第6話 6月のプリンセス
6月になってから、雨が多いので、教室で昼食をとっている。昼休みは、図書委員の時を除き、同じクラスの私のファンクラブの女子達や陸上部の先輩方のお付き合いをしている。ファンクラブの女子達とのお付き合いの内容は、私の絵を描きたいと言う人の絵のモデルになったり、一番多いのは、楽器を奏でるから聴いてくれというもの。私のクラスには、楽器を習っている女子が多いの。ピアノだったり、吹奏楽部に入っていなくても、外部で管楽器を習っている人達が、楽器を持参し、私の前で吹いたりしている。後、声楽を習っている人の歌声を聴いて、うっとりしているわ。これには、同じクラスの男子達も参加したりする。男子で声楽を習っている人はいないけど、テノールあるいは、バスの中で一番美声だと思う者を選べと、審査員の役をやらされたりする。トランプを持って来る女子がいて、ばば抜きをする事もある。一方、陸上部の先輩方は、私が全然部活に来ないからという事で、一緒にランニングしろと言うの。その時は、体育館は、陸上部の貸し切り。まず、先輩方のペースに合わせ、4周ランニングさせられた後、例の2秒ランをさせられる。これについては、全学年の生徒達が見に来る。全てが終わった後、握手とサインを求められる。こんなに忙しい昼休みは、初めてよ。
図書委員の日の昼休み。今日は、私と輝君は、カウンター当番。私の学校では、本を貸出す時は、各自専用の図書カードに、借りる本の名前と借りた日をボールペンで書いてもらうの。カウンターでは、返却日をボールペンで記載。返却日を過ぎても過ぎなくても、返却されたら、済印を押す。本の中にもカードがあり、借りた本人の名前と借りた日付をボールペンで書いてもらうの。カウンターは、各自専用の図書カードと同じ作業をします。もし、返却日を過ぎて返却された場合は、一ヶ月の貸出禁止を告げるというのも役目。
「こちらの日迄に返却して下さい。」
「返却日から、1週間経過していますので、一ヶ月は、貸出出来ません。ご了承下さい。」
カウンターに人が来なず、落ち着いている時に、輝君と会話します。
「輝、お疲れ。まさか、返却日過ぎたのが、輝のとこに来るとはな。俺は、あんな事言えないよ。そりゃ、次に借りたい人に迷惑がかかるってのも分かるけどよ。次に、借りて読みたい本があるだろうに、その楽しみを潰してんだと思って、心が痛むんだよな。」
「分かるよ。正直、俺も心が痛む。言いながら、本当にごめんなと思っていた。それにしても、体育祭を境に、今迄以上に勇飛の人気が増したな。」
「昼休みの事だろ?今迄なら、輝が、俺の勇飛を奪うなって、俺の事を守ってくれたのに、何で何もしなくなったんだよ。」
「何もしない訳じゃない。もし、相手が刄魔なら、阻止する。本当に、俺から、君を奪う勢いだから。他は、君のファンとはいえ、刄魔よりは、落ち着いてる。それに、体育祭で、君は、皆のスーパーランナーになったから。」
皆の・・か・・。何か、私と輝君の間に、距離が出来てしまった様な気分で、淋しい。でも、出席番号順の席だから、輝君と席が前後だし、昼食も一緒。自宅では、輝君とメールしてるし、学校が休みの時は、たまに、デート出来るしね。
ところが、5時間目に、席替えをする事になった。黒板に座席が描かれ、男子席と女子席で、それぞれ、1から順に番号がふられる。その後、男子は水色で、女子は、ピンク色の紙のくじを引き、くじの番号と黒板に描かれた番号を照らし合わせ、移動する。
「俺、席替えしたくなかった。園のすぐ近くだから、すぐに、会話出来るだろ?」
「私だけじゃないでしょ?真癒君も、強の1つ前だったじゃない。彼と、また、近い席になれると良いね。」
「べ・・別に、良い。同じクラスなんだから、席離れてても、会えるし・・。」
「もう、強ってば、照れ屋なんだから。本当は、また、前後の席になりたい癖に。」
うん。本当は、そう思ってる。見た目と声が男でも、心が女の私は、もし、再び、輝君と前後の席になれたら、彼に、強く抱きしめられ、【俺達は、離れられない運命なんだ。だって、深い愛で結ばれているから。】なんて、言われたいと思ってしまうのよね。
「強、くじを引く番よ。」
いけない。想像の世界に浸ってた。ああ、どうか、輝君と、前後の席になれます様に。
「園は、何番?俺は、14番」
「私は、3番。席、離れちゃったね。」
「マジ?僕は、4番。」
「広君は、私の斜め後ろなんだ。宜しく。」
「俺、園からもマッヒーからも遠いじゃん。すっげー淋しい。せめて、園かマッヒーのどっちかと、席が近くなりたかったぜ。」
「勇飛。君と席が離れて、とても辛いよ。俺、20番なんだ。」
「永遠の別れじゃないんだから、気にすんなよ。」
「君は、俺と離れても平気なんだな。俺の事、どうでも良いんだ。」
「何故そうなる?」
「俺の事、嫌いなんだろ?君にとって、俺は、目障りなんだろ?もういい。二度と、君に近付かない。じゃあな。」
「おい、待てよ。」
輝君は、真顔で怒り、着席した。私、気に障る事を言ってしまったのかな?好きな人に嫌われるのは、とても辛いよ。自分の中に、大きな穴が1つ空いたみたい。しかも、突然、胸がズキンと痛み出したの。しかも、暫く、止まらないの。今迄、こんな事は、一度も無かったのに。どうしてだろう?輝君を失って、ショックだから?それとも、学ランの中に居る幽霊が、私を通して、輝君に恋をしていて、私と同じ様に、輝君に嫌われて、ショックを受け、その心が、私の胸を痛ませているのだろうか?
「強、調子悪そうだけど、大丈夫?」
「ああ、心配有難な、園。大丈夫だから。」
「それにしても、僕、刄魔が静かな事に、嫌な予感がする。」
「そういえば、確かに、静かよね。一体、何番の席になったのかしら?」
席を移動したら、隣に、姫音が座っていた。
「な・・何で?」
「ウフフ。先程、あなた達の会話を聞き、勇飛君の座席の番号が、私と同じだと知り、嬉しかったわ。これから宜しくね。」
だから、静かだったのね。
「こちらこそ、宜しくな。」
姫音が隣の席となると、これから、何が起こるやら・・。
帰り、いつも通り、神星の制服屋に行き、彼に、胸の痛みの原因を聞いてみた。
「同性愛という事になるが、幽霊が、輝に恋をしている。君には、話していなかったが、幽霊の心は、君の体に反映される。それが、今回の様に、痛みになったり、ときめくと、心臓が、異常にバクバクしたりとかな。以前、学ランに、GPS機能を内蔵させてると言ったろ?それと同じ様に、幽霊の心が、君の体に反映される時に、俺のコンピュータが反応する機能も付けてある。とりあえず、暫く、体を鍛えるのは、やめた方が良さそうだな。だが、早く、仲直りしろよ。連合陸上が、確か、8月にある。それまでに、400メートル持続して走れる様になりたいんだろ?時間があまり無いぞ。」
「・・そうよね・・。私の為にも、幽霊の為にも。」
翌朝、校門の所で、姫音が、私に向かい、笑顔で、手を振って来た。
「勇飛くーん!おはよう。」
「オッス。教室へ行けばいいのに。」
「教室まで、あなたと会えず、話せない時間が損だわ。学校の入口は、校門なのよ。行きの校門から帰りの校門まで、あなたから離れないわ。」
「それにしても、随分、嬉しそうだな。」
「あなたと真癒君が別れた事を、心から喜んでいるの。これからは、彼に邪魔される事なく、堂々と二人になれるもの。」
教室で鞄から物を出そうとして気付いたけど、昨日の授業の物がそのまま入っていたの。私、一体、どうしちゃったの?そういえば、昨日、輝君に嫌われたショックがあってか、帰宅してからずっと、ぼーっとしてた気がする。もう、何やってんのよ、私。情けないけど、姫音に、教科書を見せてもらうしかないわね。
「教科書を忘れたのね。しかも、今日は、体育があるのに、体操着を持っていないのね。」
「これから、貸してと言おうと思ってたけど、言う手間が省けたな。」
「勇飛君の役に立てて、幸いよ。それに、教科書を見せている間、勇飛君と、机をくっつけられるもの。」
1時間目から早速、姫音に教科書を見せてもらった。科目は、英語。私が当てられ、文章を読む事に。いつもは、家で、予習として、教科書の英語のCDを聴くんだけど、昨日は、何もしてないの。だから、全く読めないのよね。
「先生、勇飛君は、昨日、調子が悪く、予習出来なかった様なので、私が代わりに読ませて頂きます。」
姫音、有難う。助かるよ。更に、姫音は、予備の英語ノートをもう1冊持っていたので、それを貰い、黒板の内容を、ノートに写した。
1時間目終了後の10分休み。
「姫音。悪いな。俺の代わりに、英文読んでもらって。しかも、ノート貰っちまって・・。」
「そのノート、勇飛君の為に買ったのよ。いずれ、こういう事もあろうかと。」
「・・まさか、前々から、俺が教科書やノートを忘れる様、念じてたんじゃないだろうな。」
「そこまでは、考えてないわ。ただ、前に言ったけれど、一時期、あなたが学校を休んだ時、一度もノート当番になれなかった事を根に持ってたの。」
「くじ引きで、一度も当たらなかったんだもんな。とにかく、今日1日、済まないな。」
「済まないだなんて言わないの。私は、勇飛君との距離が急に近くなり、嬉しいのよ。次の国語も、教科書を見せるわ。」
「あ、ノートは、今日持ってるのを代わりに使うから。」
「あら、残念だわ。全ての科目に、予備のノートを持ってるのに。」
「やっぱり、前々から、ノート忘れろって念じてたろ・・。」
昼食の時間。今日は、晴れたので、屋上へ行く事に。
「勇飛君。今日から、二人だけで食べましょう。」
「いや、昼休みは、園とマッヒーも一緒だ。」
「私は、二人が良いわ。」
「ちょっと。席が隣になったからって、強を独占する気?」
「あら、和村さん。何の用かしら?誰も、あなたの事を呼んでないわよ。」
「しらじらしいわね。いつも一緒に食べてるでしょ。」
「二人して、また喧嘩か。そんな時間あったら、さっさとお昼に行こうぜ。お腹空いてんだからよ。」
「しょうがないから、特別に、一緒の食事を許可するわ。」
「それは、こっちの台詞よ。そもそも、強の特別な許可で、あなたは、強と一緒に、食事出来んだからね。」
「何ですってー!」
「ところで、マッヒーは?」
「真癒君の事が気になるみたいで、彼の所に行ってる。」
輝君、教室に居ないけど、どこに行ったのかな。
「真癒君の事が気になるんでしょ?」
「そんなんじゃねーよ。早く行こうぜ。」
気にならないんなんて、嘘よ。優しくて、笑顔が素敵な真癒君を傷付けてしまった事に、心が痛むの。
屋上で、いつも通り、姫音から、おかかおにぎりを20個貰った。
「勇飛君。もし、飽きる様であれば、他の好きなものを作るから、遠慮なく言ってね。」
「全然飽きてないぞ。いつも、美味しいおにぎりをサンキューな。」
「でもさ、肉がないと、もの足りないんじゃない?」
「園、やめてくれ。輝とは、もう別れたんだ。」
「無理して強がってると、体調不良になるよ。」
うん。既に、体調不良になったけどね。
「勇飛君、突然だけど、写真を撮らせて。」
「は?何で?」
「家宝にしたいの。」
姫音は、弁当バックの他に、もう1つ、別のミニバックを持っており、中から、デジカメを出した。
「俺は、タレントかよ?」
「あなたは、私のスーパーランナーだもの。まず、おにぎりを、美味しそうに食べている姿を撮らせてもらうわ。自然体を撮りたいから、そのまま食べて頂戴。」
「ったく、しょうがねーな。」
私のいつものおにぎりの食べ方というと、まず、両手に一つずつおにぎりを持つ。私は、速食べをする。1つのおにぎりを10秒で食べ、次のおにぎりを口に入れると同時に、次の2つを取る。そして、2つ目が終わったら、3つ目と繰り返す。
「勇飛君。カッコイイわ。うっとりしちゃう。」
撮った写真を見せてもらうと、カメラを向かず、おにぎりを見ていて、一つ目が終わり、二つ目を口に入れる瞬間が写真に撮られていた。
「こんなんで良いのか?カメラの方を向いてないから、美味しそうに食べてる表情が分かんないだろ?」
「行動だけで、十分に、美味しそうだと感じられるわ。いつも、こうして、私の作ったものを食べてくれているのだと思うと、幸せになるわ。」
「そうか。ま、姫音が幸せになんなら、良かった。」
「あら、まだ、写真は、終わりじゃないわ。これからも撮るわよ。」
「おいおい。まだ撮る気かよ。しつこくないか?」
「家の壁に、勇飛君の写真を沢山飾る事で、私とあなたが同居しているかの様に、あなたを間近に感じられるから。」
「まあ、同居ですって?よく図々しい事を考えるわね。」
「まあまあ、ただの例えなんだから、怒んないでやれよ。」
「そうやって甘やかしたら、今後、益々図々しくなるわ。」
「勇飛君は、あなたと違い、心が広い。そんな所も、彼の魅力ね。」
5時間目が体育の為、通常なら、昼休み中に、体操着に着替えるんだけど、今日は、持って来てないのよね。どの道、今日は、休む予定。体育の時間に、輝君に会ってしまったら、彼に嫌われた事に対するショック状態で、私と幽霊二人の心の痛みで、再び、私の胸が異常にズキズキと痛みだし、体調不良で動けなくなると思う。それにしても、神星に、幽霊も輝君に恋心を抱いていると聞いた時は、驚いた。という事は、幽霊の望む恋愛体験は、輝君に限定して良いという事だよね。
「まあ、残念だわ。予備の体操着も持っていたのに。」
「おいおい。ノートならまだしも、男子の体操着持ってるって、どんな趣味だよ。店の人に何か言われなかったか?」
「言われたけど、友人に頼まれ、代わりに買いに来たと言ったわ。」
でも、本当は、人の事言えないよね。私自身、男装に憧れ、趣味で学ランを着たいという意志が、本当に男になるという事態を招いたのだから。
昼休みは、姫音が、フルートを聴いて欲しいと言うので、彼女が更衣室で着替え終わるのを待ち、二人で音楽室に行った。誰も居ないので、本当に二人きりと思いきや、私達が音楽室に入った直後に、他の人達が入って来た。すると、姫音は、この部屋は、今日は、二人だけで使用したいから、もう一つの音楽室に行けと言うの。このままでは、喧嘩になると思ったんだけど、後から入って来た人達が、私を見るなり、握手を求めて来た。どうやら、体育祭のリレーを見て、私のファンになったらしく、6月になり、雨の時、体育館で陸上部の先輩方とランニングするのを見に来ていたらしい。私が握手をすると、これからも、奇跡の走りを見せて下さいと言い、去った。
「勇飛君にファンが多いのは、悔しいけど、こういう時は、助かるわ。」
「姫音専用の部屋じゃないんだぞ。ったく。君は、強情だな。さっきの人達が、俺のファンであってくれた事に感謝しろよ。そうでなきゃ、争いが起こったかもしれないぞ。」
「もし、そうなったとしても、堂々と立ち向かうわ。私と勇飛君の二人の時間を邪魔する者は、誰であれ、許さない。」
「本当に、強情だな。」
いよいよ、姫音のフルートを聴かせてもらう事に。吹いてもらったのは、ゆっくりの曲で、『ムーン・リバー』と『青春の輝き』です。
「これは、部活で?」
「いいえ。小さい頃から、家でCDを聴いて気に入り、フルートで吹いてみたくなったのよ。楽譜を持ってはいないけど、何回も聴いて、こんな感じだったなと思って。だから、どこかに、間違いがあるかもしれないけど。」
「間違いなんて、全然分かんなかったぞ。ていうか、CD聴いただけで、楽譜を見ずに再現出来んなんて、スゲー才能だな。カッケー!俺、夜空の月を見ている自分を思い浮かべながら、フルートの『ムーン・リバー』を聴いたら、身も心も癒された。心が清らかになれるな。『青春の輝き』は、小学時代、卒業式で卒業生の退場の音楽として吹いたんだよ。俺、ブラバンでペット吹いてたから。そして、俺達が卒業する時、いざ吹いてもらうとさ、ああ、本当に卒業なんだって泣いたよ。」
「喜んでもらえて、良かった。本当は、速いテンポの曲が出来たらと思っているんだけど、まだ、未熟だから、ゆっくりのものしか吹けないの。」
「テンポなんて、どうでも良い。姫音の吹く、綺麗なフルートの音色が聴けて、満足だよ。」
「本当?」
「おせじじゃないからな。なあ、フルートのソリストを目指す気ないの?」
「考えた事ないわ。でも、勇飛君が褒めてくれて、嬉しかった。聴いてくれて、有難う。」
「こちらこそ。また、聴かせてくれよな。」
「ええ。勇飛君の為なら。」
姫音は、赤面していた。
5時間目は、男女共に、校庭で体育。見学する事になったけれど、突然、姫音が、私の腕をグイッと引っ張り、歩き出した。
「おい。どこへ連れてく?」
「見学なのでしょ?それなら、是非、私を見ていて欲しいの。勇飛君が見ていてくれたら、頑張れる気がするの。」
輝との事で、私を気遣かってる訳じゃないよね。単に、姫音の個人的感情よね。
「ちょっと待ってろ。」
私は、再び、先生に許可を得て、女子側の体育を見学する事になった。姫音は、女子体育の教師に、私の見学の許可を得ていた。
無事に許可が取れ、私は、女子の体育を見学中。女子の体育は、ハードルなの。私は、準備を手伝う事に。
「勇飛君。私、ハードル苦手なの。」
「そうやって弱く見せて、強の気を引く気?」
「失礼ね。本当の事よ。」
「ハードルが苦手なの、俺、分かるよ。まあ、俺自身が不器用だったからだと思うけど、足を引っ掛けちまうんだよな。小学時代、ハードルに足引っ掛けて、転んだ事がある。」
「そう、それよ。私が気にしているのは。」
「でも、意識し過ぎすんなよ。本当に転んじまうかもしんねーぞ。」
「肝に銘じるわ。」
とか言いつつ、いざ姫音の番になると、足をがくがくさせていた。
「姫音。さっき、肝に銘じるって言ったろ?頑張れよ。」
「え・・ええ。勿論よ。」
何か、姫音、無理に笑顔を作ってる気がする。
走り始め、不安を掻き消すかの様に、1つ2つと、ハードルを跳び越えたけれど、不安が戻った様で、3つ目で、ハードルに足を引っ掛け、転んでしまった。
「おい、大丈夫か?」
私は、一瞬で、姫音の所に駆け寄った。
「何度見ても、勇飛君の走りは、カッコイイ。短距離だと、一層カッコ良く見える。」
「そんな事言ってる場合かよ。すぐに、保健室に行くぞ。」
私は、姫音に向かい、手を差し伸べた。
「大丈夫。痛くも何ともないから。」
「強がんな。スゲー傷じゃねーか。痛くない訳ないだろ。さ、行くぞ。」
姫音は、赤面ながら、涙ぐみ、「有難う。」と言いながら、私の手を掴み、立ち上がった。そして、一緒に、保健室に向かった。・・ていうか、私、一体、何してるのよ。そうよ。一人で立てるし、一人で保健室にだって行ける事なのに、何で、彼女の事を助けてるのよ。これじゃあまるで、私が、姫音のプリンスみたいじゃない。
一方、それを見ていた男子側はというと・・。
「なあ、今の見たか?強が、姫音を連れて、保健室に行ったぞ。何とも思わないのか?」
「俺には、関係ない。」
「何でそんなに、冷たい事言うんだよ。顔の表情も冷たいぞ。本当に、君達は、もう、終わりなのか?強の事、今でも好きなのに、強がってるだけじゃないのか?」
「いい加減にしてくれ。」
「何でこうなるんだよ。」
さて、保健室では、姫音の膝の傷を、私が消毒しています。
「済まない。俺が、意識し過ぎんなと言ったから、かえって、意識しちまったんだよな。」
「勇飛君は、悪くないわ。これは、私が越えなければならない壁だったの。確かに、すぐに、不安を消す事は、難しい。でも、あなたが励ましてくれたお陰で、前に進む勇気を貰えた。本当に、有難う。」
「そうか・・それなら良い。」
「勇飛君。あらためて、あなたに、言いたい事があるの。体育祭の時、私、優勝にこだわってた。勇飛君の前で、私が1位に順位を上げた状態で、バトンを渡すと宣言しておきながら、守れず、2位の状態でバトンを渡してしまった。なのに、私らしく精一杯走ったのだから、それで良いと優しい言葉をかけてくれた。その言葉に、どれ程救われた事か。本当に有難う。」
「最初に、君の走るペースに、素直に従えと言ったんだぞ。あの時は、勝つ事で頭が一杯で、聞いてなかった様だがな。」
「こんなに優しくされたら、益々、あなたを好きになっちゃう。友人として。」
「こちらこそ、今日は、教科書を見せてもらったり、授業で当てられた時、俺の代わりに、教科書の英文を読んでくれて、サンキューな。」
「ど・・どういたしまして。」
顔が真っ赤な姫音。
「大丈夫か?熱があんじゃねーか?」
私が、手で、姫音のおでこに触れると、かなり熱い。言っとくけど、心配で、自然に出た行為よ。恋愛感情じゃないから、誤解しないでよね、姫音。
「ベットで寝てけよ。」
「大丈夫よ。体調は、何も悪くないから。」
帰りの校門で、姫音と二人。
「じゃあな、また明日。」
「勇飛君。握手してくれない?家に帰ってから、勉強がはかどる気がするの。」
「握手した人の事ばかり考え、逆に、はかどらなくなるんじゃねーの?」
「大丈夫よ。励みだもの。」
「いや、やめとく。姫音が、また、顔を赤くして、熱を出しそうな気がするから。」
「そ・・それは、勇飛君の事がす・・。」
「ほら、案の定、顔が赤くなった。そんなんじゃ、頭がボーっとして、勉強に集中出来なくなんぞ。じゃあな。」
「ちょっ・・勇飛君。」
私は、普通に走って、帰宅した。そうよね。別に、今は、走る必要が無いから、幽霊の意志は、働かないわよね。
帰宅後、暫く経ち、パソコンのメールを確認すると、輝君からのメールが入っていた。学校での男子の私は、別れてしまったけど、スズメという女子の私とは、何ともないんだもんね。
[スズメ。今日の昼、学校の中で、ミケ猫に会ったんだ。毛繕いをする姿が、とても愛らしくて、癒されたよ。スズメの学校では、今日、どんな事があった?良かったら、教えて。それから、今月、空いてる日はある?また、二人で、どこかへ出掛けたい。]
そうだったんだ。今日の昼休みは、猫を見ていたのね。毛繕いする猫の姿は、想像するだけで、心をくすぐられるよ。私なんかより、猫といる方が、心が休まるよ。きっと・・。私なんかより良い人が、他に居る筈。さようなら、輝君。私は、彼のメールに、返信しなかった。
それからというものの、学校に、教科書やノートを忘れる事は、なくなったけど、授業で突然当てられても分からない所は、分かる範囲で、姫音が代わりに答えている。余程、私の役に立ちたいらしい。毎日、朝、校門の前で、姫音が私を待つのも、いつもの事。体育は、暫く、女子の体育を見学させてもらえる様、男女両方の体育教師に、許可を得て、ハードルの出し入れを手伝っている。輝君を避けたいから。昼食は、席替えの翌日は、姫音と二人だったけど、今は、輝君を除き、園とマッヒーを加えた4人。マッヒーに関しては、輝君に、これからは、一人で食べたいので、来るなと言われたそうです。
ある日の昼休みは、学校の裏庭に、姫音と紫陽花を見に行った。
「花を見るのが好きってのは、お嬢様らしいって感じで、姫音のイメージにピッタリだな。」
「勇飛君は、何のお花が好きなの?」
「俺は、花っていうか、たんぽぽの綿毛が好きなんだ。フーッて、飛ばすのにハマるんだ。」
「勇飛君は、随分、可愛らしい趣味を持っているのね。」
「そうか?姫音は、どんな花が好きなんだ?」
「私は、薔薇かしら。品があり、美しく感じるわ。」
「トゲがあるってとこが、姫音にピッタリだな。」
「もう、酷いわ。」
「冗談だよ。やっぱり、お嬢様だな。姫音は。でも、紫陽花とのツーショットも、お似合いだぞ。紫陽花もお嬢様って感じがする。」
「そうかしら?」
「そのミニバック、デジカメの入ってるのだろ?撮ってやるよ。」
「これは、あなたを撮りたいから、持って来たのよ。」
「いいからいいから。ほら、貸せよ。紫陽花てのツーショット写真を撮ってやるよ。」
「じゃあ、勇飛君も一緒に入って。これ、画面を見ながら、自撮り出来る機能の付いたカメラなの。」
「へえ。良いな、それ。撮る前に、自分がどういう風に写っているか確かめられるから、満足行く写真が撮れるよな。」
「じゃあ、行くわよ。はい。チーズ。」
撮れた写真を見せてもらったら、姫音は、ウィンクしながら、投げキッスをしていた。
「普通に撮れないのか?」
「折角の勇飛君とのツーショットだもの。張り切って撮りたかったの。逆に、勇飛君は、普通過ぎだわ。」
「言っとくが、姫音が一緒に撮れと言うから、仕方なくだったんだからな。」
「もう。おせじでも良いから、私と撮れて嬉しいと言ってもらいたかったわ。でも、私の無理な頼みを聞いてくれた優しさに、心を惹かれるわ。」
「何言ってる?俺は、優しさなんて持ってないぞ。」
「もう、素直じゃないんだから。でも、そこがまた、素敵。」
ある日事。天気予報では、1日中、曇りだと言っていたので、傘を持って行かなかった。ところが、帰り、雨になった。
「マジかよ。天気予報めー!」
「今日は、部活無いし、一緒に帰ろう。私の傘に入って。」
「サンキュー、園。持つべきものは、親友だな。」
「ちょっと、ギザ村さん。私が席を外しているからと、抜け駆けとは、卑怯よ。勇飛君は、私と一緒に帰るのよ。」
「アンタは、帰る方向が全く違うでしょ。」
「構わないわ。勇飛君。私の傘に入って頂戴。」
「仮に、強を送ったとして、ちゃんと、帰れるのかしら。」
「大丈夫よ。何とかなるわ。」
「さて、どうかしら。」
私は、姫音の傘に入れてもらった。
「済まない。まさか、天気予報が外れるとは、思いもしなかった。」
「私は、勇飛君の役に立てているし、あなたとの相合い傘だなんて、とても幸せよ。」
「相合い傘するのが狙いだったのか。でもまあ、助かった。サンキュー。」
「勇飛君に感謝されるなんて、嬉しい。」
赤面する姫音。
私の家の玄関に到着。
「今日は、本当にサンキューな。これからは、折りたたみ傘でも持参するかな。また、予報が外れる事があるかもだしな。」
「駄目よ。それじゃあ、私の出番がなくなるじゃない。」
「気持ちは、有り難いが、その度に、毎回送ってもらってたら、君に、迷惑がかかるだろ。」
「いいえ。逆よ。勇飛君と居られる時間が長くなり、とても嬉しいわ。」
「・・ていうか、本当に、帰れるのか?」
「・・あれは、和村さんを、あなたから離す為に、言ってみただけ。」
「・・ったく、しょうがねーな。ちょっと待ってろ。」
私は、家に入り、傘を持って来た。
「学校の門まで送ってやる。」
「ごめんなさい。折角、家に帰ったのに、また、学校まで行かせてしまって。」
「運動になって、調度良い。」
「勇飛君・・有難う。」
姫音は、涙ぐんだ。
学校へ行く途中で、小学生を見掛けた。
「小学生の頃、いつもと違う通学路を通ると、登校班やぶりって言われてた。私、帰りに、友人の家に行く事が多くて、度々やってたから、その度に、男子達から罵られてた。今日は、久々に、自分の通学路でない所を通ったけど、こんなに気持ち良かったのは、初めてよ。」
「登校班やぶりか・・。俺は、1回やった。その日は、いつもより帰りが遅いと、親に叱られてた。」
「私の家は、共働きだから、親に叱られる事は、無かった。だから、堂々と何度もやってたの。駄菓子屋にも寄り道した。」
「そういう寄り道は、楽しくて良いな。家に帰って、勉強ばっかじゃ、疲れるしな。気分転換にピッタリだな。」
学校の校門に到着。
「勇飛君。送ってくれて、有難う。」
「お礼すんのは、俺の方。帰りの方向が全く逆だったにも関わらず、君の傘に入れて送ってもらったんだからな。」
「勇飛君の隣の席になってから、中学生活が宝物の様に思えるの。このまま、席替えしたくないわ。」
「俺からしたら、席が隣になってから、君のウルサさが増した様に思うけど。」
「勇飛君ってば、ヒドイ。」
「冗談冗談。本気にするなんて、可愛らしいな。」
「いいえ、絶対に冗談じゃないわ。本当の事を言って頂戴。」
「例えウルサかったとしても、それが、姫音らしさだろ。これからも、ちゃんと付き合うから、安心しろ。」
「私の事、受け入れてくれて有難う。今日の事で、あなたとの距離が、より近づいた気がするわ。」
ある日の昼休み。図書委員だけど、輝君に会ってしまったら、また、胸が異常に痛むのではないかと心配だった。でも、珍しく、輝君は、来なかった。きっと、私に会いたくないんだよね。こんな事を言うのも何だけど、輝君が居ない事に、ホッとしてる。輝君に嫌われた事がショックで、顔も合わせらず、図書委員としての役割を果たせなくなると思うから。代わりに、姫音が、図書室について来た。今日は、返却された本を、本棚に片付ける事に。いつもは、輝君とやっていたけど、代わりに、姫音が手伝ってくれた。
「勇飛君。あなたの持ってる本を、少し貸して。」
「カウンターには、もう無いのか?」
「ええ。」
「じゃあ、この本を頼む。」
「分かったわ。」
昼休みが終わり、教室に戻っている最中。
「私が行って、正解だったわね。真癒君は、一体、何をしているのかしら?ズル休みなんて、卑怯よ。勇飛君を困らせて、何が楽しいのよ。」
「輝は、何も悪くない。俺に会いたくないんだよ。」
「だから何だと言うの?委員としての仕事に私情をはさむなんて、どうかしてるわ。勇飛君は、優し過ぎよ。後で、ビシッと言ってやるわ。」
またある日の昼休み。私と姫音と園とマッヒーの4人は、体育館へ。
「刄魔。何をするつもり?」
「劇をしましょう。物語は、白雪姫を改造したもの。主人公は、王子。王子が毒林檎を食べて、亡くなる。馬車に乗り、やって来た姫が、棺に入った王子を見掛ける。王子に一目惚れした姫は、王子にキス。すると、王子は、生き返る。姫の愛のお陰で、生き返る事が出来たと感謝しする。小人達から事情を聞き、姫が、私の城に来て下さいと誘う。姫の住む城には、王子が居ない。姫が王様に事情を話したら、婿養子にし、この国の王子にしようと喜ぶ。こうして、王子と姫は、めでたく、結婚し、末永く幸せに暮らしたという物語よ。」
「どうせ、アンタが姫役なんでしょ。」
「勿論。そして、王子役は、勇飛君よ。」
「いや、俺は、鏡か狩人か小人役で良い。」
「今回は、狩人の出番は、無し。鏡は、魔力により、世界一可愛い姫がいるという嘘の場所・・つまり、姫はいないけど、小人達しか居ない場所に、王子をワープさせるの。じゃあ、配役だけど、広君は、鏡の役とナレーション。ギザ村さんは、小人達という事で、1人で複数を演じてもらうわ。」
「ギザ村言うな!」
「でも、面白そう。僕は、乗った。」
「私は、反対よ。本気で強にキスするつもり?」
「フリに決まってるわ。」
「嘘つけ!絶対本気でしょ!」
「なあ、お妃役は?それやるよ、俺。」
「駄目よ。勇飛君は、私だけの王子様なんだから。お妃について、言い忘れてたわ。今回のお妃は、鏡の魔力により、突然城から居なくなった王子のしつけとして、そのままの姿でやって来る。言う事を聞かない王子に、彼の好きな林檎を食べさせ、殺してしまったという設定。」
「僕から疑問なんだけど、お妃の始末は、どうするの?」
「今回は、しつけるつもりが、王子を殺してしまった事で自分を責め、毒薬を飲み、城内で自殺したという事にするわ。」
「お妃と、姫の城の王様は、広君に任せるわ。」
「良いじゃねーか。マッヒーのオカマ妃!面白くなりそうだな。だが、俺は、どうしても、王子なのか?」
「さあ、即興劇始めるわよ。」
「姫音!人の話を聞け!」
こうして、マッヒーのナレーションから、物語が始まった。
「昔々、ある国に、一人の王子がいた。その王子は、城の中での生活が、退屈だったので、外出する口実の為に、お見合い相手を捜そうと、鏡に訪ねた。」
「鏡よ鏡。世界で1番美しい女性は、誰だ?」
「それは、白雪姫です。」
脇にいた姫音が、さっと、私の目の前に移動。鏡に写っているという表現のつもりみたい。
「白雪姫。確かに・・何と美しい。で?彼女は、何処にいるのだ?」
「森の奥深くで、一人暮らしをしている様です。」
「何故だ?城にいる筈では?」
「実は、王子様と同じく、城に居るのが退屈だそうです。」
「さすが、我が鏡。情報通だな。姫は、私と気が合いそうだ。早速、森に行けるか?」
「勿論ですとも。では、参りますよ。ミラミラワラプラー!」
鏡のミラーとワープを、アダブラカダブラみたいにしたのね。さて、ワープは、どの様にしたかと言うと、私が、通常の速さで、どの位か走った。ただのちょっとした劇だもの。幽霊が走りたいなんて、思う訳ない。走るライバルが必要だもんね。
「森の奥深くに着いた王子。目の前に、木の家が建っていた。王子は、木の扉をノックした。」
私は、扉を叩くジェスチャーをした。
「誰か居るか?」
「はい?」
「扉の中から出て来たのは、何と、小人達だった。」
「どちら様ですか?」
「とある国の王子だ。ここに、姫が居ると聞いたのだが。」
「残業だが、ここに、姫は、いないぞ。」
「何だと!鏡の奴!嘘をつきやがったな。後で、懲らしめてやるから、覚悟しろ!・・でも、調度良い。城の中にばかり居るから、退屈でたまらなかった。外出出来たという意味では、感謝せねばならんな。だが、予定が狂ったな。そうだ、お前達。俺を、ここに泊めろ。」
「タダで泊めろと?」
「どうしろと言うのだ。」
「料理・掃除・洗濯を手伝って頂きますよ。」
「一度もやった事ないぞ。」
「仕方ありませんね。やり方をお教えします。」
「こうして、王子は、家事を手伝う事を条件に、小人達の家に泊めてもらう事になった。王子は、早速、料理を手伝う事に。今回は、キノコシチュー。王子は、キノコ切りをやる事に。」
まず、小人役の園が、包丁で物を切るジェスチャーをし、それを真似、私もジェスチャーをした。
「覚えが早いですね。」
「でも、面倒だな。」
「そりゃ、今迄、何もして来なかったんですからね。体が慣れてませんしね。」
「王子が完成したシチューを食べてみると、嫌そうな顔をした。」
「どうしたんです?」
「噛んだ瞬間から、口に合わん。味も感触もな。」
「キノコを1度も食した事がないのか?だが、ここに泊まる以上は、嫌いな物も、我慢して食べてもらうぞ。」
「うへー。」
「王子の寝場所は、床となった。」
「おい、小人共。例えお前達の家とはいえ、俺は、王子だぞ。この扱いは、あんまりじゃないか。」
「アンタは、単なる客人だろ。泊めてやってるだけ、感謝しろ。」
「こうして、王子は、床に敷物を敷いて、眠る事になった。その頃、王子の城では、食事に来ない王子を心配した母が、彼の部屋にやって来た。あら、居ないわ。何処に行ったの?」
ナレーションを普通に読み、すぐに、オカマ声に変わる所が面白くて、笑いそうになった。
「鏡よ鏡。王子は、何処?私は、存じません。嘘おっしゃい。もし、勝手に外出しようものなら、警報が鳴る筈よ。」
鏡の時は、臣下って感じで、キリキリした声を出し、またすぐに、オカマ声になる。再び言うけど、やはり、マッヒーの声の変わり様は、本当に面白おかし過ぎ。
「本当に存じません。いいわ。今日は、放っておきましょう。でも、もし、明日、王子の行き先を言わねば、お前を割るから、覚悟なさい。こうして、お妃は、王子の部屋から出て行った。翌日、王子は、早朝から、ホウキで家の中の掃除をしたり、川の水で、洗濯物を洗ったりしていた。」
私は、ホウキを持つジェスチャーや、ゴシゴシと洗う様なジェスチャーをした。
「包丁より面倒かも。」
「アンタが、今迄、どれだけ楽して過ごしてたか、思い知った事だろうな。」
「ああ、嫌という程。」
「さて、王子の城の方では、お妃が、王子の部屋の鏡に、王子の行方について、尋ねていた。仕方ありませんね。割られたくありませんので、白状します。森に行かれました。森ですって?一国の王子ともあろう者が、森で、何遊んでるの?お仕置きが必要な様ね。お妃は、王子の好きな林檎を切り、毒薬をかけて、盛り付けた。本当は、山葵を塗るつもりだったのに。そして、鏡により、お妃は、森に到着した。王子達は、まだ洗濯をしていた。王子!」
「母上。どういう事です?」
「お前は、何故、勝手に、城の外へ出たのです。今日は、隣国の王様がお見えになる日だと分かってる筈。」
「ヤッベ!忘れてた。」
「何がヤッベよ。今すぐ、私と城へ戻るのよ。」
「ヤダね。城という狭い空間に縛られたくないんでね。」
「・・じゃあ、これを食べたら、大人しく、戻ってくれるかしら?」
「お妃は、王子の前に、林檎を出した。」
「俺の好きな果物じゃねーか。これで俺を釣ろうってか?そうは、行かねーぞ。」
「今日の予定が終了したら、ここに、戻って良いから。」
「マジ?本当に良いんだな?仕方無いな。これ食ったら、戻ってやるよ。」
マッヒー、発想が面白い。城の中に警報や林檎に山葵と、現代風な感じ。
「王子は、皿に盛り付けられた林檎を1つ食した。すると、急に苦しみ、倒れた。」
「うっ!」
私は、手で首を押さえ、倒れるイメージで、どの位か、体を前に倒した。そして、死という事で、床に横になり、目を閉じた。
「王子は、そのまま、息絶えた。」
「え?どういう事?ちょっと。起きなさいよ。」
「お妃は、冷たくなった王子の体に触れた。何て事なの?私、死なせてしまったの?おかしいわ。私、山葵を塗った筈よ。」
「王子を懲らしめるという事ばかり頭に有り、夢中になり過ぎて、毒薬をかけていたとは、思いもしなかったんだろ。」
「私は、ただ、王子をつれ戻したかっただけなのに。お妃は、王子を殺したショックで、しょぼんとしながら、一瞬で、姿を消した。小人達は、棺を用意し、王子を中に入れた。」
小人だというのに、怪力揃いなのね。
「暫くして、ポコポコと音がすると思えば、馬車がやって来た。そして、王女が降りて来た。彼女は、棺の所へ行き、開けた。王女は、王子に一目惚れ。」
「まあ、何て美形な方なの?ここまで、私の心を熱くさせる人は、生まれて初めてよ。」
「王女は、王子にキスした。」
「お?どんどん顔が接近中。」
「広君。そんな気楽な事、言ってる場合?強を救わなきゃ。」
「これは、劇だろ?本気でキスする訳ないよ。」
「広君は、騙されてるのよ。彼女は、本気よ。」
「王子の唇まで、後1センチ!果たして、王子への想いは、届くか!?」
「広君。刃魔さんを止めて。」
「愛してる。私の王子様。」
「お!後、3ミリ!」
「広君!そんな事言ったら、刃魔さんが、調子に乗るわ。」
ちょっと待って。やめて!外見だけは、男でも、実際は、女なんだからね。女同士のキスは、有り得ないから。姫音とは、恋愛関係じゃないから。ファーストキスは、本当に、心から愛する人としたいもの。
「後2ミリ!」
「広君!」
やめて!やめてー!その時、調度、チャイムが鳴った。良かった。ギリギリセーフ!もし、チャイムがならなかったら、本当に、キスされていたかもしれない。
「良かった。強が、危険を避けられて。」
「ギザ村さん。危険とは、失礼ね。」
「園。危険も何も、僕は、腕時計を見て、昼休みの終わりがすぐそこだと分かってたよ。」
「そうだったんだ。私も、腕時計付けて来て、時間を見ていたら、広君の様に、冷静でいられたかも・・いえ・・もし、刃魔さんが腕時計を付け、見ていたら、時間が無いからと、すぐに、キスしたかも。」
「そういえば、刃魔は、腕時計してないもんな。」
「ゆっくりしたのが間違いだったわ。あと一歩で、キス出来たのにー!」
姫音は、相当悔しがっていた。
その日の帰りの校門。
「今日、昼休みの劇で、キス出来なかった事を、どう償ってくれるの?」
「俺のせいかよ!ていうか、実際、キスする気だったんだな。俺は、単なる友人だぞ。俺には俺で、これから、恋する人が出来るかもしれないってのに、そういうのを察せず、強引にキスしようとするのは、良くないぞ。」
「話が反れてるわ。今日の事は、どう償ってくれるの?」
「償いとは、大袈裟な。で?俺にどうしろと?」
「今度の土曜、洋服を買いに行くんだけど、それに付き合ってもらえたら、今日の事は、忘れてあげる。」
「言っとくが、あまり、時間は、取れないぞ。普段の予習復習があるんだからな。」
「勿論。一日中、一緒に居てもらいたいとは、言わないわ。勇飛君に、私の服を選んでもらいたいの。」
「自分で選ぶべきだろ。好みってもんがあんだからよ。」
「勇飛君の好きだと思う服が着たいの。」
「ったく、しょうがねーな。分かったよ。」
「約束よ。」
こうして、今度の土曜日は、姫音と出掛ける事になった。それはそうと、通常は、平日しか男にならない様に、神星のパソコンで設定されてるから、設定を変えてもらわなきゃ。
神星の制服屋。
「分かった。じゃあ、今度の土曜限定で、休日でも変身する設定を加えとく。当日は、学ランを着ろよ。それにしても、姫音って奴、君に気があるんだな。」
「冗談じゃない。私には、好きな人が居る・・い・いえ、今は、もう、居ないわ。」
神星は、ゲラゲラ笑った。
「ちょっと。何がおかしいのよ。」
「男の声で女言葉を喋ってんの聞くと、面白くてな。」
「アンタのせいでこうなったんだからね。中学に入ってからの、私の女としての人生を返して!」
「スマンスマン。それより、輝とは、どうなってんだ。いつまでも、体育を見学という訳には行かないだろ。それに、連合陸上に向け、400メートルを8秒で、平気で走れる様になる為の訓練をしないとな。その為にも、一刻も早く、仲直りしないと。」
「頼むから、今は、その話は、やめて。暫く、忘れたいの。」
「もしかしたら、輝も、仲直りしたいけど、切り出せないだけかもしれないだろ?」
「やめて!」
輝君の事を考えたら、辛くなるだけよ。もう、関係ないわ。席が離れたんだもん。
土曜日の午後1時。姫音との待ち合わせ時間。今日の私は、休日だけど、男に変身してます。
「勇飛くーん!」
私に向かって駆けてくる姫音。
「姫音。」
「休日なのに、学ランなの?」
「ああ、これ着てないと、落ち着かない。」
「学ランが好きなのね。」
「ああ、その様だな。」
あなたと出掛ける為に、仕方なく着てるんだからね。
洋服屋に到着。
「色の好みは?」
「通常なら、ピンクを着るけど、今日は、勇飛君に選んでもらう約束よ。色も、あなたの自由に選んで頂戴。」
「文句なしだぞ。」
「ええ、勿論よ。」
お嬢様らしい服を探さないとね。私の中で、それらしい物というと、ワンピースなのよね。
「これ、合いそうだな。」
「ワンピース。しかも、ベージュなんて、私としては、初めてだわ。」
「袖とスカートのとこに、フリフリが着いてる。スカートのとこに着いてるポケットは、ハート形。上は、中央に、白糸で、猫とハートが刺繍されてる。可愛らしくて、姫音にピッタリだと思うんだよな。いつもは、ウルサイ姫音も、ベージュという、落ち着いた色を着れば、今迄より、お嬢様らしく見えると思う。」
「ウルサイは、余計よ。でも、嬉しい。試着してみるわ。」
姫音の試着終了。
「どうかしら?」
「可愛い。」
姫音は、涙ぐんだ。
「本当?」
「ああ。やっぱ、ベージュは、落ち着くな。」
「私、これから、ベージュが、好きになれそう。」
洋服屋での買い物が終わったと思いきや、今度は、髪飾り探しに付き合わせられる事に。
「おい。洋服屋だけじゃなかったのか?」
「このワンピースを着た時に付ける髪飾りを探したいの。今回も、勇飛君が選んで。」
「俺が言われたのは、洋服だけなんだが?」
「いーからいーから。ね、お願い。勇飛様。」
「・・もう、どこにも寄り道すんなよ。」
「ええ、今度こそ。」
私は、すぐに、これというものを見つけた。 というか、本当に、私個人の好みだけど。
「服にハートの刺繍があんなら、髪飾りもハートじゃねーと。なんてな。」
「全体的に、色が薄くて、落ち着いてるわ。左から、水色・薄紫・薄黄色・エメラルドの4つのハートが付いてるのね。素敵。」
「これで良いか?」
「ええ。今度のお出かけで、この髪飾りを付け、先程の服を着て出掛けるのが、楽しみ。」
買い物帰り、街中を歩いていたら、突然、猫が、道路に向かって、飛び出して来た。
「猫ちゃん、そっちは、駄目よ。車に引かれてしまう。」
猫に向けて、大声で叫ぶ姫音。
でも、その声は届かず、ひたすら前に走る猫。道路に飛び出した猫と車の距離が近付いている。
「危ない!」
私がそう叫んだ瞬間、一瞬で猫の所へ行き、抱き上げた後、再び、一瞬で元の場所に戻った。
「猫ちゃん・・ああ・・可愛い猫ちゃん。無事で良かった。」
姫音は、涙しながら、猫を撫でた。私も猫を撫でた。
「よしよし。もう大丈夫だからな。こんな危険な事、二度とするなよ。車に引かれんじゃないかと、心配だったんだからな。」
私達が撫で続けていたら、猫がニャーンと笑顔で泣いた。それを見ていたら、心が癒された。
私は、抱き上げた猫を離した。私と姫音は、手を振り、走り去る猫を見送った。
「猫ちゃん、元気でね。」
「気をつけてな。」
「輝君、猫ちゃんを助けてくれて、有難う。」
「俺、猫好きだからさ、危険な目に遭いそうになるのを、放っておけなかったんだ。」
「いつも、学校で走っている時の様に、超速走りで、助けに行ってくれた。勇飛君は、本当に、優しくて、カッコイイ。今の事で、益々、あなたに、心を惹かれたわ。」
「姫音こそ、猫想いで優しいな。涙してたじゃないか。」
「私も、猫ちゃんが大好きなの。でも、勇飛君の様に、道路に行く事ができない。自分の命が重要だから。それは、本当の優しさじゃないわ。」
「でも、俺は、心の中で、無事を祈るだけでも、十分優しいと思うぞ。もしかしたら、俺が居なくても、姫音のテレパシーが、猫に届き、引き返したかもしれないぞ。そういえば、猫って、ジャンプ力あるもんな。もしかしたら、車の上にジャンプする事もあるかもな。・・なんてな。」
「私の事、慰めてくれるのね。有難う。やっぱり、勇飛君は、優しい。だから、大好きよ。」
不思議に思ってた。競技ではないのに、なぜ、超速になったのかと。さっき、姫音に対し、危険な目に遭いそうになるのを、放っておけなかったと言ったけど、それは、私ではなく、学ランの中に居る幽霊の意志だと思う。きっと、超速を生かして活躍し、正義のヒーローにでもなりたかったんじゃないかな。でも、今回は、幽霊の意志の力に感謝かな。もし、それが働いてなかったら、私も、姫音と同じく、歩道で、猫の無事を祈る事しか出来なかった。
6月末に突入。今日は、朝から雨。そろそろ、体育の授業に復帰せねばなんだけど・・というか、約一ヶ月も休むなんて、私、異常よね。見学しているとはいえ、今もまだ、女子の方の体育を見学している状態。これも異常事態。とにかく、見学せず、普通に、男子の体育の方に戻るには、輝君と仲直りする必要があるの。でも、今の私には、本当に仲直りしたいのか、よく分からないの。授業だけの為だなんて、本当の仲直りじゃない。輝君という一人の人間の全てを、もう一度受け入れねばならない。私に、そんな事、出来るのかな?
昼休み。今日は、姫音が風邪で休んでいる為、私と園とマッヒーで、教室に居ます。
「真癒君、毎日一人で、何処に行ってるんだろうね。」
「なあ、強。僕は、以前の様に、二人には、仲良くいてもらいたい。今の二人を見てると、こっちが辛くなるよ。」
「んな事言っても、俺らの関係は、もう、修復しようが無いんだよ。」
「ねえ、強。このままで良いの?きっと、真癒君だって、冷静になれば分かる筈よ。強が、永遠の別れじゃないから気にするなと言ったのは、悪気では無いという事を。きっと、彼の中では、強と席が離れるという事が、クラスが別れたかの様に、辛い事だったのかもね。強。今も、真癒君の事、好き?もし、心から彼を慕っているなら、気持ちを伝える大チャンスだよ。真癒君は、強の愛の言葉を、待ってると思う。」
今も好きか?それは、私が輝君に聞きたい台詞よ。でも、一応、謝らないとね。輝君の事を、傷付けた事は、事実だしね。
放課後。雨の中、私は、傘もささずに、裏庭に行った。輝君への謝罪のつもりで。でも、放課後に、裏庭なんて、来る訳ないよね。
10分後、雨に濡れ続け、くしゃみが出始めた私。いいの。風邪で学校を休む事になっても。私が居なくなれば、輝君は、安心して過ごせる筈だもの。そんな時、輝君が、傘をさし、やって来た。
「あ・・。」
「こんな所で何をしてる?風邪をひくぞ。」
「関係ないだろ。俺に構うな・・クシュンクシュン。」
「くしゃみが出ているじゃないか。早く、俺の傘に入れよ。」
「嫌だな。早くどっか行ってくれないか?」
ちょっと、私。何言ってるのよ。輝君が、親切に、傘に入れと言ってくれてるのよ。感謝しないといけないのに、何で、素直になれないの?
「風邪ひいてるのに、放っとける訳ないだろ。」
「だから、輝と俺は、もう、別れただろ。」
その時、輝君は、傘を捨て、私を抱きしめた。
「離せ!離せよ!俺は、女じゃない。」
「君の体は、俺の体だ。君が風邪をひくなら、俺もひく。」
「何言ってんだ。早く行け。」
「行かない。君が、このまま傘もささずに、ここに居ると言うなら、俺も傘をささない。」
どうして?私、あなたを傷付けたのに・・。どうして、変わらず、優しくしてくれるの?甘えたくなっちゃうよ。そんな資格、私には無いのに。
「俺の事は、忘れろ。」
「関係ないとか、別れたとか、忘れろとか、言うなよ。席が離れて、暫く君と距離を置いて、学校がつまらなくなった。刃魔が、君に教科書を貸したり、授業で君が当てられ、分からない所を、彼女が代わりに答えている事に、嫉妬した。刃魔への嫉妬心は、まだある。登校時も下校時も、君を独占していた事。この間、体育館で、君にキスしそうになった事。」
「見てたのか?」
「全て、俺が君にしたい事なのに、刃魔に、良い所を持って行かれて、凄い悔しかった。」
「全てって・・キスも含めてか?俺の事、女と間違えてないか?」
「君が女の子なら、キスしたいと思う程、愛しいという事。」
その時、トクントクンという心音が、大きな音量で、ハッキリ聞こえた。有り得ない。何、この気持ち悪さ。私自身も、ドキドキしてるけど、この異常な音量という事は、幽霊の輝君に対する恋心が高まっているという事よね。
「中に入るよ。調子が悪い。」
「じゃあ、僕の傘に入って。」
「・・有難な。」
「お礼は、いらないよ。当たり前の事をしているだけだから。さあ、行こう。」
輝君は、私を離すと、捨てた傘を拾い、私を、傘の中に、入れてくれた。私達は、昇降口に向かい、歩いた。
誰もいない教室で、私達は、暫く休んだ。心音は、もう、聞こえないので、気持ち悪さから解放された。
「保健室でなくて、大丈夫?」
「ああ。体調は、回復した。何か、久しぶりだな。こうして、二人きりになるの。」
「刃魔が居ないから、君との間を誰にも邪魔される事がなくて、とても嬉しい。」
「そうか、良かったな。」
「勇飛。これを受け取って。」
「・・ビーズで作った腕輪か。虹色に組み合わせたんだな。こんな素敵なもの、貰って良いのか?」
「実は、俺用も作ったんだ。ほら、君とお揃い。」
「本当だな。」
「勇飛。これから、毎日、学校では、これを付けて欲しい。俺も付けるから。そうしたら、例え、君と席が離れていても、心が一つに繋がっている様に思え、安心出来るから。」
「冬服なら、袖に隠せるから良いが、夏服だと、まる見えだから、勉強に関係ないものだと、先生に、没収されるぞ。」
「友情の証だと・・これをお互いに付けていなければ、俺の精神が安定せず、かえって、授業に集中出来ないと言う。」
「・・あのさ・・その・・。」
「席替えの時に、僕に言った言葉を気にしているのかい?君が謝る必要は、無いよ。君の言う通りだよ。同じクラスなんだから、席が離れても、いつだって会える。君は、普通の事を言っただけ。俺、あの時、君と席が離れるだけで、君と違うクラスに別れた様な気分で、辛かったんだ。だから、君に、キツく当たってしまったんだ。だから、悪いのは、俺。勇飛の事を傷付けて、ゴメンな。」
「謝らないとならないのは、俺の方だ。輝の辛い気持ちを察せず、無神経な事を言い、傷付けた。本当に、済まなかった。」
私の目から、涙が溢れた。輝君の手が、私の頬に触れた。
「ずっと気にさせて、辛い思いをさせて、ゴメンな。でも、その分だけ、俺の事を想い続けてくれたんだよな。俺、とても幸せだよ。」
私は、輝君の広い心に救われ、更に、涙が出た。
「君の涙は、とても美しく、愛に満ちている。俺を想い、流してくれた涙は、大切な宝物だよ。勇飛が親友で良かった。」
「俺には、そんな事言う資格無い。」
「親友なのに、資格なんて、必要あるかい?俺、これからは、刃魔が君の隣の席だろうと、休み時間の度に、勇飛の所に行く。昼食も昼休みも、ずっと一緒だから。授業で、勇飛が当てられて困った時は、俺が助けるから。行きも帰りも、校門から教室まで、一緒だから。」
「・・輝・・。」
「これからもずっと、俺達は、親友だからな。」
「・・有難う・・。」
結局、私の口から、輝君が親友で良かったなんて言えなかったけれど、彼の包容力に、益々、心惹かれる私でした。
帰宅し、自分の部屋でパソコンのメールを見ていたら、輝君からメールが入っていた。
[スズメ。元気にしているかい?全然メールが来ないから、心配になったんだ。俺、スズメの気に障る様な事を言ったかな?もし、そうなら、教えて欲しい。改善するから。俺は、これからも、スズメの友人でいたい。]
[輝君。メール返信出来なくて、ごめんなさい。輝君は、何も悪くないよ。実は、学校で、友人と喧嘩して、ずっと、落ち込んでたの。でも、今日、やっと、仲直り出来ました。友人の心の広さに救われ、幸せな気分です。なので、やっと、返信出来ます。こんな私で良ければ、これからも、友達でいて下さい。]
[スズメ。学校で、友人と仲直り出来て良かったね。自分の事の様に、嬉しいよ。勿論だよ。これからもずっと、僕らは、友達だよ。7月、二人で、どこかへ出掛けよう。君の好きな所に行こう。お返事待ってます。]
今日は、何て幸せな日なんだろう。神様に感謝しないとね。
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