門を見る気になれず、下を向いた。上を向いて、元気なフリをする筈だったのに。いっそ、学校を通過して、ずる休みでもしようかなんて考えていた。そんな時、懐かしい声が、耳に響いた。
「勇飛ー!勇飛ー!」
上を向くと、校門の所で、輝君が、笑顔で、手を振っているのが見えた。
「勇飛!おはよう。」
私は、嬉し涙を流しながら走った。ていうか、幽霊も嬉しくて、興奮しているのか、彼の意志の力で、1秒位の速走りで、輝君の所に到着した。
「輝!輝!会いたかった。3日間も、何してんだよ。心配かけやがって。」
「俺も、会いたくて、たまらなかった。涙する程、俺の事を想い続けてくれたんだね。とても、嬉しいよ。」
私は、輝君が貸してくれたハンカチで、涙を拭いた。。
「恥ずかしいな、俺。皆に見られてるってのに。ハンカチ、サンキュー。俺、毎日祈ったんだからな。輝の祖母の病気が、早く回復します様にって。」
「おかげで、祖母の体調は、回復に向かってるよ。祖母は、肺炎で、入院していたんだ。」
「そうか・・。」
「有難う。祖母の心配をしてくれて。」
「ていうか、祖母が回復してくれないと、輝が学校に来なくなるだろ?俺、もし、今日、輝が来なかったら、学校を休もうと考えてたんだぞ。」
「俺も、勇飛に会えなくて、淋しかったけど、肺炎と闘う祖母の前で、悲しい顔は出来ない。元気になる事を祈るなら、俺も元気でいないとって思い、例え、勇飛を想い、辛く、涙が出そうになっても、こらえて、笑顔を作った。そしたら、昨日、祖母に、想い人に会えず、辛いのかと、見透かされたよ。祖母は、俺の結婚式を見るまでは、死ねないって言ってた。」
「輝の心に寄り添ってくれる、良い人だな。長生きしてもらわないとな。」
「ああ。」
「で?祖母に紹介したい女は、居るのか?」
「今のところは、居ない。でも、勇飛の事は、紹介したい。1番の親友だって。」
そんな時、姫音がやって来た。
「あら、誰かと思えば、帰って来ないでも良い人が帰って来ちゃったわね。あなたが居ない間、勇飛君を独占出来て幸せだったのに。」
「相変わらず、嫌味女だな。」
「姫音、昨日の昼休みは、2・3時間目分を、俺のノートに写してくれて、サンキューな。」
「勇飛君の為だもの。喜んでやらせてもらったわ。」
「勇飛、どういう事?」
「輝が居ない間、授業中にぼーっとして、ノートに写し忘れたり、調子が悪くて、保健室に行った時、俺を気遣ってくれたんだよ。マッヒーもやってくれたぞ。」
「それなら、良かった。」
「それならとは、失礼ね。私が勇飛君の役に立っては、いけないと言うのかしら。言っておくけど、あなたが、今、ここに居られるのは、私のおかげでもあるのよ。勇飛君が、輝君の帰りを待ち、辛そうにしているから、彼の為に、仕方なく、あなたが早く帰って来る様にと、祈ってやったのよ。感謝すべきじゃないかしら。」
「嫌々なら、何もしてもらわない方がマシだ。そもそも、君に祈ってくれとは、頼んでないが。」
「勇飛君。あなたが、こんな失礼な人と親友なんて、信じられないわ。」
「勇飛。君は、クラスメートを邪魔者扱いする最低な人と親友なのかい?でも、俺が戻ったからには、彼女と引き離す。君に、刃魔の性格が伝染してしまう。」
「祈ったのが間違いだった様ね。勇飛君。彼は、放って、さっさと行きましょう。」
「勇飛。俺は、3日も君と会えなかった。だから、今日は、1日、俺と二人切りで過ごしたい。こやつに、君を渡さない。」
輝も姫音も、私と手を繋ぎ、両手を引っ張って来た。これは、輝君と姫音の綱引きなの?二人共、頼むから、私を巻き込んで、骨折させないでね。
昼休みは、久々に、カレー味唐揚げにぎりを食べた。
「待ってたぜ!癖になる、この味。」
「癖になるだなんて、最高の褒め言葉だよ。」
「強、良かったな。やっと、真癒のおにぎりが食べられて。」
「マッヒーのツナマヨも美味かったぞ。」
「広。俺が居ない間、勇飛の事を支えてくれて、有難な。保健室にも連れて行ってくれたんだってな。」
「友人として、当たり前の事をしたまでだよ。」
「勇飛君。私のおかかにぎりも食べ忘れないで。」
「いつも食べてるのに、忘れる訳ないだろ。」
「彼女、真癒君が、急に戻って来たから、焦ってるのね。」
「私、作る物を変えようかしら。」
「俺、かつお節も醤油も、匂いが好きなんだよ。食欲をそそられる。」
「そう?そんなに褒められたら、変える訳に行かないわね。」
「刃魔は、ころっと変わるな。親友の座を巡り、真癒を、ライバルとして意識するかと思いきや、強に褒められると、嬉しくなり、争いなど、どうでも良くなるんだもんな。」
昼休み、私は、2日ぶりに、裏庭の猫に、会いに行った。
「よしよし。3日も構ってやれなくて、ごめんな。これからは、今迄通り、毎日会えるからな。」
輝君が撫でると、猫は、彼の帰りを喜ぶかの様に、笑顔でニャンニャン鳴いた。私も、猫を撫でた。
「ただいま。変わらず元気そうで、良かった。俺もまた、今日から毎日、会いに来るから、宜しくな。」
「勇飛も、久々かい?」
「昨日と一昨日は、僕と、体育館で、運動していたからね。猫といると、勇飛が居ない事を余計に意識し、辛くなるのではないかと思ったから。」
「広が、勇飛の事を真剣に考えてくれたおかげで、安心した。和村も、勇飛の事を支えてくれて、有難な。」
「私は、何もしてないよ。今回は、広君の手柄だよ。」
「手柄だなんて、大袈裟過ぎだよ。それより、刃魔の事は、褒めないの?」
「広君、良いのよ。彼に褒められるのは、気持ち悪いわ。私と真癒君は、敵同士なのよ。」
「誰が君を褒めるって?俺の許可無しに、勇飛のノートを勝手に触る事は、許されない。」
「おい。俺は、輝の所有物じゃねーからな。」
放課後、私は、4月以来、久々に、部活に出た。通常は、部活の代わりに、神星の制服屋で、彼が開発した、リモコン操作で速度調整が出来る靴を履き、学ランの中の幽霊の意志による超速に対応出来る様、足を鍛えている。今は、まだ、3周目の半分位で、足がつってしまっている。連合陸上大会が来月に迫っている。例え、400メートル走に選ばれたとしても、大会までに、走れる様になるか、心配なのよね。
まず、校外ランニング3周。このランニングでは、皆で揃って、ペースを崩さずに走るという決まりがある為、幽霊は、速走りしたいという意志を封じねばならない。まあ、私としては、落ち着いて、ゆっくり走れるから、助かるんだけど。走りながら、私とマッヒーと輝君は、小さな声で、会話した。
「僕さ、今だに慣れないんだよ。校外ランニング。毎回、へとへと。もしかして、400メートル以上は、走ってるんじゃないかな?」
「敢えて、キツイ訓練やっとけば、400メートルとか、走り易くなるって事じゃねーか?」
「強には、退屈だよな。」
「何言ってんだよ。速く走れる様になるのは、苦労なんだ。校外ランニングの方が、マシ。ところで、輝は、連合陸上で、どの種目を希望なんだ?」
「俺は、ハードルと高跳びでなければ、何でも良いよ。」
「走るだけの方が、楽だもんな。じゃあ、400メートル走にしたらどうだ?オリンピック選手になったつもりで、カッコ良くな!」
「勇飛が、そう言うなら、400メートルにしようかな。君の心を、俺に振り向かせたい。」
「真癒。まるで、女の子に向けた台詞だな。」
「広は、どうするの?」
「僕は、100メートル走。本当はさ、強みたいに、超速になって、400メートルを走るのに憧れるけど、その夢には、遠過ぎるから。」
「そりゃな。俺は、特異体質だからな。」
「羨ましい。僕も、特異体質に生まれたかったな。」
2周目の途中で、マッヒーのペースが落ちた。
「ハァー・・ハァー・・僕、もう、疲れた。休憩したい。」
「マッヒーは、いつも、こんな感じなのか?」
「うん。僕は、いつも、こんなもんだよ。最初の頃は、怠けるなと、先輩方に叱られてたんだけど、見慣れたのか、僕が、途中で抜けても、放っとかれる様になった。」
「俺が、背負ってやろうか?」
「強、そんなズルは、出来ないよ。」
「たまには、良いじゃねーか。輝が居なくて、辛かった時、俺の心の支えになってくれたじゃないか。その恩を返したいんだよ。」
「広。俺にも、背負わせてもらえないか?俺の代わりに、勇飛を、傍で守ってくれた事に、感謝しているんだ。」
マッヒーは、赤面した。
「二人共、恥ずかしい事を言うなよ。」
「良いから良いから。ほら、俺の背中に乗れよ。」
私は、しゃがみ、マッヒーに、背中を向けた。
「言っとくが、マッヒーが乗るまで、ずっと、こうしてるからな。」
それから5分後。
「強。いつまでしゃがんでるつもりだ?ていうか、真癒まで、同じ事すんのかよ。」
「広。俺か勇飛のどちらかに、必ず乗れ!」
「・・仕方ないな。じゃあ、強に乗るよ。」
「よっしゃ!任せとけ。」
こうして、私は、3周目の途中まで背負い、輝君と交代し、二人で、マッヒーを学校まで背負った。それを見た先輩方は、スーパーランナーが、何故、下級者に関わるのだと怒られ、叩かれた。マッヒーを下級者とは、酷い言い方だな。
「マッヒー。気にすんなよ。自分らしくいれば良いんだぞ。」
「有難う。ていうか、比較されるの、当たり前だよ。強は、100メートルを2秒で走る、奇跡の存在なんだから。何と言われようと、そんな凄い人と友人でいられる事を、嬉しく思う。」
マッヒーは、笑顔だった。強いね。そんなあなたに、私は、憧れるよ。
学校に戻った後、先輩方が、希望の種目を、部員達に聞いた。マッヒーも輝君も、希望通り、100メートルと400メートル走になった。私はというと、先輩方に、走れる所まで走れと言われたので、いつも通り、超速で、2周走った。すると、先輩方は、来月までに、超速で、もう2周追加で走れる様になり、400メートル走に出ろと言われた。他の学校の人達に、私を自慢したいらしい。幽霊。良かったね。輝けるよ。400メートルだよ。私、頑張るよ。アンタの為に、もう2周、必ず、走れる様になるから。
帰宅してから1時間後、ベルが鳴った。
「はい、どちら様ですか?」
インターホンを見ると、輝君が立っていた。
「輝君?」
私は、外に出た。
「輝君、どうしたの?」
私は、輝君に、強く抱きしめられた。
「輝君?」
「スズメ!会いたかった。会いたくてたまらなかった。俺の祖母の回復を祈ってくれて、有難う。俺の帰りを待っていてくれて、有難う。」
輝君の涙が、私の服にポトポト落ちた。
私と輝君は、公園のベンチに座り、星を眺めていた。
「綺麗だね。こうして、君と星を見ていると、身も心も癒されるよ。」
「私も、輝君と星を見られて、とても、嬉しい。」
「見て。あそこに、星が2つ並んでる。まるで、今の俺達みたいだね。」
「左が輝星で、右が私の・・名前、何にしようかな?輝君は、輝く星だから、自然と馴染むけど、スズメ星なんて、どう考えても、不自然よ。」
「スズメ達だけが住む星、俺は、可愛いと思うよ。僕が横になって、その周りを、スズメ達が囲むんだ。体の上にも乗って欲しい。小さくて、可愛らしい姿に、癒されるんだ。」
「可愛いかな?輝君がそう言ってくれるなら、スズメ星という事にしておくわ。」
「祖母とは、小学生の頃、一緒に、犬の散歩をしたり、海で貝殻を拾ったり、広い畑道を走ったりしていたんだ。正月に、海に日の出を見に行くのも、初詣も、毎年、祖母と一緒に行っていたんだ。」
「おばあちゃんっ子だったんだね。」
「俺の事を、大層、可愛がってくれた。元気な祖母が、急に、肺炎になり、入院したと聞いて、ショックを受けたよ。祖母は、今迄、一度も風邪とか、病気で入院する事がなかったらしいんだ。それ程元気だった人が、何故、急に、肺炎にならなければならないんだって思った。まだ、中1の僕から、祖母を奪わないでくれと、誰も居ない所で、涙した。神様は、残酷だよ。祖母の人生は、これからも続くのに、無理矢理、命を奪おうとするんだ。」
「・・人生って、いつ、何が起こるか分からないね。今は、元気だから大丈夫だと思って油断していたら、翌日に、突然死しているという事もあるんだよね。大切な人と、いつ別れる事になるか、誰にも分からない。輝君。折角、おばあちゃんが元気になったんだから、これからまた、一緒に、犬の散歩したり、畑道を走ったりしなよ。それが、おばあちゃんにとって、輝君からのプレゼントになると思う。それに、今回の事で、今迄以上に、おばあちゃんが、大切な存在になったんじゃない?だから、会う度に、おばあちゃんをしっかり目に焼き付けて、今迄以上に、おばあちゃんと接する時間を増やさないとね。そうだ。夜、おばあちゃんの隣に寝るというのは、どう?中学生だし、恥ずかしいかな?」
「祖父母は、1階の1室で、各ベットに寝ていて、俺は、家族で、2階に寝ていたんだ。今度行く時からは、祖母に頼んで、隣に、寝させてもらおうかな。少しでも長く傍に居たいから。それに、隣に居れば、万が一、祖母が体調不良になったとしても、すぐに、対応出来るから。スズメ、話を聞いてくれて、有難う。おかげで、気持ちが晴れたよ。」
「それなら、良かった。」
「スズメ。長生きしてね。君がこの世から居なくなったら、俺は、生きて行けない。」
「大袈裟ね。それに、今から死なせないでよね。まだ、12歳なんだから。」
「そうだよね。俺達に、死という言葉は、早過ぎる。でも、今日を含め、これからも、君と過ごす日々を大切にしたい。」
「私も、輝君と過ごす時を大切にしたい。」
「スズメ。来週のテストが終わったら、絵画展に行こう。趣味で描いている人達の作品が集まった展示だけど。」
「プロとかアマなんて、関係無いわ。絵を見ているのが、好きなんだもの。プリクラも撮りたい。」
「プリクラは、女子達が、よく交換しているのを見て、興味を持ったよ。そして、いずれ、自分の一番大切な人と、撮りたいと思ってたんだ。君から誘ってくれるなんて、嬉しいよ。」
つまり、私が、輝君にとって、一番大切な人という事?それは、恋人宣言?ヤダ、私ってば、都合の良い様に考えちゃうんだから。
翌週の土曜日の午後。私と輝君は、絵画展に行きました。その中で、お気に入りが、『虹の心』と『ぬくぬく』の2作品。
「ハートが虹色なんて、幻想的で素敵。しかも、笑顔ながら、両腕で人を包むという暖かい光景に癒されるわ。」
「七つの色は、どの様な人も受け入れるという心の広さを表しているのかもしれないね。」
「こっちは、白く毛がふさふさした猫が、人間の赤ちゃんを、自分の毛で包んでいる。とても微笑ましいわ。赤ちゃん、気持ち良さそう。」
「動物と人間を越えた愛が表現されているんだね。見ていて、心が清らかになるよ。きっと、この子は、将来、動物愛護者になるんじゃないかな。猫から貰った愛を返す為に。」
「1枚の絵から、登場人物の将来まで考えるなんて、輝君は、想像力豊かね。私、今、思い付いたんだけど、動物を捨てたり、傷付けたりする人達から動物を守る為と人間の心に、動物への愛を芽生えさせる為に戦う戦士アニマンになるって設定は、どう?動物虐待した人は、その時点で、姿が怪物化するの。それとアニマンが戦うの。動物と人間双方の共存・幸せの為。」
「スズメこそ、素晴らしい想像力だよ。本当に、現実に、アニマンがいたら、尊敬するよ。」
次は、ゲーセンで、プリクラ。
最初の写真では、私は左。輝君は右に立った。私は左横。輝君は、右横を向き、ピストルを撃つ様なジェスチャーをした。
「私達、カッコ良くない?」
「警察官になった気分だね。コンビ名は、輝スズ。」
次の写真は、二人で、片足立ちをしながら、ピースをした。
「ああ、もう。ヒヤヒヤした。あと1秒でも撮影が遅かったら、片足立ちが保てなくなってたよ。」
「片足立ちで撮影するなんて、新鮮だなと思ったよ。」
加工タイム。私は、ピストルポーズの方を加工。まず、日付とベストフレンドというコメントを入れた。後、金魚を、あちこちに散らした。ちなみに、背景は、青空と向日葵。一方、輝君が加工している、片足立ちしている写真は、背景が海岸。陸に、蟹や貝殻や西瓜を加えていた。そして、私と輝君の立つ、中央辺りに、ハートが加工された。
「ベストフレンドのコメント、とても嬉しいよ。空中を飛ぶ金魚は、素敵な発想だね。」
「輝君も、ハートを付けてくれて、有難う。海岸を見ていたら、おばあちゃんに会いたくなったんじゃない?」
「うん。貝殻拾い、またやりたい。」
プリクラが終わり、私達は、牛丼屋へ。今、注文の品を待っています。
「中盛りを10杯も食べるのかい?楽しみにしているよ。君の食べっぷりを。」
「私、輝君の前では、堂々と爆食い出来る。こんな私でも、受け入れてくれるから。」
「これからも、沢山見せてもらうよ。そうだなー・・デザートの爆食いも見てみたいな。」
「私、甘いの大好きよ。」
「じゃあ、ケーキの大食いなんて、どう?」
「良いよ。」
「じゃあ、今度のデートは、それで決まり!話は変わるけど、プリクラ、楽しかった。夏バージョンの素敵なプリクラを、君と二人で撮れた事、とても嬉しかった。また、プリクラ撮ろうね。」
「うん。」
牛丼中盛り10杯到着。熱いので、覚めるまでは、止まる事が多々の私。
「熱いよね。ゆっくり食べて。俺も、君の食べる姿を見ながら、ゆっくり食べるから。」
結局、熱かった関係もあり、完食するのに、1時間半かかった。
「ゴメンね。冷めた物なら、あっという間なんだけど。」
「ゆっくり爆食いする姿も、見ていて、楽しいよ。」
この時の私は、まだ、知らなかった。私の正体が、誰かに知られる時が来る事を。
明日へ向かってGO ファイヤー★アップル @415829
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