4th Hand りりこ来たりて踊らにゃ損損


    ここは世界のどこかの場末のカジノ

    集まる面子はいつも同じ


○登場人物


     ☆サクラ

      正体不明・天下無敵のハイティーン。   

      ポーカーは物心ついた頃からやってる。

      人種設定:ワイルドカード


     ★ムラカミ

      自称「グレートな男」の残念な熱血系。

      寺銭少なめのバクチを探して辿り着く。

      人種設定:モンゴロイド


     ★棟梁

      肩で風切るいなせなジジィ。てやんでぃ!

      実は奥さんの方がバクチ歴長い。

      人種設定:コーカソイド(ゲルマン系)


     ☆ミスホワイト

      女の武器フルアームドおねーさん。タイトスカート。

      訊くな。

      人種設定:コーカソイド(スラヴ系)


     ★ジョニー

      陽気でファンクな脳筋マッチョ枠。

      ダチに勧められて。そいつのことはノーコメントで。

      人種設定:ネグロイド


     ★猫柳

      存在感薄めの不思議少年。猫がなつく特性もち。

      生業。

      人種設定:ワイルドカード



     ☆ダニエラ

      冷静沈着な美貌のディーラー。

      あの、ポーカーを生業と言えるのは、私の立場だけでは……。

      人種設定:コーカソイド(ラテン系)


○Guests


     ★ミズハシ

       ムラカミの同僚。

     ☆リリコ

       ムラカミの同僚ニトリの妹。


○ディーラーポジション:ムラカミ

○ムラカミーSBサクラ-BB猫柳-UTGジョニー-HIホワイト-CO棟梁




    全員そろって、すでにゲームは開始している。

    シャッフルするダニエラの表情が明るい。


サクラ 「なんかダニエラさん、ゴキゲンよね」

ダニエラ「今日はですねぇ、パーティールームにムラカミさんからご予約をいただ

     いてまして」

サクラ 「ムラカミが?」

ムラカミ「会社の連中と飲み会だよ。言っとくが、俺はちゃんと働いて稼いでんだ

     からな!」

サクラ 「ふぅん。ま、ここが商売繁盛すんのはいいことだ。でも、飲み会一つで

     ゴキゲンなの?」

ダニエラ「(ムラカミに)ミズハシさん来られるんですよね?」

ムラカミ「来るよ」

サクラ 「ミズハシって?」

ムラカミ「会社の先輩だよ」

ダニエラ「超イケメン」


   ミスホワイトが、バンと卓を叩いて立ち上がる。全員の視線が集中す   

   る。


ダニエラ「でもカノジョさんいるんですよね」

ホワイト「……ちぃっ!」


    ミスホワイト、ドスンと座り込む。


ムラカミ「決まった彼女はいないよ」

ホワイト「どっちなのよ!」

ダニエラ「でも以前いらした時は……」

ムラカミ「ヒトミさんの方がベタ惚れで、いつもくっついてるんだよ。あ、ヒトミ

     さんてのも会社の人で、俺より年下だけど先輩で、めっちゃ仕事できる

     人。ミズハシさんは朴念仁でさ、自分がイケメンでモテキャラなの自覚

     してない」

ダニエラ「あぁ、そんな感じでしたね。でもそんなふうに意識してないとこがまた、

     くすぐられるんですよね。なんというか……ナチュラルボーン女たら

     し?」

棟梁  「客に対する表現じゃねぇぞそりゃ」

ジョニー「おいらもそんなふうに呼んでくれよベイベー」

ダニエラ「無理」


    ジョニー、orz。猫柳が肩を叩く。


サクラ 「ダニエラさんにそこまで言わせるのはスゴイね。あたしもちょっと気に

     なるな」

ホワイト「あんたにゃ早い」

サクラ 「なんでよーぉ」

ホワイト「女の激戦地に、ヒヨっ子の新兵が足を踏み入れるな、ってことよ。生き

     ては帰れない地獄を見るわ……」

ムラカミ「えーっと、……こっちからもお願いしときたいんだけど、先輩にちょっ

     かい出すのはやめてね」

ホワイト「なんでよ? 嫉妬と罵倒は女の勲章よ、受けて立つわ」

ムラカミ「いや、うちの会社から損害賠償請求が行く」

ホワイト「へ?」

ムラカミ「ヒトミさんの仕事っぷりハンパないから、スネるとうちの売上の三割以

     上が吹っ飛ぶんだよ。彼女のモチベーションを保つのは、全社的な優先

     事項なんだ。ミズハシさんはそのキーマンなわけ、自覚ないけど」

棟梁  「おまえの会社オカシイぞソレ」

ホワイト「むしろ燃えるわ! 失業を覚悟なさい、ムラカミ」


    ミズハシ登場。


ミズハシ「やっぱりこっちか、ムラカミ」

ムラカミ「あ、ども、先輩。もう始めます?」

ダニエラ「ようこそ、ミズハシさん」


   ホワイトが立ち上がりしなを作ろうとするところ、棟梁とジョニーが   

   両側から引き止める。


ミズハシ「良いニュースと悪いニュースがある」

ムラカミ「……悪い方から」

ミズハシ「ニトリがトラブった。あいつは今日、不参加だ。他のメンバーも一時間

     ほどは来れない」

ムラカミ「ありゃ」

ミズハシ「そういうわけですのでダニエラさん、一時間ほど開始が遅れます。申し

     訳ない」

ダニエラ「頭を上げてください、ミズハシさん。今日は混んでませんし、全然かま

     いませんお気になさらず。……もしムラカミさんから聞かされたら、追

     加料金取ってましたけど」

ムラカミ「……はいはい、先輩のイケメンに感謝しときますよ、っと……それで先

     輩、良いニュースは?」

ミズハシ「代わりにニトリの妹のリリコが来る」

ムラカミ「……それ『もっと悪いニュース』じゃんっ!」

ミズハシ「え、だっておまえ、あいつとけっこう気が合うだろ」

ムラカミ「ないないない!」


   ミスホワイトの気合が勝って、棟梁とジョニーが壁際までふっとばさ   

   れる。

   ミスホワイト、一瞬でミズハシのパーソナルスペースに入る。


ホワイト「初めましてミズハシさん、わたくしホワイトと申します」

ミズハシ「これはどうも、ホワイトさん」


   しなだれかかるミスホワイト……と思いきや、ミズハシはまったく自   

   然体にその肩と手を受け止め、流してかわす。


ホワイト「お仕事は、何を」

ミズハシ「ムラカミと、同じ、です。」

ホワイト「ご趣味は」

ミズハシ「至って、無趣味で」

ホワイト「年齢?」

ミズハシ「ご想像に」


   ミスホワイト、しばらく食い下がって質問を繰り返し、ミズハシにま   

   とわりつこうとするが、すべて受け流される。そのさまはまるでダン   

   スのようである。

   この間、猫柳がどこからともなくバイオリンを取り出し、弾いている。   

   ムラカミが無言で、「な? な? スカしてやがんだろコン畜生メ!」   

   のジェスチャー。ジョニー、棟梁、深く頷く。

   しばしのダンスの後、ミスホワイトの最後の質問。


ホワイト「ではハッキリおうかがいしますわ。どんな女性がお好み?」


   この質問と同時に、ポーカールームの外から物音。ミズハシがピタリと   

   止まり、しばし考えるそぶり。猫柳も一礼して演奏終了。


ミズハシ「……少なくとも、苦手な女性はいますよ」

ホワイト「それは、どういう……」


    物音が近づいてくる。ミズハシ、ぴっと顔を上げる。


ミズハシ「来た」

ホワイト「?」

ミズハシ「(ムラカミに)それじゃ、あとは頼んだ」


   ミズハシ、食い下がるミスホワイトを軽やかに受け流し、そそくさと   

   退場。入れ替わりに、リリコ登場。激しく踊りながら。


リリコ 「りりこーーーーっ とうっじょうっ!」


    全員が声の圧力に吹っ飛ばされる。ムラカミだけあきれている。


棟梁  「な…… なにもんだ?」

リリコ 「りりこはりりこ! きらきらりーーん☆」


    リリコ、キメのポーズ。


リリコ 「おーすムラカミー! 元気してたかー?!」

ムラカミ「まぁ、うん、リリコは今日も元気だな」

リリコ 「りりこはいつだってげんきー! むてきー! せんたっきー! あたり

     きしゃりきにストライキー!」

棟梁  「すきやきだいすき洗面器、じゃねぇ! ムラカミ、おまえんとこの社員

     教育はどうなってんだ?!」

ムラカミ「コレが社員に見えるのかよ?」

ダニエラ「でしたら、その、学生さんはご遠慮いただかないと……」

ムラカミ「こいつオレより年収多い」

ジョニー「知ってる、ビーチの方で最近ダンスパフォーマンスとかしてるよネ?」

ダニエラ「え、ええぇっ? し、失礼しました!」

サクラ 「(小声)踊ってそんなに稼ぐとか……チッ」

猫柳  「(小声)ムラカミさんの年収の方が問題なのでは……」

ムラカミ「るせぇ! (リリコに)なー、パーティの開始時間変わるって言われな

     かった?」

リリコ 「言われたけどチョーヒマでさー、ムラカミここにいるって聞いたから、

     来ちゃった♡」

ムラカミ「来ちゃった、じゃねぇ! ここはポーカーやる人以外立ち入り禁止」

リリコ 「え、でもさっきミズハシっち出てくの見たよー?」

ムラカミ「先輩は時間の変更を伝えにきただけで……」


    リリコの前にミスホワイトが立ちはだかる。


ホワイト「イケメンはいいの。すべて許される。……イケメンとテーブル囲めると

     期待した私の盛り上がりを返しなさいっ」

ムラカミ「ミズハシ先輩はハナからポーカーやる人じゃないよ!」

ホワイト「初心者ならなおさら手取り足取り手綱取りっ!」

リリコ 「何このウルサいオバサン?」

ホワイト「オバっ……」

サクラ 「にゃはは、定石だねー」

リリコ 「……何このチンチクリン?」

サクラ 「……っ!」


   サクラ立ち上がる。ホワイトに手を差し出す。ホワイト立ち上がる。   

   手を受ける。がっちりシェイクハンド。


ホワイト「というわけで、お嬢さん。そこお座んなさい」

サクラ 「むしる。ケツ毛までむしる。覚悟しやがれこの地雷女」

リリコ 「えー、でもあたしポーカーわかんない」

サクラ 「じゃあムラカミごとむしる。ムラカミ、手取り足取り手綱取りで教えて

     やれ」


    時間経過。数十分後。

    リリコ席に・・・・チップが積み上がっている。


サクラ 「……」

ホワイト「……」

棟梁  「……この世には、びぎなぁずらっくという言葉があってのぅ」

ジョニー「猫ぉ、棟梁がどっか行っちゃたんだよぅ。棺桶に足突っ込みかけてんだ

     よぅ」

猫柳  「しっ! また……来る!」


   リリコがディールされた手札を後ろに控えるムラカミに見せる。   

   ムラカミ、ウィンクしてサムズアップ。リリコ満面の笑みで、大量の  

   チップを押し込む。


リリコ 「オールイーン!」

サクラ 「(フォールドしつつ)誰がそれにコールすんだよっ……!」

猫柳  「いえ、……ここで止めます。コール!」


    猫柳、力強く宣言して、チップをすべて押し出す。


ジョニー「え……でもおいらも、ここはコールしないわけには……」


   猫柳とジョニーが顔を見合わせる。ミスホワイトが下りて、三者オー   

   ルイン。それぞれ手札をオープン。

   リリコ♡Q♣Q。猫柳♠A♡A。ジョニー♢A♣A。猫柳とジョニー

   の顔が青ざめる。


猫柳  「これは……」

ジョニー「まさか……」


    ダニエラがフロップを開く。

    ♠Q♢Q♣K。


猫柳  「よもやのクァッズ!」

ジョニー「オーバーキル!」

猫柳  「夢も希望も」

ジョニー「ありゃしねーYooooo!」


   猫柳・ジョニー、棟梁と同様、棺桶に片足突っ込んだ表情になって脱   

   落。


ムラカミ「おおー、すげーぞりりこー!」

リリコ 「すげーぞあたしー!」

サクラ 「ダニエラさんっっ! コレ絶対何かやってるでしょ!」

ダニエラ「誓って不正なんかしてません!」

ホワイト「これで残るは私たちだけ……」

サクラ 「ここで倒さねば世界は終わる……人類の存亡を賭けた戦いだ……」

ダニエラ「そこまでおおげさな話では……(サクラとミスホワイトが思いっ切り睨

     む)はいっ! 続けます!」

リリコ 「カリカリしてっと勝てないよー、リラックスリラックスぅ」

ムラカミ「そーだ、落ち着けー、落ち着けー、(チップの山を見て顔が緩む)……

     いやいや、落ち着けー、リラックスだー、深呼吸しようー、深呼吸ー」

ム・リ 「すぅー、はぁー、すぅー、はぁー」


    サクラ&ミスホワイトの怒りのツリ目がさらに吊り上がる。


ダニエラ「(殺意を呼ぶ深呼吸なんてあるんだ……)」


   卓に女性3人。DPかつUTGミスホワイト。ダニエラ、ディール。   

   

ホワイト「チェック」

リリコ 「コー……」

サクラ 「レイズ」


    サクラ、かぶせるように 5BBレイズ。


ホワイト「コール」

リリコ 「んー、これもコール?」


    フロップ♠Q♡J♢T。

    リリコ、ぱぁっと顔をほころばせる。


リリコ 「(小声)またなんかすごいの来たー」

ムラカミ「(小声)あ、ちょい待ち、ここは少し考えて……」

リリコ 「(制止も聞かず)オールイーン!」


    ムラカミが、あちゃー、という表情。


サクラ 「来やがったなこのアマぁ! そのオールインもらったァ!」

ホワイト「ふ。ここは私も受けるわよ。地獄へ落ちろ」

ダニエラ「えっと、その……全員オールインなので、手札を開いてください……」


    リリコ♢8♢9。


サクラ 「よっしゃぁ下ストレート! あたしのが上だクソズベタがァ!」


    サクラ♠A♣K。


リリコ 「ま、まだわかんないモン!」

ホワイト「ふ。そうね、今のあなたのツキなら、ランナーランナーでフラッシュを

     引いてのけるかもしれないわね。……いいわよお引きなさい、そのツキ、

     私がいただくわ!」


    ホワイト♢J♢Q。


ムラカミ「ぐはぁっ! こ、これはヤバい! ビギナーズラックもここまでか……」

リリコ 「そーなの?」

サクラ 「よくやったシロ! 完璧な包囲網だ!」

ホワイト「我らの勝利のときよ……正義は必ず勝つのよ! おーほほほほ!」


    サクラとホワイト、卓上で、ぱぁんと手を打ち合わせる。


リリコ 「えー、まだわかんないよぉ、あたし勝てる気するもん」

ホワイト「ほほほ、何を言っているの?」

サクラ 「あきらめろ、もうテメェに勝ち筋なんかねぇっ、勝ち筋……なんか……」

ダニエラ「(ひとつ深呼吸)ターンです」


    ターン♢7。

    サクラとホワイトの顔が、ひっ、と引きつる。


ダニエラ「(手が震えている)リバー……です……」


    リバー♢6。リリコの手がストレートフラッシュに。


リリコ 「ほら勝ったじゃーん?」

ムラカミ「すげー、すげぇよリリコー、愛してる今日だけー!」

リリコ 「どーんと一生愛していいぞー、ムラカミー!」

サ・ホ 「ひいぃぃぃぃぃっ!」


    サクラとミスホワイト、抱き合って壁際まで後退、へたり込む。

    ミズハシ再登場。


ミズハシ「お待たせ、こっちはなんとかカタがついた。パーティー始めるよー。

     (辺りを見回す)……何かあったんです?」

ダニエラ「いえ、別に。お気遣いなさることは、何も」

サクラ 「えぇホントに」

ホワイト「何も」

ミズハシ「そう?」


   不思議そうな顔をしつつ、ミズハシ、ムラカミ、リリコ(チップを抱   

   え、嬉しそうに)退場。


ダニエラ「なぜでしょうか、私もすごく敗北感があるのです」


    ダニエラも打ちひしがれて床に崩れ落ちる。

    全員床に座り込む中、棟梁がくらーい顔で訥々と語り始める……。


棟梁  「むかーし、むかしの、ことじゃったー。

     わしがまだ、駆け出しの、ぎゃんぶらーだった頃のことじゃあ。

     わしゃあ、若かったー。有り金ぜんぶつっこんでー、ハイローラー勝負を

     したんじゃあ。

     するとー、ここぞというところで、手札に♠A♣Aが入ったんじゃー。

     わしは喜び勇んでレイズしたー、

     するとカットオフがリレイズしたんじゃー、

     きたきたしめた! とおもってなー、わしゃあもひとつレイズして、しま

     いにゃ両方オールインになったんじゃー。

     たがいに手札を開いてあっとびっくりー、向こうも♡A♢Aじゃあない

     かー。

     こりゃあチョップじゃぁ、しかたなかんべぇと思ってみているとー、

     ボードに

     ハートが

     いちまーい にまーい……」

サ・ホ 「いやぁァァァァ!」


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