2nd Hand 猫は魚《フィッシュ》を見定める


   ここは世界のどこかの場末のカジノ

   集まる面子はいつも同じ


○登場人物


     ☆サクラ

      正体不明・天下無敵のハイティーン。   

      ピンク髪のサイドアップツインテ希望。遺伝子レベルで。

      人種設定:ワイルドカード


     ★ムラカミ

      自称「グレートな男」の残念な熱血系。

      タテガミ。黒鹿毛。

      人種設定:モンゴロイド


     ★棟梁

      肩で風切るいなせなジジィ。てやんでぃ!

      角刈り。ゴマ塩。

      人種設定:コーカソイド(ゲルマン系)


     ☆ミスホワイト

      女の武器フルアームドおねーさん。サラサラヘアー。

      銀髪ロングwith天使のリング。シャンプーは教えない。

      人種設定:コーカソイド(スラヴ系)


     ★ジョニー

      陽気でファンクな脳筋マッチョ枠。

      アフロにするほどチャレンジャーじゃない。

      人種設定:ネグロイド


     ★猫柳

      存在感薄めの不思議少年。猫がなつく特性もち。

      外見はフツーすぎるくらいフツー。

      人種設定:ワイルドカード



     ☆ダニエラ

      冷静沈着な美貌のディーラー。

      ブロンドに染めたアップ髪。うなじは正義。

      人種設定:コーカソイド(ラテン系)


○ディーラーポジション:ムラカミ

○ムラカミ-SBサクラ-BB猫柳-UTGジョニー-HJホワイト-CO棟梁




   ダニエラはおらず、テーブルはまだ開いていない。猫柳以外の5人は   

   席について、各自頼んだドリンクをすすっている。猫柳が入ってくる。   

   頭に白猫を乗せている。


猫柳  「こんばんはー」

猫   「にゃー」

サクラ 「おー、猫が猫連れてきたー」

ホワイト「あらかわいい」

ムラカミ「またかよ」

棟梁  「飼い猫だな。首輪つけとるし、毛並みも綺麗なもんだ」

ジョニー「(顔面をピクピクさせて椅子の後ろに隠れる)猫ぉー、おめぇー、猫呼

     び寄せるその体質だけはなんとかしろよぉー、それさえなきゃいい奴な

     のによぉー。(ホワイトに)今日席替わってくんねぇ?」

ホワイト「やぁよ、なんでフィッシュに塩送んなきゃいけないの」

猫   「なーぉ」

猫柳  「塩焼きは好きだと言ってます」

ホワイト「ホントに?」


   ダニエラ登場。


ダニエラ「猫柳さん、ちょうどいいところに。飼い主の方が間もなく迎えにいらっ

     しゃいます」

猫柳  「(猫に)だってさ」

猫   「なぅー」

ダニエラ「迷い猫が出たら、まずうちに問い合わせが来るの、なんとかなりません

     か」

猫柳  「そうは言っても、僕が迷子になったわけじゃ……」

ダニエラ「拉致誘拐と同じですよ! あと、ここにカゴ用意しましたから。こっち

     に入れといてください。こないだみたいに、卓の上歩き回るとかナシで

     お願いします。毛や砂が飛び散って掃除が大変なんです!」

猫柳  「命令したって聞きませんよ。猫ですから」

ダニエラ「そうは言いますけど……」

猫柳  「言い換えます。命令したって聞きません、サクラさんみたいなものです

     から」

ダニエラ「(ため息)じゃあしかたないですね」

サクラ 「そこ納得するとこ?!」


   ダニエラ、準備を始める。猫は猫柳の頭上に陣取って、手つきを不思   

   議そうに見ている。


ダニエラ「じゃあみなさんそろったみたいですし、始めますよ。みなさんもうチッ

     プは手元に……あ、こら!」

猫   「みゅぅ」


   猫、ダニエラの手元に飛び降り、チップをいじり始めると、いちばん   

   高額のチップを爪でひっかけて転がす。チップ、卓の中へ。追いかけ   

   て卓に乗ろうとする猫を、ひょいと猫柳が捕まえる。


猫柳  「そっちはダメです、サクラさん」

サクラ 「あたしなの?! ねぇ、そいつあたしってことになってない?!」

ジョニー「1000のチップ、ピンポイントで狙いやがったぜべイベ」

ムラカミ「さっすがサクラ2号、価値を知ってるな!」

サクラ 「2号もやめてくんない?! 2号抱えてんのは棟梁だけで十分!」

棟梁  「(明らかにうろたえて)ひひひ人聞きの悪いこと言うな! 俺ァばーさ

     ん一筋だっ!」

ホワイト「ま♡ お盛んですこと♡」


   ムラカミ、卓上に転がったチップを拾い上げ、立ち上がり腕を伸ばし   

   て猫柳が抱える猫に見せびらかす。


ムラカミ「ほーれサクラー、チップだぞォー、おまえのだぁい好きな高額チップだ

     ぞぅ」

サクラ 「よしムラカミ、今日おまえ殺す。ケツ毛までむしる」

ムラカミ「2号に言ってんの、可愛げのない誰かさんじゃなくて……うぉっ!」


   猫が揺れるチップにじゃれつく……爪が立っている。ムラカミ、あわ   

   てて飛び退く。


猫柳  「気をつけてください、僕にはなつくけど、他人になつくかどうかは別で

     すから」

ムラカミ「そりゃそうだけども! しつけろよ!」

猫柳  「(サクラをちらと見る)ムラカミさんはしつけられる側だと思います」

サクラ 「ねこすけぇ、なんで今こっち見た?!」


   引っかかれてないか手を確かめるムラカミに、ダニエラがずいと顔を   

   寄せる。


ダニエラ「ムラカミさん」

ムラカミ「なに?」

ダニエラ「チップ返しなさい」

ムラカミ「……ちぇっ! 猫相手にあんまりカリカリしてっと、シワ増えるぜダニ

     エラ! ……(ダニエラがものすごい顔をしたらしい)ごめんなさいご

     めんなさいごめんなさい」


   その後、ダニエラが準備を整え、ディーラー決めのカードを配る。ム   

   ラカミに決定。テーブルオープン。猫、テーブルの縁をぽてぽてと歩   

   く。猫柳の席から、ジョニーの席。ジョニー、ガクブルするが、猫通   

   過。


ジョニー「チェチェチェチェック」


   猫、ぽてぽてと歩いてホワイト席でピタリと止まる。


ホワイト「? どうしたの2号ちゃん? ……私はレイズです」(4BBベット)

猫   「みぃ」


   猫、ぽてぽてと歩く。棟梁席は通過。棟梁、ふんと鼻を鳴らしてカー   

   ドを投げる(フォールド)。


ムラカミ「コール」

サクラ 「下りー」


   猫、ムラカミ席も通過。サクラ席も通過。


ダニエラ「こら、下りなさい……(伸ばしたダニエラの手に飛び乗って足場にし、

     とんとんと肩から背を駆け抜け、猫柳席へ)ひゃんっっ! もぅっ!」

猫柳  「うーん、レイズ」(16BBリレイズ)


   猫、猫柳の前で足を止めて鳴く。


猫   「にゃーお」

ジョニー「下りるよぅ。猫柳ぃ、やっぱりおまえになつくんだから、席離れてくれ

     よぉ」

ホワイト「……下ります。それとも、強気のベットがわかるのかしら、さっきあた

     しの前で止まったし」

棟梁  「(つぶやく)……いや、違うな」

ホワイト「え?」

棟梁  「なんでもない」


   ムラカミもカードを投げ出してフォールド、猫柳の勝利でハンド終了。   

   ダニエラがチップを猫柳へ移動した後、次のハンドをディール。DP   

   ムラカミ→サクラ。猫がまたテーブルの縁を歩き出す。


ホワイト「チェック」(猫通過)

棟梁  「コール」(猫ちょっと止まる)

ムラカミ「コール」(猫通過)

サクラ 「むしってやるぅ。レイズ10BB」(猫通過)

猫柳  「下ります」(猫通過)

ジョニー「下りるぅ」(猫通過)

棟梁  「ふむ」(30BBリレイズ。猫ちょっと止まる)


   レイズしたサクラの表情がとたんに険しくなる。


ムラカミ「(フォールドして)なんだよフロップインさせろよなー!」

サクラ 「…………」

猫柳  「サクラさんが珍しく長考ですね。いつもさっさとアクションするのに」

ホワイト「そこで悩んでたら、手が微妙だってモロバレよ~」

サクラ 「だよねー(フォールド)。……自分の手よりさ、棟梁が何考えてんのかっ

     て。リンプイン自体珍しいのに、そこからリレイズって、棟梁らしくな

     いね。そっちからは来ないと思ったんだけど」

棟梁  「(チップを集めながら)そう思惑通りにばかり動きゃあしないさ。にっ

     ひっひ」


   次のハンドをダニエラがディール。DPサクラ→猫柳。猫がまた歩き   

   出す。


棟梁  「コール」(猫通過)

ムラカミ「コール」(猫ちょっと止まる)

サクラ 「……(カードを見た瞬間渋い顔をして、無言でフォールド)」(猫足早

     に通過)

猫柳  「……コール」(猫ちょっと止まる)


   ジョニーの前で、猫が止まる。


猫   「(きげんよさげに)にゃあ」

ジョニー「(ビビリつつ)棟梁、おいらわかっちまったよぅ」

棟梁  「そうかい。キライキライと思うと、意外に見てたりするからな。で、ど

     うすんだ?」

ジョニー「すくいーーーーず」(20BBレイズ。猫また歩き出す)

ホワイト「なに、何なの棟梁、イカサマ?」(フォールドしながら。猫通過)

棟梁  「違ぇよ」(同じくフォールド。猫通過)

ムラカミ「むむむ……これでどうよ!」(60BBリレイズ)


   猫通過しようとして、突然毛を逆立て、しゃー、とムラカミを威嚇。   


ムラカミ「な、なんだよおまえ!」

サクラ 「うむ、やっと自分の仕事を理解したな。そうだ、やれ、ムシれ! サク

     ラ2号!」

ホワイト「ついに自分で2号と言ったわね?」

猫柳  「……下ります。僕もわかりました」

サクラ 「え、何が?」

猫柳  「えーとですね。……僕、黒猫の方が好きなんですよね」

サクラ 「……急になんの話?」

ジョニー「ふぉーべーっと」(100BBリリレイズ)

ムラカミ「ふぐぁっ?!」


   ムラカミが奇声を発し、脂汗を流して考え込む。残るプレイヤーはジ   

   ョニーとムラカミのみ。


ホワイト「黒猫は不吉だ、って言わない?」

猫柳  「あー、それ、逆です、逆」

サクラ 「逆?」

猫柳  「僕の経験則ですけど、黒猫の方が好奇心旺盛なのが多いんです。危ない

     とこでも近づいちゃうんです。そういうとこが、僕は好きなんですけど

     ……」

ムラカミ「うぅぅぅぅ、……オールイン!」


   ムラカミ、チップを全部押し出す。猫、びゃーーっとものすごい勢い   

   で逃げ出し、猫柳の手の中に飛び込む。猫柳、背を撫でて落ち着かせ   

   る。


猫柳  「よしよし」

サクラ 「つまり、黒猫が不吉なんじゃなくて……」

ホワイト「猫にはなべて吉凶を察する力があって、黒猫以外はヤバいとこには近づ

     かないってわけね」

猫柳  「そういうこと!」

サクラ 「じゃあ今、猫が逃げるほどヤバくって不吉なことをしてるのは……」


   対峙するジョニーとムラカミを除く面々、猫柳の手の中の白猫と、卓   

   上の勝負の顛末との間で視線を行ったり来たり。


ジョニー「オールインコールだよーん」

ダニエラ「(ひとつため息をついて)双方、手札を開いてください」


   ジョニー、♠K♡K。ムラカミ、♠6♢6。


サクラ 「あー……」

棟梁  「やっちまったな」

ホワイト「なんでローポケで4ベットに突っ込むのよ……」

ムラカミ「ふがーーーっ! 6! ろく! ロク!」


   ダニエラがフロップ以降を開くが、何も起きず。そのままジョニーの   

   順当勝ち。ムラカミ、テーブルに突っ伏す。


ジョニー「おいら、生まれて初めて猫に感謝するYo!」


   猫柳の手の中の猫を抱き上げ、顔をしかめて、でかいくしゃみ。


ジョニー「ぶえぇっくしょい!」

ホワイト「汚いわね! 猫が嫌いって、アレルギーだったの?!」

ジョニー「それでも愛してるよサクラ2号~! ぶわっくしょい!」

サクラ 「ちょ、やめて、その名前で愛さないで頼むから! 何か背筋にぞわっと

     来るぅ~!」

猫柳  「鼻水ついたら飼い主さん怒るかもですから、そのへんでそろそろ……」


   猫柳が取り上げようとするところ、猫、するりと抜け出し、卓の上に   

   飛び乗る。


猫柳  「あ」

サクラ 「あ」

ホワイト「あ」

棟梁  「あ」

ジョニー「ぶぇっくしょん!」


   猫、ぶるぶるっと体を震わせる。後足でバリバリと首の裏を掻く。飛   

   び散る猫っ毛。ムンクの「叫び」と化すダニエラ。


ダニエラ「…………っ!」


   慌てて捕まえようと、サクラと猫柳が同時に手を伸ばし、頭をごっつ   

   んこ、勢いでチップとカードが一面に飛び散る。

   猫、卓の下に逃げ込む。ミスホワイトが潜り込むが捕まえられず、卓   

   の下から頭をぶつける。勢いで彼女のメガネが外れてしまい、3の字   

   目で「メガネメガネ」開始。同時に、卓上のカップホルダーにあった   

   ドリンクが全部床に落っこちて中身をぶちまける。

   棟梁は、猫とにらみ合ったかと思うや、特技のカンフーで猫との格闘   

   戦を開始する。ホコリが巻き上がり、擬音がボカスカと鳴り響き、そ   

   の間、ムラカミは放心して突っ伏したままよだれを垂れ流し、ジョニ   

   ーはくしゃみしっぱなしで鼻水が飛ぶ。

   惨憺たる有様に、ダニエラの顔のムンク度合いが凶悪化する。

   狂騒の後、飼い主が現れ、猫を引き取っていく。ダニエラはいったん   

   退場、飼い主を応対。疲れた顔の一同。


猫柳  「続けます?」

サクラ 「ムリなんじゃない?」

ジョニー「ぐずぐず(鼻をかむ)びーっ!」

ホワイト「薬の調達が先ね」

ムラカミ「俺はまだやれるっ。やれるッ……」

棟梁  「いや、おまえがいちばんムリだろ。……こりゃあもう、どうしようもね

     ぇや。だいぶ早ェが、今夜はお開きにするか。ていうか、……さっさと

     ズラかるぞ!」


   帰りかける面々の前に、ダニエラ再登場、手にモップとコロコロを硬   

   く握り締めている。顔は笑っているが目が笑っていない。


ダニエラ「お待ちなさい」

棟梁  「……あー、そのぅ、客にやらせる気じゃ、ねぇよな?」

ダニエラ「(こめかみがひくついている)」

棟梁  「やるにしたってよ、猫柳だけ置いてくから、それでいいよな? あいつ

     があの猫連れ込んだんだからよ、な? ……な?」

ダニエラ「……連帯責任で、お願いします」

全員  「えー!」


 ……笑みを顔に貼り付けたダニエラの監督のもと、いそいそと掃除に励む一同の

図、で幕。


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