8th Hand 必殺技はいつも諸刃の剣

ここは世界のどこかの場末のカジノ

集まる面子はいつも同じ


○登場人物


     ☆サクラ   

      正体不明・天下無敵のハイティーン。   

      フトモモが正義。   

      人種設定:ワイルドカード   


     ★ムラカミ   

      自称「グレートな男」の残念な熱血系。   

      オールインは正義。しかるに世に悪の種はつきまじ。   

      人種設定:モンゴロイド   


     ★棟梁   

      肩で風切るいなせなジジィ。てやんでぃ!   

      腕っぷしひとつが正義。   

      人種設定:コーカソイド(ゲルマン系)   


     ☆ミスホワイト   

      女の武器フルアームドおねーさん。罵倒の語彙が豊富。   

      知恵と勇気で勝ち残る。   

      人種設定:コーカソイド(スラヴ系)   


     ★ジョニー   

      陽気でファンクな脳筋マッチョ枠。   

      正義じゃなくてジャスティス。中身はなくても俺のジャスティ   

      ス。   

      人種設定:ネグロイド   


     ★猫柳   

      存在感薄めの不思議少年。猫がなつく特性もち。   

      そーゆーの、あんまり気にしないほうがいいんじゃないかなぁ。   

      人種設定:ワイルドカード   



     ☆ダニエラ   

      冷静沈着な美貌のディーラー。   

      やっぱりうなじが正義!   

      人種設定:コーカソイド(ラテン系)   


○Guests


     ★デイブ   

      ダニエラの忠臣。カジノの責任者。   


○ディーラーポジション:ミスホワイト

○DPホワイト-SB棟梁-BBムラカミ-UTGサクラ-HI猫柳-COジョニー




   全員揃っているが、席についていない。卓の脇で輪を作っている。ダ   

   ニエラだけが卓上でシャッフルを繰り返している。   


ダニエラ「始めないんですか、みなさん?」

猫柳  「あ、ちょっと待ってください」


   輪の中で猫柳が話している。スマホを全員が取り出している。   


猫柳  「みなさんにちょっとお願いがあるんですけど……このアプリ、インスト

     ールしてもらえません? 友人が作ったポーカーのプログラムなんです」

ホワイト「へぇ。コンピュータと対戦するの?」

ジョニー「強い?」

猫柳  「鍛え上げた人工知能だから無敵だ、と豪語してましたけどね」

ムラカミ「嘘くさいけど、まぁお手並み拝見」

棟梁  「……インストールって、どうやんだ、コレ」

サクラ 「棟梁、スマホ持ってたんだ」

棟梁  「持っとるわ! 職人なめんな!」

サクラ 「だったらアプリのインストールくらい自分で、って……あれコレどうや

     んの?」

猫柳  「ストアじゃなく実行ファイルからです。少しセキュリティ設定をいじっ

     ていただく必要もあってですね……」

ダニエラ「……まだですかー」


   ダニエラ、手持ち無沙汰にシャッフルを繰り返す。   

   やがて全員が卓に着く。ただし、みんなスマホの画面を見てポチポチ   

   やりながら。   


   ダニエラ、ディーラー決めのカードを配る。DPホワイト。棟梁、ム   

   ラカミ、スマホを見たまま黙ってブラインドを出す。ダニエラがディ   

   ール。   

   UTGサクラ、手札をチラ見した後、黙ってフォールド。以下、猫柳、   

   ジョニー、ホワイト、棟梁、全員同様に、チラ見してフォールド。ム   

   ラカミにブラインド分のみチップ移動。   

   ダニエラ、再びディール。猫柳、ジョニー、ホワイト、棟梁、ムラカ   

   ミ、フォールド。サクラにブラインド分のみチップ移動。   

   ダニエラ、再びディール。ジョニー、ホワイト、棟梁、ムラカミ、フ   

   ォールド。サクラ、3BB レイズ。   


猫柳  「スチール?(ポチポチしながら)」

サクラ 「うん(ポチポチしながら)」


   猫柳、黙ってリレイズ。サクラ、黙ってフォールド。猫柳にチップ移   

   動。みなスマホからいっさい目を離さず、ずっとポチポチやっている。   

   表情が変わらない。ムラカミだけだんだん焦っている。一方で、ダニ   

   エラの表情は苦虫を噛み潰したよう。   


ダニエラ「お客様が何をなさるかはお客様の自由です。ですが、」

サクラ 「(画面を見たまま、遮る)なら黙ってればー?」

ダニエラ「……はい」


   その後も淡々とハンドが繰り返され、時間経過。ダニエラの表情が硬   

   さを増している。   

   あるハンドが終わったタイミングで、全員が一様にスマホを投げ出し   

   て(ムラカミ除く)、会話に切り替わる。   


棟梁  「ダメだなこりゃ、てんで弱いぞ」

ムラカミ「えッ?」

ホワイト「ルースとタイト、内部でモードが切り替わってるの、目に見えてわかる

     わ」

ムラカミ「えぇッ?」

ジョニー「ありえないとこでブラフしてきたョ。ボードの内容見ないで確率で決め

     てんじゃネーの、コレ?」

ムラカミ「…………」

サクラ 「ま、こんなのに負けるのはムラカミだけってことだ」

猫柳  「そうですね……でもまぁ、今日のハンド履歴もまた学習に使うはずです

     から、次はもう少し強くなってると思います」

サクラ 「あたしに言わせりゃ、ポーカーで人間に勝てる人工知能なんて、人間の

     脳のエミュレータそのものだよ。完成したら人類とコンピュータの区別

     はつかなくなる。……それよりさぁ、どうせゲームなんだったら、リア

     ルじゃ絶対できない必殺技とか、作ったらいいんじゃね?」

猫柳  「そうですねぇ、そういうリアリティ無視の方が、開発はラクかもしれな

     いですね。当面の開発資金稼ぎに、進言してみますか」

ホワイト「ポーカーの必殺技って、何よ」

サクラ 「だからさ、画面の下の方にゲージが出ててさ、ハンド繰り返すうちに溜

     まってくの。ゲージ消費して、すっげーこと……たとえば、次のハンド

     で必ず手札がプレミアムハンドになる、とか」

ムラカミ「あ、それいい! 俺絶対その技欲しい!」

ジョニー「じゃーおいらは、それをひっくり返せるヤツ。手札がポケットペアなら、

     フロップで必ずセット引ける、みたいな」

ホワイト「そういうのアリなの?」

猫柳  「他のプレイヤーの手札に直接干渉するんでなければ、プログラム的には

     可能かと……」


   不満げにしていたダニエラが、ふっと何か思いついた顔。デックを手   

   に取って、カードを広げて見渡したあと、シャッフルを始める。他の   

   面々は特に気にせず会話継続。   


棟梁  「そういう、必ず勝てる、なんてのは面白くねぇな。俺は、そうさな、手

     札がスーコネなら、フロップで8アウツ以上のドローが引ける、っての

     どうだ。引けるかどうかは運次第」

猫柳  「いやぁ、必殺技なんだから勝ちましょうよ。でも派手じゃなくていい。

     手札が何だろうと、リバーが必ずヒットして役が上がる、ってのどうで

     す?」

ホワイト「あ、そうくるなら私その逆。ファッキンリバー食らったらリバーだけ引

     き直せる、リバー限定の強制 Run It Twice。2回目だけが有効で、ポッ

     トの分割はされない。どう? ……サクラは?」

サクラ 「んー、なんかアマノジャクな気分になってきたな」

ホワイト「どういう意味?」

サクラ 「あんたらがなんかガチ必殺で勝ちを取りにいくの考えてるから、そうじゃ

     なくて自分のポストフロップの腕を信頼する技を考えた。ゲージ消費少

     なめで、フロップがウェットかドライか指定できるっての、どう?」


   ダニエラの手が止まる。少し考えてから、再びシャッフル。   


猫柳  「なるほどそういうのもアリですか。ゲージ消費の大小があって、大量消

     費すると勝ちに直結する技が出せる、少なければ少しだけ有利になる…

     …ふむふむ。メモっとかなきゃ」


   猫柳がメモを始めて少し会話が落ち着いたところで、ダニエラがニコ   

   ニコしながら割って入る。   


ダニエラ「みなさん、お話の途中水を差して恐縮ですが、ここでひとつエキシビシ

     ョン・ハンドを入れますね」

サクラ 「エキシビション?」

ダニエラ「はい。みなさん、このハンドではベットしなくていいです。……そうで

     すね、アンティだけ5ずつ置いていただけます?」


   言われるままに、みなアンティを払う。ダニエラが自分の前にもチッ   

   プを置く。   


サクラ 「なんでダニエラさんも出すの?」

ダニエラ「私にも配るからです。……では、お立ち合い」


   ダニエラ、注目を集めるように目立つアクションで、何度もシャッフ   

   ルを繰り返す。やがて、持って回って大仰に、自分自身も含めて各自   

   に2枚の手札をディール。   


ダニエラ「このエキシビションは、強制オールインのゲームと同じ要領で、手札を

     開いた状態で勝敗だけを確認します」


   ダニエラに促され、それぞれが手札をオープン(ダニエラ自身は開か   

   ない)。   


   サクラ  ♣2♢7   

   ムラカミ ♡A♣A   

   猫柳   ♡K♣9   

   ジョニー ♢Q♣Q   

   ホワイト ♡9♡T   

   棟梁   ♠6♠7   


ムラカミ「お!」

棟梁  「む?」

猫柳  「ダニエラさんは開かないんですか?」

ダニエラ「私は後ほど」

サクラ 「……ちょっとこれ……」


   自分の手札が最弱で不満げなサクラに、ダニエラは思いっきり営業ス   

   マイルを向ける。   


ダニエラ「サクラさん?」

サクラ 「え? な、なに?」

ダニエラ「ウェットorドライ?」


   ■サクラの回答によって物語が分岐■   

   ■分岐A(ウェットボードの場合)   


サクラ 「え、えっと、ウェット?」

ダニエラ「かしこまりました!」


   ダニエラ、フロップを配る。配った後しばらく時間をおく。   

   ♠K♡Q♠J。   


サクラ 「どウェットのボード……」

ジョニー「おいらフロップセット……」

ホワイト「……だけどあたしがフロップストレート」

棟梁  「俺はフラドロ……」


   ダニエラ、各自にゆっくり状況を確認させた後に、ターン♢9。   


猫柳  「僕がツーペアになって……からの?」


   ダニエラ、再び各自にゆっくり状況を確認させた後に、リバー♠9。   


棟梁  「俺がフラッシュ引いて」

猫柳  「僕はフルハウスになった……けど」

ジョニー「おいらのQハイフルハウスの、勝ち?」

ダニエラ「はい、ですが、ミスホワイトがリバーで逆転されましたので、……」


   ダニエラ♠9を下げて、新たなリバー♠Tを置く。   


棟梁  「フラッシュが残った、俺の……勝ちか?」

ダニエラ「残念! ほいっと」


   ダニエラ、満面の笑みを浮かべながら開いていなかった自分の手札を   

   ショウ。♠A♠Q。ロイヤルフラッシュ。   


   ■分岐B(ドライボードの場合)   


サクラ 「え、えっと、ドライ?」

ダニエラ「かしこまりました!」


   ダニエラ、フロップを配る。配った後しばらく時間をおく。   

   ♠Q♢8♣5。   


サクラ 「典型的レインボーボード……?」

棟梁  「でも俺がストドロにはなってる……」

ジョニー「おいらフロップセット……」


   ダニエラ、各自にゆっくり状況を確認させた後に、ターン♠J。   


ホワイト「私がガットショットを引いて……からの?」


   ダニエラ、再び各自にゆっくり状況を確認させた後に、リバー♢T。   


猫柳  「僕がKハイストレートで、逆転勝ち?」

ダニエラ「はい、ですが、ミスホワイトがリバーで逆転されましたので、……」


   ダニエラ♢Tを下げて、新たなリバー♠Tを置く。   


猫柳  「変わらずで……、僕の……勝ち?」

ダニエラ「残念! ほいっと」


   ダニエラ、満面の笑みを浮かべながら開いていなかった自分の手札を   

   ショウ。♠A♠K。ロイヤルフラッシュ。   


   ■分岐終わり   


   ダニエラ、胸の前で手を合わせてぴょんぴょん跳ねる。   


ダニエラ「やたっ、できたっ♡」


   焦る一同(ムラカミ除く)。   


ホワイト「可愛く言ってもダメっ!」

ムラカミ「へぇ、ロイヤルすげー……」

棟梁  「バカおまえ、今ダニエラがとんでもないことやったのがわからんのか!」

猫柳  「ダニエラさん、めちゃめちゃシャッフルしてましたよね……」

ジョニー「隠れてカードの入れ替えとかもしてなかったヨね……」

サクラ 「ポーカーの必殺技って、つまりディーラーの必殺技ってことで……」

棟梁  「教訓はただひとつ、ディーラーには逆らうなってことだ! ほらおまえ

     ら、そこに整列!」


   全員が一列に並んで、ダニエラに頭を下げる。   


全員  「今日はすんませんでしたー!」

ダニエラ「いえいえ、お客様に楽しんでいただければ何よりです! でも、私が勝

     ちましたので、アンティ分だけ頂戴しますね!」


   時間経過。テーブルには誰もいない。テーブルから少し離れたところ   

   にデイブとダニエラ。デイブは渋面で、今度はダニエラが深く頭を下   

   げている。   


デイブ 「お嬢様、ご自分が何をなさったかわかっていますか?」

ダニエラ「ハイ……すみません……」


   その様子を、プレイヤーの面々が部屋の端から覗いている。   


猫柳  「僕のアプリのせいで、ちょっと悪いことをしました……」

ムラカミ「え、なんで店長が怒ってんの?」

サクラ 「オーナーのダニエラさんの方が、立場は上でしょ?」

ジョニー「いや、これは店長怒るでショ」

ホワイト「つまり、さっきダニエラがやったワザは、自分はいつでもイカサマでき

     るって、堂々披露しちゃったってことよ!」

棟梁  「今回は常連の俺らだから気を許したんだろうが、もしも『あの店のディ

     ーラーはイカサマをする!』と噂が立ったら、どうなるかって話さね。

     そう疑われかねないことを、オーナー自らやっちまったのさ」

サクラ 「あー、そっか……」

ホワイト「だから今日のことは、お口チャック! で、OK?」

全員  「OK」

ジョニー「それにしても店長、えらい剣幕だね?」

棟梁  「まあアレだ、ずっとファミリーに仕えてるデイブにとっちゃあ、ダニエ

     ラはどこまでも、しつけが必要な『お嬢様』なんだよ」

猫柳  「その意味でも、ダニエラさんには悪いことをしました……あぁ、何か懐

     かしいけど二度と見たくない風景……」


   くどくどお説教するデイブ。ひたすら頭を下げるダニエラ。   


デイブ 「……ですからお嬢様は、軽率な振る舞いを決してなさいませぬよう、い

     ついかなるときも気をつけていただきませんと。上に立つ者にとって感

     情を制御することは何にもまして重要な資質であり、……」

ダニエラ「はい! すみませんでした! 二度としません! ごめんなさい!」


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